呪い、呪われ、覚り、覚られ   作:謎の通行人 δ

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呑み会

「で…何でこうなった?」

ジト目を向けている覚中の前にすでに若干ほろ酔いの五条と夏油がいる。

現在歌姫の家の前。その前で若干顔が赤くなっている二人組に対しての反応だ。

 

「どうせ来る前に一杯引っ掛けたんだろう」

と、二人の隣で家入がため息交じりに言う。東京から途中で合流したらしいが、その時点で既にこの状態だったという。

 

「悟アルコール駄目なんじゃなかったっけ」

 

「苦手ではあるけどわざわざ拒絶するほどのものでもないってさ」

「そのとおり!」

夏油の声に賛同する五条。

ちなみにだがそれは完全な見栄であり、夏油に「最強なんて言ってるのに酒の一杯も飲めないのかぁい?」と煽られてそのまま流れでこうなったのだ。夏油も夏油で大概である。

そしてここまでで察すると思うが、五条は完全なる下戸である。

駄目だこりゃ…と思いながら頭を振る覚中の前を通り過ぎて、五条は歌姫の家のチャイムを連打する。

 

「弱々歌姫ぇー!可愛い後輩たちが来たよぉー!」

と、中からドタバタと慌ただしい音が聞こえてきた。何事だと思っていると、玄関から若干髪の乱れた歌姫が顔を出した。

 

「え!?ちょ、なんでそんな急に!?」

 

「「……?」」

と、ここで首を傾げたのは家入と覚中。

 

「心音、あんたが連絡したんじゃないのかい?」

「え?いや、何も。悟からは連絡はしてるとだけ…」

そこにほろよい状態の五条が口を出した。

 

「あぁごめんごめん、こうでも言わないと二人絶対着いてこないじゃん?」

認識をすり合わせてみると、家入は覚中が歌姫に許可を取りに行った、と伝えられていたらしく。

なるほどねぇ?と小さく覚中は笑う。小さく、小さく呪力が弾ける。

 

「悟、」

「あ」

家入の言葉を置き去りにして、覚中の手が五条の顔の横に飛ぶ。無限に阻まれそうになるもそれを無理やり解除、薄く呪力を纏って五条の横顔に平手を叩き込んだ。酒が入っているからか、やりやすかったその一撃から黒い火花が弾け飛んだ。

 

黒閃である。

 

「ぐぇっ」

 

「傑にも後でねー」

「…うん、ごめん」

そして幽鬼である。

 

まあそんな状況でもなんだかんだで家に上がらせてくれるのが歌姫であり、結局飲み会のような感じになってしまった。

ちなみに覚中は酒に弱いわけでは無いが、飲まない。そもそも飲もうとも思っていない。

 

そしてだいぶ面々が出来上がってきた頃合いである。

 

「傑ぅーなんか面白い話してー。歌姫関連でお願ーい」

「そうだねぇじゃあこの間聞いた話だけど、この間東堂君と1対1で組手をして瞬殺されてた話でも…」

「アンタなんで知ってんの!?」

「アッハハハ!生徒に負けるとかマジで弱弱すぎじゃーん!」

 

「悟って酔うとああなるんだ…笑い上戸だね」

「みたいだね、飲んでるのあんまりみたこと無いから私も知らなかったけど。夏油はそれなりに強いけどそのうち泣き上戸になるからねぇ」

五条、夏油、歌姫でもみくちゃになりながらドタバタしているのを見ながらまたすごいスピードで飲んでいく家入の隣で覚中は麦茶を飲む。

 

「…てか硝子ペース早過ぎじゃない?」

 

「べっつにー?普通でしょ」

そういやこの人ザルだったわ、と思い出しつつ視線を三人組に戻す覚中。

五条が歌姫の冷蔵庫を勝手に漁り、荒廃した冷蔵庫事情を見て大笑いしているところに歌姫が蹴りを入れようとして無限に阻まれ、夏油がその場で寝ようとして「ここで寝るなァ!」と皿を被せてと中々カオスなことになっている現場である。

 

「…何、心配事か?」

ふと隣で家入に言われた。

えっ、と彼女の方を向くと、思いの外近い距離にいて少し驚き、小さく仰け反る。

 

「普段より口数が少ない、あと表情がちょっと暗い。…どっかの誰かのお陰で軽い人間観察ならお手の物さ」

家入は爪楊枝を咥えながらしししっ、と器用に笑う。

なるほどね、とだけ返して覚中は少しだけ考える。

心配事、と言われると少し違う。そりゃ心配事はあるのだが、目先の問題は荘士の件だ。それとメカ丸の件。

実力をちゃんと出せれば何も問題ない。驕りのように聞こえるかもしれないが、単純な呪力総量で言ってしまえば縛りを解放すればあの両面宿儺にも勝てると自負している位だ。

どちらかといえば、それは…

 

「心配、というよりは恐怖かな」

 

「……例の件かい?特級呪霊を最低四体も率いる呪詛師の襲撃」

小さく頷く。

 

「今更だけど、元は私、呪術師なんてなろうとすら思ってなかったんだよ?命の取り合いなんて想像すらしてなかった。…今でも死ぬのも怪我するのも、嫌。特級だよ?頭おかしい」

一息に息を吐ききって首を振りつつ口ではそう言い、心ではそこじゃないけど、と思う。

トラウマはそう簡単に剥がれない。

覚中が酒を飲まないのだって昔のせいで強い匂いだけでも苦手になっているからだ。

それでも、今こうしてここにいれるのは。

 

「でも傑がいて、悟がいて、硝子がいて。生徒達がいて、先輩達がいて、先生達がいて…」

ここがあのときとは違うことを証明してくれている。今自分は一人じゃないことを示してくれている。立ち止まって動けなくなった時に、背中を押してくれる仲間がいる。それが心にあるから。

 

「私が一人じゃないなら、呑まれる前にその恐怖も(呪い)に変えられる気もする」

「…そうかい」

家入は、小さく肩をすくめつつもそう笑って聞いてくれた。

ちょっとカッコつけ過ぎかな、と言うとまあ間違ってはないんじゃないか?と返されてまたくくくっ、と笑う。

 

「心音!硝子!見て!歌姫洗濯物出しっぱ!こいつ袴の下にあんなん履いt」

「五ォ条ー!!」

まあ視界の向こうではその頼りになる(はずの)同期と信頼できる(はずの)先輩がみっともない争いをしているわけなのだが。

なお夏油(もう一人の信頼できる(はずの)同期)は既に床で寝ている様子。

 

「全くあのクズどもは…」

「まあまあ、」

今日ぐらい昔に戻って良いんじゃない?と苦笑いしつつ覚中はため息をつく家入を宥める。

どうせここから忙しくなるのだ。一年生達の育成に上からの邪魔の排除、例の荘士達の襲撃。そして…

 

「(…またちょっと一悶着起こりそうだなぁ…今回は慣れるまでにどれくらいかかるかな)」

ここに来る前に来たメールを思い出す。

相手は、東京校二年(教え子)の一人。

日本に四人しかいない特級術師にして特級の過呪怨霊をその身に宿すまだ齢17の少年。

 

名を、乙骨(おっこつ) 憂太(ゆうた)

 

連絡の内容は「任務が一段落しそうなので高専に戻ります」とのことだった。

 

「あぁ、乙骨かい。()()がまた暴れないと良いねぇ」

 

「そうねぇ。まさか解呪しても置き土産を残していくとは、()()()も一途なところあるとは思うけどちょっと重めだよね」

 

「それはそう」

カラカラと笑う家入につられて覚中も笑う。

まあ暴れられても何とかできる気はするが、またそれはそれで面倒になりそうではある。

 

どうなるかなぁと呟いて、明らかに曲がってはいけない方向に組み伏せられかけている歌姫を助けるために覚中は腰を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだなぁ…皆元気にしてるかな」

圧倒的な威圧感を醸し出す異形の白い呪霊の隣で、一人の少年が呟く。

 

「…まあ真希さん達だもんね、元気に決まってるか」

小さく笑って、彼はその異形に語りかける。

 

「さ、帰ろう、リカちゃん」

「ゔん゙!がえ゙る゙ぅ゙ぅ゙ぅ゙!」

ズオ、と爆発する呪力に周囲の生物は恐れ慄き、身を潜める。

そんな()()を宥めつつ少年は足を進めていく。

 

 

次の日──

特級術師、乙骨憂太。

呪術高専東京校へ到着。

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