ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
有栖と共に学校を軽く散策し続ける事30分。説明会兼HRまで残り20分ほどとなったため、俺と有栖はAクラスの教室へと到着した。
横開きの扉を開けると、既に席についていたであろう生徒からの視線が注がれた。
「既に半分近くの生徒が来ているみたいですね」
後ろからひょこっと顔を出し、教室の中の様子を見て呟く有栖。
ざっと見た限りだが、既に席が近い生徒同士で打ち解けている者たちもいる。バスの中では出遅れないようになんて言っていた癖して全く気にする様子はない。
「ほら、入り口で立っていると邪魔ですよ」
背中を軽く押される感触と共に教室へと入る。有栖はその後ろをぴったりと寄り添うように付いてきた。……いや近くない?
どの座席に座るかが書かれた紙は黒板に張り出されているため、自ずと注目が集まる教壇近くへと向かわなければならない。そんな中、有栖みたいなド級の美少女とくっついているんだ。
「席は……一番右下ですか。移動が楽なので助かります」
「で、俺はその隣と」
有栖の席は入り口隣、一番後ろの席だ。俺はその左隣。
見た感じ出席番号順とか、五十音順とかではないらしい。何とも作為的なナニカを感じざるを得ないが、多分足が悪い有栖を学校側が気使ってくれたのだろう。
「じゃ、目立ってるしさっさと座ろっか」
「そうですね……おっと」
座席を確認し教壇から降りた瞬間。有栖が足を踏み外して俺の左腕にしがみついてきた。
それを見てクラスの女子からはキラキラした目を、男子からは感嘆の表情を向けられた。ここで嫉妬心に狂うやつがいない辺り、頭のいい学校なだけあるな。
「大丈夫?」
「ええ。ありがとうございます」
そう言って上品に微笑む有栖。かわいい。……と言いたい所だけどこいつ多分わざと転んだんだよな。だってほら、今もなお俺の腕に手を回して放してないし。
初対面のクラスメイトがいる手前ツッコんだりはしないが、むず痒いのでやめてもらいたい。
「……ねえ、あの2人どんな関係なのかな」
「ね! 美男美女だし、なんかいい雰囲気だよね!」
そしてこんなやり取りをしてしまったら、会話の話題は俺と有栖の関係性を邪推するものになるだろう。
特に女子はこの手の話題で親睦を深めがちだしな。小声で喋ってるんだろうが、そういうの案外聞こえるもんだぞ?
「はぁ……勘弁してよマジで。初日から嫌な目立ち方したくないって」
「あれは不可抗力ですよ」
席に着いた後、小声で有栖に抗議をするがどこ吹く風といった様子だ。
────思えば、こんなことは昔何回もあった気がする。
例えば俺が初めて有栖と並んで定期テストで学年1位を取ったとき。彼女は自分が勉強を教えたから俺が1位を取れたという旨の話を友人にしていた。
他にも空手の全日本ジュニア大会で優勝した時や、それに伴った取材を受けた時もそうだ。
テレビの時なんか俺を良く知る人物として取材を受けてたからな。おかげでSNSでは『超美人の中学生がいる!』なんてちょっとした話題にもなってた。そのせいで俺は全く注目されなかったけどね。酷い。
俺が努力して何かを成し遂げた時、それを自分のことのように喜んでくれるのは嬉しいよ。
けど彼女の場合、ちょっとその理由が
「……どうしました? 急に黙り込んで」
「いや、何でもない。ちょっと眠くて」
「はぁ、入学式で寝落ちしないでくださいよ?」
ま、天才の考えを、凡人が理解できる訳ないから良いんだけどね。
そして有栖と取り留めのない会話をすること十数分。始業を告げるチャイムが鳴った。
それと同時に、教室の前の扉がガラリと開き、スーツをキッチリと着こなした男性が入ってきた。
見た目の印象はキッチリした仕事人といった印象。短く整えられた髪の毛と、キリっとした表情。着痩せしているが、ガッチリとした体格からは体育会系の様相を示している。
「新入生諸君。私はAクラスを担当する事になった真嶋智也だ。普段は国語を担当している。まず君たちに伝えないといけないことがある。あまり肩を張りすぎる必要は無いが、よく聞いてくれ」
緊張をほぐすために言ってくれたのだろうが、明らかに怒ったら怖そうな先生の言葉に、クラスの空気感は一層緊迫したものとなった。
「この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。つまり卒業までの3年間、私が担任として君たちと学ぶことになる。よろしく頼む」
マジか。この時をもって俺たちは、クラス替えのときのワクワク感は一生味わえないことが確定したわけだ。
別にいいけどね。有栖と3年間一緒なのは大分アツい。というよりそれ以外別に誰でもいい。特別親しい友人居なかったし。
心の中で小さくガッツポーズをしている最中も真嶋先生の発言は続く。
「これから1時間後に入学式が行われるが、それよりも前にこの学校の特殊なルールを説明する」
そんな前置きをして真嶋先生は説明を始めた。と言っても、そのどれもが入学前に説明されたことばかりだ。
外部との連絡や接触が一切禁じられていること、それに伴って様々な施設が敷地内に建てられていること。そしてその使用方法、Sシステムについてだ。
「今から配る学生証カード。それを使い、敷地内にあるすべての施設を利用したり、売店などで商品を購入することが出来るようになっている。デビットカードのようなものだ。もちろん使用する際はこれから説明するポイントが減るため注意してほしい。そして、この学校内においてポイントで買えないものはない。学校の敷地内にある物なら、何でも購入可能だ。施設では機械にこの学生証を通すか、提示することで使用が可能だ。使い方はシンプルだから迷うことはないだろうが、分からない点があるなら遠慮せず聞いてくれ」
生徒間の格差をなくすため、現金を含めた金銭的価値のあるものの持ち込みは禁止。その代わりとして、学校側から一律でお小遣いを貰えるという訳だ。
学費無料だし、外に出られないことに目を瞑れば、これ以上の待遇はないだろう。
「ポイントは毎月1日に自動的に振り込まれることになっている。お前たち全員、平等に10万ポイントが既に支給されているはずだ。なお、
その瞬間。大人しく話を聞いていたクラスメイト達がざわざわと喧騒を取り戻した。まあ無理はない。つい一か月前まで中学生だった俺たちに、急に10万円という大金がポンと手渡されたのだ。
先生も慣れているのか、特に何か言う訳でもなく生徒が黙るのを待っていた。
「支給額に驚いたと思うが、
『実力で生徒を測る』という点を強調した真嶋先生は、質問が無いかを確認した後教室を後にした。
……ちょっと
「10万ポイントか……」
端末をチラッと確認したが、どうやら学生同士がポイントを譲渡することも可能らしい。
となると心配なのはカツアゲやいじめだが、真嶋先生が釘を刺したりすることは無かった。まあ日本有数の進学校だしね。クラスの人たちも大人しいし、そんな問題滅多に起こらないのだろう。
「旭君、端末を貸してください」
その時。真嶋先生の話を静かに聞いていた有栖が声をかけてきた。
「ん、はい」
手渡した端末を何やらポチポチと弄る有栖。
「ありがとうございます。どうぞ、ちゃんと増えているでしょうか?」
「何が……っておい」
返された端末を確認すると、何故かポイントが150000pptに増えていた。
怖いんだけどこの人。この短時間でハッキング? だとしたら捕まるの俺じゃん。
「……あなたは私を何だと思っているのでしょうか。そのポイントは私が譲渡したものですよ」
「……買い物ね。いつ行く予定なの?」
何となく意図を察したため予定を尋ねる。どうせしばらくは予定三昧になるのだ。ちゃんと空けておかないと恐ろしいことになる。
「そうですね……今日は色々と見て回りたいので、今週末にでも」
「おっけー」
多分新生活に向けて家具とか服とかを買いたいんだろう。……にしたって高くないか? 確かベッドとか基本的な家具は備え付けられてたはずだった気がするけど。
「多い分は食費です。これから3年間、よろしくお願いしますね?」
こ、こいつ……俺の家で飯集る気でいるな? まあその気が無くても俺から誘ってたけどさ。良かった、料理できる男はモテるっていうお母さんの言葉信じてて。
「旭君の料理は絶品ですので。食事代の節約にもなりますし、お弁当も楽しみです」
……好きな子に毎日弁当作ってあげる生活かー……ホント、入学してよかった。
「────皆、少し聞いてくれないか」
この最高の学校に向けて愛を叫んでいた時、1人の男子生徒がクラスメイトに呼びかけるように席を立った。
身長はそこそこ、体格はかなり恵まれている。そして何より目を引くのが……見事にツルツルの頭だった。
いや、良くないのは分かってるけどやっぱ気になるよねどうしても。
「これから俺たちは3年間共に学ぶことになる。だから自己紹介をしようと思うのだがどうだろうか」
お、いいね。取っ掛かりが無かったから助かるわ。
「良いと思うよー。これから長い付き合いになりそうだし!」
「ですね。私も皆さんと早く打ち解けたいですし」
とりあえず声色をワントーン上げて同意する。こういう迅速な行動が後の人間関係に響いて来るのだ。そしてちゃっかり有栖も便乗している。
クラスのリーダーです! なんて立ち位置は御免だが、交友関係は広いに越したことは無い。
「猫かぶり」
「おまいう」
隣で有栖が茶化してくるが、何もしなくとも人が寄ってくる奴に言われる筋合いはない。
それに有栖と付き合った時「何でこんな奴が」みたいなことを言われない為にも、クラス内では良い立ち位置に立ちたいのだ。
「ありがとう。では言い出した俺から自己紹介をさせてもらう」
そんな俺たちの打算は男子生徒に響いたのか、彼はこちらを向いて感謝の意を述べた。
「俺の名前は葛城康平。趣味は────」
葛城君と名乗った生徒は、名前、趣味、中学時代の部活動とこれからの予定、最後にあいさつという見事な形で締めた。
かなり自己紹介という行動に慣れているようだ。最初の人がこうやってフォーマット作ってくれるとそれに乗っかる形でやればいいから楽だよね。
そして葛城君から順番に自己紹介をし俺の番が回ってきた。というより最後から2番目である。
注目が集まっているのを感じる。さっきの有栖の悪戯がここに来て響いている。恨むぞマジで。
「九条旭です。趣味は読書と体を動かすことかな? 部活は入ってなかったけど、一応空手とかその辺をやってました」
これといった趣味がない事に気が付いてビビってるが、ひとまず趣味はこんなもんでいいだろう。実際球技とかも得意だし。
「何の部活に入るかはまだ未定です。だから気になる部活ある人は、一緒に見学とか行けたらなって思ってます。新しい環境でちょっと緊張してるけど、早くみんなと仲良くなれたらなって思うのでよろしく!」
「よろしくー!」
「空手やってんだ、何帯なの?」
拍手と共に歓迎してくれる声や質問が飛んでくる。よし、ひとまずは大成功だ。
「えっと、まだ子供の段位なんだけど、弐段だから黒帯かな」
「すご!」
「喧嘩強そうだもんなぁー」
まあ年にしては体ガッチリしてるけど、別に喧嘩は……うん、そんなにはやってない。あくまで一般常識の範囲内だ。格闘技やってる奴が喧嘩するのはご法度だし。身を守るためにしか使ってない事を誓おう。先生からは高校いってもちゃんと鍛えろって言われたけど……正直別にって感じなんだよな……。
とりあえず俺の話になってばかりも困るので、苦笑いをしてやんわりと流しておこう。次は有栖の番だ。
自分の番が回ってきた有栖は、皆の注目を集める中でも焦らず、ゆったりと余裕のある動きで席を立った。
「坂柳有栖と申します。趣味はチェスと本を読むことです。中学、高校共に部活動に所属するつもりはありません。何分見ての通り、体が弱いもので」
部活に誘われるのは面倒だと思ったのか、有栖はここで部活をする予定はないとバッサリ切り捨てた。
その言葉に同情の空気が流れつつあるが、坂柳有栖はそれで終わるような女じゃない。
「ですがその分、勉学は励んできましたのでそこそこの自信があります。……皆様に迷惑をかけることもあるかもしれませんが、仲良くしていただけると嬉しいです。よろしくお願いします」
流石だ。自己紹介という場でも自分を過大に見せることはせず、苦手な事、得意な事をはっきりと伝えた。それも嫌味の無い言い方で。
それに間の使い方も上手い。浮ついた空気を損ねることなく、それでいて全員の印象に残る完璧な自己紹介だ。……なんか俺オタクみたいだな。まあ実際そうかもしれないけど。
「よろしくー」
「よろしくね!」
クラスの明るい女子を筆頭に、受け入れる雰囲気が完全に整った。
「ねね! 九条君とはどういう関係なの!」
「私もそれ気になってた!」
自己紹介を終えた有栖が席に座ろうとすると、先ほどよろしくと返していた女子が有栖にそう質問した。
「あはは……
「えーほんと? なんか超いい感じに見えたけど!」
苦笑いをしながらそう答えるが、どうやら俺の答えは期待していなかったらしい。……頼むぞマジで。余計なこと言わないでくれよ?
「ただの同級生?」
「あっ」
そう有栖が呟いたのが、隣にいる俺に小さく聞こえてきた。
そして言葉が不味かったことに気が付くが、その時にはすでに手遅れで。考えるようなそぶりをしつつ、その表情には笑みが張り付いていた。
「そうですね。形容しがたい関係ではあるのですが……しいて言うなら
……余計に詮索されそうな回答してんじゃねえ! 嬉しいけどさぁ!
『幼馴染』ではなく『とても大切な』を強調させたのにはちゃんと理由があるんです。
ここからはサクサク話を進めて行くつもりです!
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