ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
時間が無かったのでちょい短めです
春休みという短いカタルシスを味わい、今日は待ちに待った入学の日。
ゆらゆらと不規則に揺れるバスの中、前列の席に着いた俺は静かに窓の外を眺めていた。まだ日が青い時間帯だというのに、外にはスーツを着た人たちが忙しなく動いている。
そう。ここは大都会東京のど真ん中。8車線にも及ぶ広々とした道路の上をこのバスは走っていた。
『ご乗車ありがとうございます。このバスは終点、高度育成高等学校行きとなります。次は○○、次は○○へと留まります』
ピンポーンという音と共に、運転手さんの淡々としたアナウンスが聞こえてくる。先ほどの停まった停車駅から乗ってきた人たちに向けてのアナウンスだろう。
高度育成高等学校行きの都営バス。と言っても年に一度の入学式以外高育に向かう生徒は居ないため、この日の為だけの特別ダイヤである。
「意外と空いているものですね。専用バスでは無いのでもっと混んでいるかと思いました」
バス特有の狭い2人席、その隣に肩をぴったりと並べて座っている有栖が、不思議そうに語った。
「まあ4本のダイアの内一番早い奴に乗ったし。こんなもんじゃない?」
こいつなら体の障害を理由に送迎してもらえたと思うのだが、気まぐれで俺と一緒にバスで向かうことになった。
合理的な行動を好む癖して、こういう気まぐれで行動したりするから面倒なんだよな。……って言ってもこの状況は結構役得だけど。
「わざわざこんなに早い時間帯にしなくてもよかったんですよ? 私はいつも早く起きるので問題ないですが、旭君は辛かったでしょうに」
「うわこれだからお嬢様は。通勤ラッシュ時の公共交通機関の混雑具合をお知りでない? 高育まで結構時間あるんだし、座れなかったら地獄だよ」
別に俺一人なら問題ないけどさ、有栖が立ちっぱなしはちょっとキツイっしょ。それに別々に行くなんてもってのほかだ。
「なるほど。私の体調を気遣って頂いたんですね。流石旭君。長く私の友人を務めてきただけありますね」
……その発言には色々とツッコミたい所があるんだが、まあご機嫌そうなので口を塞いでおこう。
「まあそりゃあね」
そう素直に返答すると、有栖はさらに続けて小さく語った。
「早く学校に付けば、その分
そんな、高校入学を控えた子供らしさ満開の発言をするが、その言葉を額面通りに受け取ることは出来なかった。
中学時代、有栖と対等の友人なんて居なかった。有栖自身が望んだかは定かじゃないが、周りの生徒から有栖へ向ける感情は『尊敬と畏怖』という感情そのものだろう。
────昔っから有栖は大層にモテた。そりゃもうモテモテだった。
その日本人離れした美しい容姿は学校でも噂になるほどだったし、勉強だって常に俺と並んで学年1位を取っていた。正直俺は死ぬほど勉強して何とか食らいついていたんだが、彼女は随分と余裕そうだった記憶がある。人当たりも良く知性的。それらは人心掌握……尤も近い言葉でカリスマとして周りに影響を及ぼしている。
それが坂柳有栖という人間だ。
何人もの男子が彼女に告白し玉砕していった。3年間。先輩後輩を合わせて58人という記録的な告られ回数を叩き出している。もっともその全員「好きな人が居るから」という理由を使いまわして振っていたらしいが。
え? 何で具体的な人数を知っているかって? 有栖がその度に自慢してくるんだよ! 「今日は○○君に告白されてしまいました」って! 何だよそれ。どんなマウントだよ。
まあそれは良いとしよう。俺もまあまあの回数告白されたからね。友人は多かったし、部活とか入ってなかったから逆に狙いやすかったのもあるんだろう。その度謎の意地で対抗して「俺も○○さんに告白されたぞ!」なんてしょうもない報告をしていた。
一番意味が分からないのは、それを聞いた有栖はちょっと不機嫌になることだ。大方『自分の所有物』が他人にとられるのが気に入らないんだろう。
だから10回を超えた辺りから報告はしていない。というか落ち着いて考えて、ダサすぎるため辞めた。
しかし、隠していたのに何故か有栖から「今日は○○さんに告白されたと聞きました。断ったんですよね?」なんて言われるのだ。つまり情報が1日で漏れているということ。女子の情報網は恐ろしいものだ。
話が脱線してしまった。暗に俺にはたくさんの友達がいるかのような言いぶりだが、正直そんなことは全然ない。有栖の方が取り巻k……友達は多かった気がする。
「友達ねぇ……」
何と言うか、話し相手位なら沢山いたけどさ。友達です! ってハッキリ言えるほどの間柄の人って、それこそ有栖以外居ないんだよな俺。
例えば『放課後何人かでカラオケ行くとき誘ってくれるくらいの友人』は居たけど、『休みの日に2人で出かけるような友人』なんてのは居なかったし。
理由はいろいろある。部活動に入っていなかったこと。放課後や休日はほとんど勉強、習い事、有栖と遊ぶことに使ってたこと。どちらかと言えば後者が大きな理由だ。
そんな苦い思い出に蓋をし、俺は気合を入れるように拳を握り呟いた。
「高校入ったらちゃんとした友達作るから。絶対」
「それ、中学の時も言ってましたよ」
「それは言わんといて……」
────そんなやり取りをしつつ、高度育成高等学校前で下車した俺たちは、入学証明書を窓口に見せた後、校舎へ向かって歩みを進めていた。
「ホームページでは見たけど、実際に見るとでっかいなマジで」
「面積は60万平米。東京ドーム13個分ほどの面積ですね」
これを空港みたいに海を埋め立てて作るわけだから……ヤバいな。どんだけ金掛かってんだマジで。
「となると円にしたときの外周は大体3㎞くらいか。……日本で一番大きい刑務所ってどこだっけ」
「府中刑務所ですね。確か面積は30万平米行かない位だった気がします」
となるとその2倍か。府中刑務所って1600人くらい収容してたよな。土地持て余してそうだけどそうでもないのかな。
ぼんやりとそんなことを考えてると、右隣に歩く有栖が俺の脇腹をつねってきた。
「人の父親が働いている場所を刑務所と比べるの、止めておいた方が良いですよ」
「いや入学したら3年間連絡含む外部との接触禁止だよ? 刑務所の方がまだマシだよ」
刑務所は電話できるし、何なら面会だってできるのに。
「……」
いや、なんか言えよ。
「まだ人はほとんど来ていないみたいですね。混雑しないでクラス分けを見れるのは助かります」
閑散とした正面玄関をくぐり、校舎に入った俺たちは、廊下に貼られた案内に従ってクラス分けが張り出されている場所へと向かった。ダボダボの制服を着て、友人とクラス分けを見るこのドキドキ、中学以来である。人生で2回しか体験できない貴重なイベントだ。
「九条九条……お、Aクラスだ」
名字の頭文字がか行だと見つけるの早くて助かるわ。
そして大事なのはここから。マジで頼む……頼む……。
「私は……Aクラス。一緒のクラスですね」
いよっしゃああああ! 有栖と同じクラス。これは幸先が良いスタートが切れそうだ。
平常心を装いながらも、俺は内心飛び跳ねて喜んでいた。対照的に有栖は小さく微笑むばかり。いつも通りで何よりだ。
案内の通りにAクラスに向かおうと歩みを進めるが、一歩目を踏み出したところで小さな抵抗を感じた。後ろを見れば、有栖が俺の服の裾を小さくつまんでいる。
「ん、どうした?」
俺の問いに、有栖は悪戯を思いついた子供のように口角を上げた。……嫌な予感がする。この顔は、有栖が悪いことをするときの顔だ。
「HRまで時間があるので、校舎を色々見て回りましょう。色々と
「……いいよ」
お願いされたら基本断れない。これが惚れた弱みってもんよ。
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