三匹の蛇   作:休肝婆

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 リチャードがラクランを送ってきて、礼のチップを弾む。ラクランはトランクを下ろしているところだった。
「ラッキー、なんだか沈んでましたよ。話てくれなかったけど、怒らず聞いてみて」
 耳打ちされて、しぶしぶ頷く。
 霧が立ち込め、雷の音が近づいてきた。どこかで、雷鳥が鳴いていた。

「ただいま。それに、トランクを運んでくれてありがとう」
 荷物が片付いてから、ラズベリーソーダを出した。いつもなら飛びつくラクランは、伏目で凍ったラズベリーをスプーンで突っついている。
「何か、話したいことが?」
「......うん。謝らなきゃいけないことがある」
 たっぷり間をあけて、ラクランは立ち上がり、部屋から小さな本を持ってきた。アイビーの聖書だ。

「ごめんなさい。おれの不注意で、母さんの聖書に挟まってた木の葉っぱの栞たち、バラバラになっちゃった。友達が集めてくれたけど......」
 テーブルの上に差し出されたのをめくる。本自体は傷んでいない。でも、娘が挟んでいた、ピンと伸びた葉は、背表紙のほうにまとめられていた。
 喪失感もあるにはあったが、自分がそのうち消えてなくなることが見えてくると、こういう儚いものがなくなるのに、理不尽は感じなくなるものだ。アランは乱雑にラクランの頭を撫でた。
「そうか。形あるものは、いつかは崩れるものだ」
「でも、母さんの考えが少しでもわかる、最後のものだった」
 下唇を噛んで俯くラクランは若い。これから大人になって、きっと長く生きるだろう。だから、この儚いものを惜しむのだ。ラクランの感じる痛みや喪失を、もはやアランは同じに感じられなくなっていた。

「惜しむなら、魔法でなんとかならんのか?」
 ふと、好奇心が湧いて、尋ねる。
「直す魔法はあるよ、レパロっていう呪文。でもおれはページのしみやカバーの傷はそのままに、元通りにしおりを挟み直せない。ピカピカの新品みたいになっちゃうんだ。逆詰めっていうのもあるけど、あれは詰めるという動作をしたものに詰め物が戻るっていう魔法だし......」
「ほう?」
「ものだけ直しても意味が違うと思うんだ。母さんが何か思いながら挟んだ葉っぱの意味は、物だけ直したって戻らない。魔法は物の形を取り繕ったり、複製したりできるけど、人の気持ちは蘇らない」
 ラクランは、革のカバーに刻まれたシミや小さな引っ掻き傷一つ一つを、大切そうに指先で撫でた。




1976年〜1977年
三匹の蛇 12


チコチと音を響かせる時計にちらりと目をやって、アランは重々しく言った。

「リチャードがもうつくぞ」

「うん゛...ケホッ、もう例の昆布は瓶に詰め終わったよ」

 声変わりのために掠れる声でラクランが答える。

「そうじゃない、その蠢く新聞を隠せと言ったんだ」

「え、ああ」

 写真一つ一つがテレビのように動くことはもちろん、文字が組み変わったり流れたりする、いかにも魔法使いのそれらしい日刊予言者新聞は、確かにリチャードの目に入れちゃまずい。ラクランはアランに言われた通り胸元へ引き寄せたが、目で文字を追うのはやめられなかった。

「ラクラン!」

「あ!」

 ぐしゃり、と奪われた新聞の背面には、また"クラウチ"の文字が踊っていた。

 

 

 の夏は手紙をやり取りしないことにしよう。  

 帰りの汽車の中で、少し硬い顔で言い始めたのはエバンだった。この季節には珍しいどんよりとした暗い空が車窓を流れていく。レギュラスがコンパートメントのドアを確認してから、腰かけ直した。

「最近、新聞によく出る闇の帝王の一派があるだろう。彼らはかなり急進的な純血主義でね――実力が伴わなければ急進的思想は妄言に終わるのだけど、彼らは魔法にも秀でている」

「ああ、並の魔法使いじゃ扱えないと言われている呪文をいくつも使ってる。叔父上が見ても確かだと。間違いなく、あの方は偉大な魔法使いだ」

 歌うように熱っぽく語るエバンは、この一年ですっかり闇の魔術の虜になった。複雑で難しいけれど、うまくいけば強力な闇の魔術に才能を発揮し、すっかりハマっているらしかった。

「でも、人を攻撃している犯罪者なんでしょ?そんな人を王としてあおぐの?」

「悲惨な魔法事故は闇の帝王の影響だけじゃない......バーティの父上の部署の功罪でもある」

「ミスター・クラウチの?」

「君はもう少し新聞を読んだ方がいいな。フクロウを貸すから、購読しないか?ガリオン金貨はある?」

 ラクランはクィディッチに没頭しすぎた反省もあって、肩をすくめてポケットから小銭を引っ張り出しつつ、ずっとだんまりのバーティを恐る恐る見たが、彼は目を上げることすらしなかった。

 

「バーティのお父上だけの功罪ではないよ、もちろん。ミスター・クラウチは魔法法執行部だ。闇の魔術に秀でた闇の帝王の台頭に対しての判断を迫られ...闇祓いにも許されざる呪文の対人使用を許可した」

「それって」

「お互い疑心暗鬼になって、杖付き合わせてそこらじゅうで決闘が起きてる。だが闇払いの魔法は普通の防衛術やチャームの類、あの方が使うのは偉大な魔法だ!」

「でも、人を傷つけている」

「攻撃の対象は血を裏切る愚か者どもだろう?血縁に後ろ暗いことがなければ、なんの心配もない」

「お忘れかもしれないけど、おれは違う」

「忘れてないとも。だからお前と交流があると俺も杖を向けられるかもしれないって言ってるんだ」

「エバン、そういう言い方は」

 目にわざとらしく怯えの色を乗せたエバンを、レギュラスが諌める。

「いいんだレギュラス。でもエバン、聞いてくれ。おれも今更マグルとして生きるのは退屈すぎると思ってるし、みんなと関わって、純血の魔法族が繋げてきた歴史の大事さも少しはわかってるつもりだ。そういう考え方なら、きっとマグル生まれでも...」

 

「ダメだ!」

 エバンが叫んだ。

 本を読んでいたバーティが弾かれたように顔をあげるのが見えたし、レギュラスも立ち上がったけれど、ラクランは息もできなかった。

「お前はマグル育ちだけど、穢れた血じゃないはずだ!マグル生まれはダメだ!」

 穢れた血。その言葉がエバンから出てきたことに、身をすくませながら声を絞り出す。

「そんなのわからない!おれは父さんを知らないんだから」

「でも、でも、お前がマグル生まれならその成績はどうやって説明する?」

 背を丸めて瞳を揺らしながら、エバンが問う。なんだか、どっちがすがっているのかわからなくなってきた。

「おれはバーティに助けてもらったし、かなり頑張ったよ。バーティだって入学前から頑張っていたというし、その成果でしかない。それに、正真正銘のマグル生まれにも優秀な魔法使いはいる。血筋と能力はそれほど関係ない......君も、そう思ってくれていると思っていたけど?」

 エバンは今にも泣きそうどころか、ガシャンと大事な宝石か何かが落ちて、散らばってしまったような感じだった。

「そんなの、どうやって証明する?優秀なマグル生まれは、魔法使いの家の子供から、魔力を奪って生まれてくるから優秀なんだって、父上は言っていた!」

「そんな、」

 言葉一つ一つで喉を切られているみたいに、エバンは言葉を区切って話した。そっとエバンの手を取ろうとしたが、振り払われる。エバンの声は押し寄せる波のようにラクランを圧倒した。

「ラクラン、エバン落ち着け。あまり大きな声で騒ぐのも良くない。バーティ、君もだ」

 すっかり声変わりしたレギュラスの、重々しい声は初めてだった。それでようやく、耳にガタガタと列車が揺れる音が戻ってきた。

 目を逸らしたさきで、ついに車窓に雨粒が走りだし、横向きに鋭く流れていった。

 

 

 しくもらったお小遣いの入ったポケットを叩いて、ラクランは精一杯明るく言った。

「やあ、久しぶり」

「......ああ」

「教科書はもう買った?君のことだから、予習も済ませていそうだね。アイスクリームパーラーにでも行かないか?」

 エバンにもレギュラスにも手紙を送るわけには行かなかったから、もっぱら文通相手はバーティで、日刊予言者新聞のフクロウを使って4回ほどだしたけれど、返ってきたのは漏れ鍋に滞在するから君もどうだ、と母が言っているという一通だけだった。

 休み前の喧嘩のせいで、ずっとどうにもやりにくいけど、手紙で謝っておわる話でもないのはわかっていた。

 ラクランがもう少し感情的な子供なら、バーティの友情を素直に受け取れたかもしれないけれど、そうしないラクランだから、気難しいバーティと友達をやっている。バーティもまた、人に言われて納得したり、信じ込んだりしないで、自分で考えて動く人だから、クラウチ家でそだってもマグルの田舎者なラクランとも友達になれたんだろうと思うから。

 

 夏なのに青い顔のバーティを引っ張って歩くダイアゴン横丁は、一本通りを間違えたか心配になるくらい静かだ。店主の笑顔にいつもの力強さはなかったけれど、フローリアン・フォーテスキューのレモンシャーベットは変わらない爽やかな美味しさだった。

 ミスター・クラウチについては、新聞をきちんと読むようになれば、その激しさもすぐに理解できるくらいにはホットなニュースだった。過激さを増す闇の一派に、最も現場に近いところで権力を握るミスター・クラウチもまた燃え上がり、どんどん苛烈になっているようだった。

「僕は、ロジエール達と研究を続ける」

 騒がしい手配書を避けて縁石に腰掛けたラクランの隣で、バーティは立ったままシャーベットつついてポツリと言った。

 試されていると直感したラクランも手を止めずに、味のしない氷を頬張る。

 寮の中で家族が逮捕される人が出てくるから?お父さんとの関係は大丈夫なの?12フクロウはどうする?気になったけど、バーティがこれらに踏み込んで欲しいとは思えない。

「そっか。おれは闇の魔術のセンスがないようだけど、フクロウに向けた演習問題の横流しは任せろ」

「......たまにアソル・ブローズも作って欲しい。あれは君が作るのが一番うまいから」

 

 

 

 厳で厳かな雰囲気のスリザリン談話室がラクランは好きだが、かつてこれほど建物と中身の雰囲気が調和していたことはなかっただろう。

 マルシベールは寮内では堂々と腕をまくって闇の印を見せびらかしていたし、色めき立っていた女子達も護身用のネックレス集めに執心し、男子達はこぞって本を持ち寄ってあれこれと呪文の練習をしていた。

「おいラッキー、お前もビーターならインペリオくらいやったらどうだ?相手ビーターを操って同士討ちさせるんだ」

「とんでもない、バレたらおれはアズカバンだ」

「"誤って"なら問題ない。だよなバーティ?それとも俺がグラウンドの真ん中に悪霊の火を放ってやろうか?」

 マルシベールが悪い顔でちょっかいをかけてくるが、悪霊の火、が分からない。かわりに、エバンが食いついた。

「もう制御できるの!?」

「小さいやつをな。文献通り火が熾るようにデカくなるから、すぐアグアメンティじゃ消せなくなった」

「消火はともかく、燃やす方向の制御は?」

 

「マルシベール、後輩たちに嘘を吹き込まないでください。エバン、クィディッチの試合中なら直前呪文であっという間に暴かれるぞ。それに、悪霊の火のそういった状態はコントロールできてないということだ。不安定な魔法に頼らずとも、スリザリンチームは勝ってみせる」

 落ち着き払って言いくるめるレギュラスは今学期、シーカー兼キャプテンだ。ブラック家は長男があれとはいえ盤石な家系だから、発言力もいや増した。今だって、談話室の片隅のやり取りのためにあたりが静まり返っている。

「レギュラスは闇の魔術を練習しないのかよ」

 エイブリーがからかい半分に言えば、レギュラスの眉が跳ね上がった。

「お望みなら磔の呪いをかけて差し上げる。無闇に力を誇示するのは賛成できません」

「こっちにはバーティがいるんだ!心配なんてあるものか!」

「クラウチ・シニアは確かに有力者ですが、魔法省は彼だけではないことはご存じですね?交渉材料をくれてやる必要は一体どこに?......ラクラン、さっそく仕事を頼みたい」

「仕事?おれにできることなら」

 

 一番若くて飛ぶのが早い、バーナードを借りて手紙を飛ばし、奇跡的にかびを防げていたじいちゃんのドレスローブを送ってもらって、届いたのが昨日。スプーキーはじめ屋敷しもべ妖精たちにはずいぶん頑張ってもらったから、今度なにかお菓子をあげなきゃ。

 ピカピカに磨き上げた革靴を鳴らして歩く。恰幅は足りないけど、身長がだいぶ伸びたからそれなりにサマになっているはずだ。

「オー!ラクラン!やっと来てくれたね」

 仕事というのはなんのことはない、スラグ・クラブのパーティに参加することだった。

 すでに赤らんだ顔のスラグホーン先生はすっかりご機嫌で、ラクランのえら昆布研究がどんなに順調か、箒の腕前が素晴らしいかなどをごきげんに語ってくれた。

「ときに、君のお祖父さんはお元気かな?」

「寮監の先生ならご存知でしょう、元気です。こんどスモークサーモンを送ってもらいますね」

「あれはとても美味しかった!魚や羊をよく食べて育ったなら君の強肩にも納得だ。ルード・バグマンも――イングランド代表のビーターだけれど、クラブメンバーだったんだ――学生時代はまさしく君のようだった!」

 背中を叩いてくるスラグホーン先生は暑苦しい。こうなると長そうだけれど、目を動かさずにざっと辺りに気を配っても気を回して助けてくれそうなボーイはいなかった。

 

「おや、お邪魔でしたか?」

 おどけたテノールがひびいて、それからひんやりとした空気が隣へやってきた。レギュラスだ。

 ちらりと視線をやって、ラクランは思わず大きな声を出した。

「レギュラス!ワーオ、かっこいい!」

 おしゃれな遅刻ってやつで、少しも慌てた風でなく、きっかり10分遅れてやってきたレギュラスは決まっていた。

 クリーチャーのふんすという鼻息が聞こえそうなピシリとした仕上がりの黒に近い濃い緑色のスリーピースに、艶やかに整えられた髪は緩くカーブしている。靴も美しくしっとり輝いていた。どこのミンクオイルを使っているんだろう?

「ああミスター・ブラック、こんばんは」

「ご歓談中失礼しました。スラグホーン先生、本日もこのような会にお招きいただき光栄です」

 ラクランが演劇をしているような心地でギクシャク話した定型文も、レギュラスにかかればするすると呼吸するように紡がれる。レギュラスが話せば、ラクランの方は見向きもしなかった人たちが、それこそ上級生も、ボーイも、みーんな声量を落として注目した。

 なんだか別世界の人を見ているような心地になって、自然とラクランは後ずさっていた。耳に、尊大な低い声が入ってくる。

「いやあ、すっかり様になっている。シリウス・ブラックがグリフィンドールになった時は正直どうしたものかと思ったが...もうブラックでなくなるんだっけ?」

「そうなるって話だ。夏休み中も帰らなかったんだろう」

 噂話なくせいやに堂々と、見慣れぬ背の高い上級生たちがしゃべっているのが聞こえた。

 

 洗濯の終わった制服達をアクシオしたラクランは、見事にいい匂いの布達に埋もれた。

「制服全部を一気に喚ぶからだ。アクシオ、シャツよ!」

 ベッドの上で怠惰に唱えたバーテミウスの方へ、シャツがスイーっと飛んでいく。

「チッ、君のだ」

「ハハ、着せ替え呪文じゃなくて良かったな。でもおれが君のを着ればもう一回洗濯小屋に出す羽目になっただろうが、君がおれのを着てもなんの問題もないぞ?」

「袖が余るだろ」

 首元の刺繍を見て舌打ちしたバーテミウスがつっかえしてきたのが面白くて揶揄えば、パンパンに育った肩の筋肉を揶揄される。これがスリザリンチームの勝利を支えているのだ。ラクランは見せびらかすように肩をすくめてみせた。

 

「アクシオは順調なようで安心したぜ。ところで、哺乳類を無機物に変えるのはできるようになったのか?」

 またラクランのベッドでゴロついているエバンがちゃちゃを入れてきた。レギュラスは朝の忙しい時お邪魔するのもね、と気遣ってくれるのに、エバンときたら朝から部屋へ来てひとしきり愚痴を言うのだ。

「小さいやつはね!あ、そうそう、来年の難関だっていうエバネスコもちょっとできたんだよ」

「へえ、いいね!都合の悪いもん、今度消してくれよ」

「ロジエール、うるさい。どうやって?」

「非存在に、つまり全てに変身させるっていう記述がなんかすごくわかりやすかったんだ。マグルの学問で原子論というのがあって。今は素粒子論に引き継がれているんだけど」

「おいおい、それ、外では話すなよ」

「あ......ごめん、つい」

 つい熱が入りすぎたラクランに、エバンがブレーキをかけた。幸いラクランと同じくテーブルに向かって身を乗り出していたバーティは、怪訝な顔をしただけだった。

「それで?君はどういう式を使って分解をさせたんだ?」

「ああ、うん」

 ラクランは生返事しながら、口の端が上がりそうになるのを堪えた。

 

 朝の勉強会を終えて、談話室を通る途中、インカーセラス!と楽しげな声が聞こえてきた。まったく、まただ。

 ラクランはぐるりと目を回して自分の足が絡みとられるか否かのところで、杖を向けて唱える。

「レラシオ!」

「なんだよラッキー、打ち返してこい!」

「廊下での魔法は禁止でしょ?」

「ここは談話室だ。ほら、イン―」

「インペディメンタ!マルシベールもまだまだだな。ラクラン、とっとと行けよ」

「あ、ああ」

 エバンに言われるまま、廊下へ出て、足早に歩く。どくどくと、心臓が嫌な音で鳴った。

 今エバンが妨害呪文で遮ってくれなかったら、マルシベールは、何の呪文をおれにかけていた?

 

「―クラン、ラクラン!」

 肩をバシバシ強く叩かれて、足の下に地面の感触が戻ってきた。目の前にはぐちゃぐちゃになったバナナ入りのポリッジ。

「練習をサボるつもりか?」

「.......バーティ」

「まったく、なんで談話室で待っててくれなかったんだ。寝ぼけているのか?」

 時計を確認して、あわてて掻っ込むラクランの横で、優雅に紅茶を飲むバーティは訝しげだ。

「悪かったね、ちょっとマルシベールに服従させられそうになって」

「ぶっ!今なんて言った!?」

 狙いすまして言えば、見事に紅茶を吹いたバーティが慌てて取り繕う。ラクランはフンと鼻で笑ってやった。

「言ったろ、マルシベールに談話室で服従呪文をかけられるとこだった」

「どうなった?」

「エバンが妨害呪文を。助かったよ、蛙チョコレート買わなきゃ」

 ヒソヒソとやりとりすれば、バーティの眉間には深々と皺が刻まれていく。冗談めかしても皺はちっともなくならなかった。

「蛙チョコなんて今のあいつには必要ない」

「美味しいものはいくつになっても美味しいさ」

「まあ確かに。それを言うなら人間も同じだ、生まれ育ちはいつまでも付き纏う。いい加減、君も潮時じゃないか?むしろクィディッチのおかげで、猶予があったくらいだ」

 

 潮時というのはつまるところ、闇の魔術を勉強しろ、ということだ。ホグワーツの授業では最も危険なのが変身術というくらいで、防衛術の授業でテキストを読むことはあっても、闇の魔術の実践はやらせてもらえない。せいぜいがインカーセラスくらいだ。

 禁書扱いになっている本も多いから、闇の魔術を学んだ闇の魔法使いはそうした古い書籍がたくさんある家や、そこの縁者から出やすい。マグル生まれや"血を裏切るもの"として家から排斥された人は、そもそも学ぶチャンスもほとんど与えられない、考えてみれば当たり前のことだ。

 そして、レギュラスやエバン、バーティと仲良くしている以上、ラクランはスリザリン寮内で、今や"闇の魔術を学んでいるはずの人"に括られていた。それは夏休み明けからほとんど話すことのなくなったイザベラからもわかるし、下級生達の顔をみても明らかだった。

 マルシベールだってそうだ。なぜラクランを狙い撃ちしてくるかって、ラクランの勉強が遅れてると思ってのことなのだろう。実際、彼とスネイプはとても優秀だから。

 

「おれは闇の魔術それ自体が悪いものじゃないことを知ってる。でも、これを使って人を傷つける、過激な考え方は支持できない。ただ、君たちの友人として、君たちが頑張ってることをおれも手伝いたいから、やるんだ」

「理屈をごねてないでやってみろってば」

 きっとスパルタだろうな、と思っていたバーティは思いの外ラクランの理屈っぽい理解に合わせて教えてくれたし、レギュラスは参考になる文献の箇所をあっという間に見つけてみせてくれたけど、エバンが一番スパルタだった。

 けれどラクランはいい先生が三人ついても、とくに強力な闇の魔術はからきしダメで、むしろ防衛術のほうが得意だった。

 

 

 

 を煮やしたエバンによって、実践練習がセッティングされた。ラクランとバーティの寝室のベッドを縮小呪文で小さくして、テーブルの上には一つの鳥籠。

「さ、まずは錯乱呪文だ」

 その中で上手に囀る鳥に、言われた通り、でもできるかぎりそっと錯乱呪文をかける。

 コンファンド(錯乱呪文)は閃光も音もないが、杖先の鳥はピタリと鳴くのをやめ、ぼうっとした目でゆっくりと瞬きした。鳥はしばし首をゆらゆらと揺らして、鳴き方を忘れてしまったようにおかしなケッケ、シューという音を出した。可哀想で、目を逸らそうとするけれど、横からエバンに顎を引っ掴まれる。

 大人しくじっと見ていれば、鳥の瞳に先ほどまでと同じ光が戻ってきて、また美しい囀りを始めた。

「もっと長いこと混乱させなきゃダメだ。できれば、そのまま歌を忘れるくらい」

「そんなの可哀想だ」

「そうか?――――じゃあ、これはどうだ?

インペリオ」

 フイ、と軽く杖を振ってなんでもないようにエバンは呪文をかけた。鳥はとまり木に止まったまま、けれど小さく羽を広げるのも、首を動かすのもやめて、嘴は半開きで固まっている。

「俺だってもう鳥にかけられるぞ、マルシベールは人間にも!歌どころか呼吸だって忘れさせられる」

「やめろ!」

 鳥は少しも苦しそうじゃなく、なにも動かなかったけれど、ラクランはほとんど衝動で、エバンに突進した。肩がしっかり鳩尾に入って、エバンが吹っ飛ぶ。突っ込んだ時に杖が外れて、鳥は無事に自由になった。ポトリと落ちてから、鳥籠の底で震えている。そうとう苦しかったようで、もう囀らなかった。

 

「いってえ、やったな!」

「ペトリフィカス・トタルス!」

 石化呪文をかければ、エバンはガチンと直立して、真っ直ぐのまますっ転んだ。さっきのは本当に、インペリオだったんだ。

「フィニート・インカンターテム ペトリフィカス・トタルスはなかなかの腕じゃないか。これもれっきとした闇の魔術だが」

 レギュラスが取りなすように、間に割って入ってきた。

「インカーセラスとそれだけで渡り合えるかよ、戦争になったら一番に死ぬのはこいつだ。これができるならもっと強力な呪文もこなせるはずだ。このままじゃラクランは、いつか操られて犯人に仕立て上げられる」

「なら、おれにインペリオをかけてみてくれよ、鳥よりおれのほうが、死にそうになった場合君たちもわかるだろ。君の練習にもなる」

 動物にかけられると言っていたから、本当に練習台になるつもりで手を挙げた。からきしダメでも、手伝いはできると思って。振り向いたエバンは、眉間こそ寄せないけど、嘲笑さえストンと消えて、あきらかに怒った顔をしていた。

「へえ、服従の呪文に抗うだって?いいぜそれじゃ、インペリオ!」

 やっぱりナシ!なんて言うまもなく呪文が浴びせられた。かけられてすぐ、人間にはまだかけられないなんてエバンの嘘だったんだとわかった。

 

 魂というものがあるなら、それが突然、なにかの器に閉じ込められてしまったみたいだ。体から、もちろん自分の脳からもバタンと締め出されて、自分の考えや動きを操作できなくなった。

 とりあえずがむしゃらに暴れてみても、キッチリ閉じられた箱は石のように硬くて冷たい。逆に自分はバラバラで、壁を一押しするたびいろんな方向に破片が飛び散った。きっと冷たいだとか、怖いだとか、そういういろんな感情だ。でも一番大きいのはたった一つで、だからそこに向かって何度でもバラバラになった破片を集めた。

 とにかく悲しいんだ。エバンに呪文をかけられたことが。心配をかけたことが。自分があんまりにも弱くて、無力なままなことが。

 

「跪け」

 エバンの冷たいがいやに耳心地のいい声がした。いやだ、もうやめたいと思っても、そんなのお構いなしに、体は滑らかに動く。一歩、足が前に出た。言われた通りに体を動かすのが、当たり前というくらい、しっくりきた。とても楽だった。

 でもその瞬間、杖をかまえるエバンの目が、すうっと冷たく細められたのが見えた。

 わかるよ、失望するよな。おれも自分に失望してる。何にもできないってことは、本当にエバンの言う通り、おれはみんなを危険に晒すってことだ。

 いやだ、止まれ、止まってくれ...!

 箱の中でかぶりをふっても、ふんばっても、体はうんともすんとも、びくともしない。

「跪け!」

 いやだ!!絶対にやらない。絶対に!みんなを、守っ――

「エクス――......」

 

 ドタン、とラクランは倒れた。

 夢でずっと階段を落ちて、やっと着地したような格好で、なすすべなく床に叩きつけられる。

 今度は足の裏じゃなくて、頬にカーペットの感触があった。ああ、バーナードの羽が落ちてる。

 ぐったりして力が入らないまま、部屋に戻ってきた他の証拠を探して、目を動かした。ぼやけた人影が寄ってくる。

「ラクラン!大丈夫かい?」

「チョコレートでも食べさせよう。

おい、流石にやりすぎじゃないか?」

「いや、こいつ今、自分で俺の呪文を......」

 

 ラクランはそのまま気を失って、肝心のどうやって呪文を破ったかは覚えていなかったが、エバンが膨れっ面で蛙チョコをくれたので、素直にがっついた。大した運動はしていないはずなのに、いやに腹が空いていた。

「インペリオに一瞬でも対抗したのは驚いたよ。熟練の魔法使いでも難しいというのに」

「ロジエールの魔法が未熟だっただけでしょう。粘り勝ちというところだ」

「それでもすぐには従わなかっただろう?」

「ラクランに閉心術の才があると?」

「こいつが〜?俺でもわかるぜ、もう一個寄越せだって。ちぇっ、ほらよ」

 エバンがむすくれた顔で蛙チョコをくれるので、ありがたくむしゃむしゃ食べた。食べ方にありがたみがないとかで、脳天にゴツンと拳骨を落とされる。

「痛!もう少し労ってくれてもいいじゃないか」

「今度はクルーシオの実験台にしてもいいんだぞ」

「やめてよ!インペリオだってもう嫌なのに」

 魔法にかけられてるとはいえ、友達の声にうっとりしたがって冷え切った侮蔑の目を向けられるのは堪える。もう一度やって、命令に抗えるかはわからないし、一度抗うのに失敗したが最後、もう友達ではいてくれなくなってしまいそうな冷たさを、あのエバンからは確かに感じた。

 全部を口に出したら、もう友達でいられなくなりそうな予感があったから、チョコを頬張ってラクランはひたすら黙った。

 

 もともと、直接的な話し方を好まない気風がスリザリンにはある。所謂貴族らしい、品格のある表現というのがそもそも婉曲表現だから当然だけれど。もともとの回りくどさに、秘密主義はよく馴染んだ。

 エバンの特訓は正直、あの段階では必要以上のものだったと思う。だからきっと、レギュラスもバーティも、わざわざ特訓に付き合って、いろいろ話してくれたんだ。

 けれど彼らもエバンも、たしかに友達だけど、自分に利益がないならこんな面倒なことはしない。

 

 レギュラスは家のことがあるから、方針が読みやすい。おれを引き入れるつもりがあるかはわからないけど、来年には彼も謁見するだろう。それで、おれとの交友という痛いところをつかれるのはマズイ。レギュラスがおれをクィディッチチームに入れるべくいろいろ手を回してくれたのは、スリザリンでは知れた話だった。言葉で言われることはないけど、おれが闇の帝王派へ寄っておいたほうが、間違いなくレギュラスには役にたつ。

 

 バーテミウスも、本人から聞く通り、今のお父さんの仕事的にスリザリンに在籍していることがそもそも大変で、トラブルを避けるために闇の帝王の信奉者側に属しているとわかりやすくアピールする必要があるのは本人から聞いてる。同室で一年からつるんでいるおれも、同じく振る舞った方がいいだろう。

 

 エバンは難しい。闇の帝王にすでに下っている親族もいるというし、お爺さんだか曾祖父さんはゲラート・グリンデルバルトとも繋がりがあったという。そう考えるとおれと友達でいることは、彼にとって嫌なことかもしれないと思う。でも服従の呪文をかけて、そのままにすればおれはいやでもエバンに恐怖や苦手意識を覚えただろうに、あいつはわざわざ蛙チョコをくれた。家のことは家のことだ。闇の魔術が好きだけど、おれにチョコを寄越すエバンのために、おれはどう振る舞ってやったらいいのか、わからないまま、クリスマス休暇の季節になった。

 

 

 

 イクを乗り回すようになってから、じいちゃんはかなり活動的になったと思う。ザリガニ釣りやオルガンはやらなくなったけど、あれは今やってる暇がない、なんていうんだ。今年はリチャードたちとクリスマスを過ごしたりしないのに。リチャードは娘が可愛い盛りだし、寒い中わざわざみんなを余計に寒いところに呼び集めるのはかわいそうだろうから、忙しくないクリスマスもラクランは歓迎だったが。

 アランがクリスマスの休業前に、用事があったとかでエディンバラの方の肉屋で買ってきた、小さめのステーキパイをオーブンに突っ込んで焼き直す。ラクランはその脇でマッシュポテトを作った。

 時間は有り余っているし、日刊予言者新聞は写真が動くけれど情報が入れ替わるわけじゃないから、何度も読むものじゃない。

 マッシュポテトは、いつもよりずっと時間をかけて滑らかに仕上げた。バター多めの特別なやつ。あとはグリーンピースと、切らしていたので酢漬けのビーツは缶詰のものをだした。色味が足りないからにんじんのグラッセもつけて、テーブルの小さな蝋燭を灯せば、立派な新年のディナーだ。

 

 小さい頃のラクランはナイフを上手く使えなかった。あらかじめ切ってもらったのを、手に合わせてアランが削った木のフォークで食べていた。大きくなってからはナイフも教わったけど、パイを作るまでに疲れ切っていて半分寝ながらだらだらと食べていたと思う。

「どうした?はやく座りなさい」

「いや、花もキャンドルも添えて、こんなにちゃんとしたディナーをするのは初めてだなって思って」

「家族の食事で緊張しとるだと?マナーは教えただろう?」

「そんなこと言ったって、じいちゃんとこんなクロスがかかったテーブルを挟んで座るのは初めてだ!」

 揶揄われても緊張は抜けなくて、カトラリーを握ると肩が少し上がってしまったけど、いつも美しい所作のレギュラスやバーティと一緒に食べているんだ、食べ始めればなんなくこなせた。

 一粒のグリーンピースも残さずペロリと平らげてから、じいちゃんの目がラクランの手元に注がれているのに気づいた。

 

「お前の手、変なところにマメがあるな」

「箒のせいだよ、寮代表だからね」

 蝋燭の明かりに翳してみせれば、ガサガサの手が受け取った。節の大きさや皮の厚さは違うけれど、手のひらの大きさはもうほとんど変わらない。

「随分、でかくなった。もうそのナイフとフォークも、お前には小さいな」

「それなら、また小さい頃みたいに木のフォークを作ってよ。手にピッタリのやつ!」

「またすぐでかくなるだろう。それに、子供じゃなく青年に贈るべきは、カービングナイフだ」

 クリスマスにちゃんと七面鳥を焼くところは、きちんと家長に当たる父親が大きなカービングナイフでそれぞれに切り分ける。去年も、リチャードが切り分けてくれた。

「で、でもおれ、家を出るつもりないよ。もちろん誰かと結婚するつもりもない」

「お前はもうすぐ大人だ。あんなに目を輝かせて、魔法界じゃなきゃできないところにマメを作って、夏に退屈そうにしているお前が、卒業した後またこの家に戻って来れるのか?」

 じいちゃんの鋭い目を浴びるのは久しぶりだった。そっとおれの手を解放して、ただきいてきているだけなのに、指を胸に突き立てられているような息苦しさだった。

「先のことはわかんないよ......魔法界で仕事に就けるかも見えないんだから。それに、マグル育ちと結婚させるような家、うちの寮には」

「言い訳を並べるな!」

「言い訳じゃない、本当に先が見えない状況なんだってば!」

 雷が落とされたのに、跳ねるようにして席を立つ。せっかく花瓶にディスプレイした花を倒してしまったけれど、気にする余裕もなく日刊予言者新聞を叩きつける。暖かいキャンドルはいつ揺らいだのか、気づけば全部消えていた。

 外套を引っ掴んで、勢いのまま星あかりを頼りに家を出た。

 

 おれは魔法が好きだ。でも、マグルの学問も面白いと思ってる。せっかく両方触れられるんだから、両方を融け合わせて、いろんな新しい魔法や栽培方法を見つけたいって思ってた。

 でも、正直言ってマグル育ちが生きていけるかもわからないのが今の魔法界の本当だ。今だって、おれがマグル育ちだからみんなの負担になっている。さらに迷惑かけてまで、家を出れるわけない......!

 いっそマグル育ちでなかったら、おれが実は純血だったらどれだけ良かったろうとも思うけど、母さんの聖書やじいちゃんの小屋の周り、今のマグル学だって、大好きで大事なおれの一部だった。そういうおれと友達になってくれたんだから、マグル育ちをなかったことにはできなかった。

 じいちゃんも、魔法使いのおれがいるせいで危なくなるのだってわかってる。友達も家族も、おれがどっちかから離れれば、どっちかはきっとより安全になるはずだ。でも、どうしてもどっちか選べない。選べないんだ。

 

 ザクザクと無心で歩いて、歩いて、ついに自分がどのあたりにいるかもよくわからなくなった。

 方向もわからない。日が昇るのを待つしかないか。

 ベルトに突っ込んであった杖を握るけど、魔法は使えない。退学ならまだマシで、魔法の行使でどこかに潜伏しているかもしれない闇の帝王の一派に嗅ぎつけられるのはマズかった。

 ハァ!と大きなため息をついて腰を下ろし、膝に腕をひっかけて脱力する。こんな情勢で、何やってるんだろう。冷静じゃなさすぎた。

 

 そこへ、暗闇からシュルシュル!!!と風の轟音とともに、素早く大きな物体が滑り出た。

 眩しいライトに目が慣れた先には、紫色の四角い車体...バスが見えた。

「『ナイト・バス』がお迎えにあがりました。迷子の魔法使い、魔女たちの緊急お助けバスです。杖腕を差し出せば参じます。どうぞご乗車ください。どこなりと、お望みの場所までお連れします」

 くちゃくちゃとガムを噛みながら、車掌らしい服を着た男がいう。

「緊急、お助けバス?」

「おう、お客様......坊主、こんな山奥で何してる?」

「ちょっと......家出して...?」

「金は持ってるか?」

「さあ、幾らかによるな」

 外套のポケットに手を突っ込んで、去年の小遣いの余りを探る――ホグズミードにほとんど行かずに闇の魔術練習とクィディッチに明け暮れたから、ほとんど使わなかった――7ガリオンと8シックルはある。

「どこまで乗る?」

「どこでもいけるの?」

「ああ、どこでも...正確には、魔法省とホグワーツ、それからお屋敷の中以外」

 家にも帰れる。でも、今じいちゃんと顔を合わせるのは嫌だった。

「じゃあ、ロンドンの漏れ鍋は?」

「あそこまでは、うーん、3ガリオン」

 3ガリオン、破格だ。今の予算じゃ心許ないけど、漏れ鍋へ泊まれば安く学校へ行ける。宿題も、ほぼ終わらせて寮においている。足りないのは、急いで仕上げればいい。衣類は......。

「乗るのか?乗らないのか?」

「!乗るよ!漏れ鍋まで!」

「シーッ、車内ではお静かに。よろしい、さあそちらへどうぞ、ビューンとひとっ飛びだ」

 チンッとダイアルを回して発券したチケットを手渡され、背中を押されるまま乗車した。

 

 乗り心地は最悪だったけど、本当にあっという間に、漏れ鍋前についた。今まで電車で来ていたのが馬鹿みたいだけど、電車のありがたさもよくわかった。

 ちょっとよろけながらバスに手を振って、埃がキラキラと輝く漏れ鍋の中に入る。いつもよりは空いていた。

「こんにちは、トム」

「ああラクラン!君のお祖父さんからフクロウ便がきていたよ。それにトランクも」

「え!そんな、」

 手招きされてカウンターの裏を見れば、しっかりラクランの荷物一式が入っていた。まるで、もう帰ってくるなと言わんばかりだった。

「いっぱいのワシミミズクたちが届けたんだ、お礼を書くなら、まだ何羽かいるよ」

 あんぐりと口をあけるラクランに、トムは朗らかに教えてくれたが、それどころでは全くなかった。

「一羽待たせておいてください!すぐ書くから!」

 席へトランクを引きずっていって、大慌てで羊皮紙とインク壺を取り出す。羽ペンはどこだ?あった!

 昨日、怒鳴ったことの謝罪、それから荷物を送ってもらってありがたかったこと、自分はまだ家にかえりたいこと、とにかくザクザクと書いていく。乱筆だけど、じいちゃんなら解読してくれるはずだ。

「はい、できた!」

 テーブルの蝋燭を少し垂らして、マメで厚くなった親指を押し付けて封をした。

 待ってましたとばかり笑顔で頷くトムからミミズクを受け取って、店の外へ走り出る。そこで、見覚えのある三セットの革靴に行手を阻まれた。

 

「レギュラス?バーティ!?エバンも!」

 ラクランは驚きの声を上げたが、三人はいやに静かだった。とりあえず、ミミズクに出発してもらう。手を軽く払って、三人に向き直った。

「どうしたんだ?三人揃って」

「お前も聞いたのか?聞いて、ロンドンまで?」

「一体何を?」

 エバンに肩をつかまれて問い詰められたことで、3人に会えたために上がっていたラクランの口角も、だんだんに下がっていった。それぞれに目を合わせても、あった側から逸らされる。

「なんだよ、何があったんだ?」

「......僕たちはイザベラ・ブルストロードの見舞いに行ってきたところだ。少し話したいことがあったから、漏れ鍋に」

 バーティがやっと、重たい口を開いた。

「ベラにお見舞いだって?またどうかしたのかい?」

「ああ。彼女は今聖マンゴ魔法疾患傷害病院に入院している......そしておそらく、回復はしないだろう」

「どういうこと?」

 

 

 




ながーーい!!
【エバン・ロジエールくん】
 年齢は謎ですが、あのへんの学年であることは間違いない聖28一族です。グリンデルバルドとも、ヴォルデモートとも繋がりがあった一族ですが、その中にあって子供がどういう考えを持っているかは想像の余地がいっぱいあると思います。お名前の響きは一番好きです。

【マルシベール、やばい】
 マルシベールが生徒にやばめの呪文をかけてるのはリリーのセリフから明らかです。ヤバめの呪文ってどんなんやろ...?て感じですが、まあ闇の魔術であることは確定ですよね。そして彼も若くして死喰い人として活動しています。在学中から服従呪文は使えそうだし、人にもかけてそうだな(アズカバン行きということになってるけど、ホグワーツは未成年の探知魔法の精度アレなことを考えると、一人ひとりに直前呪文かけなきゃ誰がやったんか発覚しないのでは、ということで)スリザリンの皆さんには闇のダンブルドア軍団みたいなことをしてもらいました。
 レギュラスとバーティのメンタル面と境遇を考えていくと、リリーを罵ってしまって、ついに関係を切られて深く傷つき後悔しつつ、闇の魔術に没頭することでなんとか心を取り戻そうともがいていたスネイプが、恵まれないながらかえって自由に感じられて面白いです。後ろ盾も庇護してくれる大人もいないけれど、だからこそ自分の意志、感情、願いで行動できるのはスネイプの大きな強みだと思います。保守的かつ家などの柵の多いスリザリンの中では異端でもあると思います。ダンブルドアはその辺を軽蔑してるようですが、人が持つ強みと致命的欠点は表裏一体ですよね。
 ラクランは立場とすればスネイプに近いはずですが、真面目なブラック家とクラウチ家、そしてロジエール家の息子たちと親しいので、むしろ自らどんどん雁字搦めになってしまいました。

【服従呪文への抵抗】
 ハリーが同学年でやってますね。何によって可能なのかはイマイチわかりませんが、マルシベールというインペリオ使いが身近にいて、強力な魔法を使う闇の魔法使い集団に巻き込まれ中のスリザリンボーイズが一番心配する呪文はこれなので、書いてみました。一番後々に続く要素で絡めたくて入れました。エクス〜、何でしょうか?
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