ようこそ純愛過激派の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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温度差が激しいので風邪ひかないように気を付けてください。


和解

 

 

 

 ────どこで道を踏み間違えてしまったのだろう。

 

 あの日、初めて聞いた想い人の、冷淡にこちらを突き放す声を聞いてから、一週間が経った夕方。私は息が詰まるような感覚と共に目が覚めました。既に消えつつある旭君の匂いのするシーツを名残惜しく思いながら、私はゆっくりと起き上がります。

 旭君は部屋から出ていけと言っていました。しかし、それをするともう二度とここには来れないんじゃないかという、漠然とした不安が私を襲うのです。

 

『どうせ許してくれるだろう』

 

『ただ機嫌が悪かっただけだ』

 

 なんて楽観的な感情は、一切浮かんできませんでした。

 何故なら、私は今まで一度も、旭君に怒られたことが無かったから。

 

 友人に遊びに誘われたところを無理やり連れて帰ったりしても、テストの結果で拙く自身の優位を示した時も、ふと夜中に電話したくなった時だって、彼は文句を言いつつ、笑って受け入れてくれました。

 だから今回のことも、私がどのような思いで行為に及んだかを説明すれば、それをしっかり受け止めてくれるかと思っていました。

 

「んっ」

 

 ベッドサイドに置いた端末を手に取ると、待ち受けには少し前に旭君と取った写真が写っていました。

 ポイントが入ったからと、奮発して連れて行ってくれたレストランで撮ったツーショット。私が旭君に身を寄せて、それに恥ずかしがる瞬間をとらえた、偶然の一枚です。

 

 つい2週間前まで、これほど楽しそうに食事をとっていたという事実が、私の枯れかけた涙腺を緩めました。

 

「っ……!」

 

 今までの様に1人寂しく外食する気にもなれず、自宅に食事を届けるサービスを使用すると、少しして部屋のインターホンが鳴りました。

 顔なじみになりつつある配達員から袋を受け取ると、それをテーブルの上に置き、1人暮らしの部屋で使うには大きすぎる、3人用のソファに腰掛けます。

 

 このソファは、私と旭君がセール品を半分ずつ出し合って購入したものです。

 当初購入に否定的だった旭君ですが、私がこの部屋に泊まっていくときは、彼はこのソファを使って睡眠をとっています。本当は小さな頃みたいに、一緒に寝たかったのですが、私からそれを口にするのは憚られました。

 

「……ちゃんと言葉にできてたら、今頃はこうならずに済んだのでしょうか」

 

 思わず口からこぼれ出た呟きが、夏特有のじめじめとした部屋に響きました。

 額から垂れてきた汗を拭い、エアコンのリモコンを操作します。

 暑さもあってか、今は食事をとる気分にはなれません。

 

 

 

 そこから数時間何もする気が起きず、ベッドの中で呆然としていると、ふと端末から通知音が鳴りました。

 送られてきたのは、自分が設定したカレンダーの通知。そこには以下のように書かれています。

 

『帰宅日。部屋の片づけを忘れずに』

 

 今日が2週間に及ぶ旅行の、最終日だということを知りました。今日の夜に旭君を乗せた客船は東京に到着。10時頃にはここに帰ってくる予定です。

 カレンダーなんて今まで使ったことありませんでしたが、当時の私はどのような気持ちで設定したのでしょう。

 ……まあ、大方旭君があと何日で帰ってくるかを見たかったことと、恐らく散らかっているであろう部屋を憂いてのことでしょう。旭君は綺麗好きですから。

 

 しかし……部屋以上に直すべきものがここにはありますね。

 

 洗面所に向かい見た鏡には、それはそれは惨めな女の姿が写っていました。

 シャワーこそやっとの思いで浴びていましたが、髪の毛や肌の手入れ等を行う余裕が無かったため、ボサボサの髪の毛に肌も荒れています。元から色白かった肌も、白を通り越して青みがかっています。

 

「ははっ……」

 

 ここまで露骨に精神が見た目に反映される自分に、自嘲の笑みを浮かべながら、シャワーを浴びて身を清めるべく、着替えをもって脱衣所へと戻りました。

 この姿を旭君に見せるわけにはいかないですからね。……もう、私にはこれしか残っていませんから。

 

 脱衣所で衣服を脱ぎ、蛇口を捻ってお湯が出るのを待ちます。

 目を閉じて水滴の音の情報しか脳に入らないと、最悪な可能性が浮かんでしまうので、私はこの時間が嫌いでした。

 棚に置かれた6つのディスペンサー、その内私用のシャンプー、リンス、トリートメント、ボディソープを使い、いつもより念入りに全身を洗います。

 

「……寒い」

 

 蛇口から出ているのは温かいお湯のはずなのに、私の体は芯が冷えたような寒気を訴えるのでした。

 

 

 

 シャワーから上がって体を拭き終わった私は、脱衣所に置かれた下着とパジャマに目を向けることなく、体にタオルを巻いたままリビングへと向かいました。

 常日頃からこういう事をしているわけではありません。……まあ、考えがあってのことです。

 既にエアコンが効き始めているリビングは、部屋を閉め切った事による詰まった空気と共に、私の気分を更に悪くさせました。

 そんな気分の悪さに耐えながら、入浴後のスキンケアを終えると、持ってきた化粧品セットを開きます。そして荒れてしまった肌や、血色の悪い唇を隠すため、化粧を始めました。

 旭君が返ってくるまで残り2時間、それまでに、この醜い私を隠さなければいけません。

 

 鏡に映る、何かに追われるように必死に化粧をする自分の姿を見て、私はパニックに陥りそうになりました。

 

「はぁ……嫌ですっ、こんな……」

 

 あれだけ待ち遠しかった彼の帰りが、こんなにも遠のいてほしいと思ったのは初めてでした。

 無意識に震える手が、塗り慣れたはずのリップの色を汚く滲ませます。

 

 

 

「駄目です……こんなんじゃ、こんなんじゃダメなんです……!」

 

 

 

 私は完璧でなければいけないんです。

 

 だって、旭君は何も間違わない、自信に満ち溢れた私に惚れたのだから。

 

 彼が惚れたのは、私という人間ではなく私の才能だから。

 

 頭脳だって同じだ。この容姿と同じく、生まれ持っただけの、ただの才能。

 

 でもそれでも良かった。だって私が天才であり続ける限り、彼は私に尊敬と恋幕の情を抱いてくれるんだから。

 

 でも、間違いを犯した私に、彼を繋ぎとめることが出来る要素は容姿だけしか残らない。

 

 だから……だからこうして! 彼が褒めてくれた容姿であろうとしてるのに! 

 

 

 

「それすらも……それすらも出来ないんですか……?」

 

 

 

 だったら、私には一体何が残るんですか? 

 

 これが罰なんですか? 自分の感情に正直にならず、努力を怠った私への罰。

 

 才能にかまけて努力を怠った人間と、努力で才能を追い抜かしていった人間とでは、対等な関係になんてなれやしない。

 

 ああ、喜劇でしかない。

 

 私の人生を見た者は皆そう言って笑うだろう。私だって逆の立場ならそう思う。

 

 

 

だって、私は旭君が居ないと、こうやって泣き散らすことしかできないのだから。

 

 

 

「……ごめんなさい。……ごめんなさい、ごめんなさい……

 

 

 

 つけたばかりのファンデーションを、頬を伝った涙が無遠慮に落としていく中。私は自分の人生を振り返る。

 自分の才能に酔いしれ、それを慕ってくれる大切な人の存在を蔑ろにした私は、本当に愚かな人間だ。今まで彼にどれだけ支えられていたのか、そんな簡単な事実から目を逸らし、あまつさえそれを当たり前だと思い込んでいた、最低最悪の人間。

 

 

 

 今更、私が幸せになる事なんてできないだろう。

 

 だって、私はこうして、失って初めてその大切さに気が付いたのだから。

 

 旭君以上に私を理解してくれる人なんて、金輪際現れるはずがないのに。

 

 人生で一番大切な宝物を、私はこの手で粉々に打ち砕いたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は夜10時。船上試験を終えた俺たちは、休む暇もなく学校へと帰ってきた。下船がAクラスからなのは嬉しい誤算だった。

 回しすぎた脳みそを熱帯夜の熱気で焼かれながらも、俺はキャリーケースを引っ張って寮へと走る。追い抜いたクラスメイトや、道中すれ違った先輩から怪訝な目で見られたが、そんなことを気にしている余裕は残念ながらない。

 

 あんなことを言ったが、どうせ有栖は俺の部屋にいるはずだ。

 そんな当たりを付けて、エレベーターを使い寮のフロアへと移動する。

 そのまま部屋の前にたどり着くと、自分の部屋に入るとは思えない緊張が走った。

 

「ただいま」

 

 そう言って部屋に入るも、返事はない。

 しかし、廊下に立ち込める嗅ぎなれたシャンプーの匂いや熱気を見るに居るはずだ。靴だってあるし。

 

「有栖?」

 

 まさか寝ているなんてことはないだろうな? 

 そんな心配をしながらリビングへつながる扉を開ける。すると真っ暗な部屋にベッドの上の塊が見えた。

 

「……おかえりなさい」

 

 ベッドの上の塊は、どうやら毛布にくるまった有栖だったらしい。

 いつもと違い覇気のない声が聞こえてきた。

 

「電気くらい付けろよ」

 

 なんて声をかけていいか分からず、とりあえず部屋の電灯をオンにする。

 

「……怒らないんですか。部屋にいたこと」

 

「どうせ言っても帰らないだろ?」

 

 そう言うと、有栖を覆った毛布がビクリと揺れる。

 

「別に怒ってねえよ。逆にこの一週間何を思ったのか、すぐ聞けてラッキーって感じ?」

 

 緊張しているのは俺も同じのようで、いつも通りの言葉が浮かんでこない。

 何とか棘が無い言葉を捻り出して語りかけると、有栖は毛布から顔を出してベッドの横を見た。

 

「隣……来てください。あと、電気も消してくれると嬉しい、です」

 

 よそよそしい語り口で促す有栖。

 泣いているところを見られるのが嫌なのだろうか? 大概子供だなと、何度抱いたか分からない感想をしながら電気を消す。

 そして暗くなった部屋で隣に座ると、有栖はポツポツと語り出した。

 

「……試験。お疲れさまでした。2つあったんでしょう? ……どうでしたか?」

 

 9年共に過ごしてきた仲とは思えない会話の滑り出しだった。

 

「まあ、ぼちぼちかな。……悪い結果ではなかったよ。割と簡単だったし」

 

「……そうですか。良かったです」

 

 そして再び流れる沈黙。

 

「私は……この二週間、すごく大変でした」

 

「うん」

 

 会話の切り出し方を迷っているのか、しどろもどろな言葉を続ける有栖。

 一見すると意味不明な語り出しだが、有栖なりに言葉を纏めるのを待つため相槌を打つ。

 

「自分1人じゃご飯も作れない。洗濯だってそう。部屋の片付けも全然できてないし、本当に散々でした」

 

「俺の大切さ、身に染みて分かった?」

 

 冗談のつもりで言ったのだが、隣からはすすり泣くような声が聞こえてきた。

 

「……はい。……私は、私の思う以上に、自分1人じゃ何も出来ないんだと。そう、思いました」

 

 途中しゃくり上げる声を押さえながら、有栖は続けて語る。

 

「私は……自分の才能にかまけて、私に追いつこうとするあなたを見下していました。旭君なら、私が何をしても怒らないと。いつしかそう思う様になってしまいました」

 

「……続けて」

 

「でも、それは間違いでした。あなたは、私に追いつこうとしていたのではなく、共に隣を歩き、支えてくれていた。それを……私は裏切ったんです。……最低ですよね。貴方に叱られるまで、それに気が付けなかったんですから」

 

 俺自身がどう思っているかはさておき、有栖はそのような結論に至ったようだ。

 今までの彼女だったら絶対に言わない発言だろう。あくまでも自分が上で、俺は彼女のいうことには逆らえない。

 実際そうだ。有栖は支えてくれていたと言っていたが、実際俺にその自覚は無い。ただ有栖のことが好きだから、彼女の相応しい男になろうとしただけ。

 

 ────だが、その関係性を助長させていたのは有栖だけではない。

 俺だってそうだ。1つ勇気を出して自分の気持ちをはっきりさせておけば、ここまで拗れることは無かった。

 有栖を独りぼっちにさせないと、隣に並べるようにと努力していたつもりだったが、それがかえって彼女を孤独に縛り付ける形になってしまった。

 

 今回の事件も、そんなすれ違いに生じた火種によるもの。

 電話では怒ってしまったが、以前神室さんが言っていた通り、原因は有栖だけにあるわけではないのだ。

 

「有栖……」

 

 どう言葉を掛ければ分からず、名前を呼ぶと、有栖は毛布を取って後ろ側に回り込み、俺の体に手を回してきた。有栖はそのまま俺の背中に顔を埋め、鼻水をすすりながら泣きじゃくる。

 

「ごめんなさい……! 本当に、ごめんなさい……! こんな、こんな……っ!」

 

 あの頭がいい有栖とは思えない、まるで幼子が親に許しを請うかような謝罪だった。

 そしてそのとき、背中に感じる感触に違和感を覚える。

 

「お前……」

 

 自身の胸に回された腕を見ると、そこには何も着けられていない。密着した体のラインも嫌に鮮明だ。

 そのまま後ろを振り返る。まず目に映ったのは、目を真っ赤に腫らし、何故か施されている化粧を涙でぐちゃぐちゃにした有栖の顔。そして()()()

 一瞬だけ目が合うが、今度は俺の胸に顔を埋める有栖。

 

「ひっぐ……! 何でも……なんでもしますっ! だから、だがら゛捨てないでください! 」

 

 ふるふると震えながら、()()で俺に縋りつく有栖。

 先ほどまで、寒そうに毛布にくるまっていたのはこれが理由だろう。

 この状況で『何でもする』と言われて、その意味が分からない程俺は鈍感ではない。

 

「それが……お前の答えなんだな?」

 

「だって……だっで! …… 私じゃあなたに何もあげられないんです……! 捨てられる位なら……せめて体の関係だけでも!」

 

 ……だから、わざわざ化粧までして俺を誘ったのか? 恋人にはなれないから、せめて体で繋ぎとめようとしたってのか? 

 たった一度の失敗で見捨てられるかと思って、それだけは嫌だから体を差し出すのか? 

 

 

 

 

 

「ふざけんじゃねえ!!」

 

 

 

 

 

 その瞬間、沸々と湧き上がってきた怒りという感情が、怒鳴り声として部屋に響き渡った。

 俺の腕の中で大きく体を震わせる有栖。そんな彼女の肩を掴んで引きはがすと、そのまま目線を合わせて言い放った。

 

「何でお前は0か100でしか物事を考えられねぇんだよ! バカなんじゃねえのか!?」

 

「だって……だってぇ」

 

 目線を下に向けながら、ポロポロと大粒の涙を流す有栖。もう幼稚園児と大差ないぞお前!? 

 ……これ以上怒鳴っても逆効果だな。落ち着け俺、マジで。

 

 安心させるためにその細っそい背中に手を回し、右手で頭と背中を撫でながら小さく語る。

 

「あのなぁ、たった一回の失敗で俺がお前を見捨てるって、本気で思ってんのか?」

 

「……ひっぐ……ひっ、ひっぐ……!」

 

 後頭部を支え、抱き寄せながら頭を撫で続ける。

 

「落ち着け。過呼吸になったら大変だぞ馬鹿。ほら、鼻かんで」

 

「んっ……」

 

 ティッシュを取り出し、有栖の小さい鼻に当てる。

 そのまま数回鼻をかませ、赤くなった小鼻をツンと押してやる。何そんなことしたかって? 知らん。

 

「あぅ……」

 

 マジで子供。見た目だけじゃなくて中身もそうだ。

 IQって精神年齢って意味だったよな? こいつ滅茶苦茶高かったらしいけど、嘘ついてるようにしか見えねえって。

 もう抵抗する気力すら残ってないのか、そのまま後ろに倒れそうになるところをもう一度支え、顔を近づけて語りかける。

 

「人間ってのは、何回も失敗する生き物なんだよ。最初から完璧な奴なんか居ない。マジで、絶対、100パーセント」

 

「でも、私が完璧じゃないと旭君が「誰が、完璧なお前に惚れたって言ったんだよ」……」

 

 なんか勘違いしてるらしいし、もういいや。この際全部ぶちまけてやる。

 

「大体お前は完璧なんかじゃないんだよ。体型についてからかわれるとすぐムキになるし、すぐ悪戯するし、自分より頭悪い奴見下してるし、ただの子供じゃねえか」

 

「そ、そんなこと!」

 

「はいムキになってるー。子供確定ー」

 

「なっ!」

 

 すっぽんぽんでぷんすかと怒る有栖。先ほどまでのしおらしい態度は何処へ行ったのか、いつもの有栖が見れて安心だ。

 

「けど俺はお前のそういう所に惚れたんだよ。頭が良くて賢くて、超天才のお前の、そういう子供っぽい所にな」

 

「っ!? ……そう、なんですか?」

 

 今度は顔を赤くして聞き返してくる。全く、今日のこいつは表情豊かだな。

 

「ああ。もちろん他にもいろいろあるぞ? 

 意外と可愛いものには弱くて、猫を飼いたいと打診したは良いものの、成守さんに家の誰も世話ができないってド正論で断られて、機嫌を悪くするところとか

 仕方ないから代わりに俺が昔あげたぬいぐるみを、今でも抱いて寝てるところとか

 個人的には興味があるけど、ロリ系だと言われたくないからゴスロリ系の服を着ないところとか

 胸が小さいことを気にしてYout〇beでバストアップの動画見てるとことか

 見せる予定もねぇのに大胆な下着を着る所とか」

 

「き、聞くに堪えません! 変態!」

 

「ははーん変態はどっちかな? お前小4のとき眠ってた俺のズボンとパンツ脱がそうとしてたよな?  IQが高いと性の興味も強くなるんですかぁ~? 人の股間まさぐるような変態さんになっちゃうんでちゅか~?」

 

「っ────!??!!? 何でそれを!?」

 

「普っ通気づくだろ! やっぱバカだろお前!」

 

「NTR好きの変態に言われたくありません!」

 

「はぁ!? 意味わかんねえよ!」

 

「誤魔化しても無駄です。スマホの履歴を見させていただいたので。中々いい趣味をお持ちですね旭君? 『幼馴染 NTR』『幼馴染 BSS』『幼馴染 寝取られ ASMR』」

 

「あー! あ゛ー! 聞こえないよー! 何も聞こえないー!」

 

 興味があっただけだし! 別にお気に入りってわけじゃ無いし! 

 

「ちゃんと幼馴染限定のシチュエーションな辺りホント気持ち悪いですね。一回死んだ方が良いんじゃないですか?」

 

「誰のせいだと思ってんだ!? 小学二年生に夏目漱石なんて読ませやがってよ! *1

 

「良いじゃないですか夏目漱石! 現に私は既に読んでましたし!」

 

「じゃあやっぱ変態だな! なあ今も全裸でぷりぷり怒ってな! 可愛いですね有栖ちゃん!」

 

「あっ……み! 見ないでください!」

 

 今の状況に気が付いたのか、急いで毛布を体に巻きつける有栖。やめろ恥じらうな。息を切らして顔を赤くしていると余計にエロく感じる。

 

「はぁ……はぁ。何なんですか……もう」

 

「……こっちのセリフだわ……ったく。これで、俺がもう怒ってないこと分かっただろ?」

 

「……はい」

 

 ミノムシ状態の有栖を抱き上げる……軽っ……こいつ飯食ってんのか? 

 っと、冗談はほどほどにしておこう。ここからはシリアスな話だからな。

 

「確かにお前がやった事は最低だ。人の心が無いし、ドブカスと言ってもいい」

 

「……はい」

 

 その雰囲気を悟ったのか、途端に有栖はその顔に陰りを見せる。

 

「だが、それはお前だけが責められるべきじゃない。だって、その動機は俺に振り向いてもらえなかったことだからな。俺も悪いんだ」

 

「そう……でしょうか?」

 

「当たり前よ。だって、その状態になったの原因は俺にあるんだからな」

 

 ごめんな本当。オレに勇気がないばかりに。ここまで寂しい思いをさせちゃって。

 でも大丈夫だ。これからは絶対に一人にさせないって約束するから。

 

 

 

「だから付き合おう。今度こそ、2人対等な関係で。もうお前を1人にはさせないからさ」

 

 

 

 そう宣言した途端。有栖はまたポロポロと泣き出してしまった。

 

「ちょ、ええ……? 普通泣くところか?」

 

「ううっ……だって……だってぇ……ひっぐ、うぅ……」

 

 両手足を簀巻きにされた状態の為、俺が涙をぬぐう。同じ涙だが、先ほどとは違い安心から来るものだ。

 

「っと。安心してるところ悪いけど、もちろん無条件とはいかない。さっき『なんでもする』って言ってたの、覚えてるよな?」

 

「……ああ。とうとう私はここで純潔を散らすのですね。できれば、もう少しムードある中で初めてを迎えたかったです」

 

「いや違うからね!?」

 

 なんてこと口走るんだ。

 

「あれ、割と本気で言ったつもりでしたが」

 

「俺を何だと思ってるんだ」

 

「……まあ、別にこのまま抱かれるのも悪くはないと思ってますよ。割と本気で」

 

 ……それはまた後でね。ちょっと心の準備ができてないかな。

 途端に無言になる俺に有栖は、呆れたようにジト目を向けてきた。

 

「……ヘタレ」

 

「うっさい」

 

 まーた空気がギャグに戻っちゃったよ。何と言うか、俺も有栖もいろいろ吹っ切れたのかな。

 

「ま、条件って言っても簡単な話だよ。────」

 

 

 

 

 

 ────それから数日間、各方々に頭を下げる俺と有栖の姿が、敷地内で目撃されるのであった。

 

 

 

 

 

*1
第18話参照





 こんなの坂柳じゃない! って思う方は多分正しいよ。
 でもいいじゃない。仲直り出来て良かったねって祝ってあげてください。
 これでも坂柳を許せないのであれば、R18を書いて性的に制裁します。(激ウマギャグ)
 散々煽って逆転されるのが目に見えてる

 次で夏休み&船上試験のおさらいやります。
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