このお話は魔法の「ま」の字もない、ごく普通で、不思議だとか神秘的だとかそんな「まとも」でない非常識は一切ないありふれた家庭のお話です。
原作に沿った内容なので、一切ないとは言いかねます、すみません。
「ダドリー、メイベル!!朝よ、起きてちょうだい!」
「メイベル、起きたら来てもらいたいんだが!」
これは、サレー州 リトル・ウィンジング プリベット通り4番地にある何の変哲もない、普通の家庭に普通に過ごした少女のお話。
「んん…はーい」
朝の陽の光が入る4番地の一軒家に、赤毛の少女はクリクリとしたミントグリーンの瞳を瞬かせ欠伸をかみ締めながら応える。
そして、もう1人のダドリーと呼ばれる少年と共に、洗面室へ向かうと、歯を磨き、顔を洗う。
「メイベル、僕の歯ブラシ取って!」
「…ん、はい!」
「ありがとうメイベル」
メイベルと呼ばれたその少女は、少年に歯ブラシを渡し、はにかんだ。
「私、呼ばれているから先に行くね!今日もいい日になるといいね!」
「うん!今日は特別にいい日になるといいね!」
「んー?なんで?なんで?」
歯磨きをしている最中のダドリーに抱きつくようにじゃれるとそう訊ねた。
「そりゃ…」
ダドリーが言いかけた途中で、男の図太い声が響き渡る。
「メイベル、早くおいで!」
「はーい!今行くわ!」
メイベルがそう応えると抱きついていた体を離して、階段を駆け下り男の元へと向かう。
「おはよう、メイベル。今日が何の日か知っているかな?」
「?……!わかった。このプレゼント、誕生日ね!」
「そうだ、大正解!」
男の名をバーノンという。メイベルの叔父で、穴あけドリル製造会社グラニングズ社の社長をしている。でっぷりと太った体にでっかい赤ら顔と巨大な口髭が特徴のバーノン。
リビングルームには数え切れない程のプレゼントが山積みに、バーノンはにこやかに笑う。
「もうパパ!僕が最初に伝えたかったのに!なんで言っちゃうんだよ!」
抗議の声をあげるはダドリー。
洗面室から飛び出してきて、息も切れ切れに怒る。
「いやぁ、ごめんごめん。わたしも待ちきれなくてな!」
軽快そうに笑うバーノン。
ダドリーの後ろ手にあるキッチンから、料理を運んでくるはペチュニア叔母さん。
メイベルの母親の実の妹で、金髪、首が鶴のように長く、ガリガリに痩せた馬面の女性。
「ほーら、美味しそうでしょ?ダドリー。ダドちゃんもお料理持っていってくれるかしら?」
「…わかった。次の誕生日は絶対絶対絶対、僕が言うんだからね」
怒り冷めぬまま、お料理を運び出すダドリー。
「わかった、わかった。ささ、料理が冷めない内に食べようじゃないか」
「はーい」
そう。今日はこの少女、メイベル・ポッターの誕生日である。
沢山の料理が円卓を所狭しと埋め、バーノンはその太い腕で愉快そうにそれらを口に運ぶ。
無限に吸収してしまいそうなその巨体に次から次へと料理が吸い込まれていく。
それを1度見届けると、メイベルも合わせて料理を口に含んだ。
「モグモグ…んん、一際美味しい!これ、全部私のために?!」
料理に舌鼓を打つメイベル。
運ばれてきたワインで煮込まれた牛の肉料理に、美味しかったのか口元を綻ばせ食べ進めていく。
目をキラキラと輝かせてほっぺたを手で包むメイベルに、ペチュニアは満足そうに笑う。
「そうよ、それはペチュニア特製ワイン煮込み。気に入ってもらえたようでよかったわぁ!!」
「ペチュニア叔母さんありがとう!……プレゼント後で開けるね!」
「勿論よ、ね、ダドちゃんからのプレゼントは先に開けてあげてもらえるかしら?」
料理を運び終えたダドリーが、ソワソワとメイベルの周りを行ったり来たりしていた。
「分かった。……ダドちゃん、開けるね?」
「う、うん!開けて!」
表情がぱああと明るくなるダドリー。その所はまだまだ幼き子供だ。
といっても、メイベルもまだまだ子供なのだが。
「…!!
「僕つけてあげる、良い?」
手のひらサイズの小箱の中身は髪留めであった。
メイベルは中身を手に取り、うっとりと微笑む。
「ありがとう、付けて、付けて!」
髪留めをつけてもらうメイベル。赤毛のクルクルとウェーブを肩まで垂らした美しい髪に、ダドリーはそっと、髪留めをつけていく。
「……どう?鏡持ってくるよ!」
「うん!ねぇ〜嬉しい!ありがとうダドちゃん!」
「へへへっ、気に入ってもらえたなら何よりだよ」
ダドリーは穏やかな笑みを浮かべ、既に用意周到のペチュニア叔母さんから手渡された鏡をメイベルへ渡す。
その髪留めは、リリーの花がアクセントに、精妙に作られていた美しいものであった。
「!可愛い!お花の
一瞬、悲しげな瞳を浮かべるメイベル。
「うん。君に似合うだろうなって、考えていたらママが良いんじゃない?って」
「…。そっか、ありがとう!大切にするね!」
「ほら、食事をしたら動物園に行くんだから、早く支度をするのだぞ!」
バーノン叔父さんの図太い声が響く。
悲しげだったメイベルも、あっという間に目をキラキラさせた。
「!私の為に動物園へ連れて行ってくれるの?」
「そうだとも。メイベルが楽しみにしていたことくらい、叔父さんは知っているんだぞ」
「案内は僕!僕がするんだからね!」
「さぁさ、食べて。今日は楽しい動物園よ〜!」
ペチュニア叔母さんは大慌てだった。やがて、ダドリー1の友達、ピアーズ・ポルキスが母親に連れられて部屋に入ってきた。ねずみ顔のガリガリに痩せた男の子だ。メイベルはその子のことも大好きである。
30分後、メイベルはダーズリー一家の車の後部座席ににピアーズ、ダドリーと一緒に仲良く座り、勿論、メイベルは真ん中で。生まれて初めて動物園へ向かっていた。信じられないような素敵な幸運だった。
運転をしながら、おじさんはおばさんを相手にブツブツ、今日の一日の流れについて話した。動物園でメイベルを喜ばせ、ついでにもう少しお土産と言いつつプレゼントを購入し、帰ってからはあのプレゼントの山を一つ一つ開けてもらう。聞いている叔母さんも、それはいいわねと顔を綻ばせた。
そして話は変わり、会社の人間のことや、メイベルが如何に可愛いか、市議会が忙しい事、メイベルが好きな物は何か、銀行の事、ダドリーがメイベルと仲良くしてくれている事、ざっとこんな所がお気に入りの話のネタだった。
今日は無茶苦茶な音を出してオートバイが追い越していったのを尻目に
「せっかく今日はメイベルの誕生日なのに、驚かしてしまうとは!」
と、少しむくれていた。
「叔父さん、私、びっくりなんかしてないわ。ダドちゃんとのお話に夢中だったから、気付いてもいなかったもの」
そう、メイベルの援護により、むくれていたバーノンはまた笑みを浮かべた。
「あ、そういえばね。私、オートバイの夢を見たの」
メイベルは急に思い出した。
「空を飛んでいたのよ」
バーノン叔父さんは驚きでとたんに前の車にぶつかりそうになった。
運転席からぐるっと振り向きざま、彼は口髭を生やした赤ら顔で愉快そうに笑った。
「いいかい、メイベル。それは夢だ。実に愉快な夢であったな」
「うん!愉快な夢だったわ」
ダドリーとピアーズも思わず笑った。
ダーズリー一家側の普通の日常があればいいな…と妄想した小話です。
オリキャラ付き。
ダドリーは優しくて、お兄ちゃん気質な所を全面に書いています。
苦手な方はUターンいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
ではまた次のお話で会いましょう♪see you♩♪