三匹の蛇   作:休肝婆

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 少しだけ埃の積もったガラスドームをよく絞った雑巾で拭き上げる。お掃除の一番最後、時間が余っていればやる作業だ。中には自分の母、父、祖父、何代もの屋敷しもべ妖精の頭のミイラが詰まっている。かつての表情は窺い知れないけれど、このガラスドームを磨くたびクリーチャーは背筋を正してきた。
 また廊下の方で奥様の叫ぶひどい音がして、近くの額縁がガタガタと動く。
「ああ、クリーチャーここにおったか!まただ、相手を頼む」
「かしこまりました!」
 ブラック家にお仕えし、忠義を貫いてきた。何代も、何百年も!これからもお仕えする。そして最後はあのガラスドームの中身になる。クリーチャーはそれしか考えたことはなかった。
 レギュラスぼっちゃまに優しくしていただいて胸が暖かかったのは確かだ。ラクラン様の心配りもありがたかったのも確かだ。だが、やるべきことは変わらない。

「穢れた血!先祖の屋敷から出ていけ!」
「シレンシオ!私の客人になにを言う?クリーチャー!」
「おやめください!あなたさまのお母様の肖像画なのです!」
「こんな守りの呪文を大量にかけて!燃やしてしまえ!」
「ダメ!ダメ!」
 店で遺言通り出来上がった肖像画を受け取ってからすぐ、レギュラスぼっちゃまはラクラン様を伴って帰ってきた。暴風雨のように罵詈雑言をラクラン様ご一家に叩きつける肖像画を、それでもクリーチャーは腕を広げて庇った。
 瞬間、目が合ったレギュラス様はとても傷ついた表情で、はっと息が詰まった。
「せっかく解放されたのに、なんだってそんな......」
 思ったことをそのまま言ったような口ぶりのラクランはすぐにパシッと自分の口を塞いでしまった、という顔をしたが、クリーチャーの大きい耳はしっかりと捉えていた。

「か、解放?」
 昨日、数十年前、百年前。ずっと同じように仕事を続けて屋敷に仕えるのが誇り。体が動かなくなるまで仕事をして魔法使いをお支えするのは名誉。
 すうっと胸の奥が冷えていくのを感じながら、クリーチャーは腫れぼったい目をいっそう細めた。
「まるでクリーチャーが、奥様から解放されたがっていたかのようにおっしゃる」
「言葉のあや!あやだよ、クリーチャー!君だってたくさん傷を作って、苦しい思いもしていただろう?」
「嫌だ!嫌だ!」

 ラクランが言葉を発して一歩歩み寄るごとに、クリーチャーはしわがれた声で叫んで腕を掻きむしった。鳥肌が立っている。ラクランも当惑して足を止めた。
 一呼吸おいたクリーチャーの顔が不思議に歪んだ。今までラクランが生きてきて、誰の顔にも見たことがない表情だった。沈黙が怖くなって、カラカラの唇を精一杯湿らせて口を開く。
「君は生まれてからずっとここだから、わからないのも無理はない。でも君は君として生き方を尊重されるべきだ。仕事の一環で治療が必要なくらい痛めつけられるような環境は正しくないんだ」
「それはマグルがマグルとして生きるための正しさでしょう?マグルは皆そうです!自分たちが一番上等で一番正しく一番ものを知っていると思い込んでいらっしゃる!クリーチャーは人間ではありません!クリーチャーの方法は違います!」
 クリーチャーが細めたことでほとんど見えなくなっていた黒々とした瞳が現れる。その視線はラクランの灰色の目とまともに合って、一瞬敬意に潤んだ後、グラグラ煮立って失望と嫌悪の涙を流し始めた。

「クリーチャーは、自分の幸せを知っています。クリーチャーの幸せは、永遠に!栄えあるブラック家の屋敷しもべ妖精であることです。このお屋敷の、屋敷しもべ妖精であることです!」




1987〜1988
三匹の蛇 40


 

 つがなく新入生がホグワーツに馴染んできた10月、枝先から黄葉のはじまった暴れ柳をたまに構いながら、羊皮紙を広げてクィディッチのフォーメーションを考える。ラクランにとってはかなり安全で、覗き見の不安もないから暴れ柳の下は最高のスポットだ。

 最終判断はキャプテンを中心とする選手たちだけれど、一応全寮考えておく。去年終盤から来年のことを考えるように宣言して世代交代は始まっていて、スタメンは概ね既存選手だからかそれぞれのチームに大きな混乱はない。

 

「先生、やっぱりここにいた」

「おっと」

 日が照ってきて暑いと思い始めたら、不意に視界に真っ赤な頭が二つ飛び込んできた。慌てて羊皮紙をかき集める。

「ゴホン!こんにちはウィーズリー兄弟。せっかく声をかけてくれたところ悪いけど、これは特にチャーリーの方には見せられないよ」

「こんにちは。ほら、この時期なら先生は絶対フォーメーション練ってるって言っただろ」

「ちぇっ」

 チャーリーはラクランに用はないようで、背の高い兄から1ガリオンを受け取るとわざとらしくひと噛みしてから手を振って去っていった。

「私を賭けの対象にするのは感心しないな」

「先生が全然研究室にいらっしゃらないからですよ。誰に聞いても居場所がわからないし」

「それは申し訳ない。私に何のようかな?」

 

 どっこいしょと立ち上がったラクランは、いちおう暴れ柳の射程から離れて城にむかってゆったり歩きつつ思案してみる。ウィーズリー兄弟の兄の方、ビル・ウィーズリーといえばラクランの教えるマグル学でもぶっちぎり、他の教科でも飛び抜けた秀才だ。新学期前の昼食会でも彼の話で持ちきりだった。

「実は、進路のことで相談が」

「まさか!......本当に?」

 空き教室に入った途端切り出されたことに、思わず茶化しそうになったところで踏みとどまり、ラクランはサッと杖を振ってティーセットを出した。

「先生が最初の授業で言ってたことが、僕はすごく好きなんです。ずっと目標でした」

「最初の授業?ああ、私たち人間は学びたいことを学び知りたいことを知って、自由に幸せに生きる権利があるっていう話だね」

 クリーチャーに欺瞞を訴えられたはかりで、例年のようにとはいかなかったけれど、今年の3年生にも話したばかりだ。すぐに思い当たってスラスラと言えば、力強くうなずいたビルの顔はわずかに赤くなる。4年生のときのビルがパッと蘇った。

「君のためを思って押さえつけてくるご家族と、君はうまくやってるみたいだって話したっけね。そのへんがうまくいかなくなってしまったかい?」

 すでにノッポだったけど、あれからグンと身長が伸びて顔立ちが精悍になった。でも優しげな瞳は変わらない。

 

 ふくろうを猛勉強する学生は身近にいた、勉強への目的意識や試験がこの魔法界という社会で持つ意味は他の先生や保護者よりわかっているつもりだ。本当は試験が人生を決めるなんてこと全くないという真実も。

「話しにくいだろうから私から当てようか、当然誰にも言わないし、遠慮はいらないよ。ほとんどの教科でのすばらしい成績は、選択肢を狭めないためにとったもの」

「ちが......」

「悪意とか戦略でないのはわかってるさ。ご家族に納得してもらうためにまずはどこでも選べる成績をとっておく必要があった。できるけどやらないと、できないは全く話が違うものな」

 なんだかスラグホーン先生の就職斡旋みたいだな、と思いながら懐かしの砂糖漬けパイナップルをつまむ。

「でも君はご家族の薦める職にはつきたくない、違うかい?ここからは教師への罪悪感なんてないはずだ。思うところを口に出してみて」

 迷いながらビルがいうことには、呪い破りに憧れがあると言うことだった。

「なるほどね。海外な上にかなり危ない仕事で、イギリス魔法界じゃあんまり話を聞かないとなるとハードルは高いか。ご両親には?」

「母が特に魔法省に入ってほしいようで、絶対反対されるからまだ......魔法省はたしかに安定してるけど、僕は安定のために生きてるわけじゃないんです。弟達もいるから苦労はさせたくないけど、でも弟達のためだけに生きてるわけでもない。僕は本物の魔法にたくさん触れて、もっと学びたいんです!」

「そこまで言えるなら十分!」

 

 ラクランは立ち上がってバシッとビルの背を叩き、レターセットを呼び寄せた。

「ちょっと待ってな、今書いちゃうから......呪い破りの詳しい仕事ぶりや報酬まで見えないと、聞いてる感じお母様に論破されそうでね......あと魔法省も勤めてたから言えるけど全然安定してないぞ、火の車だし事務処理は適当だし。そのへんお父様に聞いてみたらいんじゃないか......これでよし」

「これは?」

「知り合いの向こうの魔法に強い人宛さ、君からもお願いを書き加えて、君の名前で出すといい。何人か呪い破りと繋がりをつけてくれるはずだ。仕事ぶりを聞いてみてから、ご両親に話せばいい」

 呪い破りが全世界で活動するのかわからないけど、手紙をやり取りする以上不義理はできない。時間を使って個人情報をやり取りした後で、やっぱりやめますはダメだ。ビルは正しく意味を受け取ったようで、濃い青の目を爛々と輝かせて立ち去った。

 

 

 

 がまだ出てこない暗い空を窓越しに眺めながら、手を擦って見回りに歩く。

「このところはそういうわけで、おれはこれまで随分人間中心の価値観で生きていたけど、それもまた誰かには役に立ってて、難しいなってなって」

「きゅ、急に幼稚な感想になりましたね」

「だってなあ〜」

 人権っていうのは願いから生まれてきた理想だと思っていた。噛み砕けば人間が人間らしく生きる権利。まず願うためには生きていなきゃいけない。生きている上で、まだ生きていたいと願う、その願いが叶えられるための権利。クリーチャーがいうようなほかの形をいまだにうまく想像できていなかった。

 

「クリーチャーが言っていたこと、少しわかります。先輩は考えすぎというか、考えればわかると思っているんじゃないですか?屋敷しもべ妖精はそういう生き物だからそうなんですよ」

「どういうことだ?おれの考える生きる権利の主体に、人間(マグル)しか入ってなかったってのを痛烈に突かれたのはわかるけど」

「それもですけど、じゃあ彼にとって必要な権利はなにかって頭で考えてわかりきるのは、きっと無理なんですよ。魔法族はだいたい運良く生き残った事例が語り継がれて魔法生物に対処してるでしょう?」

「ああ、ディメンターとかレシフォールドとかな」

「当たり前に他の生き物も存在していて、時折ぶつかり合ったり死人を出しながら、ちょうど良い付き合い方を見出して今に至ってる感じが、クリーチャーにとっては当たり前で居心地がいいんじゃないでしょうか」

「居心地が良いっていうのは必ずしも善い状態ではないだろう?」

「でも、言葉を交わせるからって人間のように扱うべきだというのも決めつけです。それに」

「それに、人間なら善い状態がわかるというのも傲慢か」

「え、ええ......その、よくいう他人の靴を履くってやつを全否定するわけではありませんが。たとえば他人の靴を履くときに、いつもぴったりなサイズではないわけで、踵を潰してしまったりぶかぶかすぎたり、そういう摩擦はあるはずでしょう」

「なかなか上手いことを言うな、わかりやすい。違うものは違う。人間同士だって足のサイズが、まして他の生き物なら足の形やら本数やらまで違うものな。自分だけでなく他の人も、人間だけでなくほかの生き物も共に善い状態とは何か、それぞれちゃんと探ってかなきゃってことね」

 クリーチャーにビル、バーティ、いろいろな顔が脳裏を通り過ぎる。自分だけじゃない、魔法界、いやマグルの社会でだって全然できていないと思うし、ここホグワーツの教育でも然りだ。社会機能が弱く個人や家庭の実力が問われる分、とくに純血の魔法族は魔法生物とはうまく折り合えている人が多くみえる(折り合えなければ死んでしまう)。

 道のりの長さに足が止まりかけた時、暗闇からヌッと青白い顔が現れた。隣でクィレルが叫ぶ前にすばやくシレンシオする。

「なんでルーモスしないんですか」

「そちらは随分と、私語が多いようですが?」

「それは失礼。見回りは黙ってしなきゃいけないなんて規定はなかったはずですが」

 ちくりと言えば、スネイプはちょっと面食らった顔をした。

「......補助教授をつけるのはいいですが、あまり自由にしすぎないことですな」

「もちろん、友人のこともありますので」

 暗く澱んだ瞳はしばらくラクランを観察したあと、フンという鼻を鳴らす音と共に去っていった。

 同寮のよしみもあったしホグワーツの教授というタフな仕事の先輩として尊敬しているが、ダンブルドア一派とは結局緊張した関係だ。そこでおれがお膝元から外れる動きをしているわけで、どういうつもりか探りたいのはよくわかる。

 近くの肖像画がガタガタいって思考を呼び戻された。

「友人?ハッ!おい小童!うちのレジーはなんだかおかしくなっちまっとるぞ!本当に友達を思っているなら帰ってこないか!」

「ブラック教授、なんですって?」

 

 

 

 リスマスに向けてどんどん日が短くなっていくと、心を患っていなくても暗い気持ちになってくる。マグルの観光シーズンと、ビタミンDとかの話を授業でしたのを振り返りつつレギュラスの部屋のカーテンをザッと開けた。

「レギュラス、今日はパンがゆだけど食べられそう?できたらあたたかいうちに食べてね。冷めちゃっても食べたかったら、あっためるから言って」

 イザベラがほぐしたターキーを入れたパンがゆを運んできた。ニンニクやパセリの香りがふわっと部屋に広がる。

「いいね、うまそうだ」

 ほんの少し頷くのをみてそっと部屋を出た。調子が良ければ食べて、皿洗いもしてくれるらしい。

 

 顔を上げると目に涙をいっぱい溜めたイザベラが勢いよく振り返って飛び込んでくる。慌てて受け止めてから、緊張で冷たくなった手がプルプル震えているのに気づいた。

「全部やらせちゃってごめん」

「大したことじゃない。本当に大したことじゃないのに、あの人気にしてふとしたときに......」

「たとえ元気でもたんまりお給料をくれるはずだよ。もともとあいつは人の働きを見逃さないのさ」

「たしかに、聖マンゴの組織液で大変だったシーツ洗い、部屋にチップいっぱいだったわ」

 思い出してくすくす笑うイザベラに隠れてホッと息を吐き、杖を振ってみせる。

「実はさっき、部屋の中でなにか素早く大きな動きがれば、おれに通報してくれる魔法をかけておいたんだ」

「それってなんかやだ。監視カメラみたいなもんじゃない」

「正確には動体センサーかな。プライバシーは守ってる。こういうときは魔法に頼ろう」

「そうだね、シャワーだってスコージファイのほうがいいかもしれないし。魔法は使おう」

 ホリデーが明けて主治医のいる病院にかかるまでは、とにかくこの静かな日常を続けるしかない。

 

「どうだった?」

「血液検査の結果も悪くなくて、やっぱりうつ病の診断が出たよ」

 聖マンゴでレギュラスの腕を見てくれた医師に繋いでもらったマグルの精神科医にかかった結果は予想通りだった。

「ひどい無気力、食欲不振、不眠、不意の希死念慮、全部もらったハンドブックに書いてあった。この症状で健康で衛生的な状態が維持できてるのは素晴らしいケアって言ってもらえた」

 ダンブルドアにも情報を共有して、おれたち二人だけで戦ってる感は薄れた。一方で家に帰れば、クリーチャーが持ってきてしまった晩年のヴァルブルガさんの肖像画を見つめる強いストレスが待っている。社会的地位や表だった活動はできず、安心して過ごせるのはうちくらい。当たり前に心を病んでしまう条件は揃っていた。

 おれのほうはとっくに家族だって思ってるんだけどな。レギュラスは真面目だし、ブラック家のことだって大事だから。

「お薬は出たの?」

「いや、今は規則的な生活ができてるし、腕の方の薬もあるから服薬は慎重にしましょうって。君にはまた頑張らせちゃうけど」

「なにさ、家族だもの」

「ああ、そうだね......君だけには頑張らせないつもりだよ

ちょっとおれのほうでも考えがあるんだ」

 

 

 

 だホリデー気分の抜けない寸足らずなレポートにCをつけ、グーンと伸びをすると背骨が鳴った。

「わ、私は見回りにいってきます」

「ああ、悪いけど頼むよ。あんまり遅くならないようにね」

 クィレルを見送ってから板チョコを頬張る。

<おいおい、お前も若くないんだぞ>

「まだ25だよ、よし、今夜も頼む」

 新たに繋いでもらった暖炉に入り、フルーパウダーをかけて叫ぶ。

「アラン・ケイヒルの小屋!」

 かつての家からクラウチ邸へは慣れた道だ。姿現ししてバーティのいる部屋の窓が見えるところまで歩を進める。

「エクスペクト・パトローナム!」

 杖先から力強く吹き出した銀の大きな犬が空中で機嫌良く一回転して窓から入っていく。物体ではないからか、守護霊がベッドに座っているバーティの膝下で丸くなったのが見えた。そんなに長くは持たせられないけど、しばらくは一緒にいられる。

 再び姿眩ましして、今度はイザベラの家に行った。イザベラはやっぱり居間で寝落ちていて、隣の部屋の警報が鳴ったらすぐ気づけるようにか体がこわばっている。これは何度か警報が鳴ったかも。とにかく浮かせてベッドへ運搬してから、ラクランはソファをちょっとだけエンゴージオして眠りについた。

 

 手の中でぴくりと杖が震えるのに気づいて、ハッと目を開ける。窓の外はまだ暗い。部屋は暖かいが、ひんやりとした床を爪先断ちで歩いてレギュラスの部屋をそっと開ければ、義手を握りしめて床にうずくまっているのが見えた。警報一歩手前だ。

「レギュラス!」

「......なんで君がホグワーツから帰ってきてるんだ?私のせいか?」

 のろのろと視線を動かしてなんとか目を合わせたレギュラスは、絞り出すように言った。

「そうだよ、君のためだ」

 一歩近づきながらそっと開心術を使う。無防備な心は自己嫌悪と自責でいっぱいで、すぐにやめた。

「君はおれの友達、おれの家族だ。当たり前だろ、手を動かさなきゃ気が済まない」

 素早く袖から安らぎの水薬を取り出してスプレーを振り撒く。問答無用で心を落ち着かせる魔法薬は便利だけど、解決はしてくれない。

 

「君はおれに必要だ。君の強い意志があったからホークラックスの情報は集まったし、ダンブルドアに渡せた」

「......もう私は十分生きたと思わないか?十分家族に背いた。私は兄とは違う、あんなにのうのうと生きられない」

「君の兄はアズカバンだ。おれたちだって家族だろう?」

「私がいなくたって、君たちは」

「そんなことあるもんか!......ごめん。そんなことない、もう一生のうち半分以上一緒に過ごしてるんだ、そのうちじいちゃんより長くなる。長くするんだ」

 足は悴んでジンジンと痛む。膝をついてレギュラスに近づいて、そっと隣に座る。ラクランの青白い足に気づいたのか、レギュラスはベッドから毛布を引っ張ってきた。

「みんな同じ小さい星と思っていたのに、君は気づいたら太陽みたいになっていた」

「バカ言うなよ、みんなあっちゃこっちゃ行って大変なことになるから、なにも失わないためには手を広げるしかないんだ」

「君が一番あっちゃこっちゃだと思うけど......でもそうか、君がそうなったのは僕らのためか」

「そうだ!偉くなんてなりたくないし、こんなに苦労してお金を稼ぐ気もなかったのに!」

「そうだね、君は湖に潜って、箒に乗って、植物を育てるのが好きだった......」

 口元に久々の笑みを浮かべて、レギュラスはかくりかくりと船を漕ぎ、眠りに落ちていった。レギュラスをベッドへ寝させて、絶対に大きいカーペットを買うと心に決める。少し赤くなってきた東の空を窓から眺めてから、青白い寝顔を振り返った。

「好きでもないことだけど、でもやらなきゃならないんだ。お願いだ、元気になって。ダンブルドアだって闇の帝王を倒すことしか考えてないあとは野となれ花となれ爺さんだし、セブルスだってありゃどう見ても、終わったら死ぬ気だ。それじゃあナンシーはどうなる!ネビルは?あの子は?ホグワーツの子達は?」

 みんな好奇心に胸を躍らせる良い子達だ。かつてのおれたちがそうだったように。

「このままじゃ第二、第三の闇の帝王が生まれる。君の家のように分断される家も出る。友達が喧嘩以外の理由で友達をやめなきゃいけなくなる。考えてることがあるんだ、君なしじゃできない。どうか早く、元気になって」

 





 間が空いてしまいました......停滞ぎみな回でしたが、実は「ついに見えてしまった」と「いつか来るだろう」の回です。なるべくサクサクいきたい......。

・クリーチャー
 ドビーのような個体もいましたが、それは個体差であって、クリーチャー自身の幸せや誇り、アイデンティティは誰にもわかりません。レギュラスの温かい接し方にたしかに好感を持ってはいましたが、彼が原作でなにより苦痛と屈辱を感じたのはシリウスによる無視でした。ラクランはマグルの教育を受けてから魔法界へ進んだ人間で、「生ぬるさ」というか、代々いち生物としてほかの生き物と共生してきた魔法族とは違うものの見方をします。必ずしも権利意識や他者尊重について、人間が一番進んでいるわけではないかもしれない、が見えてきました。

・ビルの進路
 ちょうど6年生になったビル。パーシーは1年生で、すでにお下がりを色々使っていることでしょう。賢い分いろいろ思うところはあったでしょうが、原作の彼はしっかり考えて飛び立って行きました。原作で独力で就活成功しているので、あくまでラクランはアシストくらいのイメージです。でも、伝えた言葉が相手に響いていると言うのは嬉しいものですよね。

・バーティとレギュラス
 バーティはほぼ原作通りな状態ですが、レギュラスについても生き延びはしたものの失ったものが多く、また性質的にもこうなっちゃうかもしれないおそれはずっとありました。自分の人生は停滞しているようでとにかく手広くやってるラクランはゴリゴリ前に進んで見えるのも良くなかったし、一旦ダンブルドアとつながりをつけられてしまったのも大きな影響があると思います。
 魔法は根本的な解決にはならないですが、浮遊呪文やスコージファイは介護でめちゃくちゃ便利だよなあとは思います。
 生活習慣の改善は治療の基本のキなはずで、監禁状態のバーティはやっぱりよろしくないです。よろしくない環境で服従の呪文に抗う精神力を掻き集めるのに、彼は一体なにを燃やすんでしょうか。


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