ダドリー坊やとメイベル嬢ちゃん   作:Tuuri_ecru

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第4話 手紙から逃亡

次の朝、皆は黙って朝食を食べた。と言っても、ダドリー、メイベルは親の顔色を窺っての事で、バーノン叔父さん、ペチュニア叔母さんが暗い表情で終始顔を見合わせていたからだ。

朝の郵便が届く。バーノン叔父さんは暗い表情を上手く取り繕うように努めて笑顔を浮かべ、郵便を取りに行くよう2人へ促した。

 

「…また、来たよ。プリベット通り4番地 メイベル・ポッター様…。メイベル、どうする?」

 

「叔父さんを困らせたくないわ。隠してしまいましょう」

 

「なんだ、2人とも。コソコソして」

 

「あっ…叔父さん…」

 

リビングルームにいた叔父さんはいつの間にか玄関に来ており、手紙を見るやいなや、首を絞められた様な叫び声をあげると手紙を取上げ、破り捨てた。突然の暴挙に、メイベルは小さく悲鳴をあげた。

 

「メイベル、私のメイベル。この手紙はいたずらだ。読んで目を穢してはいけない。わかったね?」

 

「…はい。叔父さん」

 

笑顔を浮かべているが、酷く歪んでいる。無理やり取り繕った笑顔が、強ばっているのが見て取れた。それ以上、メイベルは何も言わなかった。

バーノン叔父さんは、その日会社を休み、家の郵便受けを釘やネジで固く閉ざしてしまった。口いっぱいに釘やネジを咥えたまま、叔父さんはペチュニア叔母さんに理由を説明した。

 

「いいか、配達さえ、配達さえ無ければ、彼らも諦めるさ」

 

「でも、あなた。そんな事で、上手くいくものかしら?」

 

「あぁ。彼らの考える事ときたら、まともでは無い。私らとは人種が違う」

 

バーノン叔父さんは今しがた、マージ伯母さんからお土産で貰ったトロピカル・フルーツ・ケーキで手を打とうとしていた。

 

金曜日には、14通もの手紙が届いた。固く閉ざされた郵便受けには入りっこないので、隙間という隙間に差し込まれ、或いは、1、2階のトイレの小窓からねじ込まれた物も数通あった。

バーノン叔父さんは再び会社を休んだ。暖炉やライターで手紙を焼き捨てて、釘、ネジに金槌とドライバーをクローゼットから取り出し、玄関と裏口にあるドアの隙間という隙間にベニヤ板を打ち付け、誰1人外へと出られないように細工した。

 

土曜日、もう手がつけられなくなっていた。26通のメイベル宛の手紙がどこからともなく、忍び込んできた。牛乳配達の配達員が、一体何事かという顔つきで、卵を2ダース、板のされていないリビングルームの小窓からペチュニア叔母さんに手渡したが、その卵の1個1個に丸まった手紙が隠してあったのだ。

ダドリー、メイベルは手紙の恐ろしさに、目を丸くする他無かった。

 

日曜日の朝、バーノン叔父さんはやや疲れた青い顔を、何故か嬉しそうに綻ばせ朝食の席へと着いた。

 

「今日は何曜日だ、ダドリー」

 

「日曜日だよ、パパ」

 

バーノン叔父さんはダドリーに訊ねる。

 

「そうだ、日曜日だダドリー。そして私がなぜ、こんなに嬉しそうなのか分かるかね、メイベル」

 

「郵便の配達が無いからよね、バーノン叔父さん」

 

「よくわかったね、メイベル、郵便の配達が無いからだ。今日はあの忌々しい手紙なんぞ…」

 

新聞にママレード・ジャムを塗りながら、バーノン叔父さんは嬉々として言う、言うが、言い終わらないうちに、何かがキッチンにある煙突を伝い、ヒューッと音を立てながら叔父さんの後頭部にこつりとぶつかった。次の瞬間、40枚も50枚もの手紙が、暖炉から雨あられの様に舞い上がり降り注いできた。叔父さん叔母さんは急いで身をかわし、ダドリーはメイベルを覆うように抱きしめた。

 

「ああ!みんな、よく聞くんだ。出発の準備をして数分後にここに集合だ。家を離れる事にする、着替えと最低限のものだけ持ってきなさい。わかったね」

 

溢れんばかりの手紙を前に、屈みながら叫ぶバーノン叔父さん。

 

「えぇ、わかったわ。最低限の物だけ持って、戻ってくるわね」

 

メイベルも慌ててダドリーから体を離すと、ダドリーの手を固く握り締め自室へと駆け込んだ。

 

「あぁ、あなた。こんなに酷いなんて、思いもよりませんでしたわ」

 

散らかったリビングルームをまえに、愕然とその凄まじさに立ち竦むペチュニア叔母さん。部屋に散らばった手紙は、ゆうに100通を超えていた。

数十分後、板を固く打ち付け閉じていたドアをドリルでこじ開け、一行は車に乗りこみ、わけも分からないまま高速道路を目指して突っ走っていた。ダドリーは、自分のせいで叔父さんに迷惑をかけたと小さくなりながら悲しげな顔をするメイベルを慰め、ペチュニア叔母さんはブツブツと独り言を言っていた。

一行を乗せた車は、どこまでも、当てなく走った。

時折、バーノン叔父さんが運転する車は急カーブを切ったり、逆走したりした。

 

「任せておけ…絶対、振り切ってやる」

 

その度に、叔父さんも独り言をブツブツ言った。

一行は一日中飲まず食わずの状態で、走りに走った。暗くなる頃には、ダドリーはお腹を鳴らし、メイベルは手汗で握りしめていたスカートをしわくちゃにさせ、疲労を露わにしていた。

バーノン叔父さんは、どこか大きな町外れにある、小さなモーテルの前でやっと車を停め、セミダブルベッドのツイン・ルームに、ダーズリー夫妻と、ダドリー‪、メイベルで泊まった。

ダドリーはホテルで夕食をまともに取らなかったメイベルを心配し、持ってきていたビスケットを渡した。しかし、いらないと断られてしまい、なら、とキャンディの包みを握らせた。

翌朝、コンチネンタルの朝食を摂った。皆が丁度食べ終わった時にコンコンと、ノックの音を鳴らしてホテルの女主人が訪ねてきた。

 

「ごめんなさいまし。メイベル・ポッターという方はいらっしゃいますかね?今しがた、フロントにこれと同じものがざっと数えて100通ほど届いていまして」

 

女主人は、皆が宛名をよく見えるように手紙を掲げてみせた。前と同じ、エメラルド・グリーンのインクで書かれている。

 

コークワース州 キャンベル・モーテル 14号室 メイベル・ポッター様

 

バーノン叔父さんは素早く立ち上がり、手紙を受け取ると女主人に付いて食堂を出ていった。

 

「ねぇ、やっぱり家に帰った方が良いんじゃないかしら?」

 

ペチュニア叔母さんがそう訊ねたのはそれから数時間後だったが、車を走らせるバーノン叔父さんにはまるで聞こえちゃいなかった。一体叔父さんが、何の為に、何を探そうとしているのか、誰にも皆目、分かりはしなかった。

ある時は森の奥深くまで入り、叔父さんは降りて辺りをぐるりと見回して、バサバサと頭を振り、また車へ戻ると走り出した。

また、ある時は耕された畑の真ん中で、また、ある時は吊り橋のど真ん中で、そしてまたある時は立体駐車場屋上で、叔父さんは何度も何度も同じ事を繰り返した。

 

「パパ、気が変になったのかな」

 

夕方近くになって、ダドリーはぐったりした様子でペチュニア叔母さんに問いかけた。バーノン叔父さんは海岸近くに車を停めると皆を車に残したまま、どこかへ姿を消した。

雨が降ってきた。大粒の雨が車のフロントガラスを打った。

 

「今日は、月曜日だねママ」

 

ダドリーは母親に向かって、哀れみがかった声を出した。

メイベルは、自責の念で冷や汗が止まらず、繋いでくれたダドリーの手をも手汗で湿らせた。

 

「…大丈夫?メイベル、パパ、どこに行っちゃったんだろう」

 

「うん。大丈夫だよダドちゃん。まだ、大丈夫」

 

心配な様子でメイベルの背をさするダドリー。手汗が出ていても、固く手を握りしめ、自分の肩にもたれかけさせるようにメイベルの頭を抱えてあげる。

暫く、何時間か経って、バーノン叔父さんはにんまりとしながら戻ってきた。長く、細い包みを抱えていた。何を買ったのかとペチュニア叔母さんが聞いても答えやしなかった。

 

「とうとう、申し分無い場所を見つけたぞ。来い、皆降りるんだ」

 

外はとてつもなく寒かった。バーノン叔父さんは海の彼方に薄らと見える何やら大きな岩を指している。その岩の天辺に、小さな小屋がちょこんと乗っていた。

 

「今夜は嵐が来るぞ!」

 

バーノン叔父さんは上機嫌で手をパンパンと叩きながら言った。

 

「こちらのご親切な方が、ボートを貸してくださると仰ってくれた」

 

すっかり歯の抜けたしわくちゃの老人がヨボヨボと近付いてきて、何やら薄気味悪い笑みを浮かべながら、鉛色の波打ち際に木の葉の様に浮かぶ小さなボートを指差した。

 

「食料は手に入れた、一同、乗船だ!」

 

バーノン叔父さんは号令を掛けた。

船の中は凍えそうな寒さだった。時折、氷の様な水飛沫と大粒の雨が首筋を伝い、刺すような強風が顔を打つ。何時間も経ったかと思われる頃、船は大岩に辿り着き、叔父さんは何度も転んだり、擦りむいたりしながらサイロの様な小屋へと向かった。

小屋の中は最悪だった。海藻の生臭い香りが鼻をツンと刺し、板壁の隙間という隙間からヒューヒューと隙間風が吹き込んでいた。オマケに火の気1つ無い暖炉は湿っていた。部屋は数えるまでもなく、2つしか無かった。

バーノン叔父さんが用意していた食料は、ポテトチップス1人1袋に、8本入りのスティック・パンが1人3袋、水入りペットボトルが数十本に、バナナ4本だった。暖炉に火をくべようと、ポテトチップスの空き袋にライターで火を付けたが、燻ってチリチリと縮んだだけだった。

 

「今なら、あの手紙が役に立つかもしれないなあ」

 

バーノン叔父さんは楽しげに言った。

叔父さんは実に上機嫌だった。こんな大嵐の中、まさか郵便を届けにやってくるやつはいまいと。そう思っているに違いはなかった。メイベルも叔父さんの意見には同意はしたが、上機嫌にはなれなかった。

まさか、自分宛の手紙のせいで、家族をここまで危険に晒し、バーノン叔父さんをも混乱させてしまったのだ。罪悪感に苛まれるのも無理は無い。しかし、ダドリーだけはそう思ってはいなかった。勝手にパパがおかしくなった、そう信じていた。

夜になると、予報通り凄まじい嵐が吹き荒れた。波は一際高く、水飛沫はビシャビシャとサイロ小屋の壁を打った。風は猛り、薄らとくすむ窓をガタガタと鳴らした。ペチュニア叔母さんは奥の部屋から使い古した毛布を2、3枚見つけてきてダドリーとメイベルの為に、こちらも使い古したソファの上に毛布をかけてベッドを拵えた。叔父さんと叔母さんは奥の部屋の凹凸のあるベッドに収まった。

夜が更けるにつれて、嵐は激しさをますます増した。メイベルはちっとも眠れやしなかった。船酔いで戻してしまい、胃の中は空っぽだった。プルプルと、華奢で小さな身体を丸め、ダドリーの身体にすっぽりと収まっていた。ダドリーは何度もメイベルの背中をさすった。バーノン叔父さんが用意したペットボトルをメイベルに飲ませ、水分だけでも取らせた。真夜中近くに始まった雷のゴロゴロとした音を、小さなメイベルを更に小さくさせた。

 

「メイベル、大丈夫。僕がいるよ、ずっと僕がついているよ」

 

「…嫌、私、怖いの。雷がうんと怖いの」

 

「明日になれば、雷もどこかへ行っているさ。大丈夫、僕がいる」

 

ダドリーは震えるメイベルの身体を宥め、明日の事を考える。考えるが、バーノン叔父さんの事だ、何も考えていないに違いない。ほとほと、困り果てて蟠りが残る頭を振るった。

ふと、外で何かが軋むのを聞いた。また、数分後にはガリガリという奇妙な物音がサイロ小屋を響かせた。…暫く経った頃、ようやくメイベルが眠りにつこうとした時、とびきり大きい音が鳴り響いた。

ドーン

小屋じゅうが震えた。メイベルとダドリーはビクッと身体を震わせ、飛び起きてドアを見つめた。誰か外にいる。誰かがドアをドンドンとノックしている。




ダドリーは優しくて、お兄ちゃん気質な所を全面に書いています。
苦手な方はUターンいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。※1話からコピー

ではまた次のお話で会いましょう♪see you♩♪
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