ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
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昼食を終えてから2時間ほど経った昼下がり。俺は豪華客船のデッキでも、はたまた自室でもなく、地面に生えた切り株の上に座っていた。
服装も制服ではなく、運動することを想定したジャージと靴を着ている。今だ強く照り付ける太陽の日差しに、額から汗が一粒地面に落っこちる。
「はぁ……ったく。どうしてこうなったんだ……?」
思わずため息が出てしまったが、実はその原因は暑さからではない。
視線を前に向けると、そこには言い争いをする2人の生徒の姿があった。
その内の1人。戸塚君が俺を指さして言った。
「どうしてこいつをリーダーにするんですか!? 葛城さんがやるべきでしょう!」
「これは決定事項だ。今回の特別試験、Aクラスのリーダーは九条に任せる」
開けた場所で辺りに生徒が居ないのは確認済みだが、それにしても胃が痛くなるから、少し落ち着いてほしいものだ。
「大変ね。あんたも」
項垂れる俺に、神室さんが同情するように声をかけてきた。
「……じゃあリーダー変わって」
「やだ」
……ですよね。
────どうしてこうなってしまったのか。それを説明するには、30分ほど前に遡る必要がある。
────────────────
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキにお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』
橋本君と神室さんの2人との会話に花を咲かせていると、唐突にアナウンスが流された。
「もうすぐ着くみたいだな」
「……そうだね」
デッキの手すりに体を預け、橋本君がそう言った。
チラッと隣の神室さんにも視線を向けるが、このアナウンスの奇妙さに気が付いたのは俺だけのようだ。
「無人島で一週間過ごすんだっけ? 坂柳のやつ、思い出話したら悔しがりそう」
……意外と性格の悪いことを言うもんだ。神室さんは有栖と仲がいいと思っていたのだが……まあ有栖のことだ。弱みでも握ってこき使ってるんだろう。
普段のお世話係が長年やってて慣れている俺から、突然神室さんに移ったのだ。さぞかし過多な要求を日々受けているのだろう。愚痴くらいなら今度聞いてあげるから、今は我慢してほしい。
「じゃ、前の方行こっか。人もいっぱい来るだろうし、早めに付けば前で見れるかも」
だがそれより、俺は先ほど流れたアナウンスの内容が気になるため、2人に声をかけた。
特に異論はないようで、前を歩き始めた俺に付いて来る形で移動する。
『────暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』
ただ島を見るだけなのに、そんな言い回しをするとは考えにくい。普通の学校だったら気にするようなこともないのだが、この学校でこういうのを見落とすと、後ほど痛い目を見ることは身をもって理解している。
そして、島を見ることが有意義になることが分かれば、そこから
「見えてきた……随分と大きい島なのね」
「これを一学校が保有しているって言うんだから驚きだ」
前方のデッキに一番乗りし、見えてきた島の大きさに感嘆の声を上げる2人。
そんな2人を尻目に、俺は1人その『可能性』について思案していた。
────Sシステムの本当の仕様が明かされた翌日、俺は担任である真嶋先生に、とある質問をするため職員室へと向かった。
質問の内容はクラスポイントについて。正式には、事前に説明された生活態度やテスト以外に、クラスポイントが変動することがあるのかという質問だ。
真嶋先生の答えとして『回答できない』の一点張り。その返答を想定していた俺は、予め用意していた別の質問を投げかけた。
それは、
だっておかしいと思わないか? 有栖の情報では、1年に3回もクラスが変動するらしいが、クラス全体の成績の差なんてたかが知れている。Bクラスとも400近くの差がある中で、ここから逆転される想像はできない。
定期テストの結果で200も300も変わるなら勉強を頑張ればいい。仮に真嶋先生が答えられないと言った何かしらのイベントがあって、そこでポイントが大きく変わるならそれを知れただけでも大きなアドバンテージとなる。
結果として得られた情報は2つ。
2つ目の質問に対する真嶋先生の解答は『プライベートポイントを3万払えば、全クラスのポイント推移を教える』というものだった。
ポイントに関しては有り余っていたため喜んで支払ったが、衝撃的だったのは、プライベートポイントを支払えば質問に答えてくれるということ。つまり、この学校は情報をポイントで買うことができるのだ。これを知れたのは僥倖だった。
後日真嶋先生からメールで送られてきた資料を見て、前者の情報を手に入れた。
特定の期間というのは5月下旬、7月上旬、10月下旬、12月上旬、2月下旬の5回での小さい変動。これは恐らく定期テストによるポイント変動だろう。どのクラスも70~90ポイントほど上がっている。
しかし問題なのはここからだ。俺はテストとは全く関係ない時期に、どの学年も300近くポイントが変動する機会が用意されている事に気が付いた。タイミングは学年によってまちまちなのだが、全学年のクラスのポイントが一気に乱高下する、重複したタイミングが何個かあるのだ。
ここまで言えばわかるだろう。夏休み期間……つまり8月に、ポイントが大きく変動している
つまりこの旅行中、または帰ってから、何かしらのポイントが変動する機会が与えられるということ。
とすれば、この有意義な時間というのも納得がいく。……有意義な時間?
『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします。生徒たちは30分後、全員ジャージに着替え、所定の鞄と荷物をしっかりと確認した後、携帯を忘れず持ちデッキに集合してください。それ以外の私物は────』
気が付いたときには船が島の横に停泊しており、デッキに集まっていた生徒はアナウンスを聞いて続々と解散していった。
そんな中、隣に立っていた橋本君に肩を叩かれた。
「何ボーっとしてんだよ。
「……あれ?」
……やっべぇ。有意義な時間全部無駄にした。
────────────────
その後は予想通り、特別試験と名の打った試験が開始され、その方針について揉めているという現状だ。
「……知ってたの?」
隣に立つ神室さんが、どこか遠慮がちにそう質問してきた。
「何が?」
「特別試験があるってこと。あんた全然動揺してなかったっぽいし」
いや、あれは島の全景を見る時間を全部ドブに捨てたから、ショックで放心してただけなんだけど……。
放心していたとは言っても、試験内容は把握しているから安心してほしい。
「知ってたって言うか……こうなるかもって覚悟はしてたからね」
「ふーん」
嘘です。内容はともかく試験があることは知ってました。
この情報を伝えたのは有栖と葛城君の2人だけ。理由は他クラスに情報を漏洩させないためだ。正直バラしちゃってもいいけど、後々面倒なことになりそうなので口を閉じておく。
「にしても、学校もまた難儀な試験を考えるよな」
そこに合流してきたのは橋本君。目の前で起こっている2人の言い争いをニヤニヤしながら見ている。……何だこいつら。性格悪い奴しかいないのか?
……まあそもそも有栖がいい性格してるからな。そこに集まってくる生徒も、自ずと似たり寄ったりの性質になるのだろう。朱に交われば赤くなるとも言うし。
「そうだね。Aクラスには特にキツそうだ」
そんな話はさておき、先ほど説明された試験内容について考えてみる。
────期間は今から1週間。8月7日の正午に終了するこの試験の内容をざっくり説明すると、各クラスの生徒が協力し、無人島サバイバルを無事に乗り越えるという内容だ。試験中の乗船は正当な理由無く認められていない。
スタート時点で、クラス毎にテントを2つ。懐中電灯を2つ。マッチを1箱が支給されるとのこと。それから日焼け止め、歯ブラシに、女子の場合は生理用品は無制限で支給される。
支給品というにしてはあまりにも貧相だ。テントもクラスの半分が入れたらいい方だし、食料も何も用意されていない。
そこで用意されたのは、この試験限定の特別なポイントだ。
各クラスに試験専用のポイントが300支給され、このポイントを使い、水や食料、テントを含む様々な物資を購入することができる。
そしてその時使用するポイントは、配布されるマニュアルに記されている。
マニュアルには生活に必須な物資だけではなく、浮き輪やバーベキューセット等の娯楽用品まで記載されている。
ここまで聞けばただのお遊びに過ぎないが、次の要素が試験に大きく関わってくる。
「
そう。言い換えれば、節約すればするだけクラスポイントが多く貰えるのだ。
これだけだったら全員途中でリタイアすればいいのだろうが、そう簡単なルールではない。
パンフレットを見て呟いた神室さんに、橋本君が飄々と首を傾げた。
「そんでもってリタイアが出たら1人で-30ポイント。姫様が居ない分、俺らは270ポイントでスタートしなきゃならない」
ここに来て有栖の唯一の弱点が出てきてしまったのだ。彼ら坂柳派が大人しく事の成り行きを見守っているのも、今回の試験を纏めるのは葛城君になることを認めているからだろう。
とまあ、ここまでなら程々のポイントを使って安全に立ち回ればいいのだが、この試験では必ずリーダーを各クラス1人決めなければならないのだ。もちろんこれは形式的なものではなく、リーダーと言う試験の要素だ。
戸塚君が珍しく葛城君に噛みついているのもそれが理由だったりする。
「……弥彦。さっきも言ったが、俺がリーダーをやるのは目立ちすぎる。この試験で指揮を取る人間を、リーダーとして登録するのはリスクが多い」
「だったら俺らの内の誰かでいいじゃないですか! よりによって何で九条なんですか!」
戸塚君はよっぽど俺のことが嫌いみたいだ。……何でなんだろ、理由がいまいち思いつかない。……はっ! もしかして、戸塚君も有栖のことが好きなのか!?
……戸塚弥彦。名前は覚えたからな!
「顔、強張ってるわよ。これからリーダーやる奴がそんな顔しないでよ」
暑さとストレスで頭がやられているのか、思考が段々と現実から離れて行くのを感じる。
ボーっとする頭を、頬を一度パチンと叩くことで覚醒させる。
「もう俺がリーダーするのは確定なのね……スポットボーナスはありがたいけど、ちょっと当てられるリスクが怖すぎるかな」
ここで新しく、リーダーとスポットという要素が入ってくる。要点をまとめると以下の通りだ。
・島の各所にはスポットが存在し、それを占有したクラスのみが使用することができる
・スポットをどう活用するかはクラスの自由だが、占有権は8時間しか効力を持たず、それを過ぎた場合は再度占有する必要がある
・スポットを一度占有するごとに1ポイントのボーナスを得ることができ、そのスポットを使用することができる。
・スポットを占有するには、リーダーが専用のキーカードを使わなければならない。
・正当な理由無くリーダーを変更することは出来ない
ここまでは守りの姿勢。クラスでの結束が試される試験だ。
しかし、この試験はあくまでクラス対抗。その要素が以下のルールで定められている。
・7日目の最終日、他クラスのリーダーを言い当てる権利が与えられ、的中させられたら+50ポイントを得ることができる。その際的中されたクラスは-50ポイントのペナルティが与えられ、この際的中させられたクラスのスポット占領によるポイントは0になる。外した場合は自分のクラスにー50ポイントのペナルティが与えられる。
「出来ると思う? 他クラスのリーダーを当てること」
「正直キツいっしょ。どのクラスもリーダーはひた隠しにするだろうし、スポットの占領時に盗み見るってのも現実的じゃない」
「そうだね。当たり前だけど、略奪行為や暴力行為は問答無用で失格だし」
上から神室さん、橋本君、俺と会話が流れていく。流石に力ずくってのは学校も望んでいないだろう。
そうでないと高度育成高等学校じゃなくて鈴蘭高校になってしまう。Cクラスっていう不良集団も居るし。
……最近絡まれること増えたんだよな……。怪我させるかもしれないから喧嘩はしたくないし、あまり関わりを持ちたくないのが正直なところだ。
「……そうね」
そんな俺の言葉に、何かを迷うように微妙な間を置いて答える神室さん。
えっ、もしかして暴力肯定派のお方ですか?
「何で距離取るのよ」
「……いや、何でもない」
俺は善良な一般男子高校生なんだ。天才たちの頭脳戦(脳筋)に巻き込まれるのは勘弁だね。
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