ほんとにライオンV   作:bver

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ほんとにx2 熊

「熊なのだ」

 

ある意味お決まりの挨拶で正午の定期配信が始まる。

「巣穴3D」を使ってリボンの付いた片手をあげて、少しぶれながらも手を振る様子が視聴者にも伝わったようだ。

すぐに「かわいい」「こんくま」「笹」「先輩の挨拶を取るな」「いやレッサーパンダでしょ」と言った微妙に統一感のないコメントが流れてくる。

 

「最近暑くて食欲が出ないね。んぐ。リンゴとか、もっと増やしてほしい」

 

そう言ってうんざりした顔の後ろには、ツリーハウスの中のような背景が見えている。

「自慢の巣穴を再現したものだ」とのことで、小さな家具や大きく取られた採光窓がちょうどよく配置されていた。

技術の粋を集めた3D技術で光に照らされた3色の長毛がふわりと揺れ、髭がつやつやと張りを見せて、褐色の目もきらきらと輝く。

そのまま近況を少し話し、ところどころ詰まりながら会話を続ける。

 

「えー、んむ。今日は予告しておいた通りオフコラボです。待ちきれないというか、んぐあ、そろそろ鬱陶しいので早く呼んでしまいましょう。じい」

 

ゆらゆらと揺れていた頭がすんっと収まると同時に、小さな立ち姿の後ろに作業着を着た飼育スタッフが表れた。

 

「おはようございます。スタッフZなのだ。今シシマ先輩を撫でまわしています」

「しゃべりづらいんじゃ。んん。紹介されるまでは待たんかい」

「無理です。かわいい」

「即答はやめて」

 

同じく巣穴3Dを使用しているおかげで、満面の笑顔を浮かべて撫でまわす様が良く伝わる。

さわさわ、かりかりと手が動くたびに、手元のレッサーパンダの耳が反応し、若干邪魔そうに貌がゆがむ。

そんな自分の様子を見て盛り上がるコメント欄を見ながら、それでも話を続けていたが、しばらくしても止みそうに無いと察したのか顎の下に来ていた手を弾いて少し横に移動してしまった。

残念そうな声を出す彼女に白けた目を向けてから、途切れてしまっていた話を続ける。

 

「一応オフでは初対面でしょうが。もうちょっと遠慮はないのか」

「かわいいですから」

「ずっとこの調子なんだ。じい。いい加減にしてほしいよね。撫でられるのは慣れてるけど、顔合わせた瞬間からずっと抱えられてたらさすがにうんざりするって」

「幸せが溢れてくるのです。さらりふわりとした手触りの中に張りのある柔耳の感触が飽きを来させず、態度は冷たいけれど、そのままにさせてくれる先輩の暖かさを感じるとつい甘えたくなってしまいます」

「食レポみたいに評価しないでほしいな」

 

ごろごろと不機嫌そうな音が喉から鳴る。

不満げに腕組みした立ち姿でふるんと丸い尻尾が揺れると、それを追うように彼女の目が泳いだ。

 

「ダメだからね」

 

優秀な3Dが、さらに一歩離れたことをはっきり伝えた。

シシマが睨む先からもコメント欄からもブーイングが飛ぶ。

 

「尻尾の感触だけは分からないんですよね。後ろから撫でてるときに時々お腹に当たるんですけど、すぐに離れてしまいますし」

「たぶん一生分からないから諦めなよ」

「殺生な!見ただけでも先輩の丁寧なお手入れが伝わる艶々縞々の毛並みに、柔らかさが目に見えるようなあの動きですよ?一度で良いから味わせて下さい!先っちょだけ、先っちょだけでいいですから」

「食レポ止めろって!近寄るな!」

 

有名な威嚇のポーズで怒る先輩。

実際に見るその姿の愛らしさに真顔で固まってしまうスタッフZと、逆に大盛り上がりで加速するコメント欄。

微動だにしない姿にビビッて画面端まで引いてしまう姿に謝り倒して何とか真ん中まで戻ってもらった後、呆れたようなため息交じりに問いかけられた。

 

「そんな調子だと、その内誰かに共演NG出されるんじゃないかな。ルオ先輩と会った時もそんな感じだったの?」

「まさか。ルオ様に不敬なことは出来ませんよ」

 

冗談でもイラっとすることを言われて嫌味でも返そうかと思ったシシマだったが、彼女の目がマジだったので止めておいた。

昔から狂信者一歩手前の様子だったが、先日オフで会ったことでさらに磨きがかかっているようだ。

口調には現れていないが、祈るように抑えるように胸元で握りしめられた両手と、揺るぎない熱が宿った瞳から察せられた。

極端な奴だなあ、と思いながらも苦笑する。

 

「大方敬いすぎて先輩に引かれたんでしょう?」

「うっ・・・」

「様付けも未だに止めてないし、コラボの時は割り切った感じでもはや完璧な主従関係になってたけど」

「光栄です」

「褒めてないよ。でもそんな調子で ”全員に撫でさせてもらう” なんて夢が達成できるの?」

「・・・」

「え?」

 

問いかけた瞬間に、思わずと言ったように幸せそうな笑みを浮かべて、照れたように黙ってしまった。

そのまま何かを思い出すようにふらふらと彷徨う手を見てしまっては、さすがに小さな先輩でも察せられた。

 

「触らせてもらえたんだ。ルオ先輩に」

「・・・」

「良かったねえ」

「・・・はい」

 

配信画面を見ても、祝福のコメントが大量に流れていた。

動物たちに比べていささか劣るスタッフZの巣穴3Dだが、それでもその声音も併せて幸せそうな様子が伝わったのだろう。

色とりどりに祝福されながら、少しの間ニコニコと両者が見つめ合っていた。

 

「でも、そんな調子でよくルオ先輩に触れたね。どうやって勇気出したの?」

「いえ、その・・・」

「ん?」

 

「・・・か、壁ドン、されまして」

 

――珍しく、シシマとコメントが同調した。

そして肝心な所をぼかされながらも詳細を聞き出した結果、今日の自分への遠慮の無さと比較して「ヘタレじい」という称号を授けられ、必死で言い訳する姿が配信の最後まで続いた。

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