ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
高評価、感想、ここすきをいただけると作者のモチベーションになります!ぜひよろしくお願いいたします!
感想に書いた通りオマケ書こうとしたらクッソ長くなってもうた…なので2話同時投稿します!
深い森の中へ足を踏み入れてから10分。前方に橋本君と神室さん、後方に俺と鬼頭君という組み合わせで、道とも呼べないであろう、人が踏んで平らになった草を踏みしめていく。
「────でさ、有栖がそこでそう言ったんだよ『弱い奴は死に方も選べねぇ』って。いやぁ、流石に痺れたわマジで。空手とかを始めたのもそれが理由だしね」
気まずくなるかと思いきや、意外と皆有栖の幼少期が気になるようで、主に橋本君に質問をされ、それに答える形で会話が成り立っていた。
ちなみに今のは有栖との出会いの話。本当は有栖を守れる位の人間になりたいから始めたんだが、そんなこと言える訳がないため誤魔化しておく。
でも今のは実際に言われた言葉だ。具体的には憶えていないが、大体こんな感じだったのは記憶している。
「はははっ。お前、どこぞの天才外科医みたいになってるじゃねえか。姫様らしいったららしいけどな」
「でも意外ね。あいつがそんなに熱いことを言うなんて」
「小1の時だったからねー。当時から大人だなーとか思ってたけど、今思えば割と年相応な所もあったんだよ」
上から橋本君、神室さん、俺と会話が進行する。やはり共通の友人の話題は盛り上がるな。
綾小路には友達が居ない仲間だと思われているだろう。だが、俺は出会って初日の堀北さんに、下の毛がどうこうとか言ったりするようなお前とは違うんだぞ!
Aクラスに友人が居ないせいで忘れられがちだが、俺は案外喋れるからな! 環境が悪いんだよ環境が! ……やめよう。虚しくなって来た。
「年相応の坂柳……想像つくけど、あまり関わりたくは無いわね」
「いや、思い出補正とかもあると思うけど、超可愛いからね。マジでお人形みたいな見た目してたから。いい意味で」
意味合い的には違うんだろうけど、肩をすくめながら語る神室さんに反論する。お人形みたいなという表現は、人によっては悪口に聞こえそうだから補足したが、マジで今のまま小さくなった感じで可愛いんだわ。
「確か一番小さい頃の写真は小1の冬辺りかな。空手の市大会で優勝した時のツーショットがあるから、帰ったら皆にも見せてあげる」
写真とか入ったスマホも、学校に持ち込むのは禁止されている。だから入学する前に、2人でお気に入りの写真をクラウドにアップロードしたのだ。
部屋に飾る写真を現像するため、ダウンロードした以外は使っていなかったが、思わぬところで役に立つ日が来るものだな。
「気になるー。姫様の小さい頃の写真。勝手に見たら殺されそうだけど」
橋本君がそんなおっかないことを言ってきた。
流石の有栖も小さい頃の写真を勝手に見せられたくらいじゃ……いや、どうだろ。全然杖でシバかれそう。
「許可は……うん。多分大丈夫。多分」
「ホントに大丈夫かー?」
何と言うか、橋本君とは相性が良さそうだ。綾小路とは違った会話の楽しさがある。
「……」
そして対照的に、俺の隣で全く反応を見せない鬼頭君。……あ、目合っちゃった。どうしよう。
「? ……どうかしたか」
強面の顔を傾げ、こちらを不思議そうに見つめる鬼頭君。何気に喋ってるところ、始めて見たかもしれない。
そんな鬼頭君に対し、橋本君が笑いながら彼の大きな肩を叩いた。
「お前が何も喋んないから、九条が気使ってるんだよ。九条について気になってたことあっただろ? 聞いてみたらどうだ?」
別に気を使ってはいないんだけど……って、気になってたことって何? 言い方的に悪口とかではなさそうだけど。
その言葉を聞いた鬼頭君は、少しの間をおいて口を開いた。
「空手、全国優勝したらしいな。おめでとう」
「うん。ありがと」
ぽつぽつと語り出した鬼頭君。たどたどしくではあるが、先月の大会結果を祝ってくれた。こういうのは素直に嬉しい。
笑顔で感謝を述べると、鬼頭君は気になっていたことについて話してくれた。
「九条旭の名は俺も知っている。インタビューの映像もネットに上がっているのを見た」
おお。こういう切り口は珍しいな。テレビだって一回しか出てないし、当時の話題は有栖が全部かっさらって行ったってのに。
「まじ? そっちで知ってくれてた子初めてだよ」
その界隈で有名人という自覚はある。先月の大会でも知らない人から沢山話しかけられたし。
と言ってもそれは格闘技、武道が好きな人だけだ。鬼頭君もそう言うのをよく見るか、やった事がある人なんだろう。
「Aクラスに武闘派の生徒は居ないからな。まさかとは思ったが、本当にあの九条旭だとは」
「何あんた。有名人なの?」
神室さんが驚いたようにこちらを振り返った。普通はこういう反応するよね。
「九条は空手の最年少有段記録を持っている。その他にも柔道、合気道で段を取っていて、空手の全国優勝はもちろん、ボクシングや総合格闘技でも成績を残している。有名企業からプロ選手として、スカウトを貰ったこともあるんだろ?」
「いや詳しいなお前!?」
ネットで調べれば出て来るとして、流石の知識量に驚いてしまった。
……うん。一応全部合ってる。最年少有段記録もそうだし、スカウトについても良く調べたな。
「……よく分かんないけど。とりあえず凄い強いってこと?」
「凄いなんてものじゃないぞ神室。俺も、ここに入るまではある程度やっていたが、九条の名前は、ある程度大会とかに出ている生徒だったら皆知っている」
「ちょ、ちょちょ。恥ずかしいって鬼頭君」
格闘技に関してはある程度自信あるけど、そこまで持ちあげられるとこっちが恥ずかしくなってくる。
というかさっきまでのクールさはどこ行ったんだよ。めっちゃ喋るやん君。
「その辺にしとけって鬼頭。気持ちは分かるが九条がビビってる」
どう返していいか分からず困惑していると、橋本君が助け舟を出してくれた。
「あはは……めっちゃ詳しく知ってくれてるんだね。ネットで調べたの?」
「ああ。名前で検索すれば情報は出て来る。神室も、気になったら調べてみると良い。YOU〇UBEに九条のインタビュー映像が残ってる」
いや違法アップロードやないかい。しかもそれ俺メインじゃなくて有栖が話題になった奴だし。
でも、こうして知って貰えているのは嬉しいものだ。神室さんと橋本君と一緒に、俺が居ない時の有栖に付き添っている事は知っていたが、彼だけは人となりがよく分からなかったからな。
「……いや、別に興味ないし」
思わぬ圧力で進めてきた鬼頭君に、神室さんは困惑しながら否定する。
「てか、それだけ結果残した空手を始めた理由って姫様なんだろ? そう考えると凄い関係だよな」
「確かにな。……上手く言えないが、九条と坂柳は、それぞれ反対の方面で天才なのかもしれん。運動と、頭脳で」
「コイツの場合、別に頭も良いけどな」
橋本君と鬼頭君が、交互にそんな会話を続ける。
「おっ、なんか開けた場所に出そうだぞ」
今度は鬼頭君も交えながら会話に花を咲かせていると、先頭を歩いていた橋本君が指を指してそう言った。
獣道を抜けた先。その奥に見えたのは、葉と混ざり合う様に地面に大きな実が繋がっている。
「凄いな! ここもスポットなのかな」
その光景に思わず声が出てしまう。遠目から何の植物かは予想が付いていたが、走って畑に近づくとハッキリとその模様が見える。
後ろから付いてきた3人も同じく確認し、それが良く見知った植物であることに気が付いた。
「すいかだな」
「自生してる……なわけないか。学校が植えたんだろうね」
「持って帰ろうよ。夏の定番だし、皆で食べれば楽しいよ」
上から鬼頭君、橋本君、俺とすいかを手に取り、会話を続けた。
「私はパス。明らかに重そうし」
「じゃあ神室の分は鬼頭と九条に持ってもらうか。俺は一個でもバテそうだし」
確かに、これを運んでいくのは大変そうだ。少し持ち上げただけでも、茎を持った手が赤くなっている。
持った感じの重さは10キロ以上はある。これ一個で8人分くらいは食べられそうだ。
「俺はいいよ。鬼頭君は大丈夫?」
「ああ。これ位楽勝だ」
繋がったままのすいかを、片手で軽々と持ち上げる鬼頭君。いいね。頼もしい。
そうして、俺たちはヘタを引きちぎりながら収穫していく。持っていけるのはせいぜい5個が限界だろうが、後から皆で収穫するだろうしな。
「おっも。お前ら、よくこれ2つも持てるな」
まるまると実ったすいかを持ちながら。橋本君はすいかを両脇に持って歩く俺と鬼頭君に、信じられないと言った様子で声をかけた。
「鍛え方が違うんだよ、鍛え方が」
「俺と大して体格変わんねぇのに……」
脇に抱えたすいかを手のひらに乗せ、バンザイをするように上下に動かすと、橋本君は呆れたようにそう呟いた。
こう見えて意外と着痩せするタイプなんだよ。シャツの下は8パックだぜ?
「よし、行くよ2人とも。途中で落としたらやり直しだからね?」
「ああ」
「……俺も預ければよかったな」
そこ。文句言わない。
流石にこれを運びながら雑談する気にはなれないのか、帰り道は何とも静かなものだった。
額に汗を垂らしながらすいかを肩に担ぐ俺たちを見て、神室さんは気まずそうにそっぽを向いている。……いや、別に気にしなくていいからね。こればっかりはしょうがないし。
先ほどと違って辺りには風の音しか聞こえないが、不思議と気まずさを感じることは無かった。
「すいか。久しぶりに食べるかも」
「そう……か。そりゃ、良かったな……」
橋本君なんか死にかけだ。たった十何キロでここまで疲れるのかと思うかもしれないが、持ち手が無いまん丸の重量物を、この暑さの中歩いて運ぶのだ。道もめっちゃ歩きづらいし。
そんな橋本君に激励の意を込めると同時に、最後に食べたのは何年前だったかを思い出していた。
「7年くらい前に有栖と食べたのが最後かな? ……時間経つのって早いよなぁ」
「……あんた。本当に坂柳とずっといたのね。一緒に過ごしてない時の方が少ないんじゃない?」
とうとう黙り込んでしまった橋本君に代わって、神室さんが呆れながらそう言った。
確かに、そう考えると俺という人間を形成したのは、有栖との出会いが大きいだろう。……って、そんなの今更だな。
────今の俺が存在する理由の8割は、有栖が作ってくれたものだ。正確には、彼女に振り向いてもらうために努力し続けてきた結果ということになる。
「努力した結果だ!」なんて言いふらす気は無いが、自分の努力を謙遜する気も無い。有栖や学さんみたいに天才じゃない俺が、彼らと同じ土俵に立てたのもそのおかげだからだ。
一番辛かったのは最初の1年間だった。
当時そこまで体格に恵まれなかった俺は、同じ時期に始めた同年代の子に負け続きだった。
何度もやめようと思ったさ。だけどその度、俺は『有栖に失望されたくない』という気持ちで何とか踏みとどまった。
友達からの誘いを全て断るようなり、学校が終わってから5時間の練習を、俺は週5日ペースで続けた。土日は有栖と一緒に本を読んだり、勉強を教えてもらったりして過ごすという生活だ。もちろん、その間もトレーニングは欠かさず行った。
小学1年生がそんなハードな練習続けられるのかと、疑問に思うかもしれないが、先生の教え方が上手かったから何とかなった。
変化があったのは半年がたった頃である。
稽古で同い年の生徒の誰にも負けることが無くなった。
そして初めて出た都大会で1位になり、全国大会への出場権を獲得した。全校集会で表彰され、親や学校の教師からは天才だともてはやされた。
しかし、一番褒めて欲しかった有栖が、一度も天才だと言ってくれることは無かった。そんな有栖に下らない意地を張り、酷いことを言ってしまった時もあった。
そして、大会の結果としては47人中9位。ギリギリ入賞叶わずと言ったところだ。有栖も会場に応援しに来てくれたが、恥ずかしくて顔を合わせられなかった。
そこで俺は『全国大会で優勝したら有栖に告白しよう』と決めた。
恋愛感情なんてマセたものは無かったが、クラスの友達に、「好きなら付き合っちゃえよ」的なことを言われたからだ。
そして空手を始めてから1年と半年後。全国大会で初の優勝を果たした俺は、少し経ってから有栖に告白した。ちなみにこの時は
そう。有栖が知らない天才に恋焦がれ始めた。最悪のタイミングに告白してしまったのだ。
結果としては想像通り。齢8にして人生初のNTR(正確にはBSS)を経験した俺の心はぽっきり折れる……訳もなく。じゃあもっと努力すればいいという結論に落ち着いた。
フラれた事を知ってか、仲が良かったクラスメイトに告白されたりもしたが、この時から有栖一択だった俺は断った。……あの子元気にしてるかな。転校したって聞いたけど。
話が逸れたが、運動で優っても有栖に勝てたとは言わない事に気が付いた俺は「なら勉強で抜かせばいいんじゃね」となり、空手の稽古を止めてその時間は勉強に勤しんだ。
しかし、例に漏れず変な意地を張ってしまい、有栖に勉強を教わることは辞めてしまった。
代わりとして、俺は親に家庭教師を雇ってもらった。有栖と同じ学校に通っている事から分かる通り、俺の親もそこそこの金持ちだったりする。……その反面、家に居る事ほとんどなかったけど。
思えばこの頃から、俺は有栖に惚れていたのかもしれない。
恋愛感情を自覚したのは思春期に入ったころだったが、単なる憧れだけではなかったはずだ。
そして2か月ほど勉強し、夏休み中に行われる小学4年生の模試の勝負を有栖に申し込んだ。当時は小学2年生だったが、習っていない範囲なら、流石の有栖にも勝てるだろうとのこと考えてのことだ。結果としてはもちろん惨敗である。
これは後から聞いた話だが、この時点で有栖は微分積分をマスターしていたらしい。うん、勝てるわけがない。
それで勉強で勝つことは辞めて、結局空手に戻ったんだった。
家庭教師の先生も引っ越すって言って辞めちゃったしね。そこからは今までと同じ生活だ。
そうだ思い出した。そのテストが返されてちょっとして、初めて有栖と一緒に食べたんだった。……懐かしいな。ほんと。
「……条。九条!」
「ん?」
大きな声に意識が戻り、俺は目の前で不貞腐れたような表情の神室さんと目が合った。
「ったく。またボーっとしてるし。熱中症とかシャレにならないんだから気を付けてよね」
「ああごめん神室さん。ちょっと考え事してた」
「っそ。別にいいけど。もうすぐ着くよ」
どうやら5分くらいずっと考え込んでいたらしい。……アナウンスの件もそうだし、今日ちょっと多いな。気を付けないと。
「何も考えずついて来れるのは才能かもね。畑までの場所は私が記録したから、とりあえずあんた達は休んだ方が良いんじゃない?」
ちゃっかり取っていたメモをひらひらと振り、労いの言葉を掛ける神室さん。
なんだ。面倒だとか言ってた割に、ちゃんと仕事してくれるんじゃん。
「……何よ」
「ううん。何でもないよ」
なんか、今日はいろんな人の良い所ばっかり見つかるな。こうやって場を設けてくれたのは、学校側が与えてくれたチャンスなのかもしれない。
今日だけで葛城君、橋本君、鬼頭君、神室さんと、少しだけだけど喋れるようになった。このまま派閥争いとか関係なく、皆で団結できる日が来ると良いのに。
────そんな淡い願いが、もしかしたら実現するのかもしれない。
そう思いながら森を抜け、洞窟の前まで戻ってきた俺は、両脇に抱えた戦利品を高々と掲げ、Aクラスの生徒であろう人だかりに走って向かって言った。
「みんなー! 見てこれ! でっかいスイカあったy……え?」
別に、目の前の集団が人違いだったわけではない。作戦会議で残った葛城派の生徒であるのは間違いないし、その奥に見える輝かしい頭も葛城君のものだろう。
大きな声を上げてウキウキで帰ってきた俺に、一斉に振り返って見つめて来るクラスメイト達。
しかし、その視線に込められていたのは好奇心でも困惑でもなく、大部分の不安の中に混じった、ほんの少しの安心感だった。
そして、まるでモーセが海を割るがごとく、人混みがスッと捌けると、そこに1人。
「よう九条。随分ご機嫌な登場じゃねえか?」
「あ、チェンジでお願いします」
スイカを抱えてうっきうきで登場し、それを馬鹿にされる九条君かわいそう…
高評価や感想等頂けると作者のモチベーションがぐんと上がります!
まだ評価していない方が居ましたらぜひよろしくお願いします!