私的にはリカちゃんは「普通そうに見えて実はヤバいけどなんだかんだ良い子」だと思ってます。
「っというわけで無事転入手続きが完了した新二年生の吉野順平君でーす!拍手ー!」
10月も上旬。
五条の声に連れられて東京高専組の前に出される順平。と、それを見て虎杖がちょっと驚いたような顔をする。
「順平二年生だったのかよ!?」
「えっ、虎杖君一年生…え、一個下!?」
どうやらお互いに把握しきれてなかった様子。
「何、虎杖知り合い?」
「ちょっと前…俺が意識不明ってことになってた時あったろ?そん時にちょっと色々あって」
「は!?あんたあのとき起きてたわけ!?はーつっかえ!連絡一つくらい寄越せや!」
「事情が事情だったんだってば!って今それじゃねーだろ!」
ギャーギャーと言い争う釘崎と虎杖を見つつ、順平はフッと見回す。
あらかじめ五条に一、二年の名前と顔は教えてもらっている。三、四年は現在高専にいない*1ため、その二年組だけ。一年は二人に加えて伏黒恵という人がおり、二年には狗巻棘、パンダ、禪院真希、そして最近戻ってきたという乙骨優太。
先生は五条の他に夏油傑という人もいるはずなのだが、任務でいない、と聞いている。
そこまで考えてふと不思議に思った。
あの茶髪の女性の先生がいない。
名前は、覚中心音、だったはずだ。生徒からは覚中さんと呼ばれているらしい。
が、よくよく考えてみれば別に気にするほどのどこでもないだろう、と結論づける。
呪術界は基本的に人手不足の状態にあり、正式に高専に所属している人はだいたい任務で忙しいのだという。
おそらく彼女もその類だろうと判断しておいた。
ある意味、間違ってはいない。
そしてそんな話をしている間──────
「…遅かったじゃないか、忘れられたかと思ったぞ」
とあるダムの内部にて、全身を包帯で包まれて生理食塩水で満たされた浴槽に座っている彼…
そこにいるのは人の形をしたツギハギの呪霊、真人と額に縫い目のある壮年の呪詛師、荘士…の皮を被った羂索。
「ねぇもうこいつ殺しちゃおうよ」
真人が羂索に言うと、羂索は軽く真人を制す。
縛りの影響上それをしてしまうと何が起こるかわからないから、とのことだ。
「そもそも、縛りを最初に破ったのはお前たちだろう。京都校の皆には手を出すなと言った筈なのに好き勝手やりやがって」
与のそんな言葉には耳を貸さず、羂索は真人を与の方に行かせる。
…まあ当の本人は「間違ってイモムシにしちゃいそう」とかこぼして羂索に止められていたが。
そして真人は与の頭に触れて、術式を行使する。
────無為転変
その瞬間、彼の体に巻き付けてあった包帯がほどけていき、切断されていた両足で地に立つことができるようになっていた。
与はその状態で両手を何度か握り直しながらちゃんと機能することを確認する。
「おいおい、もうちょっと喜べよ」
「それは…事が済んでからだろう」
そんな真人の軽口には睨みつけながら返し、与は奥の方からガシャガシャとメカ丸達を呼び寄せる。
ソレもそっか、と真人は笑いながら言って、どちらともが合図もなしに構える。
そして特に深い合図もなく、その戦闘は始まった。
が、正直言って与にとっては劣勢も劣勢、無為転変という末恐ろしい術式を持つ真人相手に有効打も当てられず、次々とメカ丸達は崩れていく。
が、それでいい。その数瞬の隙を与は狙っていた。
床を抜いてダムの深部まで下降、そこに存在する巨大なソレに乗りこみ…連絡通信用の信号機を
「…これでいい」
相手の二人は知らない。
コレ…
隠し持った奥の手の存在を。
与の覚悟を。
そして、彼のそれらを知っている教師を。
「…逃げたか?」
上層で真人がつぶやくと同時、地面が裂けて崩落する。
それに準じて羂索は電波や呪力をも
そう、与が連絡用信号機を
…まあ正確には覚中の指示だが。
非常時に電源を入れるのではなく、非常時になったら信号を切る。それならば、ジャミングされようと電波が遮断されようと途切れることで異常には気付いてもらえる。
「ははっ!コソコソ隠れてこんなもんまで作ってたのかよ!」
真人が叫ぶ間に、コックピットの中で与は思考を回す。
天与呪縛から解放された与には多少の量は残るものの以前ほどの呪力出力は見込めない。だが、自分を縛り続けた17年以上の年月。
その間溜め込み続けた呪力の総量。
それを、ただでさえ巨大で出力の大きな
──────出し惜しみはしない。
「チャージ1年…」
目まぐるしく眼の前のカウンターの数字が変動し、その表示から1年分の数字が減少される。
その分の呪力は装甲傀儡究極メカ丸の左手に収束し、その呪力を真人に向ける。
「焼き払え!メカ丸!!
激しい爆発音と共に目の前が閃光に包まれる。
が、魂の形を認識する真人に対して大したダメージは見られない。と、次には真人は体を魚に変化させ、水の中に潜った。
これではまともにダメージも入れられない上に動きも読みづらい。
水から引き上げ、あわよくば当てられるように今度は威力を上げる。
「チャージ二年…
水が荒ぶり、真人の体がはじき飛ばされた。しかし、やはりダメージは入っていない。
「チャージ三ね…」
と、すかさず追撃を行おうとしたメカ丸に真人は飛びかかる。肥大化し、増強した腕を思い切り振り回すとメカ丸の体制が崩れる。
まだ、慌てない。
見てみろ、真人は現に今も翼を顕現させて空を飛び回り、与への攻撃を仕掛けようとしている。
全て予測済みだ。
今までの攻撃で、与の攻撃はまともにダメージが入らない、という認識に固定されたはずだ。
そうなると相手は防御ではなく攻撃に回ってくると踏んでいた。
手のひらに収まる、ヒューズのようなものを握りしめ、コックピットの外壁に押し込む。
と、眼の前のモニターがズームされ、ターゲットポインターが現れる。
狙うは真人の体のど真ん中。
恐らくだがあの真人のことだ、防御も回避もしないだろう。ならば好都合。
メカ丸は両腕を構え、指に射出口を作る。
「撃て…メカ丸!!」
と、メカ丸の構えられた射出口からヒューズのようなものが真人に向かってまっすぐに射出される。
「ははっ!効かねぇって!」
左肩近くに着弾したが、真人はなんでもないように攻撃体制を取ろうとして…
「は?」
バン、と破裂するように左腕が吹き飛んだ。
そして、急なダメージに困惑する真人を与はメカ丸の巨大な足で思いっきり蹴飛ばす。
「ぉあア゙ッ!!」
困惑させつつも、油断はしない。急所に当たらなかった、あの時点でもう祓えるとは思っていなかった。
その場から跳躍して真人のいるであろう場所まで猛追、浅くない傷を負っているのを確認して更に呪力を絞り出し、追撃を選択する。
「チャージ五年!!
メカ丸の周囲に小さな赤星が五つ出現し、それらは虹色に舞い踊りながら真人を追い詰める。
真人は先程受けたダメージを無為転変で誤魔化しながら飛行し、ネズミ、猿、鳥…と姿形を次々と変えながら躱していく。
勝てる、と確信した。
まだ手はある。呪力も残っている。
ここで真人と荘士、二人を倒す。ソレが今自分にできる、すべき事だと。
それが、自分の夢に歩を進める唯一の方法だと。
もう一本のヒューズを装填し、再び指から射出しようとした…その瞬間だった。
メカ丸の目の前に、真人が飛び込んできたのだ。
「領域展開───」
その名は地獄への入口。
理不尽などという言葉では言い表せられない、不条理で、希望を打ち消すまさに
───自閉円頓裏
「はい、おしまい」