ドーン
もう一度、誰かがノック、最早体当たりに近い音を鳴らしている。
向こう部屋で、ドンガラガッシャーンっと音がしたと思うと、バーノン叔父さんがライフル銃を片手にすっ飛んでやってきた。あの細長い包みが何だったのか、やっと今わかった。
「誰だ、そこに居るのは!言っておくが、こっちには銃があるぞ!」
叔父さんが叫んだ。
一瞬の空白があった。そして…。
バターン
蝶番をも吹っ飛ぶ程の力でドアは開けられ、扉は轟音を立てて床に落ちていく。
戸口にはとびきり大きい男の人が突っ立っていた。ボウボウと長い髪、モッジャモジャの荒々しい毛むくじゃらの髭に隠れて顔はほぼ見えないが、その隙間から、真っ黒な黄金虫のような目がキラキラと輝いているのが見てとれる。
大男は窮屈そうに小屋へと入ってきた。身を屈めても、髪が天井を擦った。男の人は腰を折り、ドアを拾い上げるといとも簡単に、あっという間に元の枠にバチンと戻した。外の嵐の音が、少し和らいで聞こえた。大男は振り返るとぐるり、皆を見回した。
「お茶でも淹れてはくれんかね。…しかし、まあ、ここまで来るのはちぃと骨だったな」
男の人は大股でソファへ近付き、恐怖で震えているダドリー、メイベルへと言った。
「少し開けてくれや、ガチんちょ。メイベルは俺の隣でもいいがな」
ダドリーは驚きのあまり、必死にメイベルの手を引っ張って、押しつぶされないように隅へと逃げ込んだ。
叔母さんは震えながら、叔父さんの陰に隠れている。
「なんだ、逃げなくてもえぇじゃろう。メイベル。会いたかったぞ」
ダドリーの後ろでガクガクと震えているメイベルは、大男の黄金虫のような目がクシャクシャになって笑いかけているのを見つける。
「最後にお前さんを見た時にゃ、まだほんの赤ん坊だった。あんた、すっかり母さんと瓜二つだで」
と大男は言った。
バーノン叔父さんは奇妙なかすれ声を出した。
「今直ぐ、お引き取り願いたい。家宅侵入罪ですぞ!」
「悪いな、ダーズリー。お前さんはちぃとすっこんでてもらえんか」
と言うや否や、大男はソファの背越しに手を伸ばし、叔父さんの手から銃をひったくると、まるでゴム細工の様に易々と曲げて、天井へ垂直になった銃口から玉が勢い良くバーンと音を鳴らして飛び出した。
天井に穴が空いた後、大男は一結びになった銃を部屋の隅へと放り投げてしまう。
バーノン叔父さんはまたまた、奇妙な声を上げた。
「まぁ、何はともあれだ。メイベル」
大男は叔父さんに背を向けメイベルに話しかけた。
「もうだいぶ遅れちまってすまんが、誕生日おめでとうだったな。お前さんにちぃとあげたいもんがある。……どっかで俺が尻に敷いちまったかもしれんが、まぁ、味は対して変わらんじゃろ」
黒いコートの内ポケットから、ややひしゃげた小箱が出てきた。
メイベルはダドリーの手を離さず、そっと、震える指で箱を開けた。
「わ…これ……」
「もう数ヶ月も前だったが、中々会えんもんで。渡しそびれちまって悪いな」
大男がニコーっと笑う横で、箱の中身を見るメイベル。
中身は大きなとろりと溶けたチョコレート・ケーキで、表面にはピンクの砂糖でコーティングされており、緑色のペンで「誕生日おめでとう、メイベル」と書かれてあった。
メイベルはダドリー越しに大男を見上げた。ありがとうございますとお礼を言う筈だったのに、言葉が途中で迷子になって、代わりに「貴方は誰?」と言ってしまった。
大男はくすくすと笑いながら答えた。
「左様。まだ自己紹介をしとらんかったな。俺はルビウス・ハグリッド。ホグワーツの鍵と領地を守る番人だ」
男の人が巨大な手を差し握手をしようとすると、立ちはだかったのはダドリーである。
「メイベル、後ろに下がって。何されるか、わかんないよ」
「んな、握手をしようとしただけだがな。なんも悪いことやしやせんよ」
そんな、滅相もないと言った表情で顔を横に振る大男。
「…メイベルは腕も細いから、あんたみたいな大男が握手なんかしたら簡単に折れちゃうね」
皮肉混じりにダドリーは言い放つ。
「うぅむ、わかっちょるで。加減はするつもりだっだがな」
暫くダドリーの攻防が続いた。その間、ぎゅううとダドリーの服を掴んで、早くこの時間が過ぎますようにとメイベルは願っていた。
「わかった、わかった。握手はまた今度だ。…いやぁ、まぁ、よかった、メイベルをこんなにも大切にしとってくれて」
「そりゃ、僕のメイベルだもん。誰よりも大事だね」
「そいつぁ、良かった。俺ぁ、メイベルをお前さんちに預けてからずーっと心配しとったからな。元気に過ごしてくれてたようで、安心したさ。最も、今はそんな様子じゃ、ないみたいだがな」
ハグリッドと言う大男はダドリーの後ろで小さくなっているメイベルをチラリと見やり言う。
「で、用はそれだけ?」
「ちゃう、ちゃう。まだあるんだ。……しっかし、お前さんたち、暖炉に火もくべないで寒くないんか?え?わかった。火もつけらんねぇんだな、よっし、待っとれ、今つけてやる」
大男は、チリチリに縮んだポテトチップスの空き袋が転がっているだけの、火の気1つない暖炉に目をやると、フンと鼻を鳴らしながら、暖炉へ傘のようなものを差し向け、その先端から閃光が放たれると、あっという間に暖炉は轟々と燃え広がった。
火は湿ったサイロ小屋をチラチラと揺らめく灯りで満たし、メイベルたちは温かい湯にどっぷりと浸かったように暖かい温もりが体を包むのを感じた。
大男はもう一度、ソファにどっかり座った。
「…で、何だったっけな。…そうだ、ホグワーツについてだ、メイベルはもうホグワーツについて知っとろうな?」
「あの……いいえ、全く。手紙に"H"とは書いてあったけれど…それがそういう意味だったのね」
ハグリッドはショックを受けたような顔をしていた。メイベルは慌てていった。
「ごめんなさい、何にも知らなくて」
「ごめんなさい、だと?」
ハグリッドは吠えるような大声を出すと、ダーズリーたちを見やった。
その形相に、メイベルは余計小さくなって、もう見ていられないくらいであった。
「ごめんなさいは彼らのセリフだ。おまえさんが手紙を受け取ってないのは知っとったが、まさかホグワーツの事も知らんとは、思っても見なかったぞ。なんてこったい!おまえの両親がどこであんなに色々な事を学んだか、不思議に思わなんだのか?え?」
「色々な事…って?」
メイベルが訊ねた。
「色々な事って、だと?」
ハグリッドの雷のような声が響く。
「ちょっと待った!」
ハグリッドは仁王立ちになった。驚きでハグリッドの身体は小屋いっぱいに膨れ上がったかのようだった。ダドリーも負けじと、めいっぱい身体を大きく見せて、後ろ手にいるメイベルを庇ってみせた。
ハグリッドは、バーノン叔父さんに詰め寄って、噛み付くように言った。
「この子が……この事もあろうものが、なんにも知らんと言うのか……全く、なんにも?」
「…それ以上、なんにも言うな!私のメイベルにそれ以上何にも言ってはいかん!」
バーノン叔父さんが命令口調で言った。
「…わかった。正直に聞こう、お前さんがどうしたいか」
ハグリッドは急に冷静さを取り戻してソファへドシンと座り直すと、よく通る声でダドリー越しのメイベルに向き直った。
「お前さん、魔法使いとして、俺と一緒に来る気はないか?」
「…ま、魔法使い……?」
「テレビで見たことないか?お前さんはその魔法使いだ」
「…見たことあるわ。でも、私が?ダドちゃんでは無く?」
メイベルは質問に答えようと、ダドリーの横へと歩み寄り、握った手はそのままで、ダドリーを抱きしめながら言った。
「あぁ、おまえさんただ1人だよ。俺と来れば、沢山の素晴らしい世界がおまえさんを待っているぞ」
黄金虫のような目をキラキラと輝かせながらメイベルにそう言った。
「…私、いかないわ。私、ダドちゃんと離れるつもりは、無いんですもの」
ハグリッドはこれ以上ないショックを受けた顔を前面に出して、目を白黒させながら驚いた。
「い、行かない?!俺ぁてっきり、喜んで来ると思っとったんだが……。入学名簿にもおまえさんの名前が載っとったし、おまえの父さん母さんも魔法使いであったからな」
「…そう…私のお父さんお母さんも魔法使いだったのね。でも私、行かないわ。ダドちゃんが行くなら行くけれど…」
「残念ながら、名簿には"ダドリー"という名前はどこにも載っておらんかったな」
「じゃあ行かないわ。…だって、わたし、普通の学校にダドちゃんと行く約束しているし、普通の生活を送りたいの」
「わ、わかった。じゃ、せめて聞かせてはくれんか?おまえさんの父さん母さんはどうして亡くなったと思うかね?」
「自動車事故だって、叔父さんから聞いていたけれど…」
疲労困憊で声もかすれながらメイベルは答える。
チリチリと燃える暖炉が、メイベルの白い肌をゆらゆらと赤く映した。
「自動車事故?!なんでまた、そんな事でリリーとジェームズが死んだとでも?……そうか、そう教えられとったんじゃな」
「…違うんだね。じゃあ、魔法に失敗して死んじゃった?」
「いや、実の所は違うんだ、けど、もう、えぇじゃろ。これ以上話して混乱させてもいけねぇだ」
「…わかった。用はもう、いいの?」
メイベルは開いてあるケーキの小箱をそっと閉じると、部屋の隅に置き、ハグリッドへ訊ねる。
「あぁ、もう済んださ。こりゃ、ダンブルドア先生に急いでお伝えせんといかんな、じゃ、もう行こう。これ以上いても仕方がない。おまえさんから行きたくないっちゅーオーラが、かつてないほどムンムンとして俺にもよーく伝わってきたい」
「もう、手紙、送ってこないでくれる?叔父さん、あれのせいでおかしくなっちゃったみたいなの」
モジモジと恥ずかしそうに、なんども瞬きをしながらメイベルは聞いた。
「分かっちょる、分かっちょる。俺から伝えておくから、もう手紙は送られてこねぇはずだ」
もじゃもじゃの髭を擦りながら、ハグリッドはニカッと笑って答える。そして、沈みこみすぎてペシャンコになったソファから、よいせっと立ち上がるとドアの前に立った。
「うんにゃ、それじゃあ、手紙は送らないように言っておくがな、しかし、まだ、諦めてはいねぇ。いつだっておまえさんを待っちょるからな」
そう言うやいなや、ハグリッドはドアを開けると、大嵐の中外へと向かい、ダーズリー一家がゴクリと喉を鳴らし瞬きを1回、した時にはもう姿は消えていた。
ダドリーは優しくて、お兄ちゃん気質な所を全面に書いています。
苦手な方はUターンいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。※1話からコピー
ではまた次のお話で会いましょう♪see you♩♪