ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
7日間にわたる特別試験もついに終了となり、島に残ったすべての生徒が、海岸の砂浜に集められた。
「ただいま試験結果の集計をしております。暫くお待ち下さい。既に試験は終了しているため、各自飲み物やお手洗いを希望する場合は休憩所をご利用下さい」
そんなアナウンスが流れ、生徒たちが一斉に休憩所へと集まっていく。他にも仮設テントの下にはテーブルやら椅子が用意されていて、十分な休憩が取れそうだった。
「行かなくていいのか?」
葛城君が休憩所の方を見て聞いて来る。
「いや、遠慮しとくよ」
あんまり動く気になれないからね。
先日石をぶつけられた背中がじくじく痛む。昨日葛城君に見てもらったが、どうやらでかい青痣が出来ているらしかった。
「そうか。何か欲しいものはあるか? 持ってくるぞ」
「まじ? じゃあ……スポドリ欲しいな。氷無しで」
「分かった」
そう言って、もみくちゃになっている休憩所へと向かう葛城君。
試験が始まってからずっと思っていたが、超聖人だよね葛城君。龍園たちとのギャップに熱を出しそうになる。
「ほら、貰って来たぞ」
「お、あざーす……んんー! 沁みる~」
最近ずっと水しか飲んでなかったからな。ミネラルも不足していただろうし、その中でキンキンに冷えたコレは麻薬だ。
地べたに座りながらプラスチックのコップに口を当てると、一気にあおって息を吐く。
すると、中央に置かれた台の周りに先生が集まり始めた。
「ではこれより、特別試験の順位を発表する」
拡声器から真嶋先生の声が聞こえてきた。別に整列とかはしないで良いようで、各自自由に過ごしながらも耳を傾けている。
「最下位はCクラスの0ポイント」
妥当な結果だ。驚きはない。
「第3位はBクラスの90ポイント」
うわ。分かってはいたけど、こりゃ可哀想だな。
恐らく、試験を取りまとめていたであろう一之瀬さんは、事態が理解できないのか、呆然と立ち尽くしている。
しかし、真嶋先生は待ってはくれない。続けて発表を行う。
「第2位は……Dクラスの255ポイント」
真嶋先生は一瞬顔をこわばらせ、そう発表した。
この結果はDクラスの生徒も予想していなかったのか、大きなどよめきが辺りに広まる。
「うおおおおお! やったぜ!! ざまぁみろ!!」
「ななな、どういうことなんだよコレ!? なあおいい!!」
須藤の叫び声と共に、Dクラスの生徒たちは一斉に集まりだした。楽しそうで何よりである。
そんな喜び一色のDクラスに対して、待ったをかけた者が居た。
「ちょ、ちょっと待てよ。255で2位だって……? じゃあAクラスは」
休憩所からそんな声、恐らくBクラスの生徒だろう。
その言葉に落ち着きを取り戻したのか、学年全生徒が固唾をのんで結果発表を見守る。
勝利が確定したAクラスの生徒も、喜びを内に秘めながら、緊張した面持ちで真嶋先生を見た。
「そしてAクラスは……
────406ポイントで1位となった。以上で結果発表を終了する」
生徒全員が呆気にとられている中、俺は隣に立つ葛城君の背中を手のひらで叩いた。
「大勝利ー。お疲れ様! 葛城君」
「……ああ。そうだな」
他クラスを含めた、周りの視線が俺たちに集中する。
そんな中、葛城君はこの圧倒的な勝利を受け入れるには、まだ心の準備が足りていなかったようだ。
「何辛気臭い顔してんだよ。お前が言わないなら俺が言っちゃうよ?」
そう言って、俺は大きく息を吸って後ろを振り返った。
大きく声を上げようとするが、葛城君が肩に手をポンと置いてそれを阻止する。
「それには及ばないさ。
────皆、よくやってくれた。俺たちの勝利だ」
「「「うおおおおおおお!!!!」」」
今まで一番大きな叫び声が、島全体に響き渡るのだった。
────────────────
橋本君から試験終了と、その結果をメールで受け取った私は、すぐさま端末を手に取り通話をかけました。繰り返すコール音を聞きていると、早まる心臓の鼓動を感じます。
それほどまでに、橋本君から送られてきた結果が、私にとって意外なものでした。
「ん……もしもし」
無限にも感じられる静寂が途切れ、この一週間、聞きたくて仕方が無かった幼馴染の声が、電話越しに聞こえてきました。
その声を聞く限り、流石の旭君でも一週間の無人島生活は堪えたのでしょうね。疲労の色が見えます。
もう少し、時間を置いた方が良かったでしょうか? ……いいえ、別に気にすることはありません。
旭君も、私の声を聞きたくて仕方が無かったはずですから。
「特別試験、お疲れ様でした。結果は橋本君から聞きました。どうでしたか?」
「どうも何も、橋本君が言ってたことが全部だよ。ま、色々大変だったけどさ」
「その色々の部分を聞きたいんですよ。あなたも気が付いているんでしょう? でなければ、あの結果に終わるはずがありませんから。どうやって私と龍園君の攻撃を退けたのか、教えて欲しいのです」
高揚感からか、いつもより早口になるのを感じます。
久しぶりにお話しするのに、私がこんな調子だと恥ずかしいですね。ですが、これくらいは許してください。
貴方の声を聞くこともできない一週間。私は旭君の部屋で寝泊まりすることで、その寂しさを埋めていたんですから。
「……攻撃、ねぇ」
「ええ。Aクラスの生徒半分と、Cクラスとの同盟。一筋縄ではいかなかったでしょう?」
「……結果以外何も聞いてないだろうし、とりあえず説明するか────」
────それから、旭君はこの一週間で起きた事を事細かに説明してくれました。
葛城君を筆頭に、しかしリーダーは旭君が引き受けたこと。
葛城君にしては良い判断です。旭君が良く働いてくれたのは、試験結果からも物語っていますから。
続けて龍園君との取引について。
過程については彼に任せていましたが、まさかこんな大胆な作戦に打って出るとは。
まあ、契約内容を修正されたのは笑ってしまいましたが。幼少期から私と過ごしてきたのです、そういう契約の穴を、旭君が見落とすはずがありません。
私を慕う方たち。特に橋本君、真澄さん、鬼頭君と一緒に行動することが多かったことも。
ゆくゆくは彼らと行動を共にすることが増えるでしょうし、いい傾向でしょう。
……真澄さんには釘を刺しておかなければいけませんね。旭君に惚れられでもしたら困りますから。
「違和感を持ち始めたのは2日目の夜辺り。坂柳派の生徒がひっきりなしに、スポット占領するときの俺を監視している事に気が付いた。この辺りで、キーカードを盗み出そうとしてるんじゃないかとは薄々思ってたからな。……だから罠を仕掛けた。洞窟の占領を終えた後、鞄の中にキーカードを入れる振りをしてね」
淡々と続ける旭君。整然とされたその語り口は、まるで誰かに報告することを事前に想定していたように思えます。
流石旭君です。試験が終わっても安心することなく、私に報告するために準備をしてくれたのでしょう。
「簡単に引っかかってくれたよ。皆が寝静まった深夜、クラスメイトが鞄を漁っているのが見えた。後ろからだし、暗かったから顔は見えなかったけど、そんなことをするのは坂柳派の生徒しかいないだろ?」
「そこで、キーカードを盗もうとしている事が分かったんですね」
「ああ。だから真嶋先生に言って、クラスの3分の2以上の同意なしに、ポイントによる物資のレンタルを禁止するルールを作った。キーカードを持ち出そうとしている時点で、他クラスに情報を渡すか、盗んでスポット占領を出来なくするか。このどちらかが目的となる。前者ならデジカメで写真撮られたら一発だし、誰が勝手にレンタルしたかの証拠も記録されない」
「だから、彼らが無断で物資を借りれないようなルールを作ったと?」
私が指示を出しているのならこうするだろうという、そんな想定までして動いていたと語る旭君。
クラスメイトの取りまとめや方針については葛城君に任せ、内外の敵については自分で処理する。葛城君が得意とする分野に集中させる、良い役割分担だと思います。
「そういうこと。だがこの時点で、龍園と手を組んでいるという結論まではいかなかった。何せCクラスは既に空中分解してるんだから。0ポイント作戦は反対されるだけの理由はあるだろうし、そこに違和感は抱かなかった。いいカモフラージュだったね」
つまり、この段階では私が橋本君たちに指示を出し、他クラスにキーカードを見せてリーダーを当てさせるつもりだと予想していたのでしょう。
その察しの良さもそうですが、迅速な対策は目を見張るものがあります。
「話が大きく動いたのは試験5日目の深夜。もう一つのスポットである小屋を占領しに行ったんだが、そこで綾小路に待ち伏せされていた」
ここで初めて出てきた綾小路くんの名前。お世辞にも集団行動に向いていないであろうDクラスが、255ポイントという1位でもおかしくないポイントを獲得できたのは、単に彼のおかげでしょう。
「占領の場を見られ絶体絶命の中、綾小路がしたのは助けを求めることだった。脅しでもすればいいだろうに、あいつはクソ真面目に頭を下げてきた。坂柳派と龍園に狙われているから、助けてくれってね」
「なるほど。そこで彼らと龍園君とが手を組んでいる事に気が付いたと」
「……ああ。そういうこと。そこから先は知っての通り。綾小路と堀北さんが人質になり、橋本君を仲介として龍園は俺を呼び出した。恐らくお前と伊吹って女が龍園に忠告したんだろ? 九条旭は喧嘩が強いって。だから龍園は10人もクラスメイトを島に残し、それぞれに武器まで持たせた。そんなんじゃなきゃ普通、アルベルト1人で事足りるからな」
その発言……私を『お前』と呼ぶ旭君に少し違和感を覚えます。しかし、話の続きが気になることも相まって、そう言うこともあるかと流してしまいました。
……少し落ち着いて考えれば、彼の口調がいつもより荒かったことに、気が付けたのかもしれません。
「だから全員ボコボコにしてやった。あとは手筈通り、龍園たちを学校側に報告しない代わりに、自クラスと入手していたBクラスのリーダー情報を、証拠付きで渡すように龍園を脅した。どうやったかは分からないけど。ちゃんとアイツが従うかは不安だったが、特に問題もなくこの結果だ」
説明し終わると同時に、今度は私が答える番だと続ける旭君。
「龍園と結んだ契約、橋本たちは『Aクラスのポイントを減らす』という内容だと思っていたらしいが、本当はそうじゃないだろ?」
「どうしてそう思ったのでしょうか?」
そんな鋭い質問に、その結論に至るまでのプロセスが気になりました。
「龍園がまだ島に残っている。この情報を綾小路に教えたのは橋本君本人だ。つまりこの時点で、橋本君は綾小路と堀北さんをターゲットだとは思っていなかった。だってそうだろ? 普通わざわざ警戒させるような話を敵にするわけがない」
「それがどうして、私と龍園君が結んだ契約の話に繋がるのでしょうか? 彼が勝手にやったことだとも考えられるでしょう?」
「いいや無いね。龍園の目的は俺だ。だったら最初っから橋本君に頼んで、俺を呼び出してリンチすればいい。わざわざ危険性を上げてまで、綾小路と堀北さんを狙う意味はない。つまり、お前と龍園が結んだ内容は『綾小路と堀北さんに、精神的または身体的ダメージを与えること』……その対価として、坂柳派に対する指揮権を与えた。契約に反した場合のペナルティでも与えれば、龍園はそれに逆らうことは出来ない。そして坂柳派には、『Aクラスのポイントを下げる』という虚偽の契約内容を伝えた。違うか?」
その考察を聞き、胸の奥にジッとした、湿度の高い熱が広がりました。
あれほどまでの極限状態の中、情報を一切見落とすことなく答えにたどり着いた旭君。もはや、凡人の域は遥かに脱していると言っていいでしょう。
感無量の思いでいっぱいの私を置いて、旭君は続けて語ります。
「だが予想外だったのは、俺に対する龍園の執着が異様に大きかったこと。契約の穴を突いて、綾小路と堀北さんは人質という形でダメージを与え、最終的に呼び出した俺をリンチするつもりだった。結果としては失敗に終わったけど、契約内容には何ら反していない」
「ふっ、ふふっ、ふふふ……」
「……何がおかしいんだよ」
突然笑い出した私に対して、旭君は呆れたように呟きました。
確かに笑う場面ではありませんでしたね。ですが、私は嬉しいんですよ。
ごめんなさい旭君。実は、予想外でもなんでもないんです。だって、その契約の穴は私があえて作ったんですから。
だってしょうがないじゃないですか。私から離れて行ったのは貴方なんですよ?
貴方の優しさは美点ですが、それを向ける相手を間違えちゃ駄目なんです。
だから、私は貴方に罰を与えるつもりでこの契約を結びました。
私の手のひらの上で踊らされていた事実を打ち明け、ボロボロの体で絶望しながら、許しを請いて欲しかった。私をほったらかして、あんな奴らの所に浮気してごめんなさい。許してください。捨てないでくださいって。
そして私は、足元で泣きながら跪く彼の頭を優しく撫で、抱きしめるのです。
そうすれば、旭君は一生私から離れることは無くなります。ずっと、ずーっと一緒です。
……普通の人なら、こんな事をされたら憤慨するでしょうね。
しかし、旭君は私に依存しきっていますから。騙された怒りよりも、捨てられなかった安楽が胸を占め、もう二度とこんな事をしないと誓うはずです。
「ごめんなさい旭君。貴方は、もう凡人なんかじゃありません。天才ですよ。だって、天才の私を打ち負かしちゃったんですから」
ですが、……ですが! 旭君は私の計略を全て、跳ね返してしまいました!
綾小路君と協力したというのには不満が残りますが、それでも、それでも敵対する者は全てなぎ倒したのでしょう?
嗚呼……私もその場で見たかったです。Cクラスの軍勢をたった1人でねじ伏せる、格好いい旭君の姿を。
ボロボロになりながらでも全然構いません。地べたに這いつくばりながら、それでも尚諦めないところに、私はどうしようもなく心惹かれているのですから。
『────お前がそんなしょうもない利害をかなぐり捨ててでも、欲しいと思えるような男になってやるよ』
そのとき、そんなキザったらしくて格好いい言葉が、私の脳裏に浮かびました。
「あの時言ってくれた言葉、覚えていますか? 夏休み最初の夜、お付き合いを提案した私に答えてくれた、貴方の言葉を」
「……」
思い出して照れているのか、旭君は黙ったままです。
……もう、仕方ないですね。こういうのは、普通男の子から言うものでしょうに。
「もう、貴方をそういった物差しで測るのは金輪際しません。帰ってきたら、一緒に住むための家具を探しに行きましょう。2人で過ごすには若干手狭ですが、ポイントを払って交渉すれば、職員用の広い部屋を借りることが出来るかもしれません」
頬に熱を帯びている事を自覚しながらも、私はしっかりと言い切りました。
これで、聞こえていなかったなんて言わせませんから。ヘタレな旭君とは違って、私はちゃんとしているんです。
頑張った甲斐があったでしょう旭君? こんなこと、私から提案するなんて滅多に無いんですよ? ほら、早く返事を言って下さ────
「────お断りだ。上から物語ってんじゃねえよクソ女」
「えっ……」
「誰が今のお前と付き合いたいと思うんだよ。自分のやったこと、もう一回その天才な頭脳で考えてみろよ馬鹿が」
聞き間違い……ですよね? だって、そんなはずは……
「俺がキレないとでも思ったか? 親友2人に毒盛られて連れ去られてよ。どうせ龍園が俺を狙ったのもお前が誘導したんだろ? んなの言われなくても分かってんだよ。何年一緒に過ごしてきたと思ってんだ」
……どうして? 何で私は、旭君に怒鳴られて……だって、私は貴方のことを想って……
「ち、違いまs「言い訳なんて聞きたくねぇんだよ!!」」
初めて向けられた旭君の怒号に、体が強張り、目が潤うのを感じます。
あまりの圧に押し黙る事しかできない私に、旭君は呆れたようにため息を吐きました。
「はぁ……俺が帰るまであと一週間。せいぜい一人で考えるんだな。その間は電話にも出ないしチャットもブロックする。あとどうせ俺の部屋にいるんだろ? 今すぐ出て行けよ」
「嫌です、嫌っ! ……ごめんなさい……! 旭君! 話を聞いてください! あさひくんっ!」
年甲斐性もなく泣きじゃくる私を置いて、旭君は通話を切りました。
携帯のブザー音と共に、急に静かになった旭君の部屋が私の目に映ります。
「ひっぐ、ひっ、……何で、っぐ……あ゛さひくん!」
ぼやけた視界の中、震える指を必死に動かし、私はもう一度通話をかけ直しました。
『この電話はお繋ぎすることができません。番号をお確かめの上……』
コール音すら鳴らず、無機質なアナウンスが携帯から流れます。
それは、着信拒否をされたことを意味する言葉。今の私にとっては、死刑を宣告されたも同義でした。
「うっ……うぅ。ひっぐ……」
ベッドの上で旭君の枕に顔を埋めながら、私は抑えらない混乱と悲しみを、誰も居ない、寂しい部屋で一人溢れさせます。
そして泣き疲れた私は、そのままこのぼんやりとした意識を、暗闇の中へと落とすのでした。
Q:ラブコメって聞いてたんだけど息してる?
A:ごめん。多分ギリ死んでる。付き合ってから…付き合ってから息を吹き返すから。
ということで分からせられた坂柳でした。激曇りしてて可愛いね。
本当はもっとあっさりとした感情にする予定だったんですけど
・幼少期から天才過ぎて誰にも理解されない中、たった一人だけの理解者。しかも自分にだけめっちゃ優しい。
・その理解者が自分に追いつこうとして努力し、それを成し遂げた。
・その理解者が自分から離れようとしている(ように見えた)。
こんな状況ならちょっと重くなってもしょうがないよねってことで。
嫉妬する坂柳って絶対可愛いよねってことで作ったプロットですが、思いのほかヘイトが高まっててビックリです。多分綾小路、堀北、葛城辺りの仲良し描写をガッツリ書きすぎたことと、九条の性格が良すぎることが原因かなって思ってみたり。
とりあえずさっさと和解させたい。船上試験は早めに終わらせます。
龍園周りの説明もそこでする予定です。
うわ、結構評価下がってますね……賛否両論なのは覚悟していましたが。
もしいいなと思ったら、高評価いただけるとモチベに繋がります! モチベは投稿頻度に影響するので、是非よろしくお願いします!