イィィィン、と長く余韻が残り、やがてソレも消えた頃。
「…勝ったな」
「勝ったねぇ」
少し煤けて血がかなり付いている*1私服を着た五条と、腹部分に穴が空いてボロボロになっている五条袈裟を来た夏油は笑いながら拳を合わせた。
…この結果が当然かのように笑う最強二人がいた。
「…で、悠仁は何でそいつと仲良くなってんの」
「さ、さぁ…?」
「俺はお兄ちゃんだぞ、兄と弟の仲が良くて何が悪い。嫉妬か?ん?」
あと何故か脹相が悠仁に懐いてギャグ落ちしていた。
まあ一応その場では害はないと判断されたが。
「うーわ、にしてもやばいね…先生達やっぱめっちゃ強いんだね」
地上で広範囲に渡ってえぐり取られた地面を見つつ虎杖が言うと、(見た目は)ボロボロの夏油が少し肩をすくめて言った。
「…いや、今回ばかりは心音のおかげだよ。心音がいなかったら今頃、悟は封印されて私は瀕死、もしくは死んでたろうね」
「まじかぁ……あれ、そういえば覚中さんは?」
「ん?………あれ?」
周囲を見渡すがそこにいたはずの彼女の姿はなく。
帳が上がっているため連絡用端末が使えるようになったため本人の携帯に電話をしたが出ず、高専組に連絡を取ってみたがどこにも来ていないという連絡が渡ってきた。
「……何処行ったんだ…?」
「まあそのうち帰ってくるっしょ。心音のことだからあんまり称賛とかは自分に合わないとか思ってそう」
「否定できないのが怖いね」
こうして軽口を叩いて、渋谷事変は幕を閉じた。
───ように見えた。
結局、渋谷事変と呼ばれる事件は地下道にて起こった突発的な大事故と、名前はでっち上げられたテロ組織によるテロ行為だということで収まった。
…まあ割と間違っていないのが怖いところだが。
あと土地被害の7割ほどが五条、夏油によるものとか言うふざけたことに夜蛾が頭を抱えていた。
そんな中、一つの影が廃ビルに入っていく。
その目には何の感情も映らず、何も考えていないただの人形のようにも見えてしまう。
と、そのビルの隅に、小さな赤い人の形をしたモノがあった。
それは忙しく動き回るが、その影には気づいていない。
次の瞬間。
ボシュ、と音を立ててその首が落ちた。
さして興味も無さげにその影は踵を返してビルから出ていく。
太陽に照らされて尚黒い瞳は光を灯さず、長い茶髪は鈍く沈んでいた。
「覚中さん、帰ってきてないな…」
「ああ、連絡も取れてないんだろ?」
「心配ね…何があったのかしら…」
渋谷事変から帰って、虎杖と伏黒、釘崎が教室で話をしていた。
普通教科担任としていた覚中が突如姿を消してしまい、未だ消息不明。
夏油の呪霊*2や冥冥の黒鳥操術による捜索を行っているが、依然見つかっていない。
渋谷から既に出て迷子になっている…訳がないとは言い切れない。確かに割と彼女の土地勘は薄いが、流石にスマホがあればマップも見れるだろうし連絡がそもそも取れていないのがおかしい。
「おい宿儺…お前なんか知らねえのかよ」
とてつもなく癪だが、虎杖は自分の中の宿儺に声を投げてみる。
まあどうせ返答なんて返ってこないだろうと思っていたのだが…
「……フン、分かることはあるが教えてやらん」
「!!あんのかよ!教えろ!」
「小僧、誰に口を利いている。それが人に頼み事をする時の態度か?」
声を荒げる虎杖にじろり、と目を向ける宿儺は口を歪めながら言う。
それを聞いて虎杖は苦虫を噛み潰したような顔をして、小さくため息をつく。
「……教えてくれ、宿儺。分かることって、なんのことなんだ」
「…ふん、まあ及第点くらいはやろう。どうせ計画も頓挫した」
計画…?と首を傾げる三人の前で今度は宿儺がため息を付きながら話した。
「俺の指は20本に切り分けられて呪物として封印され、この世に存在している。いま小僧が飲んでいる分が4本だ。あと16本この世に存在していることに
「…!!」
「それが、どうしたんだ?」
「そのすべての反応が消えた。おそらく破壊されたな。よってこの世に俺の指は呑んだ数を加えてもう半分の10本しか残っておらん。コレでは俺が再度世の頂点に立つのも難しいだろう。悔しいがあの五条悟には全盛期の半分程度では勝てん。全く、途轍もない気配がしたからこれは魅せてくれたかと思えば…やり過ぎだ」
「「「……は?」」」
呆れたように言う宿儺に、虎杖も伏黒も釘崎もわけがわからない、といった風に同じことを口から漏らした。
特級呪物は破壊できないから特級呪物。
術師なら馬鹿でも知っている常識だ。
それが、覆されたのだ。
俺が分かるのはそこまで、後は考えろ、と言って宿儺は眠りについた。
「…それを覚中さんが?でもなんでそれがヒントに…」
「………………」
「…?虎杖?」
三人の内、虎杖だけがその言葉に若干顔を青くした。
その異変に気づいた伏黒がその顔を覗き込む。
「……一つ、心当たりがある…」
「「本当(か)!?」」
「あいや違う、どこにいるかじゃなくてその…何をやったのか、の所だけど…」
ガタッ、と椅子を飛ばして立ち上がる二人を宥めて虎杖は話す。
茫然自失としていた覚中のこと。一時的に自分を最強にするという言葉。そして、その直後に展開された白い世界。
そして、特級呪物である獄門疆が灰となって崩れ落ちる様。
「…あれのお陰で五条先生も夏油先生も生きて帰ってこれたって言ってた。でも、そんなやべえ技何の代償もなしに使うなんて無理だろ…!?」
「…まさか、」
最悪も最悪な予想が見つかり、それでいて信憑性が高まってしまう「死」という言葉。
と、その教室に一人、乙骨が駆け込んできた。
「皆!…覚中さんが、見つかった」
「「「!!!」」」
その言葉に安堵が広がる。が…
「でも、どこにいたんですか?夏油先生と冥冥さんが総出で探して見つからなかったのに…」
「それは…うん、少し説明しよう。こっちに」
伏黒の言葉に頷いた乙骨に連れられてきたのは職員室。その中の長机の一つには、モニターが二つ置かれている。
そこに、東京校の教師勢と歌姫、二年生たちが集まっていた。が、
「幸吉、もうちょっとはっきり追従できない?」
「無茶言わないで下さい…天与呪縛が無くなったおかげで範囲も精度もちょっと下がってるんですから…」
見覚えのないちょんまげの男子生徒がいた。まあ辛うじて制服は着ているから高専生というのは分かるが。
そしてその指されたモニターには、少しノイズが激しいがしっかりと覚中の姿が映っている。と…
「あっ消えた」
ふっ、とその映像が途切れる。
「これで14機目か…」
「でも、そこにカラスを送り込んでみたけどやっぱり誰もいないよ?」
と、冥冥が言う。
どういう状況?と虎杖が聞くと、五条が答えた。
いくら夏油と冥冥が探しても見つからなかったため、彼らは京都校の与に協力を仰いだのだ。
虫サイズの呪骸を大量に渋谷と渋谷周辺の街にばらまき、それで至る所を観察しているのだが…その一つにやっと覚中が映り込んだのだ。
しかし映りはするもののすぐに映像が途切れてしまい、しかもその場にカラスや呪霊を送ってみてもその場にはもういないのだという。
「うーん…どうしたものか…」
ウンウンと頭を捻っている頃。
暗い部屋の中で障子に挟まれて数人の年寄りたちが話をしていた。
「与幸吉のスパイは二級術師、覚中心音の指示だった、と…」
「それに、渋谷事変においては一般人を巻き込んで超広域に領域を展開したという」
「…決まりだな」
厳かに、その決定が下された。
「覚中心音は二級は愚か一級をも遥かに凌ぐ実力を持っていると判断し、彼女を特級術師へと昇格する」
「「「「異議なし」」」」
「そして、一般人に対して呪術を広めようとし、術師の情報を呪詛師、呪霊側に流して呪術界に混乱を追わせることへの幇助を行った上、呪霊の呪術に一般人を巻き込んだということに於いて呪術界から追放、位を剥奪…」
─────以後特級呪詛師として扱い、発見次第即座に処刑することを命ずる。
─────異議なし。