ようこそ純愛過激派の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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 前半綾小路視点 
 後半九条視点です

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第3章
旅の始まり


 

 

 

 夏。燦々と降り注ぐ陽の光が、熱く体を照らす海の上。オレは木材で作られたデッキの上を、素足にビーチサンダルを履いて立っていた。

 視界一面に広がるのは、真っ青な海と雲一つない空。手を広げれば、爽やかな潮風が頬を撫でる。

 

「凄いな……そう思わないか堀北」

 

 その圧巻の光景にオレはたまらず、斜め後ろのビーチチェアに座って本を読んでいる堀北に声をかけた。

 隣に立てられたパラソルが差し込む光を遮る中、堀北は本をパタンと閉じてこちらを見る。

 

「その感想、今ので何回目だか覚えているかしら」

 

「……2回目くらい「5回よ5回。毎回聞かされるこっちの身にもなって欲しいわ」」

 

 ……そんなに言ってたのか。完全に無意識だった。

 

「子供じゃないんだから、いい加減落ち着いてそこに座ったらどう? 話し相手が欲しいなら、私じゃなくて池君や九条君が居るでしょう」

 

「池はプールで女子の水着を見てるし、九条はどこにいるかも分からん」

 

「じゃあ大人しくしているかプールで泳いで来たらどうかしら。こんな体験、早々できるものじゃないわよ」

 

 その貴重な体験を一番無駄にしてそうな奴が、一体何を言っているのだろうか。

 

「貸し切りの豪華客船で、2週間の船旅か。今に始まった事じゃないが破格の待遇だな」

 

 そう。今俺たち一年生は、夏休み期間の半分を使った豪華旅行を楽しんでいる最中だ。

 国が支援しているこの学校では、学費や雑費を払う必要性が全くない。当然この旅行さえも。

 

 豪華客船と名のつく通り、オレたちが乗り込んだ客船は外観はいうに及ばず、施設も非常に充実。一流の有名レストランから演劇が楽しめるシアター、高級スパまで完備されている。

 そんな贅の限りを尽くした旅行がついに今日から始まった。予定では最初の1週間は無人島に建てられているペンションで夏を満喫し、その後の1週間は客船内での宿泊という流れのはずだ。

 

「九条君を探してるならスパにでも行ってきたらどうかしら。彼そう言うの好きそうだし」

 

「お前オレをこの場から離れさせたいだけだろ……」

 

「あら、流石の洞察力ね。綾小路君」

 

 そんな皮肉を真顔で言って来る堀北。須藤の件から成長を見せたかと思ったが、こういう所は未だに変わらないままのようだ。

 

「何? 集中できなから見ないで欲しいのだけど」

 

「いや、お前が外に出て来るのが意外でな。どういう心境の変化なんだ?」

 

「……別に、ただの気まぐれよ」

 

 ……堀北も変わってきてはいるんだろうな。以前までの堀北だったら、部屋から出ることはしないはずだ。

 生徒会長に対するコンプレックスが解消されつつあるためか、堀北にも旅行を楽しもうという余裕が生まれているのだろう。

 

「おーい綾小路! これから皆で飯食うけどお前も行くか?」

 

 そんな会話をしていると、プールから上がってきた池から食事の誘いを受けた。

 

「お、堀北ちゃんもいるじゃん。これからいつもの面子で飯食うけど、堀北ちゃんも行く?」

 

「遠慮しておくわ」

 

「そ、即答……」

 

 どうやらできた余裕が他人に向けられるまでは、もう少し時間がかかりそうだ。

 きっぱりと断られてショックを受けている池の肩に手を置き、オレは首を横に振った。

 

「そもそも堀北はこういう集まりには来ないだろ。オレは行くから案内してくれ」

 

「そうだな! じゃ行こうぜ!」

 

 そう言って大股で歩き出す池。この豪華客船には、高級レストランを始めとして、バーやカフェなどのオシャレな飲食店も併設されている。

 しかもどの店で何を食べても、この2週間の間は無料だ。前を歩く池は、今日のよだれを垂らす勢いで配られたパンフレットを見ている。ここしばらく外食すらままならなかったのだ、無理もない。

 

「どれもうまそうだなぁ……綾小路は何食いたい?」

 

「そうだな……普段あまり食べないものが良いかもな」

 

 無難な回答をしておく。実際の所、このパンフレットに乗っているものをほとんど食べた事が無いため、何が良いのかがよく分からない。

 

「確かにな! じゃあここ行こうぜ! めっちゃ高そうな店!」

 

 そう言って池が指を指したのは、明らかに高級料理店であろう店の写真だった。

 説明文には、コース料理がどうこうと書かれている。これから集まる3バカには厳しそうだが……大丈夫か? 

 

「オレマナーとか何も知らないぞ。バカ騒ぎもできないだろうし」

 

「大丈夫だって! どうせ学生しか使わないんだから、お店も許してくれるっしょ!」

 

 そんな楽観的な思考でゴーサインを出す池。すでに須藤達にも連絡済のようだ。

 

「よし。じゃあ行こうぜ綾小路!」

 

「……ああ」

 

 行き先が決まってさらにテンションが上がったのか、最早駆け出すのではないかという勢いでデッキを移動する池。……不安になってきた。

 

 

 

 そうして移動すること数分。須藤達と合流した後、店員に案内され店の奥へと向かったオレは、自身の不安が的中したことに気が付いてしまった。

 

「いらっしゃいませ。こちらメニューとなります」

 

「あ、あざっす……」

 

 落ち着いた初老のウェイトレスが、人数分のメニュー表を机の上にそっと置いた。

 流石の須藤も雰囲気に押されたのか、バカ騒ぎをするということもなさそうだが、問題なのはその服装だ。

 

「なんか……みんな凄いキッチリしてんな」

 

 そう。店の席の半分ほどは他の生徒で埋まっているが、そのどれもがブレザーこそ着ていないものの、しっかりと制服を着ている。

 対するオレたちは、水着の上にアロハシャツという、場違い極まりない格好だ。

 

「これ何を頼めばいいんだよ? マジでドンなのか想像つかねえって」

 

 山内が不平不満をそこそこ通る声で発した。その態度には疑問が残るが、一応オレもメニューを開いてみる。

 

「……分からないな。何を頼むのが正解なんだ」

 

 素材の名前や、調理方法などは知識として知っているが、実際に目にしたことは一度もない。

 

「すんませーん! ちょっといいっすか!」

 

 またもや山内が場違いな大声を出し、店員を呼ぼうとする。

 静かに食事をしていた生徒達の視線が集まり、肩身が狭くなるが、当の本人はそれに気が付く様子もない。

 

「おいお前ら。食事ぐらい静かにできないのか?」

 

 そんな山内に返したのは、店員ではなく隣で食事をしていた生徒4人組の中の男子生徒だった。

 男子生徒は、食器を皿の上に置いて口をナプキンで拭った後、こちらを見て嘲るように笑った。

 

「お前ら、Dクラスだろ?」

 

「だったら何だってんだよ」

 

 悪意を込めた聞き方に、須藤が早くも喧嘩腰に答えるが、男子生徒はそれに怯むことなく、店内の生徒全員に聞こえるように言い放った。

 

「ここはお前らみたいなクズが来るところじゃないんだよ。クズはクズらしくハンバーガーでも食っとけ」

 

「んだとテメェ!」

 

 先月の反省は何処へやら、須藤は席を立って男子生徒の元へ向かい、その胸倉を掴んで持ち上げた。

 流石にこの場で暴力行為はマズい。須藤を止めるため席を立とうとしたが、その前に別の席から聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「人をクズ呼ばわりするのは良くないよ戸塚君。須藤もいったん落ち着け」

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

「ここはお前らみたいなクズが来るところじゃないんだよ。クズはクズらしくハンバーガーでも食っとけ」

 

「んだとテメェ!」

 

 悲報。殆ど関わりの無かったクラスメイトから食事に誘われウキウキで食べていたら、知り合いと友人の喧嘩が勃発しそうな件について。

 ……冗談は置いておくとして、須藤の奴手出すの速すぎだろ。堀北さんとの約束忘れてんじゃねえだろうな? 

 

「……はぁ。最悪」

 

「同感」

 

 せっかく食事に誘ってくれた神室さんと橋本君も、目の前で行われているやり取りに辟易している様子。

 ……仕方ない。今回に関しては戸塚君が悪いし、あいつらに助け舟を出してやろう。

 

「人をクズ呼ばわりするのは良くないよ戸塚君。須藤もいったん落ち着け」

 

 前で食事をとる2人に目線で謝罪をし、手に持った食器をゆっくり皿の上に置いた。

 

「九条! だってこいつがよ!」

 

「……お前には関係ないだろ!」

 

「関係あるよ。注意の仕方も問題だし、そいつら俺の友達だから」

 

 上から須藤、戸塚君、俺の順番で会話が流れる。

 少し離れた席に座る綾小路と目が合うと、申し訳なさそうに目を配ってきた。

 ……いや。俺が気になるのは君の恰好なんだけど。なに、サングラスにアロハシャツって。普段のキャラと色白なのが相まって、罰ゲームでもやらされてるんじゃないかと一瞬勘ぐってしまった。

 

 こちらを睨んで唸る戸塚君に、俺は相手の感情を刺激しない様、なるべく穏便に注意した。

 

「人をクズ呼ばわりするのは、クラス以前に人としてダメだと思うよ? それに休暇中とはいえ問題を起こしたら、それこそAクラスに迷惑かけることになる。それでもいいの? あと須藤もキレすぎ。マナー悪いのは事実なんだからさ」

 

「くっ……半端者g「やめろ弥彦。九条の言う通りだ」葛城さん!」

 

 言い返そうとした戸塚君を止めたのは、その隣で食事をとっていた葛城君。

 

「済まなかったな。弥彦には俺から言っておく。君たちもマナーを守ってくれるなら文句は言わない」

 

「ッチ! ……行こうぜお前ら」

 

 葛城君の謝罪を受け取ることなく、須藤はずかずかと店を出て行った。それを見た綾小路たちは、一度顔を見合わせた後気まずそうに店を後にする。

 

「ごめんね。せっかくの食事の時間に」

 

「良いけど……あんなのと友達なの?」

 

 対面に座った神室さんが、こちらにジト目を向けて来ている。言いたいことは分かるけど、何だかんだ言って須藤も悪い奴じゃないんだよ。

 

「あはは……ま、常日頃ああいうわけじゃ無いんだけどね」

 

「ふーん」

 

 

 

 

 微妙な空気の中食事を終え、俺は気まずさを取り払うべく2人に話しかけた。

 

「2人はどうして誘ってくれたの? もちろん凄い嬉しいけど、意外だったからさ」

 

「私は別に。橋本が誘おうって」

 

「これからしばらく姫様居ないから、その間に九条のことを知っておこうと思ってね」

 

 ……だよねー。分かってはいたけど、やっぱり派閥関連か。

 

「ごめんごめん。別にそう言うつもりじゃないから。ただ純粋に興味が沸いたんだよ。姫様にも勧誘は無駄だから止めとけって、この前言われたばっかだし」

 

 そんな思考が反応に出てしまっていたのか、橋本君は笑いながら手を横に振った。

 

「あの姫様があれだけ気に掛けてて、そんでもって()()()に付いてないのが不思議でさ。成績とかも良さそうだし。部活も100万ポイント貰ってたしな」

 

 こっちというのは、十中八九派閥のことだろう。あまり表立って口に出さないが、現在Aクラスでは派閥争いが激化している。

 理由としては龍園君が起こした一連の騒動が挙げられるだろう。誰が流したのかは定かではないが、須藤事件のことの顛末は、今や1年生の中では周知の事実。

 有栖に「30万ポイントは何に使うおつもりですか」と聞かれた時は、流石に目玉が飛び出るかと思った。

 

「買いかぶりすぎだよ。有栖とはただの幼馴染で、体の事情からこき使われてるだけだって。有栖と違って、俺はただの凡人さ」

 

「の割には、Dの奴らの事件解決したそうじゃん」

 

「いや、その情報どっから持ってくんの?」

 

 サラッと神室さん言ったけど、俺の案で解決したこと知ってるのマジで少ないからね。審議に出てた生徒+Cクラスのヤンキーしか知らないのに、どっからその情報回ってるんだよ。

 

「姫様が得意げに語ってたんだよ。『私の九条君は凄い』って。私のとか言ってたけど、お前らってやっぱ付き合ってる感じ?」

 

 ニヤニヤと笑いながら聞いて来る橋本君。

 しかし、ご期待に添える回答は持ち合わせていないのだ。この前告白っぽい事はされたけど、あれはあくまでちょろちょろ動き回る俺がウザいから、囲い込んでやろうってことだろうし。

 

 まあ、正直滅茶苦茶嬉しかったのは変わりない。今までの俺の努力が、有栖にある程度認められたと分かったからだ。いくら条件付きとはいえ、たった1人しかいない有栖の彼氏ポジを譲って貰えるということは、俺にそれだけの価値を認めている証拠になる。

 今まで付けられていた0という評価を、少なくとも1以上にはなったのだ。こんなに嬉しいことは他にないだろ? 

 

 ちなみに心苦しいが、返事としては『NO』を突き付けた。

 だって、それって俺の望んだ対等な関係じゃないし、利害の上に成り立つ恋愛関係なんてロクな結末を迎える気がしない。

 

 呆ける有栖を前にテンションが上がっていた俺は「お前がそんなしょうもない利害をかなぐり捨ててでも、欲しいと思えるような男になってやるよ」なんて、死ぬほど恥ずかしいセリフを吐き、帰って枕に顔をうずめて悶絶した。

 

 

 

「いやんなわけ。俺じゃ釣り合わないよ」

 

 

 

 そんな黒歴史を思い出し、俺は橋本君の質問にハッキリと答える。

 最早口癖となってしまっているが、悲しいことに事実だから仕方がない。

 

 

 

「……橋本、やっぱり九条って……」

 

「……ああ。普通にちゃんと馬鹿だコイツ」

 

 

 

 





 橋本の口調ってこんな感じで合ってたっけ…

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