呪い、呪われ、覚り、覚られ   作:謎の通行人 δ

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渋谷事変 転

「な゙、…!!」

 

「駄目だろう呪力感知を怠っちゃあ、こんなケースもあるんだから」

羂索は正攻法では勝てないと判断したため手持ちの呪霊の一部、キメラとして使っていた数百のソレを捨ててそこら辺に散開させ、夏油の視界を遮って分身の術式で作った人形をわざと見つけさせてそれを破壊させ、油断さた隙を狙ったのだ。

術式は脳で、呪力は(はら)で回す。

丹田を貫かれた夏油に、反転術式を施すことはできない。

 

「そら最後に仕事をしてもらわないといけないんだ、行くよ」

頭を掴み、そのまま夏油を引っ張っていく羂索。

その後方。

 

「……すぐ、る……?」

 

「…おや、いたのかい」

激しい動揺の色を浮かばせた目をした、覚中がいた。

 

「悪いね、君に構っている時間はないんだ。おいおい会いに行くから…コレで我慢してくれ」

と、ズワ、と彼の体から更に呪霊が溢れ出る。

その次の瞬間には羂索の姿は消えており。

光の消えた目を落とす覚中と何百という呪霊がいるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、全員は助けられない…その代わり絶対に祓ってやる」

花御が祓われた後。脹相と漏瑚は大量の逃げ惑う人込みの中で、ヒットアンドアウェイを繰り返し五条と戦っていた。

…まあ攻撃が当たっているかはお察しだが。

と、そんな戦闘をしている最中。駅に電車が入ってきた。特有の耳障りな音を立てながら電車が停車すると、漏瑚が喜々として声を荒げる。

何だ…と思って五条が一瞬動きを止めたその瞬間。

 

なだれ込むように列車に乗ろうとした人が列車に殺到し、他人を押し退け、電車の扉に駆け出していく。

が、電車の中に詰まっていたのは真人によって改造された改造人間達だ。

扉が開くと共に改造人間達が飛び出し、一瞬安堵に緩んだ空気を再び地獄へと変化させる。

 

その合間を縫って改造人間とともに列車から飛び出てくる影が一つ。

 

「ハハッ! マジで当たんない!」

真人がその拳を大きく振りかぶって突き出すも、無限に阻まれて不発に終わる。

 

無下限で守る五条に対して物理攻撃は全く意味をなさないが、漏瑚と脹相も周囲の人間を巻き込みながら攻撃を続ける。

 

と、真人が楽しそうに笑いながら言った。

 

「人間のすごいところ、いっこだけ教えてあげよっか。それはねぇ…いーっぱいいるところ♡」

同時に急に駅の天井の一部が崩れ、更に多くの人が駅に雪崩込んできた。

 

 

漏瑚は、五条が虎杖(宿儺の器)と違って冷酷さを持っている上である程度の犠牲を払ってでも自分たちを殺しに来ることを把握していた。

 

が、そのある程度の犠牲はあくまでも呪霊に殺される被害者であって、五条に殺される犠牲ではない。

そして、天井が抜けて無尽蔵に生者と死者が増え続けるこの場所では、その()()()()()()()というのはとっくに機能を失っている。

 

唯一できることがあるとするなら、五条の領域展開、無量空所に一般人を巻き込みつつ、その間に呪霊や改造人間を殺すこと。

しかしそれは大量の一般人をも殺すことにほかならず、それはしないと判断していた。だからこそ、動揺した。

 

「…マジか?」

真人が呟いた。

五条は、人差し指と中指を絡めて領域展開の印を結んでいた。

 

「…領域展開、無量空処…!」

ただし、ただの領域展開ではない。一か八か…一般人が後に復帰でき、それでいて呪霊や改造人間の動きを止められるギリギリのラインを勘で設定した、0.2秒の領域展開。

 

言ってしまえばその程度の領域展開だ。今その瞬間にも特級呪霊は目を覚ますかもしれない。

そのため、まずは反撃を考慮して標的を改造人間に絞る。

人混みの中をかき分け、全力で駆け抜け、撃ち漏らしを一体とも逃さず、フルパワーで改造人間だけを狙う。

術式は焼ききれてしまって使い物にはならないが、どうせ人混みだ、大規模な範囲攻撃は使えない。素の肉体を呪力で強化しただけの体術で、五条は領域解除後、299秒で地下に放たれた改造人間、千体を鏖殺してみせた。

 

「獄門疆、開門」

同時。

激しく息の上がった五条の足元に、封印を施されたような箱が投げ落とされた。

そしてその言葉に呼応して獄門疆は封印を押し破って四方に広がる。

中央に鎮座する血涙を流す剥き出しの瞳が五条を見据えた。

 

六眼で見ずとも分かるその異常さ、異質さに危険を察知して五条は即座にその場から離れようとする。

 

「まぁ待ちなよ、お土産があるんだ」

柱の陰から男…荘士が現れ、手に持っていた大きな()()を投げた。五条の足元近くに落ちたそれを見て彼の動きがほんの一瞬止まる。

そこにあったのは、肚を突き破られ、息も絶え絶えな状態の親友の姿だった。

 

「は…?」

人形や呪霊による偽物、幻影、呪霊容術などという術式の発展……その全ての可能性を六眼が否定し、その瞳に映る、瀕死の親友という状態の全てのみを六眼が肯定する。

 

「傑!!!」

ありえない。

それが最初に頭に浮かんだ言葉だった。今ばかりはこの六眼の故障じゃないかと疑った。

脳裏にちらつく友人の死という事実と、これまで過ごしてきた長い記憶が一気に脳内を駆け巡り、獄門疆の封印開始条件の一分間の脳内時間を余裕でクリアする。

五条の激しい歯ぎしりと同時に獄門疆が分散して五条を束縛した。

その状態では、力は入らず呪力も練れない。決定的な詰みだった。

 

「っ…たく…傑…!起きてんだろ…その程度治せよ!ッ自慢の前髪切り取ってカニの爪刺すぞ…!!」

「ぐ…悟、こそ…なかなか、おもしろい…状態、じゃ、ないか…」

ゴフ、と夏油は血を吐く。

クソ…どうする、どうする…と思考を全力で回していたその瞬間。

 

「ッ…!!五条先生!夏油先生!!」

 

「宿儺の器…!」

「虎杖悠仁…!!」

その者の登場に、三様の反応が示される。

漏瑚は嬉しそうに目を見開き、真人は狂気に満ちた笑顔を見せ、脹相は…何故か、少し呆然としていた。

 

そして、五条はというと…

 

「!ック…クククッ…!!」

笑っていた。

一瞬驚いた顔をして、それから耐えきれないというように、笑い声をこぼし始めたのだ。

 

「…?何がおかしい」

羂索には答えず、五条は笑いながら夏油に話し続ける。

 

「傑!…ッハハ…やっぱハブっちゃ駄目だったな」

 

「……なる、ほどね」

その言葉に、夏油も苦しそうにクク、と笑った。

刹那。

世界が、純白に染められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………!」

地上。

茫然自失という状態に置かれていた覚中に襲いかかる呪霊の群れが、消し飛んだ。

 

「覚中さん!!」

そこには、地下にいたはずの虎杖、冥冥、憂憂の三人がいた。虎杖の膂力で近くの呪霊は祓われ、中距離にいた呪霊も神風(バードストライク)によってあらかた片付けられた。

その耳元には、メカ丸の顔の形をした丸い通信機器があった。

電波は遮断されているが呪力による通信なら可能、与が外側からだいたいの状態を把握しているらしく、覚中の状態の報告を受けて戻ってきたのだという。

 

「…悠仁君…冥冥さん、憂憂さん…」

 

「珍しいね、君がそんなになるなんて」

巨大な斧を掲げつつ冥冥が言うと、覚中は小さく項垂れる。

 

「…傑が、致命傷を負っています。何をしようとしたのかは分かりませんが、丹田を潰されてたので反転術式は使えません…私が、動かなきゃいけなかった…」

そして、次の瞬間。

ズズズ、と覚中の呪力が膨れ上がっていく。

自責の念、後悔、不甲斐なさが形を現し、首をもたげ始めていた。

 

「…でも、()()ならまだ…策はある…!」

目を見開き、周囲を索敵する。

頭の中で計算、命を削る思いで己に即興の縛りを課す。

 

「…悠仁君、今から地下に。そこに傑と悟がいる」

 

「えっ…」

なんで自分が、と言いたそうだった彼にすっ、と少し力なく指を向けた。

 

「少しの間だけ、君がこの世界で最強になるから」

彼の後ろに回り、トン、と背を押した。少しバランスを崩した彼だったが、ともかく指示通りに体を動かす。

冥冥と憂憂には離れているように、とだけ言って大きく深呼吸する。

 

「!!」

一瞬、時が止まった。次の瞬間。

 

 

呪力が、弾けた。

 

破裂した。

 

爆発した。

 

噴火した。

 

震えた。

 

 

目も開けられないような暴風がその場に生成され、その中で覚中は胸の前で印を結ぶ。

親指を絡め、小指以外を握ったその印を胸に当てて祈るように目をそっと閉じた。

同時に彼女の胸にあった覚瞳が砕け散った。

 

「(…私には、悟みたいな無敵さも、傑みたいな手数の多さも、硝子みたいな緻密な反転術式も、無い。でも……!)」

 

 

 

その技は理論上の技。

使える者がおらず、そもそも不可能として結論付けられた()()は、彼女の身をもってここに証明される。

 

すっ、と息を吸う。

体の中で莫大な量の呪力を全てかけ合わせ、余すことなく使用する。

 

 

 

 

 

 

 

─────領域─────

 

 

 

 

 

─────反転─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────(名もなき領域)

 

刹那、世界が白で塗りつぶされた。

 

「これは………」

冥冥が零すが覚中はその場から動かない。印を構えたまま微動だにしない。

覚中の領域は緻密な呪力操作能力と莫大な呪力により、渋谷に降ろされている帳をすっぽりと覆う形で囲んでいた。

 

通常、領域は結界で外界と遮断した世界の中に呪力で生得領域を描き出す絶技だ。その領域展開できる者の生得領域には術式が備わっており、領域内での術式は必中となる。

 

 

 

ならば、その領域を満たす呪力が正の呪力に置き換わるとどうなるのか。

 

 

 

答えが、コレだ。

小規模なものを練習し続け、ついに大成させた奥義───領域反転。

正の呪力で満たされたその領域内には同時に、反転術式の術式が満ちている。

この領域内において、覚中の発する反転術式はありとあらゆる生物に対して必中。そして……

 

通常の呪力が正の呪力とぶつかると中和されるように、この領域の中ではありとあらゆる呪いが存在できなくなる。

 

呪具はただのモノへ、呪物は灰へ、呪術師は一般人へ、呪霊は無へと還される。

その世界では、術式どころか通常の呪力だけでさえも存在することすら許されない。

 

無論、何の代償もなしにこんな芸当ができるわけがない。彼女は縛りを用いて無理矢理威力を上げている。

無論いつもの縛りも用いているが、これは150%などで止めていない。完全に開放した200%だ。更にそれに加えて3つ縛っている。

 

一つ、領域を広げている間の本人がその場から移動することの禁止。

 

 

二つ…一級呪物、覚瞳の喪失。

 

 

 

三つ……領域発動後の読心操術の喪失。

 

 

 

縛りは、本人にとって重大なことであればあるほど対価が増す。

今すぐ駆けつけたい気持ちを抑え、夏油からもらった大切にしていた呪具を亡くし、そして…あまつさえ()()()()()()()()()()()()()その代償として更に底上げられた呪力はもはや図りしれず。その呪力を持ってして展開されたのは、家入ですら真似できないほど高精度な反転術式が半径400m圏内に常に降り注ぐ、名もなき領域。

 

その効果時間は延べ30秒。

領域が閉じた頃には、地上の呪霊は全て消え去っていた。

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