ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
おかしいな。本当は船上試験にすんなり移るはずだったのに。
閑話:√
試験終了後。堀北に呼び出されたオレは、疲れを訴える体に鞭打って船の前方デッキへと足を運んだ。
時刻は既に夕方6時を周っており、オレンジの光を反射する海原が、視界一面に広がっている。
見晴らしがよく、誰かに聞かれる心配もない良い場所だ。だが、密談をするには少しロマンチックな場所でもあった。
「……とりあえず、何から説明しようか」
「全部よ。私が毒を盛られた所しか聞いてないもの」
場所は船の前方デッキ。目の前に立つ堀北が、批難の意味を込めたであろうジト目を向けてくる。
「順を追って説明するぞ。まずは────」
とりあえず、橋本から龍園についての情報を聞いた5日目から、オレと九条がどのような行動を取ったかを説明した。
ざっくりとした説明だったが、堀北はきちんと理解したようで、その作戦の滅茶苦茶さに目を瞑っている。
「……呆れた。それって、結局あなたと九条君がCクラスを返り討ちする前提の作戦じゃない」
「そうだな。欲を言えば2人で戦ってみたかったが、あの状況でそれを提案するほど肝は座っていないからな」
「そういう問題じゃない気がするわ……」
危なくなったら手を貸すつもりだったが、そんな心配は杞憂だったな。
上下の移動を含めた素早い蹂躙劇は、まるで創作の世界に飛び込んだような迫力さえ感じた。
「まあ、正直もうそれは良いわ。私が気になるのは龍園君よ。結果を見る限り、あなた達は、お互いを除いたBとCのリーダーを当てたのでしょう? 龍園君が情報を持っていたとして、彼が素直に渡すとは思えないわ」
各クラスのポイントを逆算し、結論を導き出す堀北。
「話をしただけだ。少しだけ過激なお話をな。同時に昨日の状況は、全てオレが仕組んだことだとも説明してやった。今の九条に、龍園のヘイトを向けるのは酷だからな」
「……そう」
別に明言したわけではないが、堀北はその言葉尻からオレがどのような行動を取ったかを理解したらしい。
痛みで音を上げるような人間ではないと思っていたが、ひたすら殴り続けるオレから何かを感じ取ったらしい龍園は、今までの威勢が嘘のようにその表情に恐怖の感情を乗せた。
実際にどう思ったのかは分からないが、そのまま気絶した龍園は、起き上がったオレに自身が持つすべての情報を開示した。
「龍園の奴、自主退学するつもりらしいぞ」
「別に驚きは無いわね。暴力でクラスを支配していた人間が徒党を組んだにも関わらず、たった一人の生徒に返り討ちにされるんだもの。……でも気がかりなのは九条君たちね。龍園君に自爆でもされたら誰も幸せにならないわ」
「別にそのつもりは無いらしいがな。まあ、龍園の退学についてはなるべくなら阻止したいんだが」
そんなオレの本音に驚いたのか、堀北は目を丸くする。
「意味が分からないわね。これから九条君を狙うと公言している生徒を、残しておく理由が何処にあるのかしら?」
「……個人的な理由だよ。龍園自身に少し興味があってな」
「……興味? やっぱりあなた男色家……「だから違うって言ってるだろ!?」」
いい加減にしてくれ。
「オレはちゃんと女子が好きだ。具体的には……?」
……あれ? オレってどんな女がタイプなんだ?
「やっぱりそうなのね綾小路君。だからと言って、私は嫌悪したりしないから安心して頂戴。今は多様性の時代だから」
余裕が生まれると煽りもウザくなるのか? 斜め上の方向性で、成長が著しい堀北だった。
「うっざぁ……ほら、例えば……胸が大きいとか、顔が可愛い子とか」
必死に脳内にイメージを浮かべてみるが、鮮明な像が浮かぶことは無かった。
「どれも遺伝子的な要因ね。原人の価値観といっても差し支えないわ」
「……そういうお前はどうなんだよ。好きなタイプとかあるのか」
「兄さん」
食い気味に即答する堀北。相変わらずブレない奴だ。
「と言いたいところだけど、そんな答えは望んでないでしょうから……まあ、私の周りにいる男性の中だったら九条君かしら。というか、他にマシな人が居ないわ」
「オレはどうだ? オレは」
自分の顔を指さして、堀北の方を向いてみる。こういう会話、一度くらいはしてみたかったんだよな。
「無いわね。いくらかマシにはなったけど、隠し事が多い人間と、そういう付き合いをするのは良くないでしょう?」
「……彼氏ができたことなんてない癖に。……じゃあ平田とかはどうだ? クラスの女子には大人気だろ?」
池や山内、須藤なんかと比べると確かにマシなのは九条位しかいないと思ったが、身近に居るではないか。九条と並ぶほどの完璧超人が。
「嫌よ。彼の笑顔、胡散臭いし」
酷すぎるこの女。ただお前がああいうタイプの陽キャが嫌いなだけじゃないのか?
心の中で平田に合掌していると、堀北がこちらに一歩詰めよって来た。
「私が答えたのだから、次は貴方の番じゃないかしら?」
「いや、だから浮かばないって言っただろ」
「だったら、魅力的だと思う人を上げていけばいいじゃない。私には全然理解できないけど、櫛田さんとかは馬鹿な男子に大人気でしょう?」
「馬鹿って……お前なぁ」
オレに対しての当たりが良くなったとは思っていたが、まだまだそれを不特定多数に向けるほどのキャパシティーは無いらしい。
「うーん……誰だろうな」
実際に知り合いの顔を浮かべていく。櫛田は本性が終わっているから省くとして、浮かんできたのは須藤事件の際に少しだけお世話になった生徒、一之瀬の姿だった。しかし大して知り合いでもない為次へと移る。
次に浮かんだ顔は、ストーカーの件から仲良くなった佐倉だ。佐倉に関しては引っ込み思案だが、優しさも兼ね備えている。オレみたいな影のものにも優しくしてくれるだろう。
「うん。一之瀬と佐倉の顔が浮かんだ。やっぱりオレは巨乳が好きみたいだ」
「下衆ね。貴方の評価を池君と同じに下げるわ」
「ちょちょちょ」
今の発言は半分本当で半分が嘘だ。確かに魅力的だと感じる相手を想像したが、付き合うとなれば話は変わってくるだろう?
世の中の若者が俗にいう『タイプ』というのは、ただ単純に容姿の話だけじゃないはずだ。
「実際に付き合うとなると、また話が変わってくるだろうからな……」
「あら、どうせ付き合いなんてしたことが無い、綾小路君には厳しい質問だったかしら?」
「うるさい。お前も経験ゼロだろ。同じ穴の狢だ」
そんなしょうもない言い争いをする。……そう言えば九条も0人だと言っていたな。そもそも、そうじゃなきゃ坂柳があそこまで拗らせることは無かっただろうし。
『説教してやるー』なんて息巻いていたが、ちゃんと出来たのだろうか?
っと話が逸れたな。オレのタイプの話だったか。
性格は……マジで分からない。脳内の九条を呼び出してアドバイスを貰おう。
『一緒に居て楽しい人が良いんじゃないかな (*^^)v』
ありがとう九条。お前は親友だ。
「一緒に居て楽しい人……だな」
「まともな回答ね。少し驚いたわ」
付き合うのだから、必然的に一緒に過ごす機会が増えることになる。ということは、長時間共にしても苦じゃない相手を選ぶべきだ。……タイプってこういうロジック的に考えるものなのか?
まあいい。その条件で検索をかけてみよう。
数秒して、1人の女子の顔が鮮明に浮かび上がった。
奇妙な事に、浮かんできた顔の生徒は俺の目の前に立っている。
「堀北。お前の顔が浮かんできた……って、あっ……」
失言したっ! そんなこと言ったら殴られるに決まってる。
「す、すまん。別に他意は無いぞ。ただ自然に浮かんで来たのがお前の顔ってだけで」
「……そう」
何処をド突かれるか分からない恐怖に身を震わせていたが、意外にも堀北から帰ってきたのはしおらしい返事のみ。
「うん……」
対して急に恥ずかしさが込み上げたオレの空返事がデッキに響く。……なんだこれ。変な空気になってないか。
気まずい沈黙が流れ始めたその瞬間、まるで救済の鐘の音の如く、オレと堀北の携帯のブザーが鳴った。端末の初期設定で、チャットが送られたことを示す二回連続のブザーだ。
通知を見ると、どうやらクラスのグループチャットに池がメッセージを送ったらしい。
『試験お疲れってことで打ち上げやろうぜ! 茶柱先生に聞いたら、事前に申請すればレストランとか貸し切りに出来るらしいし!』
「お前、グループチャットの通知付けたんだな。前は消してただろ?」
「別にいいじゃない。私だって九条君を見てたら、クラスメイトとの交友関係の大切さに気が付くわよ」
多分無人島試験で爪弾きにされていた九条を見てとの発言だろうが、それはあまりにも不憫じゃないか?
まあそれはそれで、こいつなりの歩み寄りなんだろう。実に微笑ましいことだ。
『いいね! 皆で行こう!』
平田がスタンプと共に池にリプライを飛ばす。
櫛田や軽井沢といった面々も賛成の意を表明したようで、皆が参加する流れとなっていた。
「下着泥棒も伊吹がやった事だと納得してもらえたからな。流石、Dクラスを2位まで持って行った、勝利の女神堀北様だ」
因みにオレの功績は全部堀北がやったことだと平田に説明した。多分ありえない試験結果に質問攻めにされただろうから、その都度堀北の名前が広まることになっただろう。
「やっぱり嫌いだわ。あなたのこと」
逆に今までは好きだったのか? なんて聞いたら流石に殴られそうなので、大人しく口を噤んでおく。
────結果としてはAクラスの圧勝によって終えた特別試験。しかし、CクラスとBクラスを大きく突き放しての第二位という結果は、皆を満足させるには十分だったらしい。
「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなったわね」
船の前方デッキで風を感じながら、隣に立つ堀北が微笑みながら語る。
……こいつ、こんな表情出来たんだな。夕陽に照らされ、そよ風に髪を揺らす堀北は、いつも以上に魅力的だった。
「……何? ずっとこっちを見て。最近そういうの、多くなってるんじゃないかしら」
と思ったら急に不機嫌になった。相変わらず視線に敏感な奴だ。
美人は周りの注目を浴びやすいから、視線に敏感になるというのは本当らしいな。こいつの場合、恋愛なんかには毛ほども興味が無かっただろうから、余計嫌悪感を抱いたはずだ。
「いや、何と言うか……お前がそんなに穏やかに笑うのが珍しくてな。ムスッとしてるより、そっちの方が断然いいぞ」
ここで嘘をつく必要が無いため、正直に心の内を開けただけなのだが、その言葉を聞いた堀北の反応は中々のものだった。
「あなた急に何言っ……いえ、元々そういう人だったわね」
なんか、嫌な納得のされ方をしてしまった。
……いや、確かに今の言葉は完全に口説いてたな。無意識にそんなことを言う辺り、オレも九条に寄せられているのかもしれない。
あいつ人を褒めることを躊躇しないからな。自分にストイックな性格な割に、相手を褒めて伸ばすタイプの人間なのだ。
この前なんて「綾小路はイケメンだから彼女くらいすぐできるよ」という言葉を、純真無垢な瞳で言われた。嬉しいさ。嬉しいのは間違いないが1つ言わせてもらうぞ。
お前イケメンランキング一位だったからな? 交友関係の広さだったりで前後するだろうから、明確な指標にはならないだろう*1。それでも聞く人によっては嫌味になるぞ?
一説によると、坂柳が交友関係を巧みに駆使して投票させていたらしい。なんてところに本気出してるんだ。
そんなことをボーっと考えていると。唐突に頬をつままれた。
「んぁ?」
見ると、堀北がオレの頬を両手で横に引っ張っている。相変わらず距離が近いが、先日の一件からあまり気にならなくなった。
「そんなことを言うなら、綾小路君も笑いなさい。貴方、九条君と話してるときしか笑わないでしょう?」
「べふひひょんなほほないじょ(別にそんなことないぞ)」
「なら、私が手を離しても笑えるのかしら?」
分かったから手を離してくれ。そんな思いが伝わったのか、堀北は手を放した。
ジンジンと痛む頬を撫でながら、自然に笑うために口角を上げる。
「……自分から笑うのって、どうやればいいんだろうな」
引きつった笑みを浮かべるオレに、ため息を吐く堀北。
「はぁ……私が言えるものじゃないと思うけど、九条君は『楽しいときや嬉しいとき、人に感謝するときに自然に出て来るもの』と言っていたわ」
「あんなド陽キャの意見が参考になるとは思えないが……」
とりあえず楽しい記憶を掘り起こしてみる。幼少期からさかのぼるが、ここに入学するまでは楽しいなんて記憶はほとんどなかった。入学後を浮かべてみよう。
放課後、嫌がる堀北を連れて3人でファミレスに行った記憶や、休日に3人でボウリングに行った記憶など、やはり空手部関連の記憶が思い浮かぶ。
「あとは感謝か……」
「あら。感謝すべき相手は目の前に居るんじゃないかしら?」
「普通自分で言うかそれ。まあでも、確かにな…」
と言っても、こいつと九条には返しきれないほどの恩がある。
……そうだな。楽しかった記憶を前面に出しつつ、感謝の気持ちを堀北に向けてみよう。
「ありがとな、堀北」
────はたして今のオレは、上手く笑えているだろうか?
「……! やればできるじゃない」
そんな堀北の笑顔を見て、オレは自然と嬉しいと思えたのであった。
無心で書くとコメディ寄りになって、プロッド考えれば考えるほどシリアスに寄るのなぁぜなぁぜ?
冗談はさておき、死にかけていたラブコメに如く、綾小路と堀北の閑話休題でした。
原作7巻終了時のメンタルの龍園君。今後の展開がガラッと変わりますねー
次回船上試験。正直坂柳との和解の方が見たいよね皆。
ガチダイジェストで1話とかでサクッと終わらせようかな。まだちゃんとしたプロット立ててないけど、ヌルゲーになる予感しかしない。
そして思ったけど、多分この世界で一番悲惨なのはBクラス。
高評価と沢山の応援ありがとうございます! 感想に至っては沢山付きすぎてビックリしました笑。
今日昼から夜まで10時間ほどバイト入ってたのですが、ちょくちょく確認する度新しい感想来てて嬉しかったです笑