呪い、呪われ、覚り、覚られ   作:謎の通行人 δ

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宵祭・転

手で構成された領域、結界の中で文字通り手のひらの上に置かれたメカ丸。

その体は崩れ落ちて伏せ、コックピットの中の電源が落ちていきうまく動作が行えなくなる。

だが与は冷や汗をかきながらも、慌てない。

 

まだ、手はある。

 

次の瞬間、油断しきっていた真人の腹を、メカ丸の中指から射出されるはずだった例のヒューズのようなものが突き破ったのだ。

 

「…はあ゙?」

 

「シン・陰流、簡易領域…!」

それは、領域から身を守るための弱者の領域。

一挙手、一投足まで。

彼は、全て見てきていた。

 

土手っ腹を突き破られて苦しそうに呻き声をあげながら、体がボコボコと変わっていく真人。そしてついにその体と同時に領域も弾け飛んだ。

 

そう、弾け飛んだのだ。

 

「っ……う、ぉぉぉぉぉぉお!」

与の声に呼応してメカ丸も咆哮する。

倒した。

かの特級呪霊を倒せたのである。

残るは荘士ただ一人。奴は真人のように魂の形など気にせずとも叩ける上、触れれば即ゲームオーバーなんていう意味の分からない術式でもない。

それを相手に全体の半分以上もの呪力、9年分と簡易領域を1本残せたのだ。嬉しい誤算だった。

気を引き締め直して手のひらを相手に向ける。

 

…会える…!

 

皆に…!!

 

その瞬間だ。

 

耳障りな警告音とともに眼の前の大モニターが破壊された。

 

「なっ…!」

これには流石に動揺した。

真人は自分の体と当時に領域を構成する結界を破壊してあえて祓われたように()()()()()いたのだ。

が、まだ簡易領域は与の手の中にある。

コレを直に打ち込めば今度こそ勝てるはずだ。

が、そこまで思考を取り戻した時には真人の手は回避も迎撃もできないほどの距離まで迫っており……

 

「あ?」

真人が与の体に触れようとした瞬間、バチィ、とその手が弾かれた。

右手に命中したのは、ペンダントらしき物。その中に封じられた赫い目と目があった。

 

「かかった」

次の瞬間には真人の前に見覚えのある顔が。

長い茶髪を靡かせ、ハイキックを繰り出している覚中がいた。

 

「っ!」

反射的に身をよじらせて回避し、一度距離を取る。

 

「覚中さん…!」

 

「ごめん遅れた。帳の解除に思いの外時間かかってね…それはそうとして、与くんだね?まぁ…だいぶやったね」

こりゃ後でのカバーストーリーの流布が難しそうだ、と崩壊したダムを見て思いながら真人に向き直す。

与には少し待っているように言った。

 

「…会うのは二回目だね?」

 

「ハハッ…」

と、その瞬間真人の後ろから羂索が現れた。

ただ偏に不味い、と判断したからだ。今現在のかなり消耗してしまっている真人なら下手すれば祓われかねない、というのを認識したのだ。

ただ弱らされた状態なら取り込めるのでむしろ好都合だが、祓われてしまっては元も子もなくなってしまう。

 

「よう、こんな所まで来たのか」

羂索は荘士の記憶もある程度引き継いでいる。そのため覚中にとっての弱点はこの姿だと理解していた。口調から所作まで完璧にトレースすれば相手の平静を崩せると思っていた。

…まあ、間違ってはいない。

間違ってはいないのだが…どうにもタイミングが悪かった。

その姿を見、一瞬体をこわばらせた覚中は一度大きく深呼吸して口から言葉をすべらせた。

 

「誰ですか、あなた」

 

「何?おいおい、この間会ったばかり…」

 

「そいつには良い思い出はありませんが、それでも一応私の父でした。そして、その性格の腐り具合は私が一番良く知ってます。…全然違うんですよ、その今の貴方と。もっと本人は腐ってました」

吐き捨てるように覚中は言い、一息に言い切る。

 

「それにその額の傷。そんな物記憶にありませんし、怪我をして縫ったにしても体を真っ二つにされても再生できるような人が傷をそのままにするわけがない。…早いとこ答えたほうが身のためですよ、誰ですか?」

その言葉に少し瞠目し、彼はクククッ、と小さく笑った。

 

「キッショ」

スルスルと額の傷から糸を抜いていくと、髄液が流れ出しながら中心に口のようなものの付いた脳が現れた。

 

「なんで分かるんだよ」

っ、と覚中は後ずさる。

 

「…脳に寄生してる…?」

 

「いーや、脳を入れ替え、何百年と生き永らえる術式さ。本当は夏油傑の肉体が欲しかったんだけど、妥協してこの肉体を手に入れた、ってわけさ」

それを聞き、ふっ、と覚中の体から緊張が抜けた。同時に覚中は笑っていた。

瞬間的に彼…羂索はしまった、と思った。夏油の肉体がほしかった、というのはある意味覚中の地雷でもあったのだ。

 

本当に怒った人は反射的にどういう反応を起こすか。

血液の流れが早くなって顔が赤くなったり思考がこんがらがって怒鳴ったり、いろんな反応はあると思うが、本当に行く所まで行けば笑う。

緊張した状態になれば笑いやすくなったりするように、笑うという行為は本来犬歯をむき出しにするという行為。その本質は…威嚇。

 

「なら良かった。本当にあいつじゃないのなら、」

胸の前で印を結ぶ。

手のひらを胸の方に向け、左右の親指を絡ませて小指を立て、他の指は握る。

 

「本気で、祓える(やれる)……!」

その瞬間、ゾワ、と強烈な嫌な予感がした。見開かれた瞳が赤く輝き、呪力が暴れ狂い悍ましい程の桁の違う威圧感が振り撒かれた。

味方だと分かっているはずの与ですら震え上がる程だ。

少年院の時の宿儺と戦った時、真人と対峙した時、花御に呪力をぶつけた時、遠隔とはいえ見ていたはずのそれらが()()()()で収まってしまいかねないほどの呪力出力。

羂索は急いで陀艮の領域に戻る準備をするが、その間に覚中の口から言葉がこぼれ出る。

 

「▓▓▓▓、────」

その瞬間、その場にいた全員の視界が白転した。が、ギリギリ移動が間に合った羂索と真人はソレを受けること無く何とか離脱した。

 

「……逃げられたか」

パシュ、と覚中は術の構築を止めて解除する。と、白転した視界は元に戻った。

と、後ろの方でドサ、と何かが倒れる音がした。

 

振り返ってみると、疲れたのか与がその場で眠ってしまっていた。覚中は彼を持ち上げ、呪力の噴射で飛ぶ。

向かうのは、京都高専だ。

 

 

 

 

─────

 

 

 

 

「…えぇ?」

 

「まあ…そうなるのは分かります」

で、とりあえず歌姫に連絡したところ、どうやら歌姫もメカ丸が怪しい(とは言っても消去法で仕方なくらしいが)と思っていたらしいが、覚中の行動の速さに半分呆れられた。

 

「で、どうするつもり?」

 

「そうですね…彼と少し話をさせてほしいです」

 

「分かったわ」

京都高専の医務室には家入のような反転術式の使い手はおらず、せいぜい呪霊が見える程度の医者しかいない。だが与の状態を見る程度ならそれで充分。問題ないと言う診断をもらって与はベッドに寝かされている。

 

「…傑と悟にも話をしないとね」

相手の親玉のことがわかった以上、話さない訳にはいかない。

本当は夏油の体が欲しかった、と言っていることからおそらく寄生した肉体の術式もそのまま使えるのだろう。呪霊操術と呪霊容術、肉体に宿せるか宿せないかの違いだが、自己強化能力や不死性と言ったところから見れば呪霊容術に軍配が上がる。

…まああの二人ならそれを見越して粉々にしそうだけど、と冗談じみた、それでいて冗談にならなさそうなことを考えていると眼の前のベッドで与が動いた。

 

「……ここは…」

 

「起きたね」

 

「!」

声を聞いてバッ、と身構える与。が相手が覚中だと認識して警戒を解く。

 

「さて…まあ体の調子とかどう?縛りを結んだんならまあ、相手が真人とはいえ大丈夫だとは思うけど…」

 

「はい、大丈夫です」

 

「なら良かった。……さて、少し君の話をしようか」

与に向き直し、覚中は真剣な表情になる。

 

「まず…背景がどうであれ君が内通していた事に変わりはない。それでおそらく上層部はそれを嗅ぎつけるだろうね。そうなれば君は最悪処刑もされうる」

その言葉を聞いても、与は動揺もしなかった。それだけの覚悟はあったということか。

 

「それにね、君があの呪霊陣営に情報を流すことでそれなりの数の人が亡くなってる。少なくとも交流会の時にも10人以上が真人にやられてるし、どれくらいの情報を流したかはわからないけど多分それだけには留まらないと思う」

与は悔しそうに歯噛みする。

そこに覚中は言葉をかける。

 

「言ってしまえばこれはれっきとした殺人だよ、こうなることは推測できたはずなのに流したってことは幇助したことと変わりないからね。呪術規定に乗っ取らなくとも大問題だ。だから何もなく赦されるようなことはない」

…そこから、覚中はふっと空気を弛緩させる。

 

「…とまあここまでは言った通り、完全に事情を無視した単なる事実。ここからは私情入りまくりの私の意見だよ」

 

曰く、与は単に弱みに付け込まれただけだったこと。

最後の手段として交戦を選び、真人に手を負わせて追い詰めたこと。その動機は人として当然たるものだということ。

 

「ってことでね、ある程度の責任は取ってもらいはするけどあらかじめ知ってた私が与君に二重スパイを依頼したってカバーストーリーにしようと思うけどどう?」

 

「…はい?」

覚中が言うには。

取り逃がしてしまいはしたが相手に牽制はかけられた。功績としては充分だということで敵に情報を流してはいたもののその情報も取捨選択していたということにし、その問題を覚中のせいにしてしまおうというものだった。

 

「そ、そんな事できませんよ!」

しかしこれは諸刃の剣。下手すれば覚中が呪術界から追放されてしまいうる。

その言葉に対して覚中は不敵に笑って答えた。

 

「私を誰だと思ってるの、まあたかが二級術師だけど舐められちゃ困る」

 

 

────これでも最強の一角だよ、と。自信たっぷりに言い放った。




覚「まあ責任云々の話もしたけど、()()()しっかりと埋めてもらうからってことね」

与「は…はい」

覚「…心配しなくても色恋の時間くらいはあるよ」

与「!?……!!?」
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