評価してくださった方、ありがとうございます。
「……んぅ、?」
「起きたかい?」
「…ん………ん?」
覚中はめちゃくちゃ眠たそうに目を薄っすらと開き、一回目を閉じたあとにパッチリと目が開けた。パチパチと瞬きをし、若干の空白の時間ができる。
「…ぅえっ!?す、傑!?」
「いや私だけど」
頭を再起動させたのか、跳ね起きた覚中を前にして夏油は少し笑いながら返す。
「あ、あぁ、そうか…あぁーそうだった」
と、ここらへんでだいたい思い出したのか落ち着き、覚中はさっきまで寝ていたベッドに腰掛ける。
家具はほとんど無く、ベッドが一つと椅子と机が一対のみの部屋だ。
「ふー…ここ傑の家か。久しぶりに入った気がする」
「まあ、今は向こうの寮で生活してるからね。心音の家に入ろうにも、流石に家主から鍵取って勝手に入るわけにいかなかったし」
ポリポリと頬をかきつつ夏油がそう言うと、別に良いんだけど、と割と真顔で覚中は返していた。
「…その警戒心の薄さは問題だと思うよ」
小さくため息を付き、年頃の女の子でしょうに、と付け加えてから夏油は続ける。
「で、何をしたのか教えてもらってもいいかい?今、前からじゃ考えられないほど落ち着いてるんだけど」
自分の心臓あたりに指を指して話す夏油。
それに対して、そうだねー…と顎の下に指を置き、小さく頷いてから覚中は話し始める。
「まあ適当に言えば私の術式って事なんだけど…実は、私の術式って心を読むだけじゃなくて干渉もできるみたいなんだよね」
ベッドの縁に座り、椅子に座っている夏油に向かってプラプラと足を流しながら覚中は続ける。
「まあそれを前提として。とりあえず私の術式は置いておいて、まずは昨日傑に言われてからのことを話そっか。…ずっと考えてたんだよね、傑はどうしたいのかなって」
!、と少しだけ夏油の目が見開かれる。
「多分だけどさ、呪詛師って良いやつではないんでしょ?いかにもな名前だし。だから
「その…後?」
夏油が不思議そうに眉を片方少し上げて言うと、覚中はうん、と答えて続ける。
「さっきも言ったけど、迷うってことはさ、どっちにも傑の思惑が混じってるわけでしょ?詳しくは分かんないけど…呪術師になる傑と、呪詛師になる傑。その両方に惹きつける力と突き放す力があるんだと思った」
指で夏油を指しつつ、ゆらゆらと長い髪を揺らして覚中は続ける。
「だから、別に私を殺して呪詛師になっても、逆に殺さなくて呪術師のままでも、多分私に言われて行動したんだったら傑はずっと悩むんだよね。あれは正しかったのか、本当に良かったのかー、ってね。ほら、最悪ヤケを起こして暴れだしたりとか本当に目も当てられないからさ」
少し表情を崩して、若干苦笑いのように薄く笑う覚中。
一拍置いて、その笑みを仕舞って続ける。
「だから、傑自身に決めてもらったんだ。私はその補助をしただけだよ。傑、もう限界だったんでしょ。さっき私、他人の心にも干渉できるって言ったけど、本当に若干で普通の人にすら使えないんだよね。硝子さんとかにも効かなかったし、悟さんに至っては弾かれたよ。…あ、もちろん許可取ったよ。で、せいぜい犬とか猫とかにしか効かないし、それでも歩いてるところを立ち止まらせる、位のことしかできないレベルのやつだったんだけど、傑は簡単に効いた。しかも、ちょっと突っついたくらいですごい錯乱した。そこに、自分がどうしたいのかをちゃんと自分に分からせてあげただけだよ」
確かに、非術師に対する嫌悪感は残っている。それでも、それを凌駕するくらいの理性はちゃんと残っている。それに加えて、
覚中は、それが傑の一番強い答えだよ、と小さく笑いながら言った。
「……ちょっと待って、これもし仮に私が呪詛師になる道選んでたらどうする気だったんだい?完全に覚悟がキマる事になっちゃうんだけど」
「さぁ?その時はその時、諦めて死ぬことにしただろうかな。まあ呪霊なんかに原型も残さないような殺され方するよりはマシだろうし。もしそんな事なったら私が呪霊になっちゃうよ」
あ、でもそれなら傑の呪霊操術に取り込んでもらうのも有りかも?と軽く冗談にならないことを口走り、カラカラと笑う覚中。
正気か?と夏油は心の中で訝しむが、嘘をついている様子はない。どうやら本気で思っているらしい。
呪術師にまともなものはいない、ね…と頭の中で少し思いつつ。
「…何度も言うし、心音も分かってるけど私の使う術式は呪霊操術だよ。呪霊に殺させれば同じ悲惨な目になるわけなんだけど」
「しないよ」
少し諦念も混ぜて聞いてみると、覚中はその言葉に覆いかぶせるように、少し食い気味に返した。
驚くほど柔らかい声に、驚いて覚中の方を見る。
「傑はそんなことしないよ。やる時はできるだけ痛くないようにしてって言ったんだもん、そこはちゃんと守ってくれる」
「なんで言い切れるんだか」
少し呆れて、ため息交じりに少し肩を竦めつつ言った夏油に、だって傑は優しいでしょ?と覚中はそのままのトーンで返した。その黒い目は、彼の目をしっかりと見据えていた。
一瞬、時が止まったかと思った。
「優しいよ、傑は。呪詛師になろうとした理由だって、仲間や後輩が死んでいくのが辛いからだって言ってたでしょ。毎日生死をかけて戦ってるのに、自分が死なないためじゃなくて仲間のことを思えるんだよ、もうとびっきり優しいよ」
その声は柔らかく、優しかった。
いつものカラカラとした笑い声も上げず、覚中は薄く微笑みながら夏油に向かって言った。
「でも、だからこそ悩んだんでしょ?」
その後ろに、何をとは言わなかった。言う必要も無かった。
覚中はベッドから立ち上がり、座っている夏油の目の前に立つと彼の頭にポンポンと2回、手を落としてその後ゆっくりと撫でた。
「…そんなことされる歳じゃないんだけど」
「良いから、私がしたいの。普段じゃ傑の背が高すぎてできないし」
彼女はお疲れ様、と小さく囁くように呟いて抱きしめ、座り直した。
「さて、と…これ、硝子さんならまだともかく絶対に悟さんには言わないほうがいいよね…確実に二人喧嘩するでしょ」
座り直した彼女が若干遠い目をしつつ呟くと、今度は夏油がくつくつ、と笑って返す。
「分かってるね。硝子は…笑ってネタにするだろうかな、少なくとも向こう五年は。私と悟は…まあ120%殴り合いになるか、特級同士の」
確実に悲惨なことになるだろう。
五条と夏油は特級という位に付いている。
主に呪術師は4級から1級というくらいが設けられているのだが、1級の更にその上、一人で国家転覆を狙えるようなレベルの者を特別に特級術師と呼ぶのだ。その数少ない特級の内、二人が彼らなのである。
「想像もしたくないね」
「多分先生にげんこつ落とされて大人しくなりそうなところではあるけど」
この私達の担任が強面でねぇ、と話を広げ、それにもしかして傑みたいに元ヤンだったりする?と聞き、二人で笑って夜を明かした。
夏油は、久々に心から笑えた気がした。
そして、次の日からはまたそれぞれの生活を送る事になる。
……はずだった。
「ここに、覚中心音の東京都立呪術専門高等学校への編入を決定する」
こうなってしまったのである。ドウシテ。
闇落ち回避。
因みにここで手を打っておかないと、百鬼夜行が起こった時に覚中さんも招集食らって、結果説得とかいけるか…?と高専に五条さんに飛ばされ、多分最終的にげとさんを手にかけることになります。
色々考えたけど多分そうなる気がします。こっわ。