ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
そんな風に息巻いていた棒倒しだが、普通に守りでも負けてしまった。普通にC、Bクラスの混合編成が強すぎた。
クラス単位でしか編成できない俺たちと違って、それぞれ攻めと守りで適正のある生徒で役割分担できる強みは大きいだろう。あと綾小路が集中して俺を狙ってたせいで身動き取れなかったのもキツかった。
弱音を吐いても仕方がないので、次の綱引きでは勝利を収めることで失態をカバーした。といってもこれはDクラスの生徒の貢献が大きい。アルベルトや石崎を始め、力の強い生徒が大勢いるからだ。
まあ、だからと言って特別感謝するつもりは無い。首謀者である龍園は大人しくしており、金田がトップを張っているが、こいつもこの前の騒動に関与していた人間の一人だからな。
試験では協力を惜しむつもりは無いが、彼らとプライベートで関わる気は一切ない。謝罪すらされてねえし。
「……って言っても、このままこの状態なのは無理があるよな……」
そんなことをボヤキながら、次の競技までまだ少し余裕があるためAクラスのテントへと向かう。
C、Bクラスと対照的にAクラスとDクラスは現状断交状態。俺と葛城君が龍園アンチだから仕方がないだろう。有栖は基本的に俺の方針に口出しをすること無いし。
だから棒倒しの時もクラス毎に別れたし、合同練習なんてもってのほかだ。個人的な関係にまで口を出す気は無いけどね。それだったら空手部の面子もマズいことになるし。
「あ! お帰りなさい旭くん……って、何で脱いでるんですか……」
Aクラスのテントへと戻ると、中で退屈そうに座っていた有栖と目が合った。
俺の顔を見て嬉しそうに頬を緩める有栖だが、上半身裸な事に気がついて呆れた視線を送ってくる。
そんな有栖の隣に腰掛け、まだ痛みが残る殴られた箇所をさすりながら答えた。
「綾小路に無理やり脱がされた」
「えっ」
少々誤解を生む表現だったが、何も間違ったことは言っていないはずだ。
何を想像したのかギョッとした表情を浮かべる有栖。その頬にはほんのり朱が混じっている。
「う、浮気はダメです! しかも外でなんてはしたない!」
腕に抱き着きながら抗議してくる有栖。ちょ、そこ殴られたとこだから触らんといてマジで。
「何想像してんだアンポンタン」
というより妄想が激しすぎる。残暑によって頭が焼かれてしまったようだ。
脳内真っピンクの天才少女にデコピンをかまし訂正する。
「あぅ……もう、冗談ですよ。そんなに怒らないでください」
「にしては質が悪いんだよ! ……で、いつまで抱き着いてんの?」
抱き着いたまま胸や腹をさわさわと撫でて来る有栖。おいおい。周りからは見えないけど、何時人が入ってくるか分かんねえぞ?
「いえ……その、やっぱり凄い体してるなぁと」
有栖は生唾を飲みながら、やらしい手つきで体をまさぐってくる。そう言ってもらえるのは嬉しいけれど時と場合を考えて欲しい。……そうだな。少し意地悪したくなってきた。
「あっ……」
毎度の如く引っ付き虫となった有栖を胡坐の上に運ぶ。傍から見たら兄と妹、もしくは父と娘にも勘違いされそうな状況だ。
「毎晩見てる癖に何言ってんだ」
そうして後ろから抱きしめながら囁くと、有栖はびくりと体を震わせて分かりやすく動揺し始めた。
「っ! な、何言ってるんですか!」
「だってそうじゃん」
「そ、それとこれとは違う話でしょう! デリカシーってものが無いんですかあなたは!」
「誰も見てないからって、こんな場所で体まさぐってくる奴にだけは言われたくないね。それにいっつも誘うのお前からじゃん」
デリカシーとかこいつにだけは言われたくない。この淫乱天才銀髪幼女が。
「それはヘタレな旭君のためを思っての行動です! どうせ自分から誘うなんてできないんですし、大人しく甘えてればいいんですよ」
「ちょ! おい、暴れんな。痛っ」
怒った有栖が腕の中でバタバタと暴れたため、バランスを崩して後ろ向きに倒れてしまった。
更に俺の上に寄りかかる形で倒れ込む有栖。
「あ、ごめんなさい。今どきますね……んっ」
言いたいことを言ってスッキリしたのか、途端に大人しく起き上がろうとする有栖だが、色々とムカついたので抱き着くようにして止める。
誰が自分から誘えないヘタレだって? いいだろう、分からせてやるよ。
そのまま後頭部を強く掴んで引き寄せ、有栖の小さな耳に口を寄せた。
「今日は色々と昂ってるだろうからな。今夜は滅茶苦茶にしてやるy……いやごめんちょっと待って冗談」
昔見たエ〇同人誌のセリフを参考にキザったく言おうとしたが、これは予想以上に恥ずかしい。
あー! これはしばらく弄られるだろうな。流石に調子に乗りすぎた。死にたい……
「っ……分かり、ました……」
……いや効いてるやん。ちょっろこいつ。
動揺した様子を見られたくないのか、有栖はこちらを向いて俺の胸に顔を埋めている。
そんな彼女のサラサラの髪の毛を撫でながら和んでいると、テントの幕が開いて一人の生徒が顔を出した。
「坂柳、九条の奴どこに居るか知らない? ……って、何してんのあんたたち」
声をかけてきたのは神室さん。どうやら俺を探すために聞きに来た。
半裸の俺に抱き着く有栖と、その髪の毛を撫でている俺。確かに傍から見たらヤバい奴だ。
……よし、こういう時は無視を決め込むのが一番いい。多分。
「神室さん。どうしたの?」
「……橋本が呼んでた。もうすぐ次の競技始まるって」
もうそんな時間か。休む暇もないな。
「おっけー。今行くからちょっとまって。じゃ、行ってくるね」
「ん、分かりました。頑張ってください」
もう一度脇の下に手を伸ばし。ひょいと持ち上げ隣に座らせる。そしてテントに置いた荷物から替えのジャージを取り出し着用すと、今度は破られないように祈りながら着用した。
テントの幕をくぐり、先に出ていた神室さんに声をかけた。
「次の競技って何だっけ」
「……あくまで無視を決め込むつもりなのね。障害物競走よ」
「もう3分の1くらい行ったのか。早いな」
推薦種目を含め、俺は全部の競技に出ることが確定しているため、残りは8種目。現在棒倒しを除いて全ての競技で1着、または勝利を収めることが出来ている。
最後のリレー次第だが、最優秀賞を狙うこともできる結果だろう。
「ま、あんたなら大丈夫だと思うけど、怪我だけはしないでよ。体育祭はあんたと鬼頭、橋本頼りなんだから」
「それを言うなら神室さんもね。今どんな感じだっけ?」
「100mとハードル走は1着。玉入れは負けたけど綱引きは勝ち。ぼちぼちって感じ」
とすると、現時点では俺や綾小路と同じ結果だ。神室さんもAクラスの大きな戦力の一人と言っていいだろう。
「凄いな。うちの男子達にも見習ってほしいくらいだ」
いくら何でも、Aクラスの生徒は勉強にステータスを振りすぎな気がする。だって足の速さだと男女合わせて神室さんが4位だぜ?
「まあ、矢島や木下と被らなかったのが助かったかも。流石に現役陸上部には勝てないから」
「Cクラスはどう?
あまり声を大にして言える話ではないが、ここはAクラスのテント、周りに聞かれることはほとんどないだろう。
「まあね。堀北とか小野寺とかを潰せてるのは大きいわ。あんただって、初っ端から須藤に被せてたでしょ? あんなに露骨にやって大丈夫なの?」
────そう。先ほどの100m走で須藤と被ったのはなにも偶然じゃない。あれは俺たちAクラスが参加表を意図的に調整して行ったことだ。
もちろん、相手の参加順を知らずにそんなことできるわけがない。しかし、
「大丈夫大丈夫。どうせこれ終わったら綾小路と堀北さんにバラすつもりだから」
「あんたも大概性格悪いわね。……私が言えたことじゃないと思うけど」
「ははは。じゃ、もうすぐ始まるから行ってくるね」
何処か気まずそうに語る神室さんに応え、競技のスタート地点へ小走りで向かう。
そうしてサクッと障害物競走と二人三脚を1着で終え。目玉である騎馬戦に向けて準備をするのであった。
────────────────
『続いて1年男子騎馬戦を行います。出場する生徒はグラウンド中央までお越しください』
3年生女子の騎馬戦が終わり、とうとうオレ達へ招集が掛かった。
「うっし! テメェら! 女子に続くぞ!」
すっかり須藤も機嫌を取り戻し、リーダーとして士気を高めるための声掛けを行っている。
「順調ね。今の所、1位のAクラスともほとんど拮抗しているみたいだし。騎馬戦で勝てたのはかなり大きいリードよ」
競技を終えた直後でもメモを取ることを怠らない堀北。一年女子の騎馬戦は、CB連合の勝利に終わった。
「まさか敵騎馬を残らず殲滅するとはな。今までで一番盛り上がってたぞ」
騎馬戦のルールは男女共に同じで時間制限方式。3分間の間に倒した敵の騎馬と残っていた仲間騎馬の数に応じて点数が入る仕組みだ。4人1組の騎馬が4組の、全クラス合わせて合計8対8。それぞれに50点が割り当てられている。更に各クラスに1騎馬だけ対象が割り当てられており、100点を保持している。
堀北たちは4組の騎馬を残して敵騎馬をすべて殲滅したから、この場合はCB連合に800点、AD連合に200点が与えられることになる。
「油断はしない事ね。相手は武闘派のDクラスと、九条君率いるAクラスよ」
「もちろんだ。お前の勝利を無駄にするつもりはない」
そうしてグラウンドへ集まった一年生男子。
オレは今回大将騎馬の騎手としての役割を任された。というより、このポジションはオレが提案したものなのだが。
「おい綾小路。俺たちの勝利はお前に掛かってるからな? 半端な結果を残したら承知しねえぞ!」
騎馬役正面に立つ須藤が発破をかけて来る。右方には平田、左方には三宅と、Cクラスの最高戦力をかき集めた最強の騎馬だ。不甲斐ない結果に終わるわけにはいかない。
「柴田君との話も済んでる。例の作戦で大丈夫だよね?」
「ああ」
平田の問いかけに肯定し、正面に並ぶAD連合の騎馬を見る。
「チッ、九条の奴もしっかり騎手になってやがる」
そうぼやく須藤だが、これは想定内だ。
九条の騎馬は騎手に九条、正面に鬼頭、右方に橋本といった編成となっている。もう一人の生徒の名前は知らないが、体格的にも強敵であることは間違いない。
「よっしゃー! 行くぞお前ら!」
試合開始のホイッスルが鳴り、柴田の掛け声と同時に8つのCB連合が相手チームへと突撃していく。
AD連合は九条を騎手とした騎馬と、石崎を騎手とした、アルベルト、小宮、近藤の大将騎馬を中心としてこちらへ向かっている。
「展開!」
それぞれが激突するであろうタイミングで、平田の声がグラウンドに響き渡る。
その瞬間、横一列に並んでいた6組の騎馬が、規則的な動きで相手チームの大将騎馬を取り囲んだ。
「なっ!?」
九条、石崎の騎馬をそれぞれ3組ずつ扇状に囲む形で包囲。それを見た相手チームの他の騎馬は、突然の動きに対応できないのか立ち尽くしている。
「ど、どういうことだよ!」
「!? 戸塚君! 右だ!」
「右? ……なっ! いつの間に!?」
圧倒的な走力で、すれ違いざまに戸塚のハチマキを奪う。
柴田率いる機動力重視の騎馬も同様に奪取したのか、反対側から手に持ったハチマキを大きく掲げ、こちらに手を振ってきた。
「よっしゃあ! 上手く行ったみたいだな!」
「まだ安心しちゃだめだよ須藤君! 合図に合わせて左にターンだ」
平田の掛け声に合わせ、速度を維持したまま180度回転、未だに何が起こっているか分からないAクラスの騎馬に向かって突撃する。
「皆! いったん後ろに下がれ! ここは俺が出r「させねぇよ!」……クソッ!」
いち早く状況を理解した九条がフォローに向かうが、3方向から取り囲むように配置され身動きが取れない様子。
「やられた……! こいつら、各個撃破するつもりだぞ九条!」
そう叫んだのは九条の隣に騎手として立っている葛城。
────そう。オレ達の作戦は敵大将騎馬を釘づけにしている間に、他の騎馬を各個撃破するというものだった。
恐らく騎手として出て来るであろう九条と、馬力に長けたアルベルトの騎馬を3方向から包囲。オレと柴田の機動力を重視した騎手で、残りを一体ずつ撃破していく。シンプルながらも、クラス間での協力を確立しないと出来ない作戦だ。
「残った2体で取り囲め! こいつら大将だ! 倒しちゃえすればこっちのもんだぞ!」
現在フリーとなった2体の騎馬が、こちらを撃破しようと横に並んで距離を詰める。
1対2の絶望的な状況だが、これでやられるほど軟なオレ達じゃない。
「須藤! 右に突っ込め!」
「おう!」
普通なら騎馬戦はハチマキを奪い合う競技。騎手同士の手が届く範囲になったら両者止まるのがセオリーだ。
しかし、うちの
「オラ゛ァ!」
須藤は止まることもなく敵騎馬に渾身の体当たりをかましバランスを崩させた。
「ぎゃ!?」
須藤に体格負けする向こうはなす術もなく騎手ごと崩れ落ちる。
味方が思わぬやられ方をしたためか、左の騎手は呆然としている。
「これ、貰っていくぞ」
「あっ!」
ハチマキを一瞬で奪い取り、そのまま後ろへと下がってゆく。これで奪い取ったハチマキは2本だ。
石崎達を取り囲んだBクラスの騎馬も、2組が落ちつつも無事大将のハチマキを奪えたらしい。今は柴田に合流して2対2の戦いを繰り広げている。
「……残りはあと2分か。このまま九条を4組で抑え続ければ勝ちだな」
「────誰を抑え続けるって?」
この場に聞こえないはずの男の声が、静けさを取り戻しつつあるグラウンドに響き渡った。
「……おいおい。池たちはどうした?」
そう聞きつつも、こいつがこの場にいる時点でどうなったのかは明白だ。
九条はポケットから3本のハチマキを取り出すと、それをプラプラと揺らしこちらを睨みつけた。
「ったく。姑息な戦い方しやがって」
競技に割り当てられたの時間はたったの3分。移動の時間も考慮すると九条が囲まれてからは60秒程しか経過していないはずだ。
騎馬戦において、人数差が戦況に及ぼす影響は致命的と言っても過言じゃない。
そんな状況下で九条は、自身の周りに囲う様に展開された3組の騎馬────
────その全てを、作戦開始後約60秒で殲滅したということだろう。
「……ははっ、つくづく化け物だな」
こちらの作戦を、ことごとくフィジカルで突破してくる化け物に辟易しながらも、オレは胸の高鳴りを抑えられずにいた。
「第二ラウンドだ。うっかり手が出ちゃうかもしれないけど、そこはご愛敬ってことで」
「望むところだ」
自然に吊り上がる口元を左手で押さえつけながら、オレは目の前の好敵手に向かい合うのだった。
──綾小路清隆
100m走:1着
ハードル走:1着
棒倒し:勝利
綱引き:敗北
障害物競走:1着
二人三脚:1着
騎馬戦:
200m走:
借り物競争:
四方綱引き:
男女混合二人三脚:
1200mリレー:
合計:560点
──九条旭
100m走:1着
ハードル走:1着
棒倒し:敗北
綱引き:勝利
障害物競走:1着
二人三脚:1着
騎馬戦:
200m走:
借り物競争:
四方綱引き:
男女混合二人三脚:
1200mリレー:
合計:560点
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