ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
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ついにこの日がやって来た。長い一日になるであろう体育祭の幕開けだ。ジャージを身にまとった全校生徒一同が練習通り行進して入ってくる。行進とは言っても大半の生徒は普通に歩いているだけだ。規律を乱さない程度に真面目さをアピールする。
開会式を3年生の先輩が行う傍ら周りの様子を見る。学校の教師たちは笑顔ひとつなく生徒の様子を見守っていて、医療関係者と思われる大人の姿も見受けられた。万が一熱中症になっても問題ない、万全の体制ということだろう。
「それにしても用意周到ね。結果判定用のカメラまで設置されてる」
最初の100メートル走に備えてかゴール地点と思しき場所にカメラが見受けられた。
「誤審や曖昧な結論は絶対に避けるってことだろうな」
その様式はまるで陸上の大会のようだ。白黒はっきりつけるという固い意志が感じられる。
開会式を終え、Cクラスの待機所のテントへと戻ってくる。
「100メートル走、あなたは何組目だったかしら」
「7組目だ」
簡易的なプログラム表を見ながら答える。
「まあ、あなたのことなら大丈夫でしょうけど。油断したら承知しないわよ」
「分かってるって。今回はガチで行くから期待しておいてくれ」
「そう。……頑張って」
「おう」
恥ずかしそうに激励の言葉を飛ばす堀北の肩を、すれ違いざまにポンと叩いてグラウンドへ向かう。
「お、やっと来たか。遅えぞ綾小路」
スタート地点へと向かうと、先頭の1組目の列に並んでいた須藤がオレの背中をバシバシと叩いてきた。
「お前は俺と並んでCクラスのキーマンだからな。1位以外は許さねえぞ!」
体育祭の練習で本気を出して変わった事は色々あるが、須藤との関係性もその中の一つだ。
「おう。須藤も頑張れよ」
端的に言うと仲が良くなった。
最初こそ今まで手を抜いていたのではないかと言及されたが、それよりも体育祭の戦力が一つ増えたことが嬉しかったようで。二人三脚や騎馬戦などの練習を一緒にやるようになった。
逆に運動が得意ではない山内、池との関係は少し疎遠になってしまった。だが仕方がないことだ。遅かれ早かれ本気を出すつもりだったからな。
「たりめーよ! 俺様が負けるわけないだろ」
これでもかと胸を張り答える須藤。やる気があるようで何よりだ。
「じゃ、オレは後ろの方だから行くぞ」
100メートル走などの競技は全て1年生から順番に行う。1年の男子から始まり3年の女子まで走って1つの種目が終わる。
各クラスが事前に提出したプリントを基に決められた組み合わせ通り競技がスタートしようとしていた。本番当日になって初めて、他クラスが誰をどの順番で走らせようとしていたのかが判明する。各クラスから2人ずつ選出された計8人が一直線に並ぶ。オレの出番はさっき堀北にも言ったが7組目。1年男子は全部で10組だ。
「見たとこ大した奴はいないっぽいしな。デブとガリばっかだし、1位は須藤で確定だろー」
他の3クラスに学年の名だたる生徒は見られなかった。池の言う通り確定だろう。
「考え方によっちゃ逆に損とも言えるけどな」
理想論で言えば須藤の身体能力ならある程度足の速い奴が出てきてくれた方が良かった。
「けどこればっかりはしょうがないよな、運だし……ってあれ。1人まだ来てないっぽいけど」
後3分ほどでレースが始まるのに、1組目の並びに穴が開いていた。
それと同時に、唯一警戒していた1人の生徒が、この場に居ない事に気が付いた。
「っとと、危ない危ない。初っ端から遅れるとこだった」
そんな聞き覚えのある声が、スタート地点の喧騒に割り込んできた。列から外れた所で視線を左右に動かすと、その姿を見ていたオレと目が合った。
「お。綾小路は……7組目なのか。良かったー被らないで」
「遅かったな九条。もうすぐ始まるぞ」
その生徒の名は九条旭。言わずと知れたオレの大親友である。
オレの言葉に元気な返事で返した九条は、そのまま前方の生徒の間を割って移動し、一番前の組で静止した。
「おいおいガチかよ。九条と須藤の一騎打ちだぜ」
どこからかそんな声が聞こえてきた。確かに、運動神経抜群で知られる二人の対決。周りの生徒は目を離さずにはいられないはずだ。
「あいつがどんだけ速ええかは分かんねえけど、流石に須藤には勝てないっしょ」
「……いや、幸先悪いスタートになりそうだ」
楽観的な考えの池だが、これは考えうる中で最も最悪な組み合わせだ。
スタート位置でクラウチングスタートの体勢を取る須藤の横顔は、先ほどとは異なり何処か焦った様子。
そして合図が鳴ると同時に完璧な立ち上がりを見せた須藤が飛び出す。出だしから身体一つ抜け出した須藤は、そのまま突き放すように他の男子を置き去りにして駆け抜ける────1人の生徒を除いて。
「なっ……!?」
周りは誰もついて来られない圧倒的大差でゴールへと向かう須藤。しかし、九条はその前を人一人分ほどのスペースを開けて駆け抜ける。
そのタイムは11秒12。オレが練習で出した記録に迫る数字だった。
全校生徒が見守る中、最初の競技、最初の走者として、九条はこれ以上ないインパクトを残した。
「……須藤君は2位か。こればっかりは組み合わせが良くなかったね」
オレの一つ後ろの組である平田が、残念そうに呟いた。
「少しマズいかもしれないな」
「2位でも十分凄いよ。後は僕たちが頑張ろう」
幸先の悪いスタートだったが、オレはオレのやれることをするだけだ。
「ああ」
そう決意を固め、靴ひもをガッチリと結ぶ直すのだった。
それから1年の100m走が終わり、女子最後の組である堀北が息を切らしながら戻ってきた。
「お疲れ。いい試合だったな」
そう言って未開封のスポーツドリンクが入ったペットボトルを渡す。
「ありがとう。あなたこそ。しっかり油断せず走れたみたいね」
「まあな」
足の速い生徒は見受けられなかっため、危なげなく1着でゴールさせてもらった。
「まさかこんな場所で10秒台が出るなんて、誰も思ってなかったでしょうね。スカウト、またうるさくなるんじゃないかしら」
ジャージの袖で額の汗を拭い、渡したボトルに口を付ける堀北。
上下に動く白い首筋に、一筋の雫が垂れている。……何だろう、やっぱり色っぽいんだよな。普段あんな感じなのに。
「……なに?」
「ああ、いや。何でもない。……そうだな。スカウトは根気よく断るつもりだ」
「そう。なら安心したわ。あなたが居なくなったら、空手部は取り壊しになるでしょうし」
部活の存続を気に掛ける当たり、こいつも結構あの場所が気に入ってるのだろう。普段は文句ばっかり言うくせに可愛いやつだ。
「さて、じゃあ本題に入るわよ。
そう言って、オレの隣に座る堀北。テント前の芝生で並びながら、堀北は少し離れた所を見る。
「クソッ! 何でよりによって九条の奴と当たるんだよ! 高円寺の野郎もサボりやがって!」
「仕方ないよ。組み合わせに関しては運が悪かったとしか言いようがない」
その視線の先には荒れ狂う須藤と、それをなだめる平田の姿があった。
「今須藤が口で言った通りだ。高円寺は相変わらずの不参加だな」
「……そう。まあ、期待はしてなかったけど。そもそも彼には何も言ってないし」
「参加するように交渉しなかったのか?」
ストイックな堀北がそこを怠るとは、珍しいこともあるものだ。
メモ帳に全ての組の結果をまとめ、パタンと閉じた堀北は、それをポケットにしまって答えた。
「ええ。彼は交渉なんて受け入れる人間じゃないでしょうし。何せCクラスには彼以上の秘密兵器が居るから」
小さく微笑みながら、上機嫌に語る堀北。
「秘密兵器?」
「……はあ、自覚が無いなんて馬鹿な男ね。あなたのことよ、綾小路君」
呆れたようにため息を吐いた後、こちらをじっと見つめて来る堀北。そこには冗談などを言っている雰囲気は一切なく。本心からオレに期待をかけるような、そんな瞳だった。
「……そうか。まあ、ぼちぼち頑張るさ」
────今まで、オレに対して成果を期待するような目はごまんと見て来た。最高傑作と呼ばれ、大人たちが期待した以上の結果を出し続けて来たオレには、その重圧に押し潰されそうになりながらも耐えてきた過去がある。
だがこの瞳は違う。向けられても負の感情しか湧かなかったあの瞳とは違い、これはオレの心を熱くさせるものだった。
グラウンドの奥では、2年生の男子が100mの競技を行っている最中だ。
実際にスタート地点に立つと聞こえなかったが、これから走る生徒に向けての声援が響き渡っている。
学校行事の醍醐味である体育祭。そこに、オレは今全力で参加しているのだ。
「……体育祭か」
秋口特有のさらさらとした風が、熱を帯びた頬をゆるりと撫でる。
上手く言い表せないが、オレは今、とても幸せな時間を過ごしているのだろう。
「なあ堀北」
白組と紅組の結果をまとめ、眉をひそめて何やら考え事をしている堀北に声をかける。
「何かしら」
「……いや、何でもない」
今口から出かかった言葉は完全にオレの意志によるものだったはずだが、それを口に出すのは少しだけ憚られた。
「何よ。言いたいことがあるならはっきり言いなさい」
案の定追及してきた堀北。こうなったら誤魔化すのは難しい。
「いや、日焼け止めを塗るくらい美意識が高くなったのかと感心したんだ。入学当初は一番安いシャンプーで済ませようとしていたのにな」
「別に良いでしょ。何か文句でもある?」
「いいや。良いと思うぞ。綺麗な肌程紫外線に弱いらしいからな」
真偽のほどは定かではないが、九条が言っていたため多分正しいだろう。
「……そう」
恥ずかしそうな堀北の反応を見て、サラッとオレが堀北の肌を綺麗だと褒めたことに気が付いた。
「そろそろ次の競技が始まるな」
そう言って立ち上がろうとしたが、シャツの裾を掴んで止められた。
「まだ2年生の競技が終わったばかりよ」
「……そうだったか」
体育祭という学校行事の熱を甘く見ていたのかもしれない。
「……」
何時になく気まずい雰囲気に、オレは早く3年生の競技が終わらないかと祈るのだった。
────────────────
特に問題もなくハードル走も1位で終え、続いての競技は男子限定で行う棒倒し。シンプルながらも荒々しく少々危険な競技である団体戦だ。
「いよっしゃー! お前ら! 気合入れて行こうぜ!」
集団の前に立った柴田が大きな声を上げてCクラスとBクラスの男子全員を鼓舞する。
「「「おう!」」」
それに応える怒号がグラウンドに響き渡る。度重なる合同練習の末、CクラスとBクラスの協力関係は確固たるものとなっていた。
一方、オレたちに立ちふさがるのは九条・葛城率いるAクラスと、石崎率いるDクラス。龍園はやる気が無いのか、後ろの方でポケットに手を突っ込んで立っている。遠目から見るに明らかにクラス同士のまとまりは無い。そもそも九条と葛城はDクラスを嫌っているだろうから仕方のない話だろう。
しかし、だからと言って油断はできない。棒倒しはオフェンスとディフェンスをそれぞれ分けて行う競技。クラス間の仲は悪くとも、それぞれクラス毎に攻守を割り当てればいい話だ。さらに相手には九条、アルベルト、鬼頭といった主力級の生徒が複数揃っている。
クラス毎に戦力となる生徒がが多かろうと少なかろうと現状のチームで考え戦うしかない。
試合のルールは2本先取した組の勝ち。平田と柴田は事前に『ある作戦』を練っており、相手の状況に合わせてクラス混合でチーム編成を行った。
『ではこれより、一年男子棒倒しを行います。各自、所定の位置についてください』
そんなアナウンスが行われ、九条率いるAクラスがスタートラインギリギリで前のめりに待ち構えていた。
その様子を見て、柴田と平田がそれぞれクラスメイトに指示を出す。
「
「お前は攻撃側だ。早く並んだ方が良いぞ」
「そっか! ありがとな綾小路!」
自分の配置くらい覚えて欲しいものだ。攻めか守りかの二択しかないんだし。
そう思いながら、オレは辛うじて覚えていた池の配置を本人に伝える。
「やっぱりクラス別で仕掛けるよな」
「だね。僕たちみたいなチームの方が稀だと思うよ」
指示を出し、こちらへ戻ってきた平田に話しかける。
CクラスとBクラス、
試合開始の合図が鳴り、両者攻撃側の生徒が一斉に飛び出した。
「おらぁ! ボサッとしてんじゃねえぞお前ら! しっかり守り切れよ!」
守備側に配置された須藤が檄を飛ばす。こちら側の最高戦力として数えられている須藤だが、こちら側に配置されているのには理由があった。
そんな間にもAクラスは防衛側のラインを越え、こちらに向かってきている。
「クソッ! 誰かあの化け物を抑えてくれ!」
同じく守備側に配置され、棒の上で全体を見回していた神崎が悲痛な叫びをあげる。
「よっと。凄いなお前ら。クラス混ぜて編成するとか」
視線の先に居たのは九条。取っ組み合いになったBクラスの生徒を軽々と後ろへ投げ飛ばし、ゆっくりとだが着実に棒へと向かっていた。
他の生徒の場合が押し合いになっている中、九条だけ守りを引きはがしているため、丸い人の塊の一部だけが欠けていた。
────このままでは敗色濃厚。オレが食い止めるしかない。
「行くか」
「あ? ……うわっ!」
押し合いをしていた生徒を前方へ吹き飛ばすと、楽し気に守備を侵食している九条へと向き合うのだった。
──綾小路清隆
100m走:1着
ハードル走:1着
棒倒し:
綱引き:
障害物競走:
二人三脚:
騎馬戦:
200m走:
借り物競争:
四方綱引き:
男女混合二人三脚:
1200mリレー:
──九条旭
100m走:1着
ハードル走:1着
棒倒し:
綱引き:
障害物競走:
二人三脚:
騎馬戦:
200m走:
借り物競争:
四方綱引き:
男女混合二人三脚:
1200mリレー:
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