ようこそ純愛過激派の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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白熱

 

 

 

「九条おぉぉおお!」

 

 攻撃側として棒の周りに群がる生徒を引きはがしていると、須藤が立ちふさがる生徒をなぎ倒しながら突撃してきた。

 

「テメェ! よりにもよって1組目に来やがって!」

 

 そんな理不尽なことを言いながら獣の様に体を低くして突撃してくる。

 

「いや怖い怖い。一応暴力は禁止だぞ須藤」

 

「んだとゴラァ!?」

 

 もはや聞く耳すら持っていない為、すれ違いざまにサクッと足をかけて転ばせておく。

 さて、既に2.3人ほど引きはがしたが、思っていたよりも守りが固い。Dクラスは武闘派の生徒が多いため危惧していないが、このまま長引けばどうなるか分からない。

 

「クソっ! 誰かこっちを助けてくれ!」

 

「今行く!」

 

 棒の上で全体を見渡していた神崎君がCクラスの生徒に指示を飛ばす。

 まさかCクラスとBクラスの連携がここまで取れているとは思わなかった。合同で体育の練習をしているとは聞いていたが、守備でごちゃ混ぜになっていてもしっかりと指示を通している。

 

「どうすんだ九条! こいつら結構固いぞ」

 

 人の波でぐちゃぐちゃになりながら、隣の橋本君が声を荒げる。

 

「とりあえずそのままでいいよ。ちょっと考えがある」

 

「あ?」

 

 集団から5m程距離を取り、一気に加速して棒へと向かう。

 ぶつかりそうになったタイミングで肩を掴み、思いっきり体を持ち上げる。

 

「うわっ! 何だコイツ!」

 

 踏み台にされた生徒の声で生徒の視線が一斉にこちらへ向く。引きはがそうと裾に手が伸びるが、両手で棒をガッチリと掴んで抵抗する。

 

「おいやめろ! 棒が傾くぞ!」

 

 握力100キロ超えをあまり舐めないで欲しい。生半可な姿勢で引っ張られてもびくともしない。

 

「良いぞ九条! そのまま掴まってろ!」

 

 俺が開けた穴からなだれ込むようにして生徒が棒へとしがみつく。

 

「ヤバいって! ガチで倒れるって!」

 

 上部に人が集中することにより、重心が上がって支えにくくなるからくりだ。

 ここまで来れば勝ちはほぼ確定だな。強敵だったが一度崩されると余程連携が取れてない限り立て直すのは不可能だ。

 

 勝ちを確信した瞬間、まるでトラックに追突されたかのような衝撃と共に後ろに吹き飛ばされる。辛うじて両手をついて飛び上がり事なきを得たが、何故か体がスース―する。

 

「は?」

 

 おかしいと思って下を見たら何故か上半身裸になっていた。

 

「あっ」

 

 先ほどまでしがみついていた棒の方を見ると、同じように綾小路が棒にしがみついていた。俺に続く形で棒にしがみついていた数人の生徒も全員引き剥がされたようだ。

 そして右手には真ん中から裂けたシャツが握られている。

 

「テメェなに人の服引き裂いてんだ!?」

 

「……いや、わざとじゃないからな」

 

「だとしても服が千切れる力で投げ飛ばしてんじゃねえ!」

 

 ゴリラかよこいつ!? ……って、握力100キロ超えてる俺より優に力あるんだもんな。どっちかと言えばゴリラ寄りの生物かもしれない。

 そんなゴリラが棒から足を下ろし、俺の目の前に相対する。

 

「ここを通りたかったら、オレを倒してから行ってくれ」

 

「お前それ言いたいだけだろ」

 

「バレたか」

 

 頭をポリポリと掻きながら照れくさそうに笑う綾小路。こいつも堀北さんもホント表情豊かになったな。やっぱり恋は人を変えるのだろう。

 しかしここを通すつもりは無いのは変わらないようで、肩を回しながらもこちらへの警戒を怠らない。

 

「暴力行為は禁止だって、さっき須藤にも言ったんだけど」

 

「大丈夫だ。丁度砂塵が舞っているからな。それにこの人混みだ」

 

 どうせ先生には見えないから大丈夫と。何とも破天荒な奴だ。

 

「この前のリベンジだな」

 

 ちょうどいい機会だ、今までの特訓の成果を見せてやる。

 綾小路の背後では、俺が開けた穴がふさがった事により棒の角度は均衡を取り戻していた。

 あくまで目標は棒を倒すこと。こいつだけに構っている時間はない。

 

「そう来ると思っていたぞ」

 

 低い姿勢からトップスピードで抜けようと駆けるが、綾小路は両手を広げてブロックの体制を取った。

 

「チッ」

 

 真正面からぶつかった場合、筋力に劣る俺が負けるのは必然。このまま駆け抜けることは不可能なためブレーキを踏む。

 その瞬間、綾小路は俺の顎に掌底を打ち付けてきた。食らったら脳震盪は確実。棒倒しどころか今後の競技にも影響が出て来る一撃だった。

 

「っぶね」

 

 上半身を右側へ倒すと、拳が左耳を掠めていった。

 

「ん、このまま気絶してくれれば助かったんだけどな」

 

「ああそうかい!」

 

 そのまま右腕を掴んで適当な場所へ投げ飛ばすつもりだったが、この前の様に上手くはいかない。

 仕方がないのでこちらから距離を取るが、このままではジリ貧だ。

 

「前回はオレが能動的に動いていたからな。対格差のある相手を投げ飛ばすのは勢いがないと難しいだろ?」

 

 そう。この前は綾小路が攻めで俺が守り、逃げに徹する状況だった。しかし今回は全くの逆。技術差がほとんどない相手で、尚且つ体格に負ける相手を技に掛けるのは相当大変だ。

 それが分かっていて、この状況を仕組んだんだろう。

 

「いいのか? 俺一人にそんなに時間割いても」

 

「棒倒しという競技において、守りに穴が開く以上に最悪な状況は無いからな。それを一人で出来るのはお前しかいない」

 

 注意を逸らそうと問いかけたが、綾小路は一切迷う様子なくそう答えた。あのまま行ってたら間違いなく倒せていただろうし、その判断は間違いではない。

 現に持ち直した守りに、橋本君たちはかなり苦戦しているようだ。

 

「ったく。怪我しても文句なしだからな」

 

「それはお互い様だ」

 

 いつも行っている空手の試合とは違い、今回は何でもありの肉弾戦だ。

 一歩踏み込んで鳩尾につま先で蹴りを放つ。人間の視界は左右であればある程度外れても問題なく見えるが、それが上下となれば少しズレただけでも認識が効かなくなる。砂塵によって視界が隠れている中、下から来る局所的な攻撃は防ぎにくいはずだ。

 前回アルベルトに打ち込んだ、本気で打てば呼吸困難になるであろう一撃だ。勿論手加減はしたが、当たれば一分はまともに動けなくなる。

 

「容赦ないな」

 

 しかし当たらなければどうということは無い。綾小路は寸でのところで上体を逸らし蹴りを交わすと、突き出された足を持ったまま距離を詰め、顎に肘打ちを入れてきた。

 肘打ちはムエタイやキックボクシングを除く、ほとんどの格闘技においては禁句とされている。その理由は簡単、強すぎるからだ。

 

「どの口が言ってんだ」

 

 想像しづらいと思うが、肘の骨はとても尖っている。優れた格闘家がこれをクリーンヒットさせれば、頭蓋骨がガラスの様に砕け散ることだってあると言われているほどだ。

 顔面へと向かって来る鋭い肘を手のひらで受け止める。

 パシッ! という乾いた音を立て勢いが止まった。

 

「お前この場で俺をダウンさせるつもりだろ」

 

 先ほどの掌底に続き2連続での顎への攻撃。恐らくこいつはこの場で俺を倒して、残りの競技に出られないようにする腹積もりだろう。

 

「さあ、どうだろうな?」

 

 楽しげにニヤリと笑い、左右に小さくステップを組む綾小路。

いや、コイツ俺と戦いたいだけだわ。顔がもう物語ってるもん。

 

「体育祭というのは楽しいものだな、九条」

 

「いや、多分色々と間違えてるよお前」

 

 勇者と相対した戦闘狂のラスボスみたいなことを言いながら、綾小路が攻撃を仕掛ける。

 左ジャブ、右フック、ボディブロー、ローキックと、先生が見たら顔を真っ青にして怒鳴り込んできそうな連撃を、手のひらや肘で逸らしながら後ろへ下がる。

 一回逸らす毎に当たった場所に痺れが積もっていく。正直こいつとは百何回も手合わせをしているため、基本的な動きの癖はある程度知っているつもりだ。

 

 だが、それは空手のルールにのっとった話。こいつは俺以上に多種多様な武術を極めているのだ。

 

「っ!」

 

 アグレッシブにこちらの懐に潜りこんでくる綾小路に、牽制目的の拳を打ったその時だった。

 左半身を逸らして避け、そのまま右拳を鼻頭に打ち込んでくる綾小路。あまりの速さに反応出来ずモロに食らってしまう。

 

「がっ!?」

 

 堪らずよろけながら後ろに下がるが、それを許してもらえるほど甘い相手じゃない。

 一瞬にして距離打詰めた綾小路は、そのまま流れるような動作で喉、鳩尾、二の腕、わき腹、脛に五連撃を繰り出す。

 ほぼ同時かと思う衝撃が体中を襲い倒れそうになるが、それを利用して胸ぐらを掴んで頭突きを入れる。技もクソもない下劣な攻撃だが、綾小路には効いたようで顔をしかめて距離を取った。

 

「はぁ、痛ってぇ……バコスコ殴りやがって。ジークンドーも使えんのかよ」

 

 痛みを訴える節々をさすりながら、垂れた鼻血を拭う綾小路に向かい合う。

 今まで食らったことのない攻撃だったが、速度を重視する特徴的な攻撃方法には見覚えがあった。

 

「ああ。実際に練習したのは一年くらいだが、体は覚えているもんだな」

 

「嘘つけ。使いこなしてるじゃねえか」

 

 ────截拳道(ジークンドー)。かの有名なブルースリーが編み出した、数多の格闘術が知られている現代において最強格の一つと言われている格闘技だ。

 速度を重視した格闘技で、熟練者と路上で相対した場合、10秒もかからず沈められると言われている。しかし、その技術習得は容易ではない。

 

「お前、ここに入るまでまでどういう生活してきたんだ?」

 

 今までもおかしい所はいっぱいあった。だが、最早ここまでくると違和感と表すには相応しくない『ズレ』を、こいつから感じるようになってしまった。

 

「……何の話だ?」

 

「今更惚けなくていいって。空手、柔道、ボクシング、合気道、テコンドー、ムエタイ、躰道、そして截拳道。どれも一線を張れる達人レベル。空手だって、幼少期から毎日5時間以上練習してた俺に追随するレベルじゃねえか。これだけでも、普通の人間が15年で習得できる技術量じゃない」

 

 それに加えて、有栖ですら勝てるか分からないと言わしめるチェスの技術や頭脳。そして、それに反比例する世間に対する知識の少なさ。こいつは明らかに普通じゃない。

 

「お前が普通の一般家庭の出自じゃないことくらい、とっくの昔から知ってるっつーの。この前の大会も()()()()()()()()()()()()()()と戦ったけど、そいつも年にしちゃありえんくらい強かったぞ」

 

 そう言えば一個下ってことは中学生になるんだけど、どうやって大会出れたんだ? しかもけっこう強かったし。まあ、綾小路に比べたらカスも良い所だったけど。

 

「……ちょっとまて、オレの後輩って言ったのか? それがお前に接触してきたのか? なんて言われたんだ」

 

「ほら、その反応だよ。普通の中学の後輩だったらそんな反応しねえだろ。何がそんなにマズいんd「頼む。なんて言われたか教えてくれ」……いや、普通にお前の名前出して知ってるかって」

 

 血相を変えて聞いてくる綾小路に正直に答える。明らかにおかしい反応だ。

 そりゃあ、隠したい過去は誰にだってある。だが、少しは俺と堀北さんを信用してもらいたいものだ。悩みがあるなら打ち明けた方が楽になるだろうに。

 

「……それで、お前は、なんて答えたんだ?」

 

「いや、普通に友人だって答えたよ。別に隠すことでもないし」

 

 俺が綾小路と知り合いだと相手は確信を持っている様子だったし、ここで隠すのは逆に怪しい。やましいことは何もしてないんだし、そこは素直に答えた。

 

「……そうか」

 

 そう答えると、綾小路は露骨にやる気をなくしたかのように構えを解き、ため息を吐いた。

 

「時間稼ぎは十分だな。九条、後ろを見てみろ」

 

「あ?」

 

 一瞬罠かと思ったが、もう綾小路からは戦意を感じない。

 その言葉通り振り返って後ろを見ると、そこには驚きの光景が広がっていた。

 

「……おいおい。マジかよ」

 

 俺の目に入った光景は、Cクラスが守っている棒が今にも倒されそうになっている様子だった。

 

「おらぁ! もう少しだぞお前ら、気合入れていけ!」

 

 そして、俺が先ほどすれ違った須藤の姿もそこに見える。

 

「一度体制を整えれば、棒を守る人数が少なくても多少の時間稼ぎは出来る。それに今棒を守っているのは体格や筋力に優れる生徒達だ。そして攻撃側には機動力が高く身軽な生徒を選出した。クラス混合でチームを組む利点だな」

 

 よくよく見れば、俺が引きはがした守備の生徒もちらほら見える。恐らく、棒を倒しにかかっている生徒は最初より5人ほど増えているだろう。

 

「で、須藤が俺に向かってきたのも作戦の内ってことか」

 

「そういうことだ。倒した生徒のことなんか気にしないだろ? それに、オレと戦うとなったらそれ以外目に入らない、お前の集中力を利用させてもらった」

 

 確かに、ルールとしては別に違反していない。

 攻撃側が攻撃側の生徒の邪魔をしてはいけないだけで、守備側の生徒に関する規定はなかったはずだ。……これは一本取られたな。

 

「参った。流石だよ。抜かりない奴だ」

 

「良いのか? まだ棒は倒れてないぞ」

 

「無理無理。この状況でお前に背を向けるほどマヌケじゃねえよ」

 

 ほら、そうこう言ってる間に棒倒れたことを示すホイッスルが鳴った。

 それぞれの生徒が喜びと悔しさを表情に浮かべながら、元の陣地へと足を運ぶ。

 

「綾小路」

 

 そんな中、俺はやけに小さく見える綾小路の背中に声をかけた。

 

「……何だ」

 

 そう言って振り返った綾小路の顔が、やけに暗く見えて仕方が無かった。

 

「お前、今日の体育祭で最優秀生徒になったら堀北さんに告れよ」

 

「!?!!?? な、何言ってんだ急に!」

 

「お、戻った。お前さっきの話してから暗くなりすぎなんだよ」

 

 余りにもわかりやすい反応を見せてくれた綾小路。そうだ。暗い表情はなるべくしないで欲しい。

 

「いや! 意味わかんないぞ! どうしてそれがそこに繋がるんだ!?」

 

「多分告ればOK貰えるぞ。いいじゃん、体育祭で告白とか青春じゃん」

 

 こいつが何を懸念しているかは知った事じゃないが、どんなに重い過去があろうと綾小路は綾小路だ。

 俺はこいつが良い奴だってことを、これまで関わってきた半年の間で嫌というほど理解している。おっかないところもあるけど、俺の作った飯を美味しそうに食ってくれるところとか、普通の男子高校生と何ら変わんねえじゃん。

 だからいい加減普通に幸せになれよ。俺が友人として出来ることはそんなに多くないけど、相談くらいなら何時でも乗るからさ。

 

 

 

 

 

「いや、告ればOK貰えるとか、坂柳の想いにずっと気が付かなかったお前が言っても信用ないぞ」

 

「よしテメェ次攻撃側だよな? ぶっ殺してやるから覚悟しとけよ」

 

 

 

 





 次章の伏線をちょろっと挟んで終わります。

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