ようこそ純愛過激派の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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1人の女の為にがむしゃらに頑張る主人公。良いと思いませんか?



第1章
たった一つの確かなこと


 

 

 

 ────答えの無い問いは案外多い。

 

 有史以来、人は世の理に答えを求め、それを解き明かして発展を遂げてきた。それらは『科学』として、現代を生きる我々の生活を支えている。

 身近なモノを例として挙げると、水という物質は水素と酸素の化合物である。これは義務教育を終えた人間なら、誰しもが知っていることだろう。しかし、この子供でも知っている知識は先人たちが人生を捧げ、後世に託し繋いで来た英知の結晶なのだ。

 

 そしてそれと同時に、人々は『答えの無い問い』についても議論を交わし、その学問を発展させてきた。

 人はなぜ生きるのか。幸福とは何なのか。正義とは何なのか。平等とは何なのか。

 

 このような、人によって千差万別の答えがある学問を、人は『哲学』という。

 ……もしかしたら、この世の中には決まった答えのある問より、答えなんて無い問いの方が多いのかもしれない。なぜなら、その答えのない問いを生み出すのも人間なのだから。

 

 っと、話が逸れたが、俺が話したいのは後者、哲学についてである。

 俺は齢16と、まだ義務教育を終えて間もない小童だ。しかし、この16年という短い時間で、俺には先ほど挙げたような問いに対して、俺なりの『答え』という物が形成されてきた。

 俺の趣味として、この答え……価値観ともいえるだろう。これを他人と議論することが挙げられる。

 難しい言い方をしたが、皆常日頃からやっていることだ。

 

 例えば「昨日の○○見た? 超面白かったよね!」「分かる!」……このような会話だ。これも言い換えれば価値観の共有となるだろう。

 なぜ面白いと感じたのか、逆にここは改善してほしかった、何故ならこういう理由があったから。などのやり取りは、お互いを知り交友を深める点で欠かせないやり取りだろう。

 常日頃新しい価値観を受け入れているためか、俺は俺の価値観と異なる意見をぶつけられたとしても、それを拒否するようなことは基本的にしない。()()()()()()()()……だが。

 

 

 

 

「だーかーら! お前も食わず嫌いしないで見てみろよ!」

 

 沈んでいた思考の海から引き上げるように、対面に座っていた友人……池寛治が大げさな声を上げ机をバンバンと叩く。

 ……そうだった。俺は友人と放課後、ファミレスで食事をとっていたんだった。一度考え込むと周りが見えなくなってしまうのは、昔からの悪い癖だ。自重しないと。

 しかし彼のその発言は、俺にとって到底許容できるものではなかった。

 

「何度言っても無駄だよ池。前にも言っただろ?」

 

 邪な道に引きずり込まれるのを阻止するため、俺は断固として拒否をした。保健の授業で習っただろ? 薬物等の誘いには、キッパリと断るようにしろって。

 そして、「ケッ」と唾を吐く動作をし、嫌味な反応を隠そうともしない池に対し、強い口調で言い放った。

 

 

 

 

 

「────俺はNTRが大嫌いだ。二度とその名を口にしないでくれ」

 

 

 

 

 

 そしてこの口調疲れるわ。慣れないことするもんじゃねえな全く。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 3月の終わり。出会いと別れの象徴である桜が満開になるころ、俺は幼馴染である一人の少女の家へと足を運んでいた。

 足を運ぶと言っても、俺と彼女の家はそれほど遠くない。物語のようにお隣さんという訳でもないが、自転車を使えばで大体4分ほどでつく。

 

 見慣れた道を立ちこぎで走り、道路にちりばめられた桜の花びらをタイヤが跳ね上げる。ニュースだと満開になるのはもう少し後らしいが、春特有の絶妙な気温と、鶯の鳴き声が響きわたると、何とも言えない暖かな気持ちになるものだ。

 そうして高揚感と共にいつもより早く着いた家の前に立つと、俺は大きな門の横に設置されたインターホンを押した。

 

『はい。今開けますね』

 

 数秒ほどで、ノイズ交じりの聞きなれた声が聞こえてきた。俺の幼馴染・坂柳有栖の声だ。

 それと同時に門を開き、これまた大きな中庭を越え家に入る。

 

「おじゃましまーす」

 

 扉を開けると同時に、ずっと変わらない上品な芳香剤の香りが鼻腔を刺激した。

 こういう何気ない要素が、友達の家に行くときのワクワク感を演出してくれる。もう何度この家の敷居を跨いだか分からないが、どうにも彼女の家だけは飽きないんだなこれが。

 

「こんにちは旭君。いつもすまないね」

 

 それと同時に、この家の家主で有栖の父である坂柳成守さんが出迎えてくれた。

 職業柄彼が家にいることは少ないのだが、春休みのためか家に帰ってこれたようだ。

 

「いえ。どうせ家にいても勉強するか本を読む位しかないので」

 

「ありがとう。有栖なら部屋にいるよ」

 

「分かりました」

 

 そう言って玄関に並べられたスリッパを履き、廊下の奥へと向かう。それにしても馬鹿でかい家だ。国立学校の理事長ってそんなに儲かるんだろうか……って、あの人政治家も兼任してるんだったわ。そりゃ儲かってるに決まってる。

 そして目的の部屋へと行き、扉を3回ノックする。親しいとはいえ、一応異性の部屋だ。思春期を越えているなら、その辺は気にするべきだろう。有栖って礼節とかうるさそうだし。

 

「どうぞ。入ってかまいませんよ」

 

 返事があったので扉を開け部屋に入る。

 扉を開けてまず目に入ったのは、高そうなテーブルに置かれたチェス盤。そしてその奥の椅子に座り、こちらに微笑む有栖の姿があった。

 その風貌も相まって、まるでおとぎ話からそのまま出てきたかのような、現実感のない雰囲気を醸している。

 

「おはようございます旭君。すみません。わざわざ呼び出してしまって」

 

 透き通った美しい声色で、有栖は俺に謝罪の意を示した。

 並みの男なら喜んで許してしまうのだろうが、俺は騙されない。この顔は微塵も申し訳なく思っていないという顔だ。

 

「ホントだよ。ま、別に暇だったし良いけどさ。今日は何するの?」

 

 本当は全然大丈夫だよとか言えたら良いんだろうが、まあそんなことできるわけもなく。そんな小さな後悔を胸に残しながら、俺は有栖にそう質問した。

 有栖は小さく微笑んだ後、衝撃の返答をぶつけてきた。

 

「今日は引っ越しの手伝いをしてもらおうと思いまして」

 

 

 

 

 

 えっ……。 

 

 

 

 

 

 それから1時間ほど経った。両手に持った荷物を置き額から落ちる汗をハンカチで拭う。そしてひと段落付いた作業を一旦終え、ベッドの上で指示を出していたお姫様の隣に座りため息を吐いた。

 

「引っ越しって、高育に行くってことね。ビビったんだけど」

 

「逆にそれ以外何かありますか?」

 

「いや、それなら荷物纏めなくても良いじゃん」

 

 高育荷物持ち込み禁止だし。ただ部屋の整理を手伝わされただけなんだけど。

 

「少しからかいたくなってしまって」

 

「さいですか」

 

 まあ引っ越したとて高育に行くことは決まってるわけだし、さして変わらないんだけどさ。それはそうとしてビックリしたよね。

 死んだ目をしながら頷く俺が面白かったのか、有栖は俺の額に滲んできた汗を彼女のハンカチで拭い、からかうようにこちらを見て笑った。

 

「そんなに私と離れるのは嫌でしたか? あれだけ呆気にとられた表情をして、面白かったですよ」

 

「……まあ、嫌だけどさ」

 

 ここで意地を張ってもどうせバレているため正直に話す。どこまで気が付いているかは分からないが、有栖は自分が好かれていることを確信したうえでやるからなおのこと質が悪い。

 俺の返答に有栖は座ったまま足をパタパタと動かしてさぞご機嫌そうだ。

 

「そうですか。私も旭君と離れるのは嫌ですよ? だから良かったです。高校、2人とも受かって」

 

 ────高度育成高等学校。東京都の埋め立て地をぜいたくに使った、国立の名門校である。俺は勝手に略して高育と呼んでいるが、この学校はちょいと特殊な学校なんだ。

 まずは全寮制であること。そして、入寮する際の持ち物の持ち込みは一部を除いて禁止なこと。つまり有栖はただ部屋の片付けをするために俺を呼んだことになる。中々いい性格してるだろ? 

 

 まあそれは置いといて、ここだけ聞くと「金掛かってんなー」としか思えないが、ヤバいのはここからである。

 それは『高育に入学すると、特殊な事情を除き3()()()()()()()()()』ということである。やってることは普通に刑務所と何ら変わりない。

 もちろん、高育は60万平米を超える敷地を持ち、生徒達が不自由しないようにコンビニやスーパー、はたまたショッピングモールやゲーセン等、半端な街よりも何倍も都会な設備が整っている。

 

 だとしても肉親であっても連絡すら取れないのはどうかしてると思う。危うく有栖が受かって俺が落ちてたら3年間絶望しながら過ごすところだった。

 逆パターンだったら入学蹴ってたけど、有栖なら俺が落ちてもそのまま入るだろうし……言ってて悲しくなった。

 

「まあね」

 

 そんな空返事が、有栖の部屋に小さく響いた。

 

 

 

 

 

 それから部屋が綺麗だったこともあってか片付けはすぐ終わり、2つほど俺がまとめた段ボールと、何故か部屋に置いてあったもう一つの段ボールの3つがまとめて端に置かれることとなった。

 俺が片付けたのはあまり気に入らなかった本や教科書らしい。本はともかく教科書は要らないもんねこの子。超頭いいし。

 

「ありがとうございます。まだ読んでいないものがあったら持っていってもいいですよ」

 

「うーん、まぁ大丈夫かな。大体俺も読んでるやつだし」

 

 というより、俺が読む本のほとんどは有栖から貸して貰ったものだしな。別にこれといって惹かれるものは無かった。

 

「では、そちらのものでもいいですよ。旭君なら喜ぶと思ってサプライズです」

 

 そう言って指を指したのは、元から部屋にあった段ボールだった。よく分からないが、とりあえず開けてみることにする。

 ガムテープを外してふたを開けると、中に入っていたのは女性ものの服。サイズ的には有栖のものだろう。

 

「あのなぁ……」

 

「あら、お気に召しませんでした? 旭君なら喜んで持ち帰ると思ったのに」

 

「お前俺を何だと思ってんだコラ」

 

 女性が着た服に興奮する変態か、それとも明らかにサイズが合わない女性ものの服を着て女装する変態か。どっちにしろ変態である。

 

「そう言って、漁る手を止めてないじゃないですか」

 

 そうツッコまれてしまったが……いや、まあそうなんだけど。

 実際の所、ごみとして捨てる服の中に俺があげた服が入っていないか気になっただけなんだけど。……っておい!? 

 

「ちょ!? なんてもん入れてんだお前!」

 

 出てきたのは派手な色をした女性ブラジャーやショーツ……つまり下着だ。少なくとも付き合ってすらいない男に見せるものではない。

 

「ああ。サイズが合わなくて殆ど着ていないんですよ。間違えて入れてしまったみたいですね」

 

「はぁ、ったく。……サイズねぇ」

 

 本人が全く恥じらってないのに俺だけ気にするのは何か負けてる気がする。

 平常心を心がけてこっそりサイズを見る……Bか。大分見栄を張ったんじゃないか……って痛った!? 

 そんなことを思っていると、足の小指に激痛が走った。何かと思って見たら有栖が見事なエイムで杖による刺突を行っていた。

 

「何を考えているか丸わかりですよ?」

 

「いやぁ……ごめんなさい」

 

 これに関しては俺が100悪い……悪いか? まあいいや。

 流石にデリカシーが欠けていたので謝罪する。

 

「仕方ないですね。何か私から差し上げるものもないですし、もしよければ夜ご飯、食べて行ってください」

 

「お、まじ? やった」

 

 けっこう嬉しい提案である。こっちで飯を食うのは結構久しぶりだったからな。後でお母さんに連絡しないと。

 

「ではそれまで時間を潰しましょう。チェスでもしながら」

 

 ……チェスか。

 

「いいよ。やろっか」

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()。まあ仕方ない。

 

 

 

 

 

 好きな女の子と2人きりの時間なんて、どれだけ長くても一瞬に感じるものだ。チェスだって試合長引きすぎて飯までに終わんなかったし。多分あのままやってたら負けてたけど。

 まあ俺もその例に漏れず、暗くなった道を自転車で帰りながら。ぼんやりと充実した今日を思い出していた。

 

「はぁ……」

 

 正直、一般的な男女の幼馴染に比べ、俺と有栖は仲が良い方だと思う。

 小中共に付き合ってるかなんて何回聞かれたか分からないし、有栖だってそういう噂が広まるのを嫌がってたりもしてなかった。

 

 だったら早く告白しろって思うやん? でもこれが無理なんだわ。

 まず俺らの進路・高育。退学しない限り3年間ずっと一緒。

 

「いや無理に決まってんだろ!」

 

 振られたらどうするよ。気まずいなんてもんじゃねえよ!? 

「あなたをそういう対象に見た覚えはありませんが」とか言われたら俺は吐血して死ねる自信しかない。マジで。

 

 しかも有栖って好きな人いるっぽいんだよなぁ……

 誰かに影響されたのか急にチェスやり始めるし、昔一緒に寝た時寝言で「あの偽物の天才に死を(超意訳)」みたいなこと言ってたし!? 絶対ライバル兼片思いしてるやんこんなん! 

 

「……そもそも、有栖が俺に惚れるわけないしな」

 

 俺と有栖の出会いは、昔1人ぼっちだった有栖に俺が話しかけて、冷たくあしらわれた所から始まった。

 どうして話しかけたかなんて覚えてない。多分寂しそうに見えたとか、そんな感じだと思う。

 そして、多分有栖に惚れてたんだろうクラスのヤンチャな奴に因縁付けられた所で、有栖に助けてもらったんだ。ダサすぎだろマジで。

 

 それから俺と有栖の奇妙な関係は始まった。

 振り向いてもらえるようにめっちゃ勉強した。何かとやっかみを食らうことの多かった有栖を守れるように空手だって始めた。

 でも何も変わらない。いっつも俺は有栖の背中を追い続けて、彼女の光に焦がされてきた。この10年近く、ずっーと。

 

 ────人は生まれた瞬間にポテンシャルが決まっている。

 

 有栖の口癖だ。何とも凡人の気持ちを考えていない言葉だ。そう思うだろう? 

 俺がどれだけ努力しても、有栖みたいな天才には絶対及ばない。そう言われているようでならなかった。

 

「……ま、まあ3年間チャンスあるし? 流石に有栖も諦めるっしょ」

 

 有栖が何処の誰に惚れてるかは知らんが、うちの中学から高育に行くのは俺と有栖の2人だけ。

 ざまあみろ! 有栖に惚れられてるのにずっと気づかなかったのが悪いんだぜバーカバーカ! 

 

「今日は純愛ものにしよう。そうしよう」

 

 今日お世話になるジャンルを考えながら、俺は高校生活の門出を楽しみに帰るのだった。

 

 

 





 ──高度育成高校データベース 7/1時点──

 氏名:九条 旭(くじょう あさひ)
 クラス:1年A組
 部活動:無所属
 誕生日:4月5日
 身長:179㎝
 体重:68㎏

【評価】
 学力:A
 知性:A-
 判断力:B+
 身体能力:A
 協調性:B

【面接官からのコメント】

 小、中学と非常に高い成績を維持しており、身体能力に関しても体力測定で全項目で満点を出している。部活動には所属していなかったが、空手道、ボクシング、柔道、合気道等の格闘術を習っており、空手道においては全日本での優勝経験を持つ。友人も多く、面接での礼節や受け答えも非常に良好だが、他人に対しての興味関心が少なく、幼少からの馴染みである坂柳を除き、特定の生徒と常に行動を共にするということは無かったようだ。そのため能力値に対してのリーダー適性はそれほど高くない。これからはAクラスの中心人物として、彼自身の成長に期待したい。

【担任メモ】

 他クラスの生徒との交流も多い。しかし、ここ最近は葛城と坂柳の派閥どちらにも属さない故、クラスでは若干浮いているようだ。両者の衝突を防ぐことを期待するが、現時点では特に関与している様子はない。

NTRは好き?(展開には関係ないよ!)

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