ようこそ純愛過激派の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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暗躍

 

 

 

 特別試験5日目の朝。いつも通り洞窟と海岸の小屋の占領を完了させた後、点呼の為に洞窟前のスペースに足を運んでいた。

 有栖を除いたAクラスの生徒39人全員が収まるにしては少し手狭だが、3つほど列を重ねてコンパクトに収まるように並ぶ。

 

「ではこれより点呼を始める。名前を呼ばれた者は返事をするように」

 

 そんな慣れたやり取りの末点呼を終えた俺たちは、そのまま葛城君の指示を聞く体制に移る。この流れは、試験が始まってからずっと行っているルーティンみたいなものだ。

 いつもなら皆それぞれが葛城君の話の邪魔をしない程度に談笑するのだが、俺たちの間に会話はほとんど発生していない。朝起きたばかりというのももちろんあるのだが、それよりも()()()()()()()、どんよりとした空気があたりに漂っている。

 

「よし。では今日も同じように各自自由に行動してくれ……と言いたいところだが、朝の件もあって食料が少し足りない見通しだ。そのため半数を食料収集班、もう半数は待機という形で今日は動いてもらう。各自オレが書いたメモを使用し、1時間ごとに交代してくれ。10分後に探索を始める。以上だ」

 

 そんな中、葛城君だけはいつも通りテキパキと指示を出す。違うのはその内容だけだ。最後の締めと同時に、各自が準備に取り掛かるため解散となる。

 ……なんだかなぁ。上手く行ってると思ってたんだけど。

 

「面倒なことになったわね。日が出てないのが幸いだけど」

 

 洞窟の中でメモ用紙や飲み物を体操袋に詰め込んでいると、後ろから神室さんが話しかけてきた。

 

「まあこればっかりは仕方ないよ。ポイントで食料を買うのは最終手段だし」

 

 俺たちAクラスが龍園君から譲り受けた食料は多量の飲料水、米、そして間食用のカロリーバーの3種類だ。同時にコンロや鍋等の基本的な調理器具もレンタルしたため、今までは自由行動の時に各自収集や釣りなどをし、それを追加で食べるという形だった。

 洞窟の他にAクラスが占領したスポットである小屋には釣りの道具があったし、この島には魚も豊富に生息している。豪華な夕食は皆のモチベーションに繋がっていたのは間違いない。

 

「でも()()()()()()()()()()()()()()()()なんてことあり得る? しかも私たちのせいにされるし」

 

 そう。先ほど言ったとある理由というのは、龍園君との契約で手に入れた食料が無くなっていたことだ。

 

「飲み物に手を付けられていなかっただけまだマシだよ。疑われたのは……まぁ理不尽ではあるよね」

 

 それが発覚したのは今日の朝。点呼前に皆で朝ごはんを食べようとしたとき。深刻な顔をした葛城君に、食料を貯蔵していた洞窟の端に案内されると、そこにあるはずの米袋とカロリーバーが半分ほどに減っていたのだ。

 

 発覚した当初、Aクラスのキャンプ地は阿鼻叫喚の現場だった。盗まれたであろう深夜帯は皆寝ていたため見張りはいなかったが、それでも40人近い生徒が全く気が付かないのは不自然だ。真っ暗な中食料を保管している場所を特定し、誰にも気づかれずにそれを持ち出すなんて他クラスの生徒には難しい。

 となると犯人は自ずとAクラスの誰かになる。普通ならクラスの食料を捨てるなんてことはしないだろうが、生憎とAクラスの内情は普通とは到底言い難い。

 

「別に、アイツらの言いたいことはわかるけど」

 

 クラス内で誰が犯人かを考えると、容疑者としては葛城派の失墜を望む坂柳派の生徒が候補に挙がってくる。

 足元の石を蹴り飛ばしながら、神室さんはふんと鼻を鳴らした。

 

「あんたはどう思ってるわけ?」

 

「どうって?」

 

「犯人。私たちの誰かだと思う?」

 

 壁に寄りかかりながら、そう質問してくる神室さん。

 

「別に、神室さんや橋本君が犯人とかは思ってないよ」

 

 嘘だ。本当は滅茶苦茶疑ってる。

 そもそも、食料が置かれていたのはほぼ明かりの無い洞窟の中だ。そんな中Aクラスの生徒の誰も起こさずに探し、それを音も立てずに持ち出す? 無理に決まってる。

 略奪行為は問答無用で失格になるし、成功したとしてもうまみはほとんど無い。証拠がないから追求していないだけで、クラスの中の誰か、しかもそんなことをやるのは坂柳派の生徒しかいない。

 

「……そう。ありがと」

 

 神室さんなりに隠したつもりなのだろうが、その微妙な間と気まずそうな表情は事実を物語っていると言っても過言じゃない。

 と言っても、これは十中八九有栖の指示だろう。こんなバレバレの妨害行為を行ったのは、単に予想以上に試験が順調に進み焦りが生まれたからだろう。この試験の特性上、有栖の指示を都度仰ぐことは出来ないからな。

 

「よし。じゃあ行こうか」

 

 準備を終え、後ろに立つ神室さんに声をかける。

 小さな返事が聞こえたのを確認し、入口に掛けられたブルーシートをめくって外へと移動する。昨日までと違いどんよりとした天気で薄暗い。クラスの雰囲気も相まって、息が詰まったような感覚に陥る。

 

「2人とも探索どうする? 一緒行く?」

 

 そんな中集団をかき分け、奥の方に立っている橋本君と鬼頭君に話しかけた。

 

「九条か……いや。俺は遠慮しておくわ。他の班も二人一組っぽいし。神室と行ってきてくれないか?」

 

 今朝の件で疑われている中目立つ行動はしたくないのか、普段なら気にしないようなことで断ってくる橋本君。

 確認のため鬼頭君の方を見るも、伏し目がちで首を横に振られてしまった。

 

「そっか。しょうがないね」

 

「悪いな。頼んだわ」

 

 そう言ってすれ違う様に洞窟へと入って行く2人。どうやら後半に探索する班を選ぶようだ。……それにしても、神室さんと2人か……

 

「……何。なんか文句ある?」

 

「いいえ。滅相もございません」

 

 ちょっと気まずいなぁ……

 

 

 

 若干の不安を胸にキャンプ地を離れた俺と神室さんだったが、予想通り道中に会話が弾むことは無かった。

 別に女子と2人で話すのが恥ずかしいなんて言うつもりは無いが、今日は少し機嫌が悪そうだし、鬼頭君と違って会話の取っ掛かりがあまり無い。

 

「……ねえ」

 

 そんな気まずい沈黙を破ったのは、意外にも神室さんだった。

 

「ん?」

 

 歩く速度を落として振り返る。

 

「……あんたと坂柳って、どういう関係なの」

 

 こちらをじっと見つめる神室さんと目が合うと、彼女はほんの少しの沈黙の後、こちらに質問するように話題を持ち出してきた。

 随分と唐突な質問だが、会話が得意ではない神室さんなりの歩み寄りなのだろう。似た例に綾小路という友人がいるため、察することは容易だった。

 

「幼馴染。お互いの家族で出かけたりするくらいには仲良いって、俺は勝手に思ってるよ」

 

 流石に有栖側からも、この学校で一番仲の良い相手だと思ってもらっているはずだ。それが果たして対等な関係でみられているかは定かではないが、悪い印象は持たれてはいないだろう。

 

()()()()?」

 

 意外とグイグイ突っ込んでくるな。案外こういう話題に食いつくタイプなんだろうか。

 

「……それだけだよ。よく付き合ってるんじゃないかとは言われてたけど、そういう雰囲気になった事は一回もないかな。良くも悪くも、お互いが黄色い帽子を被ってた頃からの知り合いだし」

 

「ふーん」

 

 そんな意味深な呟きを最後に、2人の間には再び沈黙が流れる。……いや、せめて何か返してくれ。恥ずかしくなって来た。

 羞恥心からか口の中が乾いたため、バッグからペットボトルの水を取り出し、中身を口に入れる。

 

「でも好きなんでしょ。あいつのこと」

 

「!? ……げほっ! ん゛っ」

 

 その瞬間、当たり前の事実を語るような平坦な声色で、神室さんはとんでもないことを聞いてきた。

 あまりの不意打ちに、飲み込んだ水が変な場所に入り数回むせってしまう。露骨すぎる反応だが、こればっかりは不可抗力だと思う。

 

「げほっ、……急に何言って……」

 

「その反応からしてやっぱり図星ね。一応言っておくけど、クラスの大半は何となく察してるから」

 

「嘘でしょ……」

 

 そんなところまで優秀じゃなくていいって。絶対バレてないと思ってたんだけど。

 

「で、実際どうなのよ。ここまで来たら腹くくってもいいんじゃない?」

 

「いやどの目線よそれ……まあ、好きか嫌いかって言ったら……好きだけど」

 

 恥ずかしさからか、今時中学生でも言わないようなことを口走ってしまう。浮ついた気持ちを必死で隠す俺とは対照的に、神室さんの視線はどこか冷たい。

 その違和感に俺が気が付いたときには、神室さんは呆れた様子を隠すことなくため息を吐いていた。

 

「はぁ……じゃあ、何であいつの告白断ったわけ?」

 

「えっ」

 

 どうして神室さんがそれを知っているんだ? 俺は誰にも言ってないし、あの場には誰も居なかったはずだ。

 

「坂柳本人から聞いたのよ。小難しい言い方してたけど、要はDクラスの生徒にあんたを取られて嫉妬して、あんたを独占しようとしたらまんまと振られただけじゃない」

 

「……」

 

 溜まった鬱憤を晴らすように早口で語る神室さん。そんな彼女の話だが、情報量が多すぎて処理しきれない。

 あの主従契約みたいな提案に、そんな可愛らしい意味が込められていたのか? 

 

「……それ、本当に有栖から聞いたの?」

 

「ええ。明らかに様子が変だったから、鬼頭と橋本含めて4人で帰ってるときに聞いたのよ。あいつでも吐き出したくなるときはあるみたいね。その内容が色恋沙汰っていうのは意外だったけど」

 

 ということは特別試験が始まる前……何なら船に乗る前には知っていたってことになる。しかし、何故今になって突然それを打ち明けたんだ? 

 恋バナをしたかったという訳ではないだろう。それをするにしては、あまりにも彼女から出ている雰囲気が険悪だ。

 

 ────だがそんなことよりも、俺は神室さんの言ったことが信じられなかった。

 

「いや、そんなことで不安定になる? 別に俺の前では何ともなかったって」

 

 そうだ。あの有栖が()()()()のことで動揺するはずがない。現に断った時も、いつもと同じように余裕そうだったじゃないか。

 動揺から口調が荒くなるのを自覚しながら言い返すと、神室さんはとうとう近くの切り株に座り込んでしまった。

 

「……ほんと呆れた。いい加減、あんたと坂柳の痴話げんかに付き合うのはこりごりなの。橋本も何してるか全くわかんないし。龍園だって……

 

 最後に小さく呟いた言葉は聞こえなかったが、俺が有栖に抱いている印象と、実際の有栖の性格は少し違ったものなのかもしれない。

 

「あんたは坂柳のことを神様かなんかだと思ってるかもしれないけど、あいつはただの頭が切れるだけの高校生。私の知らない事情があるのかもしれないけど、見ていてムカつくし、坂柳の機嫌が悪いと困るのは私なの」

 

 色々な苦悩があったのだろう。過去のことを思い出しながら語気を強める神室さん。

 ……あまり実感が沸かないせいか、他人事のように語ってしまった。

 

「……分かった。帰ったら有栖にはちゃんと伝えるよ」

 

「そう。ならいいけど」

 

 言いたいことを言ってスッキリしたのか、神室さんは立ち上がってそのまま先を歩いて行ってしまった。

 その背中を追いながら、俺は正直に思ったことを口にした。

 

「やっぱり結構優しいよね。神室さんって」

 

「……うっさい。早く先行って案内して」

 

「はい」

 

 そこから1時間。ほどほとんど会話の無い探索だったが、不思議と今までの様な気まずさは感じなかった。

 

 

 

 

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