ほんとにライオンV   作:bver

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ほんとにx1 獅子

「ライオンだ・・・」

 

会議室の一角に備え付けられたキャットタワー(大自然)を見つめて、一人の少女が思わずといった様子で言葉を漏らした。

衝撃に口をぱかりと開けて、一歩二歩と歩み寄る顔からは恐怖は見えない。

最初は純粋な驚きと、徐々に燃え上がるような高揚が表れて、駆け出さんばかりに寄ろうとする。

その勢いから、若干ばかり身を引いて見せたのは一頭のライオンの方だった。

 

「・・・はっ!」

 

引かれたことに気付いて立ち止まり、けれど熱視線は止まらない。

気後れした様子もありながら、丁寧に上から下まで何度も見直す目からは敬意と憧憬が半々で見えた。

しなやかな毛並みは黒く艶やかで、動きに合わせて夜の草原にも似た静かな揺らめきが流れている。

そんな黒獅子の高貴さがあふれる佇まいに欄と光る、黄月の瞳に見返されて、さっと跪いた少女から感嘆と分かる長い溜め息が聞こえた。

そのまま黙って頭を下げて動かなくなった彼女に向けて、黒獅子は唸るように口を開いた。

 

「普通に話さないか?」

「畏れ多いことです」

「・・・いや、この姿でも同僚になるのだから。そこまでかしこまられても困るのだが」

「精一杯の敬意を示したいのです。貴方様は何も気にされることはありません」

 

そんな会話を続ける間も一切顔を上げない様子に、どうしたものかと悩むように顎を上げる黒獅子。

ちらりと盗み見たその仕草に幸せそうに笑みを湛える少女。

 

とりあえず、と顔だけでも上げてもらい、「本当にライオンでした」という事情を説明されている間も、にこにこと跪いた姿勢は変えないままだ。

質問に良い返事でハキハキと答え、満足げな敬語で丁寧に接してくる。

黒獅子からすれば好感は持てるけれども、何とも収まりの悪い落ち着かなさを感じてしまう。

 

「今まで通り接してくれると嬉しい。これからもよろしく」

「はい。仰せのままに」

「いや、一言増えていないか?」

 

今まで通りと言っただろう、と黒獅子が詰めてみても、のらりくらりと止める気が無いようだ。

普段の言動から幾らかこうなるかもしれないという懸念はあったが、予想以上にその意思の固さが見える。

雑談に移ってもそのままな態度に埒が明かないと悟ったのか、低木から降りた黒獅子がゆったりと近寄って前足を差し出す。

 

「少し慣れてもらうしかないか」

 

そう言って、推しの接近に静かに昂っていた少女の手を前足の甲で撫でた。

 

――えひぃあ!

 

一拍置いて飛び退いて離れようとする少女に付かず離れず、あっという間に壁際に追い詰めた黒獅子は、へたり込んだ膝に背中を預けるようにして寝転がった。

大きなあくびと共に、豪華な鬣がざわざわと揺れる。

 

「だめです!そんな、御体に触れるなんて、その・・・そんなこと」

「気にすることは無い。膝を付かれて目が合わないことより、こうして並んでもらえる程度に慣れてもらった方がやりやすい」

「でも近すぎちゃって!心の準備が・・・ど、どうしよう!」

「好きにしていいさ」

「はっ!いけません、御髪が!御髪が!」

 

遠慮して震える手に押し付けるように、獅子が顔を寄せる。

ぶわりと埋もれた指の間から溢れる優しい手触りに感動し、思わずその黒毛を梳いてしまう。

芯に強さがありながらも以外に指通り良く、暖かな柔らかさに手が包まれて心地よい。

何度も繰り返すうちに、自然と反対の手は優美な濃淡が息づく背中を撫でていた。

ゆっくりと上下するビロードに労わるように触れていると、その身に宿る驚くほど大きな熱と鼓動が、掌から伝わってくるようだった。

 

「・・・すごい」

 

熱に当てられたように夢中で撫でることしばらく、興奮は冷めないが落ち着きは取り戻した呟きを聞いて、ようやくと言ったように椅子に促す。

どうやら一国の王に対するような過剰な敬語は抜けてくれたようだ。

会議室からつながる庭に出て、自然から切り出したような椅子(岩)に腰かけて、太い枝に寝そべる獅子と次のコラボについて会話する。

時折自分が着ている園のスタッフの作業着と、辺りの景色と目の前の獅子を見比べて、何かを確かめるような素振りを見せつつも。

夢が叶ったかのように楽しそうに、これからのことを話す少女がそこにいた。

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