車庫の簡素な窓は真っ暗な夜で満たされている。この3、40年でいちばん湖畔が賑やかになったはずだが、夜になって客人たちが去れば早瀬の小石のように跡形もなくなった。
ラクランが窓を開けると、ひんやりとした夜風が額を撫でた。レギュラスはいい気分で酔っ払っている。じいちゃんも触れなくなったバイクの横で、二人してコソコソとファイアウィスキーを煽っていた。
「それで?夢の中ではエバンに、現実ではイザベラに尻を叩かれたっていうのか」
「尻を叩かれたというか、釘で打ち付けられたって感じだよ」
「はは、ヒック、そりゃいいや。君は本当にフットワークの軽い奴で、気づけばどこかに飛んでいきそうだったもの」
「イギリス魔法界のなかでいちばん世界を股にかけてる人に言われたくないね。吸血鬼との協定も順調だとか?」
「僕はヴォルデモートを追ってるだけさ。あくまで魂は君たちと生き直すと決めたここにある」
水を2パイントも飲んでからトントンとウィスキー樽の机を指差すレギュラスの頭はまだ少し揺れていたが、妙に様になっていた。
「そう思ってくれてるのは嬉しいけど、クリーチャーたちにもちゃんと連絡をしてる?塗り薬は受け取ってくれてるみたいだけど、心配だ」
「あれも家だが......帰りたい家ではないんだ。帰れない。ここはずっと、帰ってこられる場所であってほしい.....新婚の友人に頼むのは無粋なことかな」
「何を!おれもイザベラも結婚でお互いの足元を固めたけど、君達も相変わらず身体の一部みたいに大事なままだ」
「イザベラはそうじゃないかも」
「そのへんはきちんと話し合ったさ、結婚前に話さなきゃ不誠実ってものだ。お互い真実薬を飲んでね、ありゃ自分の中で真実と思い込んでることをペラペラ話すにはうってつけだ」
「真実薬を?あんなものが必要な話があったのか?」
「無用な誤解を生みたくなかったから使っただけだよ。おれはこう......君にも初めて話すけど、女性が子供を産むというのが恐ろしいんだ」
酔いが覚めてきてしまったらしいレギュラスが灰色の瞳を光らせて、真剣に覗き込んでくる。ラクランは目を泳がせて、一気にグラスを煽った。カッと喉が燃えるように暑くなって、咳き込むように言葉を吐き出す。
「母子共に健康ならそれはとても素晴らしい。でもそりゃ結果論で、賭けみたいなものだろ?おれも君も、世の中誰でもその賭けの末に生まれてきてる......。おれの記憶もなにもないんだけど、この湖におれを産み落として、母さんは息絶えたそうだ。どこの誰に身重で捨てられたかも本人もわからない状態だったって」
「それは......」
「ああ。じいちゃんはおれに何か言ってくることはなかったけど、入学前にももしかしたら母さんの仇は、おれの父は魔法使いなんじゃないかって二人で考えてた。魔法事故惨事部に出向して記憶を修正されたマグルを間近で見てきて思ったんだ。じいちゃんの話す母さんの姿と、一致する部分がある。証明の手立てはないことだし、全部今更だけど」
喉と顔は熱いのに、手は酷く冷たかった。それでもちゃんと話しておくべきだ、レギュラスも家族なんだから。ラクランは音を立てて息を吸った。
「母さんは特殊な状況だったけど、本質的に出産は女性任せで、同じようなことだと思う。イザベラを死に至らしめる可能性を作ってから、結果をただ待つ賭けだ。おれは......おれはそれに耐えられない。母さんの命を奪った誰かと、同じようなことをするのは」
ある日全く記憶にない妊娠が発覚して、とにかく退職して、精神も身体も衰弱した状態でなんとか帰ってきた母さん。どんなに怖かっただろうか?きっと腹に突然現れた子供のことが恐ろしくてたまらなかったはずだ。苦しみの分、おれやおれの父親を憎んだだろう。悲しみも怒りも憎しみも、なにも残してはくれなかったけど。
「子供を授かったらもっと楽しくなるかもしれない。イザベラはそういう家族をやりたいかもしれない。でもおれにはとてもできそうもないって話は、最初にちゃんとしなくちゃダメだった」
冷たくなって震えるラクランの手と反対にぽかぽかと暖かい青白い右手が重なってきて、冷えた手より冷たい作り物の義手に挟まれた。
「誰の前でも姿を変えないボガートはいないさ。これも結果論だけど、そういう君をイザベラは受け入れてくれたんだろ」
「子供はやっぱり好きだって、暖かい家を作りたいんだって。そんで、家族になるのに血は必ずしも要らないって教えたのはそっちだろってボカっと......」
「まさしくその通りだ!」
バシッとラクランの背中をわざわざ硬い義手の方で叩いてきたレギュラスの目は、直視するのが躊躇われるくらいギラギラしていた。
「おじいさんやリチャードさんたち、ナンシー。それに僕たちは家族でないとでも言うのか?」
「イザベラにも言われた。わかってるよ、最初こそおれは望まれずに生まれてきたけど、じいちゃんは愛たっぷり育ててくれたし、君たちを得た。父親がいて母親がいて〜っていう家族じゃなくたって、立派な家族だ。みんなが安心して頼れるような場所をつくっていこうって約束した」
「それはなにより。そもそも望まれて生まれてくるって君が思うほど大したことじゃない。たぶん僕らは一族に切望されて生まれてきた。でも今はどうだ?みんな血族より君たちを選んでるんだから。どう生まれてくるかで人間が決まってたまるものか。誰と一緒にどう生きるかが問題さ」
ニヤリと悪そうに笑ってみせたレギュラスは、グリモールド・プレイスを気まずそうに帰りにくいなんて言っていたのが嘘みたいに、"選ばれないような家族が悪い"と言わんばかりだ。
「君らはすごいよ。なんのために生まれてきてどう生きるのか決まりきっていたはずの僕らに、スルリと忍び込んであっという間にかけがえのないものになった」
「なんかそう言われるとちょっと.......魔物みたいな......」
「実際そうだろう?君とバーティは上手くやった」
「結果で黙らせる作戦だったんだよ、仲良くなるなんて考えてなかった。エバンや君やイザベラが友達になってくれなかったら、成績だけじゃあの時代どうなってたか」
「誰が欠けても今はないさ。でもまさしく魔物だよ......友達や、愛というのは。今だって君たちに胸を張れる人間でありたくて死に物狂いだ」
「君の功績は君のものだ。そうだ、おれの話はいいから仕事の話を聞かせてよ」
レギュラスは少し顔を引き締めて、折り畳まれた地図を胸ポケットから取り出して広げた。ルーマニアで買ったという白地図にはびっしりと書き込みがされていて、いくつも赤い丸が打ってあった。
「この記号はノルウェーから運搬したり、現地で作った脱法ポートキーを設置した場所だ。変幻自在呪文で呼応する仕組みになっていて、ポートキーが使われると記号の色が変わる。それを確認したらエリア担当の吸血鬼にポートキーを戻してもらうのさ」
「こんなにたくさん......よく吸血鬼たちが協力してくれたね?」
「吸血鬼たちは協力的だったよ。数百年前から東欧でテリトリーを持っていたそうだ。マグルの戦争での混乱とそれに乗じて潜伏してるだろうアイツによる撹乱で、同族でも衝突が絶えず苦労していた」
「闇の帝王の......?とりあえず、この設置場所の偏りはどういう意図なんだ?このあたりなんか、高い山脈が多くて自然の要塞のようだけど」
「ああ、東側の国では多くの地域が脱走者を阻むために山中に銃を持った警邏がいるんだ。歴史的には自然の要塞だったのだろうけど、今はそれが地域のマグルを追い詰めている。吸血鬼たちに噂を流してもらって、望む人は亡命できると良いと思って.......とはいえ移動した先の住居や仕事の世話は私にはできない。彼らが逃れた先で生きていけるかどうかは彼ら次第だ」
ラクランはレギュラスに倣って水をがぶ飲みして、ドンと置いた。どう生きるかが問題だ、なんて人には言ったくせに!選択をするのはポートキーを使う人たちだ。選択の先まで自分の責任の範疇だと背負い込むのは傲慢というものだ。
「君は移動を強制したんでなく、新しい選択肢を提供したんだろ。胸を張れよ!それで闇の帝王の撹乱ってどんな?」
「ああ、吸血鬼の仕業に見せかけているが単に生き血を啜るのではなく、遺体を利用していた痕跡があった。闇の魔術に血肉が利用された遺体はネズミにすらさけられ、腐敗が進まない。"スペシャリスト"と検分したから間違いない。アイツは肉体をとどめていないか、とんでもなく肉体が脆弱になっているな」
「なんてことだ、亡くなった後に利用されて土に還ることもできないとは」
「吸血鬼たちは闇の魔術に侵された肉体もうまく扱える。彼らも遺体から糧を得るが、敬意をもって葬ってくれると約束した。あの地域に吸血鬼用のネットワークを張り巡らせマグルにも利用させるのは国際魔法使い機密保持法的にかなりリスキーだが、アイツにこれ以上いいように遺体を利用させないためには必要だった」
「本当に頑張ったな......おれが無様に死にかけてるうちに。まあこちらもいくつか収穫はあったんだが」
「イギリスの首相を爆破テロから守ったんだろ?大したものだ」
「さあ、おれが動かなくてもあの規模なら無傷だったかも。死傷者は出てしまったけど、首相の安全に一枚噛めたのは魔法界としても良かったと思うよ」
ラクランが頭を抱えながらグラスを空にすれば、レギュラスがまたグラスを満たす。軽く合わせてお互いの奔走を讃えた。
「ああそれで収穫とやらを聞いてなかった。良いことなんだろう?」
「ん?ああ」
ユラユラしながらウィスキーを煽るレギュラスに笑われながら、ラクランは体をさますために緩慢な仕草でなんとか腕まくりした。それからフーと息を吐いてしみじみと腕の破れぬ誓いの印を撫でる。
「......まだ言ってなかったな。この印の反応は健在で、おれの危機を確かに察知してくれた。いつもと違う鮮明さで」
「つまり......あぁそれなら!なんてことだろう、マーリンよ!」
「うんうん、そういうことだ......バーティは生きてる。安全ではないかも、だけど」
「こらラクラン!うとうとしてる場合じゃないぞ、もう一回乾杯だ!」
三匹の蛇 35
なにか輝かしいものをみせびからかすように、基本呪文集を掲げ持ったナンシーが暖炉の上のアランの写真に向かって話しかける。
「おじいちゃん、見て!もう教科書を買ってもらったの!」
4月の穏やかな雨がしとしとと大地を濡らす頃、アランは穏やかに息を引きとった。
遅生まれの早い方だからナンシーに案内が来るのは早かったが、杖は振り回して火花を出すので箱に入れたまま封印の約束で、ローブはなるべく入学時にピッタリなものがいいだろうからというイザベラの一存で9月までお預け。遺影に今見せびらかせるのは教科書だけだ。
「杖があればおじいちゃんにお花を出してあげたのに」
「なにもないところから?それとも種子の成長を促進する?」
聖マンゴに共有する資料を作っていたラクランの視界に入るようにウロチョロしながらチラチラと視線を寄越してくるから、苦笑して突っ込むとナンシーは思いっきりむくれた。
「教科書を読み込んでいくと、どうやったらやりたいことに近づけるか分かってくるさ。歩き方を知らない子はバイクにも乗れないだろう?」
「乗った方が感覚がわかる場合もあるでしょ?おじいちゃんならあっという間にバイクに乗せてくれたのに!」
「ホグワーツは一人で行くんだ。仲間はいても、魔法の勉強は結局個人戦だ......それにじいちゃんは、ホグワーツからの手紙をあやしいカルトからの手紙だと思って捨てまくっていたんだからな」
「おじいちゃんが?」
「そうだよ。非魔法族の家には教授が説明に来てくれるんだけど、あのスラグホーン先生を捕縛しちゃったんだから!」
昨日のことのように思い出せるが、もう10年以上前のことだ。あの頃は永遠にじいちゃんとプロレス遊びをして、この湖畔で生きていくと当たり前みたいに思っていた。ホグワーツに行って世界がずいぶん広がったけど、じいちゃんは弱り、満足げに去っていった。信じられないけれど、本当にもうあの大きな人はいないんだ。
結婚式の後から張っていた気が緩んだのか体調を崩しがちになって、フォート・ウィリアムから週に一度医師に来てもらっていたから、アランの終わりは穏やかだった。
「ハァ......人生の後半はお前のために、延々と走らされた気がするぞ」
「ハハ、ありがとうじいちゃん。未熟だけど、じいちゃんに代わってこれからもちゃんとここで生きていくからさ」
苦しそうに胸を動かしながら、アランはラクランからは気まずそうに目を逸らした。
おれたちはたぶんけっこう気の合う祖父と孫だった。でもいつも順風満帆ではなかった。おれを一人前にしようと焦ったばかりに、おれが家出騒動を起こしたこともある。時世のために反抗期も早々辞めることになっただけで、波風がなかったわけじゃない。それでもおれの根っこがちゃんとここに根を下ろせるように、自分の根っこで土を耕し、太陽の方向を教えて、雨を降らせてくれたのはじいちゃんだ。
「......お前はお前として生きろ。遠くへ行け、よく見て」
痩せ細ってツルツルになっているのに、まだ暖かいアランの手を、ラクランがかつての祖父の手とそっくり同じようになった分厚い手のひらで握る。
「"自分の生きる意味を探す"でしょ?今のところ、おれの生きる意味は一つに絞れないんだ。大事な人や時間は次々積み重なる......」
「そうして、わしみたいなのから、一抜けだ」
へ、へと笑う声はほとんど掠れて息だけだった。ラクランはいっそうかたく握手して、改めてアランからなにか吸収するように同じ色の瞳を見つめる。
「ずっと残るさ。じいちゃんのくれた時間全部、きっとおれの中に染み込んでるんだ。そういうのをちゃんと大事にするから、だからどうか」
「ああ、ゆっくり......寝かせて、くれ」
「......見守っててねっていうつもりだったんだけど」
「いいじゃない。おやすみなさい、アランさん」
長く孤独な人だったけど、最後は手を繋いでみんなで見送れた。レギュラスはリーマスの手前またフランス魔法界の紳士に変装しているのにほとんど演技せずすがりついていたし、慌てて呼んだリーマスは盛大に鼻をすすっていた。ナンシーも泣きまくりで、こんなに賑やかに生涯を閉じるなんて自分でもちょっとおかしかったのか、アランの死に顔はかすかに笑っていた。
死に目には間に合わなかったがペンフレンドのフランク爺さんまでリトル・ハングルトンから連れてきてきちっと葬式をやり、本人の希望通り昔あった村の墓地の端、ラクランの祖母と母の隣に埋葬した。
「ラクラン?」
「うん?ああ、なんかそこらじゅうが広いなと思って」
じいちゃんみたいにおれと同じサイズの人がいないから、家は一気に広くなったような気がする。
イザベラに声をかけられてラクランは弱く笑った。
ただでさえ大きな体格のアランは、車椅子や手作り介護ベッドで、晩年が一番場所を取っていたから、家が空っぽになったようだ。イザベラは一つ頷いてラクランの背中をバシッと叩いたが、ナンシーは何を言っているんだとばかりさらに首を捻った。
「あたしもすぐ同じくらい高くなるよ?」
「そう?アニーは小柄だったけど......リチャードはノッポだったからワンチャンあるかもな」
本当は家の広さをどうこうしたいわけじゃないけど、寂しさよりワクワクが勝っているナンシーに苦笑して頭を撫でる。これからどんどん家は賑やかになっていく。いや、賑やかにしていくんだ。でもとりあえず、湖畔はもう少し賑やかでもいいかもしれない。
「よし、実践の練習をするか。杖を持ってきて」
「どんな?」
「基本呪文集の最初の呪文だよ、めくってごらん」
「浮遊呪文?なんだつまんない」
「それがね、お嬢さん。歩くというのは意外と奥が深いんだ」
≪また空っぽの墓石を増やすのかよー≫
どこからかエバンの声が聞こえた。
まだ青いオークの葉がわさわさと揺れて手を振っている。ラクランはナンシーより1日早くホグワーツ駅へ降りたった。懐かしく思いながらトランクを浮かべ馬車道へ歩を進めると、意外なことに木陰に溶け込むように全身真っ黒な男が立っていた。
「ご無沙汰しています、ミスター・スネイプ。お迎えに来てくださったんですか?」
「......馬車を用意してある」
「ありがとうございます。ああ、本当にいたんだな」
「君も死を、?」
「恥ずかしながらようやっと受け入れられたらしいです。そういうあなたも......いえ。まずお元気そうで何よりです」
ふーと大きな鼻から息が吐き出されて、ラクランはへらりと笑った。昔よりさらに顔色は悪くなったけれど、年を経てゴツゴツとした顔にはどこか威厳がある。
在学中も世話になっていたのに、ようやく見ることができたセストラルの鼻を撫でてひんやり湿った感触に鳥肌を立てながら馬車へ乗り込んだ。
「マグル学を担当されるとか」
「ええ、いろいろ荷物を送らせてもらいましたよ。ホグワーツは変わりないですか?」
「相変わらず思い上がった軽率で無謀な子供達で溢れている」
「ハッハ!人生のいちばん輝いてる時期だ、いいもんですね」
「ほう。一月後同じことが言えるものか見ものだな」
横に並ぶのも変だが、対面で座るとこれまた気まずい。それもひくりと口元を引き攣らせて言われてしまうとよけいに。ラクランの視線はセストラルの靡くたてがみと、正面の顔にいつのまにか深々と刻まれた眉間の皺を行ったり来たりした。
「スラグホーン先生の退任に伴って就任されたとお聞きしました。やはり寮監も引き継がれたんですか?」
「左様だが。質問の意図は?」
「は、いえ。同じ寮の卒業生としてお手伝いができたらなと」
ジロリ、とねめつけられて頬をかきつつ慌てて言い募るが、ちっとも視線は和らがない。
「私の任期もいつまでかわかりかねますがね。夜の見回りだの、採点だのと先生方がお忙しそうだったのは覚えています。魔法薬学は特に、授業の素材準備もあったはずですし」
「ああ、君は監督生だったな」
わざとらしい声だと思った。妙に柔らかく、上から押さえつけるように意図的に落ち着けた深い声。相変わらずスネイプの暗い目はどこを見ているかイマイチわからない。
しばらくカラカラと馬車の車輪が小石を弾く音だけが響いた。
「ええと、はい。それで少しでもあなたのお手伝いもできればと思ったのですが」
「他人の心配より、自分の心配をしたまえ。各科目に教授は一人しかいないのだから、君に倒れられると5学年分のマグル学の授業の監督に別の教授が研究やレポート採点の時間を割くことになる」
「はい、それはわかっています。自分のできる範囲でお手伝いさせていただきますね」
「フン......相変わらずのようですな」
バカは、と口の中で言ったのが見えたぞ今!
ラクランは必死に膝の上で手のひらに爪を立てて笑いを堪えた。変わったようでちっとも変わってないところもある、老成したのかこどもっぽいままなのかチグハグなスネイプはどこか頼もしかった。
「お手伝いの引き換えに、というわけじゃないんですが今後新魔法薬の最適化実験で魔法薬学教室をお借りするかもしれません。借用申請はミスターに提出すれば良いですか?」
「......フラメル研究所の基礎研究をやるというのか」
「もちろん建造物や人間に害のないよう配慮します!私のやるのは大抵スクリーニングになると思うので大したことはないですが」
「私も見させてもらう。それとミスターなどと呼ぶのは城に着いたらやめていただきたい。まどろっこしくてかなわない。他の教授方もそう呼ぶつもりか?」
「ではスネイプ先生と?」
「いいだろう」
「では改めてよろしくお願いします、スネイプ先生。ところでダンブルドア校長の面談って、どういうことを話すんでしょう?一応授業計画は提出済みですが......」
「面談というより、昼食会になるそうだぞ」
「なんとまあ」
大広間は簡単に片付けられ小ぶりな長机のみになっていて、マクゴナガル先生やフリットウィック先生、スプラウト先生にハグリッド、端の方にシニストラ先生と、その対角に挙動不審なトレローニー先生がいた。ケルトバーン先生などはまだ休暇中のようだ。スネイプに促されて手前の空いている椅子に腰掛ける。顔を上げると上座でニッコリと笑っているダンブルドアと目が合った。
「ホホ、久しいなラクラン。新任の先生の歓迎会じゃ、よく食べよく飲みなさい」
「お久しぶりですダンブルドア先生、本日はありがとうございます。皆さんもお変わりないようで」
「セブルスとの時間はどうじゃったかな」
「そりゃもう、楽しかったァイタ!」
思い切り隣から脛を蹴られてラクランは悲鳴をあげた。クスクスとダンブルドアに笑われる。
「その調子の良さ、学生時代から変わっていませんねえ。でも良かったのですか?」
「結婚のことですか?もちろん無理はしていませんよ、むしろ彼女の方も今は家庭より仕事!て感じで。魔法学校入学前の初等教育をする私塾をやってみたいとかで、邪魔だから行ってこいと背中を押されました」
マクゴナガル先生のちょっと心配そうな顔に笑って答えれば、まあまあ!とスプラウト先生がたいそう嬉しそうにする。
「あの子は学生時代から下級生の面倒をよく見ていましたものね!」
「よく覚えておいでですね。私も世話になった口です。羽ペンの使い方やレポートの書き方なんか、最初のうちは結構苦労しますからね」
「オー!それはこれから入る新入生達に期待ですね!」
「まだ生徒数一名なんですがね、ゆくゆくはマグル生まれの子供にも環境を提供したいとわざわざ近隣の空き家を買ったんですよ。寝癖の治し方とか、歯の磨き方とか、ポルターガイストの対処法みたいな基本的な生活習慣も教えるんだって張り切ってます」
「そりゃあいい!」
ハグリッドが手を打ち、フリットウィック先生が感動で足をパタパタ揺らすのにクスリと笑ってしまう。自分も一年生の時は羊皮紙に羽ペンでだいぶ苦労した記憶がある。先生達からしても、読むのは一苦労だったのだろう。
隣で無言のままのスネイプがつぎつぎ皿を開けていくので、ラクランも気を取り直して昼から食べるには少し重たそうな白身魚のフリットにナイフをいれる。まだ湯気の出るタラを口に運びながら視線を感じてチラリとダンブルドアの方を見ると、キラキラした目が期待たっぷりにこちらを覗いていた。
提出した授業計画書にもしっかり書かせてもらった。ラクランの目指す授業と学習内容は、学生時代受けたマグルの勘違い、マグルの面白い発明講習などとは大きく方向性が違う。面談がわりのこの場でなにも言われないということは、校長として文句はないということだな。
ラクランは静かに頷いてみせた。
教室に大きなスクリーンや映写機を設置して、試運転や音響の確認、それにボールペンやゼナイドに頼んで手に入れたボイジャー1号のパンフレットや新聞のスクラップなどを並べる。
コンコン、と音がしてラクランが顔を上げると、すでに扉を開いたスネイプが半身だけ体をのぞかせており、盛大に眉間に皺を寄せてまだ扉の外側にある腕でノックをしていた。
「びっっっっくりした......わ!こんな時間!申し訳ない」
「新任教授が晩餐に遅刻するなど前代未聞だぞ」
相変わらず愛用している自動巻きの時計をみて飛び上がれば、長ったらしくため息をついたスネイプはスルリと扉から消えて行った。
「わざわざ教えてくださってありがとうございました!」
ラクランのほうが背は高いし運動習慣もあるのだろう、大股で走れば黒い長マントにすぐ追いついた。叫ぶようにお礼を言うと、カツカツと肩で風を切って歩く速度はそのまま、暗い色の瞳がチラリとこっちを向いてまたフンと大きな鼻から息が吐き出された。
「こういうのは若輩者から駆り出される」
「あなたがいて助かりました......」
一番近い教室は実は占い学で、しかもトレローニー先生はいちおう、若手の方だ。たぶん彼女に新しい同僚の出席を気にかける余力はない。となると歩幅の問題でスプラウト先生かマクゴナガル先生がいらっしゃるだろう。本当にスネイプ先生で良かった。なんてったって今日はナンシーの入学だ!
まだ在校生がまばららしい大広間の扉の前でふうと息をついていると、スネイプがバン!と扉を開けた。
「ちょ!?」
思わずラクランは飛び上がったが、なんだかそんなふうに開けたい気分だったのかもしれない。なんの表情を変えることもなくスネイプは大広間へ入っていく。
在校生達が一斉にこっちを向いて、スネイプを認めるとそそくさと目を逸らし、それから肩で風を切るスネイプに続くラクランに好奇心たっぷりなキラキラした目とこそこそ話を向けた。一応身なりは大丈夫なはずだが、こうも注目を浴びると不安になる。ラクランは少し伸びてきた髪をしゃしゃっと手櫛で整えた。
職員の席へ着席して見下ろすと大広間の子供達とたくさんの蝋燭は壮観だ。食べ出してしまう食いしん坊がいないように、まだご馳走は提供されていない。今日はことさら屋敷しもべ妖精達が腕によりをかけるだろうから、あとでスプーキーたちを労いに行きたいな。
「組み分けの儀式が間も無くはじまります」
マクゴナガル先生の一声で、止まることのなかった噂話がピタリと止む。そうして扉が開くと、ローブを纏った小さな集団がキョロキョロと不安そうに左右や上を見回しながら入ってきた。ちょっと気丈に顎を逸らしているナンシーを見つけて、ラクランはそっと小さく頷いた。ナンシーは息を止めているようで、顔がどんどん真っ赤になっているけど......たぶん、なんとかなるだろう。
ナンシーにも組み分けで何をするかは話してないけど、汽車は長いから寮に関係なく友人を見つける良いチャンスだと伝えておいた。気が合いやすいのは確かに同じ寮生と感じるけど、何寮でもよき友にはなれる。
マクゴナガル先生が美しい所作で簡素なスツールとボロい組み分け帽子を設置する。
帽子がぴくりと動いて歌い出すと、カチンコチンになっていた新入生たちがわっと動いた。魔法らしい魔法だものな。自分も新入生だった日、同じように反応しただろう。ハグリッドと目配せして笑う。
「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、組分けを受けてください。バーバリー、ヒースコート!」
こういうときA寄りな名前は気の毒だ。バーティもBだしエバンもEだから、結構早かった。後ろの方はずっと緊張しなくちゃいけないから、それはそれで嫌だけど。
教授たちも生徒も、少し身を乗り出して組み分けを見守る。各寮のテーブルが新入生を獲得するたびわっとわき、ラクランたちは全てに惜しみなく拍手を送った。
ついにナンシーの番がきた。本当にずっと息を止めていたみたいで赤紫の顔になっているけれど、しっかりした足取りで椅子に腰掛けた。帽子の動き的に、二つの寮で迷っているな。大きな声でグリフィンドール!と宣言されたナンシーは、拍手で波立つテーブルへ一目散にかけて行き、薔薇色の頬でラクランを振り返る。嬉しそうだけど少し不安そう。組み分けは組み分けだ。どういう学校生活にするかは君次第。ラクランも幸運を祈って目を合わせながら拍手した。
「さておめでとう!ホグワーツの新入生、おめでとう! ご馳走でぼーっとしてしまう前に、嬉しいお知らせじゃ。今学期から新任の先生をお迎えすることになった」
ダンブルドアが前へ進み出てニッコリ笑いかけ話始めたが、歓迎会のご馳走が片付いてからだと思っていたのでラクランは慌ててゴブレットを置いた。
「マグル学の先生は入れ替わりが激しくての、後任をケイヒル先生がお引き受けくださった」
素早く立って、生徒達を見回し拍手を浴びるので、ぎこちなくお辞儀をしておく。スリザリンの方から全く拍手が聞こえず、ちょっと苦笑した。週刊魔女がお家に届く家庭なのか、笑った側から女子生徒が黄色い声をあげ始めたので大慌てで着席した。こんなことなら昨年から魔法薬お悩み相談コラムを断っておけば良かったんだ......。隣のスネイプもゆっくりと数回手を打ち鳴らしていたが、チラリと視線をやるとすぐに引っ込めた。何か物言いたげだったが、ダンブルドアの話はまだ続く。歓迎会を始める合図に従ってわっとご馳走がテーブルに現れた。
「どうしたんですか?」
「いや、よく愛想を振り撒くものだと」
「便利ですよ、話をスムーズに運ぶのには。実が伴ってなきゃただの詐欺師ですけど」
「伴っているのか?」
「幸運にも同年代の中ではそれなりに経験を積ませてもらっている方だと自負しています。まず健在な同年代がわずかですが」
スネイプは否定でも肯定でもなく、フンと鼻を鳴らしてまたすごいスピードで食べ始めた。特別無作法でも、大口を開けているとかでもないのに淡々と目の前のご馳走が消えていく。
スネイプと話していると視線を感じたから普段からあまり喋らず素早く食べて素早く去っているのだろう。魔法薬学教授の業務に加えて寮監は忙しいことこの上ないに決まっている。それでスラグ・クラブも運営していたスラグホーン先生はかなりのヘンタイだが、今後はおれもこういう食事が必要になるのかな。
スプーキーたちの仕事ぶりを知る分、ラクランは初日の歓迎会くらいはゆっくり食べようと決めて、パリパリなローストチキンを味わった。
「おはよう皆さん。お腹が空いてくる頃だけど、マーズバーでもいかが?アメリカの会社が作ってるスナックで、チョコレート、下には超甘いキャラメルにナッツ、ヌガーまで入ってる」
ツカミは大事なのでお菓子を配るのは決めていたが、2時間目のちょうどいい時間というのもあって、ラクランの一声に身長がニョキニョキ伸び始めた4年生たちは飛びついた。
血糖値的にはあんまりよろしくないから、今後はフラップジャックとかがいいかな。お財布にも優しいし。
「改めて、今年からマグル学を担当するケイヒルです。昨年までの授業ではどんなことを習ったか教えてもらってもいいかな」
ラクランは改めて教室中を見渡した。ひと学年の人数にばらつきはあるとはいえ、4年生の選択者はわずか10人。黄色が一番多くて、赤と青はほとんど同率。そして、緑はひとつもない。
「マグルが魔法界や魔法のことをどう認識しているか、それから電気のことを学びました」
ノッポな赤毛の少年が慌てて飲み込みながらスラスラと答える。機密保持法関連を扱ってくれてるのはありがたいな。
「ありがとう、あーミスターウィーズリーであっている?」
「はい、そうです」
「よかった。それではそこのレイブンクローの......ミス・エントウィッスル?」
「はい、電話のかけ方も習いました」
「交通ルールも!」
利発そうなエントウィッスルに続いてハッフルパフのネクタイをした少年も答えた。
「エーット、ミスター・マクドゥガルかな。ありがとう、素晴らしいね。実践的で結構、マグルの世界に一日旅行に行くには十分だね......けれどそれはマグル学の目的を満たすものではない。一年目だから当然とも言えるけどね、まだまだだ」
ラクランはそれから、自分のネクタイを無言で呼び寄せた。きちんと巻いて置いてあって、ピシッとノリが効いたままの、輝く緑と銀のネクタイ。
「意外に思った人もいるかもしれないね。このネクタイの通り、私は学生時代スリザリン寮だった。組み分け帽子の歌はなかなか良いところをついている。私も友も、過程より目的を重視する傾向が強い。そして何かを学ぶ上で、目的は君たちの行先を決める羅針盤になると信じている。だからこの新しい学年で、今一度自分できちんと考えて欲しい。
君たちはそれぞれ、マグル学を選択した理由や目的があるはずだ。それは何か?さあ、シンキングタイムだ!」
ラクランは声をメリハリをつけるべくパッと張り上げ金属製の巻き上げ機構のキッチンタイマーをグリっと捻って5分設定した。
生徒たちは周りの生徒と少し目配せしたものの、小声で話したり、羊皮紙に何かをメモしたりさまざまだ。その動きまで概ね寮ごとでかわるのだから、組み分け帽子はやはりバカにならない。
「レポート提出を課したりはしない。書いても書かなくてもいい。周りの人と話してもいいよ。でももし楽にフクロウを取れそうだからという理由で選んだ人がいたなら、それは
8mmではあるけれどスター・ウォーズの長尺フィルムをセットして、ルーモスで前方のスクリーンを照らし
フォーカスやフレーミングがチェック通り合っているのを確認してから手回し映写機のリールを回転させる。
真っ先に顔を上げていたウィーズリーがポカンと口を開けて、無音の映画に魅入っているのが見えた。
「この映画は、1977年に公開されたんだよ。字幕の通り、宇宙のことをマグルが空想で描いたものなんだ」
「マグルが......?」
「これ知ってるー!5がちょっと前に公開されたよ」
ジリリリリとタイマーが鳴る。ちょうど回し終えたフィルムのエッジを指で確認しながら巻き返してから、教卓へ戻った。
「期せずしてアメリカばかり紹介しているけど、イカすマグルの文化や発明はいろんなところにある。君たちの勉強した電話や車もそうだね。さて、それで君たちの目的は定まっただろうか?誰か教えてくれる人は?ミス・ムーン、よろしく頼むよ」
「はい。私はマグルのことをあまりよく知らないけど、知りたいと思ったから。知って何かに使うのかはわからないけど」
溢れる知識欲はレイブンクロー生らしいが、自分が一年やったような形の学習でマグル界もどうにかなるとは思い込まないシビアなバランス感覚だ。ラクランはウンウンと頷いて着席を促した。他にも何名か当てたが、おおよそ似たようなことを違った言い回しで言うことが多くて、歯切れの悪い生徒に本当はフクロウのため?といえば気まずそうに笑った。
「肩身を狭く思う必要はないよ、実は学生時代の私もそうだった。次第にマグルの高等教育も価値があると気づいて自分で必要性を感じて学び直す羽目になったりした。そんな経験者の私から、みんなにもう一つ目的を教えようと思う。
マグルに好意的な気持ちがあってもなくても、魔法使いや魔女はマグルを理解しようと努める必要があると私は考えている。マグルから身を守るため、戦いを避けるために、そしてお互い利益を得て良い関係を維持するために、マグルについてやマグルから見た魔法族、魔法族から見たマグルを学ぶのだ」
ここは学期末試験に出すよ、といえば慌ててみんな羊皮紙に書き込む。良い心がけだ。
ラクランは微笑みを残したまま映写機の方へ歩いて行って、変身術で手早く書画カメラに変え、ルーモスの光の手前へ35mmフィルムをガシャンと嵌め込んだ。表示された白黒写真に、ハッフルパフの方からひゅっと息を呑む音が聞こえる。
「楽しい気持ちに水を差してしまうけど、血が見えてしまうような写真は出さないからどうかしっかり見て欲しい。実際にさっきまでの映画やお菓子を作っている国が10年前までアジアでやっていた戦争の写真だ」
爆弾を落とすさっきの映画に出てきたのより幾分かぼってりしたフォルムの飛行機たち、落ちた先で起こった土埃と横たわる人々、銃をもつ兵士たち、泣き叫ぶ人々。
水を打ったように静まり返った教室では、誰も身じろぎすらしない。少し顔を顰めた生徒に目を合わせて、ラクランは問う。
「野蛮だと思うかい?君たちの兄や姉、父や母、祖父母の世代の魔法使いや魔女たちも同じ頃魔法戦争をやっていたよ。やっていることは皆一緒で、同族同士が相争うものだ。何が違うかな」
ラクランは魔法省から資料を借用したロジエール家や、マッキノン家の屋敷の動く写真と、町や林の一帯が煙をあげる写真を表示した。
「被害の規模が、違います。誰とか関係なく攻撃しているように見える」
「そうだね。この写真のような事態には戦争の推移も関係しているけど、マグルは道具や技術を使って戦争もする。だから子供でも女性でも戦いに参加できてしまうんだ。数が少なく、魔法を使いこなせる年齢が決まっている魔法族との大きな違いはそこ。そしてマグルの技術力は大規模な攻撃を可能にしてしまった」
純血魔法族が多数を占める環境にあって、マグルに向かう軽蔑した視線はたくさん見てきた。自分たちにできることができない人たち、というのは蔑視を生み出すけれど、尊敬する理由にはまずならない。実際は目的達成の手段が違うだけだ。そして非魔法族は手段を磨き上げ改善し続けている。
「どちらが優れているとかいう話がしたいんじゃない。同じ国同じ星に住む、違った力を使いこなして便利に生きている2種類の人間がいる、という現実を理解してもらいたい。それをどちらか一方だけにするには多大な犠牲が必要で、なおかつ多数を攻撃する力はマグルの方にずっと分がある。その状況で、魔法使いや魔女がすべきことはなんだろうか?どうしたらうまくやれるだろう?それを考えるのが私のやるマグル学だ」
杖を振って斜光カーテンをしまい、映写機も元に戻した。明るくなった部屋で、まだ緊張しているのか黙りこくった生徒たちが見上げてくる。真剣に聞いてくれたのが嬉しくてラクランは破顔した。
「"マグル学"はそういう学問だけど、君たち一人ひとりの向き合い方はそれぞれだ。マグル生まれで、魔法界での就職よりマグルの世界で生きていこうと思っている人もいるだろうし、マグルのことを学んでなお、マグルとは離れたところで生きていこうと思う人もいる」
前者ではハッフルパフの生徒が頷き、後者ではレイブンクローの生徒が頷いた。
「私はどのような選択も支援できるよう授業をする。GCSE(中等教育終了資格)取得には流石に個人で指導が必要だけどね。せっかく学ぶんだ、それを活かして自分がどうするのか考える時間にしてくれると嬉しいな」
堅い話をしてしまったので自分用に買い込んできたジャファケーキを研究室から呼び寄せた。ジャファケーキはランプの魔人のようなのが描かれているパッケージで、それをみたマグル生まれらしい生徒が嬉しそうな声をあげる。
「君も好き?そりゃよかった。私がマグルのお菓子の中で一番好きなやつをサービスで出しちゃおう。オレンジのゼリーが入ってるチョコパイみたいな感じのお菓子だよ、苦手じゃない人はどうぞ。難しい話は終わり!今日伝えたいことは伝えたから、一足早く休憩にしよう」
紅茶まで淹れ始めればおずおずと席をたって生徒たちは教卓の周りに集まった。
「私の授業では国籍や国民保険のこととか、面倒なことも扱うけど、その分こうしてマグルの文化を楽しむ時間も設けるよ。なぜってマグルの世界へ出て一番困るのは缶ジュースの開け方やお菓子の食べ方がわからない時だからね。この地域で育った子供は当然みんな知ってることだから」
なるほど、と頷く生徒たちの真面目な顔もジャファケーキを摘んだらほぐれていく。チョコとオレンジは絶妙な組み合わせで美味しいんだ。しめしめ、とラクランは内心悪い顔をした。
「あの、先生。質問よろしいですか?」
「おお、答えられることならなんでも答えるよ」
「先生はマグルとの向き合い方を自分で考えることを強調してらっしゃいました。どうしてそれが大事なんでしょうか」
グリフィンドールのネクタイにノッポ、ウィーズリー君が近寄ってきたのでラクランが目で促せば、丁寧に尋ねられた。
「うーーんそうだな」
ラクランは真面目な顔して唸りながら、内心ガッツポーズした。
これは大事なんだな、で丸呑みしないと言うのは学校での勉強ができる子には通常難しい。学校は限られた時間で知識を詰め込まなくちゃいけないから、とりあえずこういうことなんだな、を土台にあれこれ積み上げる教え方をする場所だ。でも本当に理解して自分のものとして使っていくためには、自分が納得しなくちゃいけない。
ウィーズリー君はラクランの言葉を受けて、本当に自分で考えてくれたからこそ、詳しい理由を求めて質問に来た。
「こう考えてみよう。保護者の方が"あのお家の子とは付き合っちゃいけません"といってきた時、それがどんな子かも知らずにはーい、と君は言う?」
「......いいえ」
「ははは、口でははーいと言うけど、余計に気になって話しかけに行っちゃう顔してる。いやいいね、普通そうしたくなるものさ、ヒョイっと見に行けるのならね」
自分で決めるのが大事と言うか、普通自分のことは自分で決めたいものだ。自分の行動を訳も知らず制限されて気持ちの良い人はいない。
優秀である以上に曲者な雰囲気のウィーズリー君はお家でもうまいことやってるんだろう。指摘すると顔の色が髪の色に少し近づいた。
「口出ししてこない家ならサイコーだけど、保護者ってものはいろいろ心配しちゃうんだよね。君はそれもわかってうまくやってるみたいだけど。
話を戻すとマグルを嫌う人たちは、ヒョイっと見に行くこともできないところで近づくなって教え込んでしまっている形だ。元は子供を守るために必死にやっていたと思うけど、教え込まれてまた教え込むのを繰り返してる。それは幸せかな?」
反語のような聞き方で答えは決まりきった質問だったけど、ウィーズリー君もブンブンと首を横に振った。
自分のことを自分で考えて決められないのを、ずーっと続けてしまう。さらには次の世代に押し付けてしまう。行ってみたいこと、やってみたいことを押さえ付けて、誰にも言えずに自分でさえも間違いだったとなかったことにしてしまう。ほとんど呪いみたいなものだ。それを乗り越えても、なお好きに生きるのが難しいのが今の魔法界。エバンやバーティ、レギュラスのような子をもう増やしたくはなかった。
「結果的に保護者の方の言う通りその子とは付き合わないにしても、一旦自分で確認して自分で決めるのが良いと私は思う。マグル学に限った話じゃない。私たち
ホグワーツやっぱ楽しいですね。
・レギュラスのヨーロッパ紀行
ヴォルデモートによる遺体の利用は妄想補完です。ヴォルデモートのアルバニア潜伏、晩期にネズミなども利用していたことはピーター・ペティグリューの言及があるのですが、そもヴォルデモートが若年期分霊箱となる器探しで徘徊していた頃はゴリゴリ共産主義国で第二次世界大戦中はパルチザンが活動、大戦後も車でなく馬車が走ってるエリアがアルバニアです。東欧の森の中で、元は非魔法族の遺体なども利用していて、対策や警戒が強まったり時代の変化、自分の身体の状況に合わせて使う"素材"を変えて行ったのではないかと考えています。
レギュラスは本人も言う通り、ヴォルデモートに供給してしまわないためにも、マグルの亡命を手助け、吸血鬼と協力して遺体を葬ったというわけです。
・ナンシー入学
チャーリー、トンクスたちは2年生
ビル(ウィリアム)は4年生です
組み分けで出てきたバーバリー、ヒースコート(ヒースコート・バーバリー)は妖女シスターズ(Wireds sisters)のメンバーです。同世代。アルファベット最初の方のお名前ということで出てきました。カタカナ検索が某ブランドしか引っ掛からなくてめっちゃ難しいです。
・ラクラン、マグル学の教授に就任
マグル学はクィレルがやってるくらいなので闇の魔術に対する防衛術ほどではないですが入れ替わりの激しそうな科目と目して、マグル界でも実績や学歴を持つラクランはいけそうだな、とダンブルドアからお手紙を送ってもらいました。スターウォーズ手回し上映は絶対ウケると思う.....。
ラクランはマグル育ちかつヨーロッパなどで多少知見を広げているので、より広く見渡す視点を提供できたら良いですね。
書画カメラ的なものはアズカバン映画でスネイプ先生が使ってましたが、光源さえルーモスすればいろいろなんとかなりそうですよね。
ジャファケーキはイギリスで個人的に一番好きなお菓子です。みんな好きなイメージ。
・スネイプ先生元気
若手教授、担当科目魔法薬学(下拵えなど大変そう)、寮監も引き継ぎ&傷心、めちゃくちゃハードな時期だと思います。でもスネイプ先生、めちゃくちゃ顔色悪い描写はあるのに弱ったところを三頭犬に足噛まれて治療中くらいでしか見せてない。精神的にも肉体的にも大変だし強靭そうには見えないけど、実はめちゃめちゃタフな人だと思っています。(裏でめちゃくちゃ元気爆発薬飲んでる可能性もある)。
というかホグワーツの先生方、教授なんですよね......お部屋の名前的にも研究もしているということで、研究&授業運営・計画・宿題評価&寮生活の監督はすんごい激務。