ようこそ純愛過激派の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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 インターン中なので投稿開いちゃいました。申し訳ないです。

 高評価や感想、ここ好き等頂けると、作者のモチベーションがぐんと上がります!
 まだ評価していない方が居ましたらぜひよろしくお願いします!


全力

 

 

 

 体育祭の存在を知らされてから数日。オレは土曜日であるにも関わらず、学校のグラウンドへと足を運んでいた。

 九月に入ったとはいえ、真っ昼間はまだまだ暑い。頬に垂れる汗を拭いながら、奥で積極的に体を動かす生徒たちの姿を見る。

 

「そうそう! いい感じいい感じ! 下手に頑張ってバランス崩すより、そうやって動いたほうが怪我もしにくいし強いよ!」

 

「ホントだ! ありがとう九条君!」

 

「おーい九条! こっちも見てくれよー」

 

「ちょっと待ってー! 先綱引きの方見てくるから」

 

 その中心に立って指揮をしているのは、わが親友の九条旭だ。あれだけAクラスではぼっちだのどうだの言っていたのに、なんだかんだ言って馴染んでいるように見える。

 ほら、今も騎馬戦の練習をしている女子がアドバイスを貰っている。後ろで見ている坂柳がいじけてるぞ。

 

「やっぱり、派閥争いが起きていた時期が異常だっただけで、元からああいうタイプね。九条くんは」

 

 その光景をボーっと見つめていたオレに話しかけてきたのは、貴重な休日に呼び出してきた張本人。堀北だった。

 

「嫉妬か? 案外さみしがりなんだな」

 

「あら、昼食を一緒に取れなくなって、この世の終わりのような表情を浮かべていたあなたにだけは言われたくないわ」

 

 軽いジャブを売ったら100倍返しで帰ってきた。アンパンマンもびっくりである。

 いや、一応補足させてもらうが、そこまで絶望していたわけじゃないからな? オレにはほかに食事を共にできる友人が数多くいるんだ。

 ……まあ、今は堀北と二人で食べているんだがな。須藤たちと食べるのは、「食事中くらいは静かにしたいわ」と堀北が嫌がるため仕方がない。

 

「で、どうなの。Aクラスは」

 

「一部の警戒すべき生徒を除けば、概ねCクラスが優勢といったところだな。今回に関しては一緒に組むBクラスも運動神経良い生徒が多いし、順当にいけば勝てるだろう」

 

 短い時間で観察した結果を堀北に伝える。一部の生徒というのは、現在中心で指導をしている九条と、元坂柳派で九条とも親しい鬼頭という生徒だ。

 今回の体育祭は少し特殊で、すべてのクラスが四つ巴で戦うのではなく、AクラスはDクラスと、BクラスはCクラスとチームを組む。その総合点数が小さいほうにペナルティが与えられるため、今回大事になってくるのは自クラスだけではなく、協力するBクラスに所属する生徒の運動神経なのだ。

 

「そう。こっちには平田君や須藤君だっているから、()()()はそこまで心配していないわ。それで、どう思う綾小路君。九条君には勝てそうかしら?」

 

「……微妙だな」

 

 その問いかけに少し考えて答える。

 空手部で日ごろ練習を重ねている堀北だからわかることだが、九条の運動神経は学校随一と言っても過言じゃない。

 

「単純な運動能力、瞬発力なら間違いなくオレに分がある。だがあいつの恐ろしいところは、積んだ経験を基にした学習の速さだ」

 

 格闘技という、その身一つで様々な動きをする運動を幼少期から、それも数多の数をこなしてきたのだ。その過程で格闘技以外のスポーツも一通りできるらしいし。

 学習が早いのもそうだが、体の動かし方が上手なのだ。九条は。

 

「単純な100m、200m走なら大丈夫だろうが、ハードル走、障害物競走はやってみないと分からないな」

 

 対するオレは、専門的な陸上競技はほぼ未経験。あと1ヶ月でどこまで極められるかで勝負が別れそうだ。

 

「そう。対決する気自体はあるのね。安心したわ」

 

「あ、そういう意味か」

 

 確かに、ひたすらテストや体育の授業で手を抜いてきたんだ。そう思われても文句は言えない。

 

「目立たないでいようという気持ちより、九条と全力で対決したい気持ちが勝ってるからな。それに、お前の夢に協力すると約束しただろ?」

 

 こいつには返しきれない恩があるからな。今の俺が学生生活をエンジョイできているのは、堀北のおかげだ。

 

「……そう。なら早くついて来なさい。もっと近くで偵察するのよ」

 

 オレのシャツの袖を引っ張りながら、早足で歩く堀北。

 ────これが照れからくる行動だと察せるようになったのも、付き合いの長さによるものだろう。

 

「あ、待ってくれ。他にもう一人呼んだんだ」

 

「……もう一人?」

 

 袖を引っ張る力が弱まり、堀北は怪訝な顔を向ける。

 

「ああ。オレたち二人だけだと心許ないからな。適任を呼んだ」

 

 とその時、堀北の後ろから一人の女子生徒が声をかけてきた。

 

「おはよう二人とも! 今日は誘ってくれてありがとっ」

 

 涼しげなワンピースを身にまとい、太陽のような笑顔を向けてきた生徒、櫛田である。

 その声を聴いた堀北は、一度大きく体を震わすと、みるみるうちに表情を険しくする。

 オレの袖をつかんでいた手が、今度はオレの襟元を締め付けるように掴んだ。

 

「うっ」

 

「どういうことか、ちゃんと説明してくれるかしら?」

 

「はい……」

 

そして、この行動が怒りという感情からだということも、容易に想像できたのだった。

 

 

 

 

 

「いや、勝手に誘ったことは謝るから。お前がそんな調子だと今日の目的も達成できないぞ」

 

「……ふん」

 

 それから堀北の機嫌を直そうとあれこれ試行錯誤したが、結局それが叶うことはなかった。

 つーんという効果音がなってそうな表情で顔を背ける堀北。

 

「ごめんね……私お邪魔だったかな?」

 

 オレたちの後ろをついてくる櫛田が、申し訳なさそうな表情で頬を掻いた。

 

「いや、櫛田は悪くないぞ。オレが来てほしいと思ったから呼んだんだからな」

 

 内心どう思ってるかはさておき、これに関して櫛田の非は一切ない。

 

「そう? ありがとう綾小路君!」

 

 上目使いで微笑みながら感謝を伝えてくる櫛田。可愛い。

 思わずにやけそうになる頬を必死で抑えていると、前方を歩く堀北が振り返らず咳払いをした。

 

「……まあ、確かに私たちだけじゃ偵察の効果が薄いのは理解しているわ。だから、今回はよろしくお願いするわ。櫛田さん」

 

「! うん! 私にできることなら何でも言ってねっ!」

 

 意外にも最終的に堀北側から協力をお願いすることとなった。

 昔の堀北なら考えられないだろう。今の堀北には、個人的に好ましくない人間でも受け入れる、リーダーとしての器量が備わりつつあった。

 ……よし。一件落着だな。

 

「あなたはちゃんと連絡相談をしなさい。別に断ったりしないのだから」

 

「はい……」

 

 と思ったら怒られてしまった。

 相談なしに勝手に誘ったオレが悪いため、反省の意を込めて返事をする。

 

「ふふっ。やっぱり二人とも仲いいんだね」

 

「当たり前だろう。堀北はオレの相棒だからな」

 

「くさい言い方はやめて頂戴。……別に、ただの友人よ」

 

 因みに九条は親友だ。最近は割とこういうポジションが腑に落ちる。

 

「でも、堀北さんは綾小路君と二人で来たかったんじゃないのかな? 今回だって、堀北さんから誘ったんでしょ?」

 

 誘う段階で説明していたため、櫛田がふとそんなことを聞いてきた。

 やめろっ! また機嫌が悪くなるぞ!? 

 

「……別に、そういうわけじゃないわ。ただ、休日に誘えるような、暇そうな人間が彼しかいなかったってだけ」

 

 と思ったらまさかのしおらしいパターンだった。最近の堀北は少し分からない。

 

「そういうことだ。色っぽい展開を期待しているのなら、こっちじゃなくて今から行く九条たちの方を見てくれ。胃もたれするほど惚気まくってるからな」

 

 そう言って移動を開始する。堀北を左隣、櫛田を右隣に並んで歩く光景は、はたから見たらかなり羨ましいものに見えるだろう。

 

「あはは……でも、そういう相手がいるのは少し羨ましいかも」

 

「櫛田は今までに付き合ったこととかないのか?」

 

「うん。告白してくれる男の子は居たんだけど、あんまりそういう目で見れなくて……」

 

「なるほどな」

 

 確かに、櫛田クラスになるとそういう意思を受けることも多くなるだろう。だが今まで相手がいなかったのは少し意外だ。

 

「堀北は……まあ、聞かなくても分かるな」

 

「何かしら綾小路君。異性とロクに話したこともなかったあなたに言われる筋合いはないのだけど」

 

「ロクにじゃなくて0だな。生まれてこの方、母親の顔すら見たことがない」

 

「……それ、なんて反応すればいいのかな」

 

 渾身のギャグだったが、あまり櫛田には受けなかったようだ。残念。

 

「まあ、別にそういうのは気にしていない。今が充実しているからな」

 

「そうなんだ。私も楽しいよ! 今はみんなと遊ぶ余裕も出てきたし!」

 

 懐の豊かさと心の余裕は比例関係にあるのか、クラス内の雰囲気も良くなっている。

 問題児だった須藤も、無人島試験での活躍が功を奏したのか、だんだんとクラスに馴染んでいる。体育祭での活躍も期待できそうだ。

 それにしても、遊ぶ相手か……よくよく考えればあんまりいないな。空手部を除けば、こちらから気軽に誘える相手などほとんどいない。

 

「堀北。明日は予定空いてるか?」

 

「……明日? まあ、特にないけれど」

 

「じゃあ久しぶりに遊びに行こう。今度は二人で」

 

 何気ない誘いだったが、言い切った後の、堀北と櫛田の呆けた表情を見て気が付いてしまった。

 これ完全にデートの誘いじゃん! 今までは九条も入れて3人だったからよかったけど! 

 

「あ、いや……すまん。忘れてk「良いわ。行きましょう」……え?」

 

 あれ? 今行こうって言われたのか? 

 

「……聞こえなかったのかしら。行きましょうって言ったのよ」

 

「……ああ。楽しみにしておく」

 

 何だろう。オレって今すごく幸せなんじゃないか? 

 頬に熱を帯びているのを感じながら、オレは今の状況を冷静に考察する。

 少なくとも今までは、同い年の可愛い女子とデートなんて考えたこともなかった。

 しかし、今はこうして自然に誘えるくらいにはなっている。このまま父親の元で一生を過ごしていたら、こんな経験は絶対にできなかっただろう。

 

「な、なんか凄い場面に出くわしちゃったかも」

 

「それな。綾小路にもとうとう春がやってきたって感じ?」

 

 オレたちの間に流れる気まずい空気に、櫛田は頬に手を当てながら呟いた。

 それに返しながら、こちらに端末を向けシャッターを切る九条……っておい!? 

 

「おまっ!? 練習中じゃないのか!?」

 

「休憩中だよ休憩中。熱中症予防はしっかりしないとね。それに、あんなにこそこそ見られたら集中して練習できないだろ?」

 

 右手持った端末……画面には、どこか気まずそうに見つめあうオレと堀北の写真が写っている。それをヒラヒラと動かしながら、九条はにやけ顔で話を続ける。

 

「いやー、前々から思ってはいたけど、やっぱり二人ともいい感じじゃん。写真も撮れたし、後で有栖に送っちゃおー」

 

「お前……返せ!」

 

 坂柳と付き合って調子に乗っている九条と、シンプルに性格が悪い坂柳に弄られたら、オレの薄弱な精神は一瞬にして崩壊するだろう。

 オレはただ自分の身を守るため、九条の端末に手を伸ばした。

 

「っぶね。ほらほらー 取れるもんなら取ってみろよ!」

 

「くそっ、待て!」

 

 オレの右手をバク宙で派手に躱した九条は、グラウンドに続く階段を後ろ足で降りていく。

 楽しげな満面な笑みが、今は腹が立ってしょうがない。

 全力で階段を駆け下りて追いかける。

 

「速っや!? 最初の〇キみたいな降り方すんじゃねえよ危ねえな!?」

 

 体制の差から階段を降り終えた辺りで追いつくことに成功する。

 九条は後ろ向きで焦ったせいか、バランスを崩している。勝った! 第三部完!! 

 

「おわっ!?」

 

 もう一度端末に手を伸ばしたが、その瞬間視界が上下逆さまに一回転し、背中から落ちる感覚が体に走った。

 どうやら片手だけで投げ飛ばされたらしい。器用な男だ。

 仕方がないので空中で体を捻り地面に手をつくと、今度は体制を低くして飛びかかった。

 

「何でそっから立て直せんだよ!?」

 

 まるで闘牛士のように、叫びながらオレのタックルを飛び越えて超える九条。

 

「……やるな」

 

「そっちこそ」

 

 久しぶりに全力で体を動かしたが、不思議と疲れは感じない。恐らく分泌されたアドレナリンがそれを消し去っているのだろう。

 理性がここで引くべきだと訴えかけてくるが。それに素直に従うほど、今のオレは冷静ではなかった。

 

「ま、真澄さん! 凄いですよ! 旭君と綾小路君のガチ対決ですっ!」

 

「分かった……分かったからはしゃがないで。転んだら危ないでしょ」

 

 だって仕方がないだろう? ここまで全力をぶつけられる相手は初めてなのだから。

 

「よし。じゃあこうしよう」

 

 そう思っていたのはオレだけじゃなかったようで、九条はニヤリと笑うと、ポケットから取り出したハチマキを額に巻いた。

 

「お前がこれを取れたら、明日のデートに全面協力すると約束しよう。美容院や服もいいとこ知ってるからね。もちろん写真だって消してやる」

 

 そしてハチマキに指をさすと、そんな魅力的な提案をしてきた。

 

「言ったな? 男に二言はないぞ」

 

「もちろん。休憩時間は……残り5分か。まあ、短すぎるくらいかな?」

 

「余裕だ」

 

 そう言い放つと、九条は一瞬だけ眉間にしわを寄せた。余裕と言われたことが癪に障ったのだろう。

 

「……なら、見せてもらおうか!」

 

 タイマーを設定した端末を芝生の上に投げ捨て、九条の方から距離を詰めてきた。

 試しにハチマキに手を伸ばすが、当然のごとく掴まれて投げ飛ばされる。

 そのまま関節技を決められそうになったが、先ほども言った通り力ではオレに分がある。乗りかかってきた九条を力で上へ投げ飛ばす。

 

「え、ゴリラか何かの末裔? 一応俺70キロはあるんだけど」

 

「元をたどれば同じようなものだろう」

 

「めちゃくちゃな理論だな」

 

 先ほどの腰を落とし、手を開いた状態の構えとは違い、アウトボクサーの構えでステップを踏む九条。

 ……なるほど。誘ってるわけか。いいだろう。

 

 先ほどと同じく勢いよく踏み込むが、九条の手が届く範囲で一気に減速。構えた拳で遮られているであろう、左下へと移動しそのまま拳を放つ。

 え? 殴り合いは想定してないんじゃないか? 

 

「わお、容赦ねーコイツ」

 

 オレの親友はそこまで間抜けじゃない。拳を掴まれ余裕で防がれる。

 しかし、ここまではオレの狙い通りだ。

 

「おっ」

 

 昔堀北と模擬戦をやったときのように、拳を掴んだ手を両手で握ってがっちりと固定

 そのまま飛びついて関節技を決める。

 

「いや、お前それどこで覚えたの?」

 

「お前の動きを見て学んだ」

 

「ひえー。これだから天才は」

 

 がっちりと決まっているはずなのに、九条は苦悶の表情を表に出さない。

 その状態に違和感を感じていると、急に体が横へと倒れこんだ。

 

「その技俺が考案した技なんだ。だからまあ対処法も、もちろん立てるよねってことで」

 

 どうやら拘束する瞬間、体制を少し変えて微妙に決まらない位置に移動されたらしい。

 ……しくじったな。意趣返しでを使ってやろうと思ったんだが。知見が浅い技を使ったのが良くなかった。

 

 ────それから数回応報を繰り返すが、のらりくらりと逃げ回る九条に有効打を与えられない。

 もちろん俺も一切ダメージは受けていないが、ハチマキを取られなければ勝ちというのは、投げ技を得意とする九条が有利なルールだろう。

 それを言い訳にするつもりもないが、こちらの想定以上に、逃げに回った九条は厄介だった。

 

「後1分。時間、あんまりないんじゃない?」

 

 ……仕方ない。アレを使うか。

 余裕の表情でこちらを見下ろす九条に、オレは何度仕掛けたか分からない接近を試みる。

 敢えてほどほどの距離を取りながら睨み会う。九条は今、いつオレが仕掛けてくるか気が気じゃないはずだ。

 その極限の集中力は、敵に回すと本当に厄介だ。だが、()()()()()()()()()()()

 

 こちらをじっと見つめる九条に、オレは小さな声で話しかけた。

 

「────お前。本当は寝取られモノが好きだって話を聞いたが、それ本当か?」

 

「はぁ!? あっ……」

 

 ほら、すぐ気が緩んだ。

 その瞬間サッとハチマキを奪い取ると、九条は膝から崩れ落ちるように芝生に倒れこんだ。

 

「何で知ってるの……?」

 

「坂柳から聞いた」

 

「あの野郎……」

 

 なんともあっけない幕引きだが、勝ちは勝ち。今日はしっかりと付き合ってもらうぞ。

 

 

 

 

 

 

 

「……私が言いたいこと、もちろん分かるわよね? はしゃぎすぎよ。あなた達」

 

「「……はい。本当にすみませんでした」」

 

 

 

 まあ、どういう結果だったとしても、オレと九条が堀北に怒られる運命は変わらなかっただろうが。

 

 

 

 





 個人的に技の九条、力の綾小路ってイメージで書いてます。
 特に綾小路に関しては、原作よりトレーニングしてるんで大分強くなってます。
 部活では出せない全力を出せてうれしそうですね(他人事)。

 次の投稿は土日かなー。もうしばらくお待ちください。

 出先でノートパソコン使って書いてるんですけど、やっぱり変換したときのレスポンスの速さはだいぶ違いますね。
 自宅のデスクトップが恋しいです。

 

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