アランはようやっとグラスゴーを去る日が決まった。
大量の車と人が忙しく行き交うこの町は、爺にとってはひどくうるさく、息苦しい。軍用トラックや軍用バイクの分解整備、運転をしたことはある。しかし辺鄙な土地に引き上げて久しいアランにとって、黒い煙と唸るエンジン音は、己の娘を思い出させた。
野山を駆け回って育った娘は、肝の据わった自慢の子だった。ラクランとは真逆で早く外へ出たいといって聞かない子で、セカンダリーを出たらあっという間に出て行った。
縁遠かった車への憧れが強く、事務員をやりながら方々バイクや車で走り回っていたはずだから、娘だってどれくらいグラスゴーにいたか知れないが。
あの悍ましい夜に帰ってくる半年ほど前、手紙で紹介したい人がいると言っていたから予想はしていたが、死後確認してみればグラスゴーのアパートは解約されていた。クリーニングが入って、家財は次の住人のものになっていたそうだ。
「戻ったらぜひ電話線をひいてくださいね。倒れたら自転車には乗れやしないでしょう。町の診療所とちゃんと連絡を取って通うこと」
「おあいにく、未舗装だから会社が社員に侵入を禁止してたりするらしいんだが」
「道路を使う人がいれば、修繕や舗装だって入るかもしれないでしょう?健気な電報を送ってくれるお孫さんにご遺体を見つけさせたいんです?」
数ヶ月ですっかり砕けた無愛想な看護士にそう言われてしまえば、電話を家に置くしかない。魔法使いの学校に行っていてフクロウで連絡を寄越すラクランが使うかどうかはわからないが。
同室の老人たちの助けられながら電話線の工事を依頼してから、タクシー会社に病院から電話した。この街へ来てから金が飛ぶように減っていく。
「えぇ?アーカイグ湖の辺り?ああダメダメ、うちは車を入れないよ」
「なんだと?おたくの車はそんな杜撰な整備をしてるのか」
「そんなこたないさ。スタックしちまったことがあるんだ。乗客の妊婦が歩いてって亡くなってねえ、刑事責任は問われなかったけど寝覚めが悪い話だろう?それで一台廃車にしてね」
社長婦人かなにかだろう、ぶっきらぼうな女の声に、アランは立っている地面が歪むような心地がした。
「.......それは」
俺の娘だ。
警察によると、アイビーはあの日、グラスゴーでタクシーを拾って、持っていた現金ほとんど全てをかけてフォート・ウィリアムのすこし先まで来ていた。タクシー会社が乗り入れを拒否している曲がりくねった未舗装路も走っていた。ひどく憔悴した青白い顔の女に運転手は怯え、大金をぶん投げられたこともあって、対応圏外まで乗り入れたそうだ。
けれど、未舗装路に慣れていない運転手は大きな水たまりでスタックした。湖の辺りまでは、あと5マイルほどというところ。便宜的に板を噛ませたりして、脱出を試みていたところ、運転手に断らずアイビーは車を降り、走り出したという。
しかし、しばらくの後破水。そして道半ば、赤子は生まれてしまった。アイビーはひどく出血しながら、赤子を抱えて根性だけで湖まで歩いたという結論になった。死因は出産時の異常出血ではあるが、無理が祟って早く生まれてしまったのかもしれない。
タクシー運転手を責められはしなかった。一生懸命生まれてきた孫も、もちろん。
病院にもかかっていなかった上、そもそもこの奥地。安全に家にたどり着いていたとて、輸血などもできなかった。アイビーはあの晩、どうあっても助けられなかった。それこそ、魔法でもなければ。
理解していても、そこの会社のタクシーに乗る気にもなれない。
娘の話まで語って聞かせる趣味はなかったが、顔色から何やら察したのか、同室の仲間たちは頭を捻ってくれた。
「タクシーはあそこしかないぞ、バスは」
「ダメだ、この傾斜地じゃカーブで車体がおさまらん」
「フォートウィリアムなら車屋がいっぱいあるだろう」
「整備屋しかないぞ」
「...ああ!わしの甥っ子で一人、気のいいのがおるぞ」
結局、メモ書きを持ってフォート・ウィリアムまでは電車で帰った。ホームに、白い歯が眩しい日焼けした男が待っていた。
「あなたがアランさん?」
「そういうお前はリチャードだな、爺さんに世話になった。よろしく頼む」
「お安い御用ですよ、なにせできたばかりの支店は暇なので。お小遣い稼ぎをしないと奥さんにどやされる」
ロンドンタクシーのように荷物の積み下ろしサービスはなかったが、リチャードの舌はよく回った。
「なんだってこんな僻地に支店を?」
「今は僻地ですが、鉄道に合わせて道路もどんどん良くなってる。お偉いさんがこのへんは一大観光地になると睨んでるんですよ。海風があって車が傷みやすいから、整備工にはうってつけというわけです」
「まあ確かに、景色は悪くないが。お前は整備工より、観光ガイドのほうが向いてるんじゃないか?」
窓の外を眺めながらなんとはなしに言えば、リチャードはしんと静かになった。気に障っただろうか?
「そうですね......今は山羊や羊の方がずっと多いですから、これでも無口になったほうですよ」
「すまん、なにか失礼を?」
「いえ、いいえ。昔つるんでいた仲間に、全く同じことを言われたことがありまして」
「ほう」
チラリと伺った顔は、確かに不機嫌な様子はなく、前を向いていた。首を傾げつつ、アランはゆったりと助手席に背を預ける。
すると突然、ギュッと負荷がかかり、アランは見事につんのめる。膝に抱えていたバッグに勢いよく鼻を突っ込んだ。バッグがあったおかげで難を逃れたが、あやうくフロントガラスから飛び出すところだ。久方ぶりにバクバクなる心臓を抑えながら文句をいってやろうとした矢先、慌てた様子でハザードを焚いてハンドブレーキをひいたリチャードが謝ってくる。
「すみません!つい」
「野うさぎでもいたか?」
「いえ、あの、えーっと。一旦店に戻ってもいいですか?アラン・ケイヒルさんでしたよね?あー!俺ってばなんで気づかなかったんだろう!!」
「店に戻るのは構わないし俺はアラン・ケイヒルだが。なんだって言うんだ」
「取りに行くんです。娘さんのアイビーが俺に預けてた三代目のバイク。もう15年はたつかなぁ。あいつ、今何やってるんです?」
三匹の蛇 9
キングズ・クロス駅からロンドン・ユーストン駅へと人混みをかき分けているうちは、口に笑顔の形が残っていたラクランだったが、ウェスト・コースト本線に乗り込んだころにはふるびた羊皮紙のようになっていた。
何度も乗り換えてはうとうとした。3回目くらいに目を開くと、傾き始めた日が車内をはちみつ色の光で満たしていた。足元と、自分のポケットを素早く確認してから、うーんと伸びをすれば、ばきばきと腰や足が鳴る。少し立ち上がって車内を見回すとほとんどの乗客の姿がなく、ちょっと前のラクランのように、船をこぎかけているおばあさんと目が合った。
「すみません、今どのへんかわかりますか?」
「もうすぐコラーさ、ぐっすりだったね」
目をこすりながら笑って教えてくれたおばあさんにお礼を言いながらポケットから自動巻きの時計を取り出して時間を見れば、夜の8時はまわっていた。もうじきフォート・ウィリアムだ。そこからさらに20マイルほど歩く必要があるけれど、まず日が暮れてしまうだろう。隣村で自転車を借りられれば良いけど…。
フォート・ウィリアムに着いたころには、やっぱり黄昏時といった感じになっていた。下車して、ホームのベンチで靴ひもをきつく締める。最悪、ベンチで朝を待った方がいいかもしれない。
「ラクラン」
しゃがれた声が、頭の上から落ちてきて、ラクランは手をとめた。息もついでに止めてしまった。
ずいぶんしゃがれているけれど、懐かしい低い声だ。でも、顔を上げるのはこわかった。ひげや髪はどうしているだろう?いつも通り?太っている?痩せている?怒っている?それとも......。
「ラクラン」
もう一度声がして、大きな古びた革靴の主は腰を折って、ラクランの固まっている手に、自分の手を重ねてきた。節くれだって、分厚くて、重たくて熱い。しわしわだけど、大樹のように堅いてのひら。ほぼ一年前にラクランの背をたたいたのと変わらない、じいちゃんの手そのものだった。
ラクランは詰めていた息を細く吐き出しながら、手から豊かな顎髭、そして自分によく似た目へと、そろそろ視線を上げた。
「なんだ、しみったれた顔をしやがって!」
鼻先をギュッと思い切りつままれて、あわてて迎撃しながら、ラクランはじいちゃんの顔を両手で包む。
「じいちゃんだってやつれた!心配したんだ、ものすごく。でもおれ頑張ったよ。みんなで寮杯もとれたし、バーティとは仲良くやってるし、期末試験だって大健闘だ!」
「そうまくしたてるな。車を頼んだんだ、待たせてるからさっさと乗りなさい」
「え!どうして車なんて…」
「病人が自転車を運転してると周りがうるさい。揺れるが、酔わないコツは寝ることだ」
「ひどいことおっしゃる。あの説はすいませんって言ったでしょ。やあ、初めまして。臨時運転手のリチャードだ」
「初めまして、リチャードさん。お願いします」
ガソリンをいれるにも遠出しなければいけないこのあたりだ。じいちゃんはたいていのことは自転車で済ませていたし、ラクランもそうだった。てっきり、どこかに泊まるのかとおもっていたのだ。ぼーっとしたまま白い歯を見せて笑うリチャードと握手して、車に乗り込む。
さっさと寝かしつけようとしてくるじいちゃんに、なにか言おうとしたけれど、無数の星も見えない曇った車窓は退屈で、ラクランはあっという間に眠ってしまった。
陽は長いけれど、日々はあっという間に過ぎていく。それくらい課題の量が多かった。
ラクランが遅めの朝ごはんにスクランブルエッグをかっこんでいると、窓をカシャカシャと嘴でノックしてメンフクロウが入ってきた。
「お行儀のいいフクロウだな」
工具類から顔を上げて不審そうにアランが言うのに、頷いたラクランは軽く手を拭いて立ち上がった。
「バーティの家のバーナードだよ。じいちゃんは初めましてだね。バーナード、ありがとう!」
手紙を受け取るかわりに水を張った盆を目の前において、ぴちゃぴちゃと水面をゆらしてやれば、首を傾げた後ピョンと盆に入って、軽く水浴びしながら水を飲んでくれた。
そのすきに手紙の封を切り、ざっと手紙に目を通す。
「悪いけどちょっと待ってて!今すぐ返事を書いてくるから!」
盆の水を花壇になげて、バーナードを見送ったラクランが戻れば、アランは居間で、ラクランが剥いて置いて行った封筒をしげしげと眺めていた。上質な紙に、黒に近い濃い緑に銀の印章が美しいシーリングスタンプ。この家には似合わないくらい豪華だ。
「随分、立派な友達らしいな」
「いいやつだよ、バーティは。返して」
言い方がはなについて、ラクランはうなるように言って封筒をひったくり、部屋にひきあげた。バーティの手紙はこんな具合だった。
―ラクラン
課題は順調に進んでいるか?君のことだからうまくこなしていると思っている。
僕の方は課題は概ね終わったが、念のため復習をしているところだ。教科書の案内が届いたら、2年生の予習をする。
ロジエールたちがクィディッチをやるといってきかなくて、3回ほどミニゲームをしたが、ロジエールがパーキン挟みされて左腕を骨折した。おかげで課題に専念できるようになったけどね。
君は夏休み中クィディッチをすることはないと思うけど、骨折にはくれぐれも気をつけて。
p.s.母上が夏の日差しが強いと話しているが、日陰をつくるのになんの植木鉢を置くのがよいだろう?おすすめがあったら教えてほしい。
バーテミウス―
「はは、ミニゲームでパーキン挟みなんて、エバンはマルシベールとエイブリーでも連れてきたかな」
ラクランはバーティの愚痴まじりの手紙に、目を輝かせて笑った。じいちゃんや、鍛冶屋に出入りしていると、魔法はまったく使えない。使ってはいけないから仕方ないけど、こんなに暑いと怪我をしようが風を切ってクィディッチできるみんなが羨ましかった。
「自転車でも漕いでこようかな」
バーテミウスはこのところ母と骨生え薬(スケレ・グロ)の味の改善を試みている。ティースプーン一杯だけのんだロジエールが、あんまりにも衝撃的な顔をしたので。地下室は煙でもうもうとしているが、石造りのおかげでひんやりとすずしく、籠るのに適していた。
と、カシャカシャと扉が鳴る。
「ぼっちゃま!おくさま!バーナードが戻ってまいりました!」
ウィンキーがキーキー声で扉越しに伝えてきて、バーテミウスはパッと扉を開ける。
バーナードから手紙を受け取って礼をいうと、後ろに着いてきていた母上が肩に手を添えた。
「母上?」
「お友達からの手紙がそんなに楽しみだったの?部屋の温度変化が影響する魔法薬もあるのだから気をつけないと。バーナード、スコージファイは?」
ああ、とバーテミウスは頷く。フクロウはいろんなところを通るし、羽が汚れるので健康のためにも、こまめにスコージファイが必要なのだ。
母上が淡く微笑みながら、杖をすい、と構える。
けれど、バーナードはギャー!と鳴いて首を振った。
「あら?綺麗好きのあなたにしては珍しい......」
「ラクランは生き物が好きなので、水浴びかなにかさせたかもしれません」
「相変わらず気が利くこと。こう暑いと、さぞ気持ちよかったでしょうね。それじゃウィンキー、バーナードに良いご飯をあげてちょうだいね」
「かしこまりました!」
―親愛なるバーティ
お元気ですか?宿題はぼちぼち進んでいます。課題のことをまっさきにきくのが君らしいけど、おれは君の体調も気になるから教えてくれ。元気にしている?
おれのほうは友達と湖にザリガニ漁に出たりしています。じいちゃんは近くの町で見つけた母さんのバイクを整備するのにかかり切り。バイクは車のタイヤが二本しかない、自転車に車のエンジンを積んだような乗り物です。じいちゃんは昔運転していたらしくて、乗るのが楽しみ!だけど、そろそろ箒が恋しいです。
植木鉢のおすすめはブルブル震える木です。ブルブルというけど、温室で見る限り、風に当たるようにいつも穏やかに揺れているよ。涼しく見えると思う。冬に部屋にあったらさむそうだけどね。
p.s.2年の教科書、ダイアゴン横丁へ買いにいったらいくらかかったか教えてほしい。それから、汽水域のエイル湖で不思議な形の海藻をみつけたので、干したものを同封します。
君の友人ラクラン―
「それじゃ、行ってきます」
「ああ」
長い夏休みも終わり。正確にいうと、明後日で終わりだ。1日かけてロンドンまで出て、漏れ鍋からダイアゴン横丁へ行き、教科書の調達をする。
ぴかぴかの電話で連絡して、迎えに来てくれたリチャードに手を振った後、今日も朝っぱらから背を向けてもうピカピカなバイクを整備するじいちゃんにラクランは声をかけて、そっと目を伏せた。
じいちゃんとまた元気に会えて、本当に嬉しかったし。自分の一年の頑張りを語って聞かせるのは誇らしかった。けれど、魔法界の話をしても、じいちゃんは目を輝かせたり、しわくちゃにして笑わずに、神妙な顔で聞くだけなのだ。外に行っていろんなものを見てこいというから行ったのに、じいちゃんは魔法が嫌いなのかも。
そう思って魔法について話すのを我慢しても、湖にボートを出したり、泳いだり、自転車を漕いだり、鍛冶屋や時計屋で話を聞くたび、魔法で試してみたいことも、どんどん増えた。
おかげでバーテミウスはもちろん、エバンから送られてくる手紙を何度も読み返したし、お兄さんのことでいろいろあったとかで、マグルの家に手紙を送れないレギュラスとは、エバンの手紙を通してクィディッチの戦術談義をした。みんなに会うのが待ち遠しい。
家の周りの湖や山は変わらず好きだけれど、自分はホグワーツの生徒で、もうアーカイグ湖のラクランではないのかもしれない。
じいちゃんの無愛想な背中は、そう突きつけてくるようだった。
ホグワーツ特急はいつも慌ただしい。
前日からロンドンに入っているラクランでもそうなのだから、朝に煙突飛行なんかでマグルだらけの場所へやってくる魔法族は尚更だろう。レギュラスとエバンが疲れ切った様子でコンパートメントにやってきて、ラクランは素直に同情した。
「二人はバーティみたいに屋敷妖精に連れてきてもらわないの?」
「いるならお願いしたいとこだけど、うちは母が兄の家に遣わせたから今いないんだよ」
「クリーチャーは頼めば送ってくれるだろうけど、他の仕事が多くて可哀想で...」
涼しい顔して隣に座っているバーティを手で差して問えば、エバンからは羨ましさたっぷりに、レギュラスは困ったようなほほえみを添えて返してきた。
「まあ一人だけで家の全部をこなすなんて妖精でも難しいよな。バーティも来年は来てみたら?一度この人混みに揉まれとくのも経験だぞ」
「僕は父上のお仕事の関係もあってウィンキーと共にいるんだ」
「君なあ、あ!こんなことしてる場合じゃなかった。エバン、レギュラス、くる途中でフランク・ロングボトムをみなかった?」
ラクランが慌ててガバリと立ち上がれば、なんだ、とバーティは眉を顰めたが、エバンは伺うように眉をあげた。落ち着いて答えてくれたのはレギュラスだった。
「ロングボトムなら、女子生徒と前の方のコンパートメントにいたはずだが」
「さすがレギュラス!ちょっと出てくる!」
フランク・ロングボトムには、一年生の時トランクを積むのをたすけてもらった恩がある。フランクのちょっとした親切と無口さがなければ、ベラはラクランをうまいこと勘違いしたりもせず、今ほどみんなと仲良くなっていないかもしれない。クリスマス休暇はバタバタしていて、スリザリン寮内で送りあって満足してしまったけれど、フランク・ロングボトムにも渡すのが筋に思えた。お金はないので、時計を見てもらうついでに彫金を簡単に教えてもらって、あっても困らなそうなネクタイピンを作った。小さいものだし、さっさと列車で渡してしまいたかったのだけれど、結局列車では渡せなかった。
「そういえば、君が気にしていたロングボトムへの用事は?」
思い出したように水を向けてくるバーテミウスに、ラクランも肩をすくめてみせる。いつあってもいいようにポケットに忍ばせているというのに、組み分けから1ヶ月経ってもまだ渡せていなかった。
「なんだか今年は水と油すぎて、ぜーんぜんその機会がないんだ。こまったもんだよ」
4年になったマローダーズが組み分けの後の食事からかっ飛ばしたせいで、去年以上にスリザリンとグリフィンドールの間はピリピリしてる。
「まあ、ハロウィンで渡すのも悪くないんじゃないか?」
「トリートじゃなくて、れっきとしたお礼なんだけど。ああ!なあそういえば、今年の一年生にも忠告が必要じゃないか?」
ベラは長期休暇が終わっても変化は見られなかった。去年はスリザリンの淑女に相応しく、なにくれとなく世話をやいてくれたわけだが、そのブームは過ぎ去ったようだ。でもありがたかったのは確かだし......。
「君にそんな余裕があるのか?」
「ないよ、もちろん」
「堂々と言うなよな」
「言っても通じなさそうな子にそんな労力はかけないさ。助けたいなって思った子たちだけ、努力してみる」
スリザリンと、それからレイブンクローはやっぱり比較的落ち着いた子が入ってくる。図書館にバーティ曰く、テスト前のレイブンクローはちっとも落ち着いてないそうだが。ラクランとしては品性があるとはいえない先輩のイタズラにゲラゲラ笑ってるグリフィンドールと、我関せずとばかり内輪で固まりがちなハッフルパフはいらないだろう、と思っていた。
「手紙を飛ばす方法を教えてやろうか。母上と父上の仕事場へご挨拶に行く用があってね、魔法省は紙飛行機で省内でのやりとりをしていたんだ」
「へえ、チャームか?そりゃいいな」
朝食の席でばら撒けば話がはやい。クィディッチチームの選考会に向けた練習もあったから、夜にいくらかバーテミウスにも手伝ってもらうことになった。
「だから、パーキン挟みには高速ウロンゴング・シミーがいいと思ってたんだ...あ!ねえレギュラス、君、おれに目くらまし呪文かけられる?」
「少しなら.......急にどうした?」
「朝食の席でちょっとしたハロウィン警報を出そうと思ってね。あいつらと違って、おれは目立ちたいわけじゃないし」
朝練からそのまま朝食へ移動しながら、ラクランは思いつきで目くらまし呪文をかけてもらうことにした。物にはかけられるけど、生き物にはまだまだ練習中だから。
朝食の時間になって、ワッと皿にご馳走が現れる。いつもの通りエルダーフラワーコーディアルで口を湿らせてから、人が溢れてきたあたりで、レギュラスの裾を引っ張った。
レギュラスが小さな声で唱えてからふい、と杖を振るのが見えたので、あとからやってきたバーテミウスの前で手を振ってみたが、バーテミウスは気づかずに、おはようございます、ラクランはどこです?なんて言っていた。流石の腕前だ。
卓の下に潜り、小さな紙飛行機たちをつめた空き瓶をポケットから取り出してコツコツと杖で叩く。
「ウィンガーディアム・レビオーサ」
囁きでも、きちんと紙飛行機たちがふよふよ瓶の外に出てきた。これを、空気の力を使って瓶に詰める。魔法の力で詰めて、自分に戻ってきたらいやだから、あくまでイメージは飛行機の周りの空気をエンゴージオしてる感じ。狙い通り、瓶に空気の力によって、すいすいと飛行機たちが逆戻りする。
「うまく行ってくれよー...ワディワジ!」
しゅるる!と狙った通り、瓶の中でもふわふわとちいさく彷徨っていた紙飛行機たちは、あてもない空間に「逆詰め」されようと勢いよく飛び出した。あまりの勢いに紙吹雪のようになるかと思われた小さな紙片が、魔法の力でピシッと紙飛行機に戻って、一年生のいるあたりに降り注ぐ。ヨシ!
「どうやってばらまく気かと思っていたが、随分めんどくさいことをしたな。僕ならヴェンタスを選ぶ」
わらわらと手紙に集まる小さな頭たちを眺めながら、バーテミウスが文句をつけてるくるのに、ひょいと肩をすくめてみせた。
「できる呪文で頭を捻ったよ。勢いが大事だから一個一個浮かべるのは芸がないし、でも一年生に安全に取ってもらわなくちゃ。レギュラス、協力ありがとう」
「お礼はフラップジャックでいいよ」
「あれ、そんなに気に入った?」
ハロウィンはやっぱり甘ったるい匂いで目が覚めて、しょっぱい顔で塩バターのワッフルを頬張る。しょっぱいのが殊更うまい日だ。
大広間では、やっぱりマローダーズがバカ騒ぎした。ラクランがやった紙飛行機の騒ぎに影響されたのかはわからないけれど、大広間の荘厳な蝋燭をサバの群れのように動かし、食器や料理を跳ね回らせた。去年に引き続き、ローブの色を変えたり、体の一部を悪趣味に変身させたりもしているが、紙飛行機の甲斐あってかレイブンクローとスリザリンはそこまで被害がないようだった。
絵面は愉快ではあるが、万全な状態で盛り付けしてくれている屋敷妖精を知っていれば、料理が冷まされるところはあんまり気持ちの良いものじゃない。ラクランたちはスリザリンの上空にフィニートを唱えて回った。一人のレイブンクロー生なんて可哀想なことに、背中に縋りついたテディベアにポコポコと頭を殴られて啜り泣いていて、慌ててひっぺがしてやった。
「あれ?あの人...」
「なんだ?」
「あの人、前に柳のところで会った人だ。ほら、前に言っただろ?傷だらけだった」
3皿目のトライフルにとりかかるエバンの肩を叩いて、バレないようにバカ騒ぎしてるグリフィンドールの方をフォークでちょいちょいとさせば、行儀が悪いと言わんばかりに下げられる。
「ありゃグリフィンドールの馬鹿4人組じゃねえか。たしかあいつはリーマス・ルーピンだ」
「え!マローダーズってくしゃくしゃと黒いのだけじゃないんだ!?」
「のっぽとチビも一応仲間らしいぜ。目をつけられてないといいな......おい、こっち見た!つけられてんじゃん!」
「君たちうるさいぞ!」
傷だらけののっぽ......リーマス・ルーピンと、ついでに彼の隣にいた黒髪のシリウス・ブラックとも目が合う。ラクランは逸らすのもバツが悪くて、一瞬睨み合ったが、シリウス・ブラックが何か言って、二人ともどこかへ歩いて行った。
「あれには気をつけるように。あんなでも、魔法は秀でているから」
「コイツらは去年身をもって知ってるよ」
「ああでも本当に、今はもうなにを考えているのかわからないからね」
そういったレギュラスの顔を見ても、わかりやすい感情の色は読み取れなかった。
ハロウィンの熱狂が過ぎ去るまもなく、クィディッチシーズンに入った。
一番重要なポジションといえるシーカーとキーパーの選考から始まって、レギュラスは正シーカーをかちとった。背も伸びてきてラクランも当たり負けすることが増えてきた上に、敏捷さは変わっていないから妥当だろう。
ラクランも夏のブランクはあるとはいえ、かなりハードな朝練をしている自覚はある。スラグホーン先生のレギュラスご贔屓許可証ありきではあるが、他の純血育ちに負けるつもりはなかった。バーテミウスはクィディッチより勉強に専念すると決めているが、スコープ片手に応援には来てくれた。エバンは夏に骨折したものの、選抜入りを諦める気はないようで、競技場の芝にいち早く足をつけると、ライバルだな!と肩を叩いてきた。
「君の希望ポジションは?」
「俺はチェイサー!パスワークが得意だからな」
「おれはビーターだよ、バットさばきには自信がある。お互いうまくやれるといいな」
「お前は学校の箒だろ?悪いがベンチ枠なら俺がいただきだな」
残念ながらその通りになった。
箒は競技用のものはとても高価だ。プロリーグレベルではないにせよ、新しく製造された箒と、倉庫で眠っている箒の一番マシなやつを一生懸命手入れしても、まあマシ程度に持っていくのが限界だった。それ以上に、速度やライン取りはラクランのほうがうまくても、競技場でのマークの仕方やポジション取りは、エバンのほうが圧倒的にうまかった。競技場で練習してこなかったツケともいえる。団体競技なのだから、サッカーと同じで、ボールが近くにないときの選手の動きも大切なのだ。競技場に立たないとわからないこともいっぱいある。
「惜しかったな」
「残念だけど、エバンがベンチ入りして当たり前の実力差だったよ。おれのぶんも頑張ってほしいね」
「ロジエールは狡猾な立ち回りが誰よりうまい......背中に目がついてるようだ。それより、あっちのスタンドにフランク・ロングボトムがいるぞ」
エバンにがんばれよ!と拳をお見舞いして、スタンドに行けば、バーテミウスが寸評してくれる。辛口だが間違いない。
「あれ?ほんとだ。グリフィンドールも選考会だっけ。誰かの応援に来たのかな」
「行くか?」
「行くだろ!」
ガタガタと木造のスタンドを鳴らしてグリフィンドールのエリアまで走っていけば、相変わらず無口なフランク・ロングボトムは顔だけラクランたちにむけた。
「あの!おれスリザリンの2年のケイヒルです!去年、ホグワーツ急行にトランクをつむのを、手伝っていただいてありがとうございました。これ、よかったら使ってください」
いつも常備してたポケットの中の黒い化粧箱を取り出して、フランクにずいと押し付ける。フランクがまばたきしたのを了承と受け取って、周りからの視線が居心地悪かったラクランはでは!と踵を返そうとした。
「待てよ、ロングボトムになにを渡したんだ?呪いの品か?」
「は?あなたには関係ないでしょう。お礼の品でそんなもの渡しません」
げっ、という顔を思い切りしそうになって、慌てて頬の内側を噛む間に、バーテミウスが迎え撃つ。
「そ、そうです。遅くなって申し訳ないですが、呪いの品なんて決して渡したりしません」
「お前らなんて信用ならねえよ、くされ純血主義のスリザリンども」
また吠えるように笑って浴びせかけられる強い言葉に、はく、とラクランは口を動かした。スリザリンは表立って堂々と人を中傷するというのはあまりない。今はなくなったマグル育ちらしいという噂も、コソコソくすくすとやられる感じで、こんなふうに真正面から怒鳴られるということはなかった。
「ブラック、いいから。わざわざありがとう」
ロングボトムが、しゃべった.......
シリウス・ブラックにもたらされた混乱は、フランク・ロングボトムがはじめて立ち上がり、声を出したことで完全に上書きされた。
「あぁ、えっと、では...」
なんとか混乱から回復したバーテミウスに促されて、ラクランは礼して去った。混乱から復活したシリウス・ブラックが、また警戒心たっぷりに灰色の目を光らせている気配はしたが、振り返らなかった。
「それで?ロングボトムはどんな声だったんだよ?」
「それが覚えてないんだよ、魔法みたい!」
「本当に綺麗さっぱり思い出せないんだ。喋った、ということが衝撃的すぎて」
「お前たち忘却呪文をかけられたわけじゃないよな?」
「あー!!スニッチ見つけた?」
初戦はスリザリン対ハッフルパフ。ハッフルパフの統率の取れた守備は手強いが、芸術的なパスワークと撹乱でスリザリンが幾度もゴールに迫る。割合穏やかな試合展開で、世間話をしていた矢先にレギュラスが地面に向かって突っ込んでいった。
「いや...フェイントだ!かかった!」
「ヒュー!」
フェイントをかけてすんでのところで上昇したレギュラスに対して、ハッフルパフのシーカーが必死に上昇したこころで、速度の緩まった的に向かってビーターがブラッジャーを打ち込む。上昇速度はめいっぱいだし、下へいけば地面!
「あー、うまいな。ナマケモノ型か」
「でも足止めだ、スニッチはどこに...」
「見て!いた!獲った!!!」
ビーターから、上空のレギュラスの位置を目で追っていたラクランが指差して叫んだ次の瞬間、スタンドが轟音で溢れた。
スニッチを掴んだ拳を天に掲げ、堂々と競技場に着陸したレギュラスはスリザリンチームにもみくちゃにされる。マフラーを振り回しながら歓声をあげるラクランたちの方をみて、レギュラスは紅潮した頬をあげ、堪えきれないように口を開けて笑った。
談話室は夢のようだった。いつも少し暗い湖の底に位置する寮が、花火や蝋燭でキラキラとかがやき、持ち寄った高級菓子たちの包装が舞う。食堂から持ってきたかぼちゃジュース片手に戦術ボードで今日の戦術がいかに美しかったかを幾度となくキャプテンが熱弁した。
「よう、今日のヒーロー!」
「ビーターの彼にいうべきだろう。的確なショットだったし。この作戦はバーテミウス発だし」
「いや、僕はただ考えただけで...」
「作戦もビーターもすごかったけど、レギュラスのウロンスキー・フェイントの冴えがあってこそだろ!」
「君と練習したおかげだよ」
初戦で美しく勝ったことは、ハメを外すに足るだろうに、レギュラスは嬉しそうなくせして、もういつものおとなしさに戻ってしまっていた。
「祝われすぎて疲れちゃった?」
「いや、そうだな......小腹が空いたから、フラップジャックが食べたい」
「それは焼かないとないぜ」
談話室のガヤガヤからひきあげてきて、バーテミウスとの二人部屋へ入って仕舞えば嘘のように静かだった。
レギュラスはふーっと息をはいて、すすめた椅子に腰かける。エバンは変わらぬテンションで、ラクランのベッドにダイブした。
「やめろよ、ホコリが舞うだろ。なにが飲みたい?ホットミルクとか?スプーキー、今いいかい?」
「はい!今日はブラック家のおぼっちゃまもお越しなのですね!」
「僕のことはレギュラスと呼んでおくれ」
「はい、レギュラス様!」
ポン!と音を立てて現れたスプーキーはちょっと洗濯のりの匂いがして、ごめんよ、といえば首を振られた。
「スプーキー、夜だし、なにか落ち着いて飲みたいんだけど、いいアイディアある?」
「ラムココアはいかがでしょう?ココアを作る鍋でアルコールを飛ばして、甘めに」
「美味しそう!それ作ろう」
「あとフラップジャック」
「はいはい。バーティ、暖炉の方でフラップジャックを頼む」
「バーテミウスも料理するのか?」
「ふくれ薬より簡単ですよ。魔法薬みたいなものです」
「たしかに!二人で飲むスープは綺麗な大鍋で作ったりもするしな」
「ゲェ〜ちゃんとスコージファイしろよな〜」
「もちろんしてるとも」
ラムココアはココアの香りとラム酒の香りがお互いを引き立てあって、腹がホッと温かくなりそうな香り。バーティがざっくりと鉄板に敷いて、そのまま火にかけた焼きたてのフラップジャックはふにゃふにゃであつあつで、大騒ぎになった。
レギュラスの顔に競技場で見たような血色が戻っているのに、バーテミウスと顔を見合わせて笑う。なんだって名勝負の立役者が縮こまってしまったのかはわからないが、ひとまず元気になってよかった。
「君たちもあの集まりにいたかっただろうに、気を使わせて悪かったね」
「気を使わせてる自覚はあったんだ?」
「おい、エバン」
ココアを片手にレギュラスが口を開いたのに、すかさずエバンが攻撃する。
「おれたちはただ、今日一番喜ぶべき人が嬉しくなさそうだったから、どうしたら喜んでくれるかなって」
「そうだ、どうして、試合後のあの顔が談話室までもたなかった?」
再びエバンがラクランに続いて突っ込んで聞けば、レギュラスは少し笑ってココアのマグを握る。
「簡単なことなんだ思う」
「簡単?」
「箒に乗っている間は全てがどうでも良くなるというか...競技場は切り離された、クィディッチのルールしかないところだから。あそこで揉みくちゃにされてるうちは、素直に正シーカーとして良い仕事ができたことが嬉しかったんだ」
「良い、じゃないよ、最高の仕事だ!」
ラクランはマグをドンと置いて主張した。事実、鮮やかなウロンスキー・フェイントのタイミング、精度、スニッチの補足、ビーターとのコンタクト、全部最上級だった。
「はは、ありがとう。それが地面に降りて城内へ戻った途端、家や兄の話が聞こえてきた。僕はブラック家として誇りもある、けれど......それとクィディッチは別というか。先輩から正シーカーを奪ったのは僕の実力だ。そこで忖度してくれるほど甘いチームじゃない」
「そりゃもちろん。じゃなきゃ俺だけじゃなく、ラクランだって楽勝に入るはずだ。忖度されてたらってことじゃなく、そんなレベルのチームならな」
「つまり......家のことやチームのことを言われて悔しかった?」
「いいや、そうじゃない。なんて言ったらいいか......僕は僕という人間が所属していることで、チームに、チームの勝利に文句をつける隙を与えてしまったように感じたのかも。実際、実力でとったと思ってるけど、前の正シーカーはまだ在籍しているしね」
「難しいな。おれは僻まれるような家の出じゃないからわかんないかも」
ラクランは、頭を抱えてエバンの隣、自分のベッドに寝っ転がってから、ふと思い立って無理やり挟んだサンドイッチみたいに丸まっている聖書を鞄から取り出した。バーテミウスはちらりと見て、ああと頷いた。
「いつも君が持っている本か」
「そうだよ、母さんの遺品。キリスト教の聖書でもある。二人にはちゃんと言ってなかったけど、母さんはマグル、父さんは知らなくて、少なくともおれはマグルのじいちゃんに育てられた、半純血かマグル生まれ」
「なんとなく知ってたぜ。ケイヒルなんて聞き覚えないからな」
「だろうと思ってたよ。でも初めて話すのは本当だ。その......二人には隠しててごめん」
「まあ、暗黙の了解だったから気にしなくていい。きれいに騙されていたのはベラくらいだ。一年で君たちを侮蔑すればかえって純血の恥になる状況を作ったのだし、文句はないよ」
「僕たちの作戦まで読まれていたとは...」
「えー!俺は超やる気に溢れた奴らだって思ってたのに!そういう腹かよ!」
「やる気があるのは本当だよ。裏の狙いがあっただけ」
いつも携帯していたけど、魔女狩りの歴史を魔法史の教科書で読んで以来、これが"聖書"であることはバーティに喋っただけだ。読み物としての聖書が憎しみの目を向けられたら悲しいという以上に、母の遺品を肌身離さず、大事にする役目がラクランにはあったから。
「うちの母のような考えの方の前で堂々としゃべるのはすすめないが、お母上の遺品なら大切にすべきだ。ところで、君のお母上はいつ?」
「正確にはなんにもだけど、おれを産んですぐらしい。だから父親もわからないってじいちゃんが言ってた」
「それは...気の毒に」
「記憶がないんだ、悲しくもない。でも母さんの思い出がないからこそ、これが大事だ」
慎重にペラペラとまくってみせれば、ピシッと伸びた月桂樹やナナカマド、クルミの葉がページに挟まっているのが見える。エバンは神妙な顔で細長いクルミの葉を手に取って、葉柄をくるくるまわした。
「母さんが葉っぱを挟んでるこれが、おれにとっては唯一、母さんがどんな人だったか知る方法。ま、適当に押し葉を作っただけかも知れないけど。レギュラスにぴったりの言葉もあるんだ」
「鉄は鉄をとぐ、そのように人はその友の顔をとぐ」
「レギュラスはレギュラスであって、ブラックじゃない。体の強さはおれとどっこいだし、料理の腕前はエバンとどっこい、魔法の知識ははたぶんバーティとどっこいだ」
「ふふ、随分強力な"鉄"たちだね」
「おれは身長もっと伸ばすし、強くなるよ。小石投げつけられてちっちゃい傷でいちいち凹まれてたんじゃ、張り合いないぜ」
「僕も、ブラック家とことを構えるつもりなんてものはないですが、あなたと真正面から討論したり、競争するのは好きです。"顔"をとぐとはそういうことでしょう......ロジエールは違うようですが」
バーテミウスがはぁとため息をつく視線の先を辿れば、がー、ぐぉーと気持ちよさそうなイビキをあげるエバンがいた。
「あ〜エバン!起きろよ!いい話だったのに!お前は今日、なんにもしてないくせに〜!!」
「ラクランうるさい。諦めてお前は談話室に行け」
「談話室まだ賑やかだから、諦めた方がいいね。
エンゴージオ!ほら、熱烈な励ましのお礼だよ」
「よかったなラクラン、立派な寝床だよ」
「ひっでえや!友達をクッションで寝かせるなんて!」
「安心をしよ。目くらまし呪文と違って、エンゴージオなら朝まで保つから」
立派なベッドじゃないか、なんてぬかして、バーテミウスはさっさと天蓋を閉めてしまう。もう諦めるしかないラクランは、レギュラスに苦々しくお礼を言って、エバンの顔にはインク壺に突っ込んだ指で落書きした。
Sleep robber!
エバン・ロジエールくん、学年謎すぎてバーテミウスと同い年にしてますが、卒業後間もないだろう時期にマッドアイ・ムーディの鼻を奪う凄腕なんですよね。
この辺の世代のスリザリン生え抜きすぎる。というより、闇の魔術にどっぷりつかって、頑張って強くならないと生き延びられそうもない世代...。
これからだんだん暗くなる予定です。