「(何だったんだ今のは…呪霊操術の術式反転?一体何を…まさか)」
「おいおい駄目じゃないか、敵前で考え事なんてしちゃ」
バキッ、と一瞬思考を巡らせたその瞬間に羂索の視線が横にブレ、鈍い痛みが襲った。目の前に腕を振り抜いた夏油の姿。と…
「…っ、なるほどね?」
夏油の同じ場所にも打撲痕が生まれる。
しかし夏油は余裕を絶やさず羂索に言い放つ。
それに対するように、羂索もニヤリと笑いながら言う。
「
「
互いに見破った答えに対するは、返答すら同時。
「「大正解」」
バチィッ!と羂索の腕が伸び、夏油を拘束しにかかる。が、夏油はそれを軽く躱しつつ反撃を考え、再び手を伸ばす。
羂索が使っている呪霊容術の極の番、キメラはその体に内包した呪霊を全て自分の体の強化に使い、呪力を自身のものにし、同時に生得術式も全てを行使可能になるというもの。
対して夏油の術式反転。
これは呪霊をこれで顕現させる際に
…そう、モチーフは冥冥の
「術式反転」
命をかけた縛りともなれば、ただの烏でも一級呪霊の祓除に至らしめる。
ならば、それより呪力の多い四級、三級呪霊となれば……
「拾連」
十の黒い呪力の塊が羂索に向かって舞い飛んでいく。
対して羂索は先程と同じく手の呪霊の一つ、天邪鬼の生得術式である「反射」を発動させてダメージを軽減しようとする。が…
「っ!」
すんでのところで術式を引っ込め、回避を選択する。
天邪鬼の術式は「反射」や「反転」というものと言える。今回で言えば術者のと敵術者のダメージの場所を反転させて、
咄嗟に目の前に迫る黒い呪力を躱し、追尾してくる呪力を呪霊の腕で払い飛ばす。
「避けられたか」
「チッ…」
想像以上に分が悪い。何が不味いって呪霊で強化しているはずのこの肉体でさえ三級相当程度の術式反転にすら耐えられないというところだ。
この肉体は呪霊で構成しているため、そこがもぎ取られれば当然その分呪霊は減る。
ただ飛ばされるだけならその部分の呪霊がただの呪霊に戻って周囲を襲い始めるだけだが、抉られてしまっては使い物にもならない。
「しょうがないね、少しギアをあげようか…!」
──────
「……正直驚いたよ」
駅のプラットホーム内、五条は電光掲示板の上に乗り、特級呪霊二体と脹相を見下ろしていた。
呪霊二人が領域展延という技術を駆使して五条の無限を中和し、攻撃を当てようとしたその次のことだった。
「何だ、言い訳か?」
ボウ、と手のひらの上でさっきもぎ取った人間の頭を燃やしながら漏醐が言うと、五条は目隠しを外しながら違ぇよハゲ、と睨みつける。
「この程度で僕に勝てると思ってる───その脳みそに驚いたっつってんだよ」
ゾッ、と威圧感が三体を襲い、身体が一瞬硬直する。
─おかしい。以前五条悟と直接戦闘した事のある漏醐は違和感を感じていた。
まああのときはボコボコにされたが…その時ですらこんな威圧は感じなかった。 一般人を囮にしたのが地雷だったか…?よもやこんな事になろうとは…と思考している最中、彼はビッ、と指を指して言い放つ。
「まずはそこの雑草、お前会うの三回目だな?舐めたマネしやがって…まずはお前から祓う」
バッ、とその場から五条は消え、線路に降り立つ。
「ほら来いよ。逃げんなっつったのは…テメェ等だろ」
次の瞬間五条は花御の眼前まで瞬間移動する。それに対応して花御と漏醐は領域展延で対抗し、攻撃を仕掛けようとする…が、
「ヴッ…!?」
五条は術式での攻撃はせず、無下限のオートバリアと呪力による単純な身体強化のみに抑えて単純な攻撃に切り替えてコンパクトに攻める。花御の手は弾かれ、漏醐の拳は五条に取られてあっけなくへし折られた。
そして腕をへし折った漏醐に追撃をかけようと追従しようとした五条に対して、それを隙と判断した花御は術式を使用して木を伸ばし、拘束をしにかかる。
しかし、その瞬間を待っていたとばかりに五条は花御の方に飛ぶ。
「展延を解くな!!花御ィ!」
漏醐の声も虚しく響き、ドン!と花御の上に乗る五条。そして、
「ここ、弱いんだって?」
目と思わしき部分から生えている枝を握り…思い切り引き抜いた。
長い根が血と絶叫を撒き散らしながら引き抜かれる。
それを見て五条は確信を持って言う。
「やっぱりな。生得術式と領域展延は…同時には使えない」
大きなダメージを受けながらも二人は再度五条に攻撃を再開するが、今度は無下限によって防がれる。いやむしろそれを利用して花御に狙いをつけて壁に弾き飛ばし、無下限のバリアで強く壁に押し付ける。
「いいのか?お前らが展延で僕の術式を中和する程僕はより強く術式を保とうとする。こっちの独活はもうそれに耐える元気ないんじゃない?」
「五条悟!こっちを見ろ!!」
壁と無下限の二枚の障壁に挟まれて花御は全身にとんでもない圧力をかけられる。
何とか耐えてはいるものの時間の問題と判断した漏醐は近くにいた一般人に対して炎を向けるが、時すでに遅し。
花御は二枚の壁に挟まれた圧力によって四散してしまった。
「花御…」
「…次」
漏醐の言葉には耳すら貸さず、五条は冷めきった六眼で振り向いて呟いた。
「やれやれ…これには参ったね…」
地上では夏油の目の前で羂索が膝をついていた。
いや、これは流石に無理もない。
夏油は対呪霊戦は問題ないから、と対人戦を想定した訓練を主に積んできていた。
そして武器として閃光手榴弾や射出式ナイフ、果ては破片手榴弾などの対人武器にブラフを混ぜて駆使し、一瞬でも気を抜けば四方から呪霊に囲まれ、術式反転に身を食い破られる。
近づいたら近づいたで使役されている呪霊はおろか、かの五条悟にも勝るレベルの
羂索は呪力を回して傷を治し、再び立つ。
「しかし、対人兵器にも呪力を混ぜ込んで呪霊にも効くようにしてるなんてね…」
「どんな手段であれ勝ったほうが正義だよ」
「ふふ…その通りだね…!!」
その瞬間、羂索の体、キメラを発動しているその外殻の呪霊が一斉に羂索を離れ、夏油に襲いかかる。
「おっと、」
ここに来て陽動に出たか?と思いながら、とりあえず高位呪霊は置いておいて低級呪霊を呪霊玉に変換、少し減った呪霊の群れの隙間を見る。と…
「!!そう来るだろうね…!」
呪霊に隠れながら羂索が鞭のような腕ー振り回し、重火器のような腕で夏油を狙っていた。
とっさに躱すと低級呪霊と思われるものが撃ち出されていた。
一旦その射線上から外れつつ斜めから攻める。
呪霊の妨害は呪霊で対処、適当な一級呪霊を10体ほど出して全てに周囲の呪霊の相手をさせながら羂索に接近する。その間にも呪霊は飛んでくるが、夏油は危なげなく躱す。
そして目の前に躍り出た夏油に羂索はその銃口を夏油に向けるが…
「ふふ、案外分かりやすいものだね、その腕、一度構えたら動けないだろ」
ブン!と空中で後方に一回転して銃口を蹴飛ばし、驚いた様子の羂索の腹に向かって指を差す。
「術式反転」
今度は四級や三級ではない。
ギリギリ術式を持っていない、準一級呪霊だ。
その呪力を体制の崩れた羂索の腹に食らいつかせる。溢れ出る呪力は凄まじく、咄嗟に腹部を覆ったであろう呪霊もろごと抉り取り、それでも尚勢いを止ませない。
そのまま呪力は羂索を飲み込み、消滅させた。
同時。
「ふっ……が、はっ…!?」
「案外気づかれないものだね?身代わりの術式ということにも」
不敵に笑った夏油の腹が、後ろから突き破られた。