ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
遅れてごめんなさい!
「えーっと、因みにマジで言ってる?」
非常に快適な船の旅を行うこと1日と半分。俺は電話越しに説明された内容を理解できず頭の中で反復させていた。
「ああ。これがオレが考えうる作戦で一番良いものだ」
誘拐犯から奪ったスマホ越しに、さも当たり前かのよう答えるのは綾小路。色々言いたいことは山ほどあるが……うん。
「いやおかしいだろ!? 何で病み上がりに50キロもボート漕がなきゃいけねえんだよ!」
綾小路が一番最初に下した命令、それは船に備え付けられた手漕ぎの救命ボートを使って3時間近く漕ぎ続ける事だった。最善の作戦とか言っておいて人の体力を考慮していない。
「お前の話を聞く限り、船が到着したと同時にお前を引き渡すのが父親の依頼だ。そしてお前が乗っているのが小型の貨物船で、他のコンテナにも密入国者が乗っている事を考えると、まず間違いなく陸地に到着してから逃げ出すのは不可能だ」
「いや、そんな日本でドンパチする程お前のお父さんも頭悪くねえだろ。てか警察に通報すれば一発じゃね?」
土地が広く、人通りが全くない山奥でなら多少大胆にさらっても問題ない。しかしそれを日本で行うとなると一気に難易度が上昇する。
「密入国者を引き渡す場所が人通りの多い港とは考えにくい。今の位置情報を見る限り、恐らく到着するのは夜。そして人の目が無い場所になるはずだ」
「そんな中到着と同時に通報されていて、尚且つ保護された人々の中に旭君の姿が無かった場合、綾小路君のお父様はこう思うはずです。「こちらの思惑が全て筒抜けになっている」と」
電話相手が入れ替わり、有栖の声が聞こえて来る。相手がスピーカーにして通話をしている影響か、向こう側でも議論が行われているのが聞こえてきた。
「……でも危険すぎるわ。やはり一度警察に保護してもらうのが得策なんじゃないかしら」
「僕も堀北さんに賛成……と言いたいところだけど、公的な機関の方が更に危ない可能性がある。いわれのない罪をでっち上げることなんて、綾小路先生からすればそう難しいことでもないからね」
「だが九条は現在行方不明の状態。復学するには一度保護してもらうことは必須。つまり、その段階で父親が暗躍できない状態にする必要がある」
「幸いにもこちらはある程度の情報を持っています。先手を打てるタイミングは今しかありません」
上から堀北さん、成守さん、綾小路、有栖と話が進んでいく。
あの成守さんですら綾小路寄りの意見だと考えると、既に状況は引き返せないところまで来ているのかもしれない。
「……勝算はあるんだな?」
「ある。その為には、お前の協力が不可欠だ」
「なるほどね……」
電話越しで声しか聞こえないが、綾小路が真剣にこちらを見つめているイメージが湧いてきた。
……仕方ない。俺も腹をくくるか。
「分かった。その条件で行こう。あと何時間後に動けばいい?」
「ありがとう。おおよそ2時間後くらいだ。日が落ち切らずに十分泳ぎ切れる時間帯はこれしかない。合流地点はお前のスマホに送る」
「目的地までは海流に沿って漕げば問題ないはずです、旭君なら大丈夫ですよ」
上から綾小路と有栖が声援を送ってくる。有栖に至っては昨日久しぶりに喋ったときはギャン泣きしてた癖に調子の良い奴だ。
「これ貨物船の人に見られたらどうすんの?」
何を隠そう俺はこのコンテナからは一度しか出ていない。一度というのは縛り付けた誘拐犯4人を別のコンテナに放り込んできたときだ。カモフラージュの為なのか、実際に人が入っていたコンテナは全体の10分の1程しかないらしい。何で知ってるって? ……まあ、親切な人に教えてもらったとでも言っておこう。中国語を聞き取るのは中々大変だったけど。
もし脱走が見つかった場合はマズいことになりそうだ。誘拐犯と直接的な関係は無いとしても、これが表に出た場合逮捕されるのは船を運転している人たちも一緒だからな。無理やり取り押さえられる可能性だってある。
「顔はマスクか何かで隠してくれ。防犯カメラか何かに映像が残っていると面倒だ。見つかった場合は……そうだな、適当に殴って眠らせておけ。そしたら同じようにコンテナに突っ込んでおけば問題ないはずだ」
「ん、おっけー」
どこぞの蛇の一族を思い出してしまった。確かにこうして考えると、綾小路もギリギリメ〇ルギアシリーズに出れそうな出自だな。ちょっとおもろい
「じゃあ、一度通話を切らせてもらうぞ。充電が無くなったらマズいからな」
「おう。じゃ、そっちも色々頑張れよ」
そう言って通話を切り、1人でため息を吐く。人が居住できるように改造されたコンテナは、小さな空気口の他にベッドや椅子も設置されていた。こういうのは秘密基地みたいで少しわくわくする。
「……あいつら死んでねえよな」
そこで気になったのは、昨日の夜別のコンテナに縛り付けて突っ込んだ誘拐犯4人組のこと。
「……帰る前に様子見に行ってやるか」
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最初で最後の大反抗期作戦(九条命名)を行う前日の夜。オレは理事長と2人で話をしていた。
「……本当にいいんだね?」
そんな言葉と共にこちらを心配するような目を向けて来る理事長。
「はい。既に準備は完了していますし、ここから引き返すわけにはいきませんよ。それに、これはケジメでもあるので」
強い意志を込めて目を合わせると、理事長は苦笑いを浮かべながら席を立った。
「なら僕は何も言わないよ。これが君たちの選択ならね。……子供の成長は早いね、やっぱり」
どこか懐かしそうにデスクに飾られた写真立てを見る理事長。そこには幼い頃の坂柳と九条が並んで写っている写真が飾られていた。
「……やはり、九条は参加しない方がよろしいですか?」
もはや理事長にとって九条はもう1人の息子。理事長の様子を見ていると巻き込んでしまったことも、その後処理に協力してしてもらうことも心苦しさが残る。
「今更置いて行く方が可哀想だよ。あれだけ君のためにやる気を出していたんだからね。それに、命のやり取りをする訳では無いんだよね?」
「はい。お互い重篤な怪我を負うことはまずないと思っています」
生まれてから15年近く住んでいたが、銃火器等の装備をしている職員の姿は一度も見たことが無い。支給されているのはいい所で警棒や刺又ぐらいだろう。政敵の襲撃に備えるというよりかは、子供の脱走を防ぐ目的で雇われているため当然と言っては当然だ。
もう一つの理由としては、自身が暗殺されることを防ぐためだろう。最寄りの駅からでも車で一時間かかるような山奥にあるホワイトルームは、暗殺にはもってこいの場所だからな。敵対組織に警備員として潜入され、暗殺される可能性もゼロとは言えない。その際銃火器を常備できるかできないかで難易度は大きく変わってくる。
「確かに警備自体は厳重だったけど、あくまでボディチェック等に収まるものだったね。少なくとも抗争を想定した武装はしていないはずだ。……けれど、もし万が一応援を呼ばれたらどうするつもりだい?」
「その点は心配に及びません。あの男が応援を呼ぶわけががありませんし」
警察はおろか、弱みを見せたくない協力組織にすら応援を要請することはないはずだ。やり方が露呈した場合被害を被るのはあいてだからな。
「ははは、その点もリサーチ済みってことだね。流石綾小路君だ」
感心したように小さく笑う理事長。知ってて聞く辺り温厚でも坂柳の父親ということだろう。
「人手に関しても問題ありません。今回は
先日説得した男の顔を思い出しながら説明を続ける。堀北には反対されたが、こと今回の作戦に置いて彼の協力は必要不可欠だ。
「
そう。オレが協力を要請したのは無人島試験以降、やる気をなくして大人しく学生生活を送っている龍園だ。
「僕の立場としては無関係の生徒は巻き込まないで欲しいんだけど……まあ今更かな」
この作戦を行うにあたって、最も高い壁が1つ存在した。それは、こちらの指示で自由に動かせる外部の協力者である。
第一目標として、輸送船から脱出した九条の回収。第二目標はホワイトルーム襲撃時の戦闘員を集めること。流石にオレと九条の2人では厳しいからな。
「その点龍園ほどの適任はいませんでした。地元の暴走族、半グレ集団などを従えていますし、こちらの事情を話して説得したら案外乗り気になってくれましたよ。九条との合流も確認できましたし、こちらの指示でいつでも動けます」
「……入試で全教科50点取ってた子とは思えないね」
正直ホワイトルーム云々に関してはあまり隠さなくても良いんじゃないかと思ってきところだしな。これで協力を得られるなら悪くない選択肢だろう。
「正直黒歴史なんであんまり言わないでください」
「あ、そうなんだ」
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『警備データ確認できました。画像ファイルをグループに送信します』
インカムから坂柳の声が聞こえてきたと同時に、ポケットに入れたスマホが振動した。オレ、九条、堀北、坂柳、そして龍園とその手下たちという異質すぎるチャットグループに、施設の全体像と間取りの写真が送られてくる。
『うわ、ガチで刑務所みたいな構造してんな。お前のお父さん最低だな』
『そりゃそうだろ。こんなイカれた教育をしている時点で今更だ』
『……お前からまだごめんなさいって言葉聞いてねえからな』
『ククク……助けてここまで運んでやったのは誰のおかげだ? チャラにしても有り余るんじゃねえのか?』
『きっしょ。これ終わったらもう一回ぶん殴ってやるから覚悟しとけ』
今度は九条と龍園が喧嘩を始めてしまった。……そうだった。こいつら犬猿の仲だったな。完全に忘れてた。
『ほら、喧嘩しないでください2人とも。……監視カメラは別電源で動いているみたいですね。施設の規模からして、監視室はここだけだと思います。……こちらとしては好都合です。龍園君の方から数人監視室に配置できますか? モニターの映像をスマホで映し続けて欲しいです』
『ああ。行ってこいお前ら』
『『『はい!』』』
坂柳が2人をなだめると同時に監視室を守るために龍園に指示を出す。そして龍園から連れて来た手下へと指示が下るという流れだ。
『残りの人たちはホワイトルーム生の解放をお願いするわ。各部屋の鍵は一階右奥の部屋……印をつけた所にあるから、必ず5人以上まとまって行動すること、良いわね?』
そして堀北が施設の構造を把握し全体に指示を出す。坂柳に監視カメラの映像をモニターさせ続け、それを受け取った堀北が全体に指示を出す。突貫作業もいい所だが、想定していた以上に良い連携を見せてくれている。大まかな作戦の段階を決めたことが良い方向に働いているのだろう。
────今回ホワイトルームを襲撃するにあたって、オレは大きく3つの流れを立てた。
1.警備の無力化
2.ホワイトルーム生の解放と扇動
3.父親の拘束
最初の段階は主に2つのパートに別れる。
1つは龍園率いる集団による正面突破。車5台、合計20人による突撃で正面を突破し中に侵入、警備員の武装を確認。万が一拳銃等の装備が見られた場合、オレ以外の作戦に参加した人間は即退却するというもの。どれだけ厳重な警戒がなされていたとしても、情報漏洩の観点から警備員の数が10人を超えることはまずあり得ない。そしてそのほとんどの武装が警棒や刺又のみだとしたら、喧嘩慣れした素人でも制圧することは十分に可能だ。
2つ目は監視室に侵入し、監視システムの無力化と施設の電源を落とすこと。監視システムの無力化は叶わなかったが、映像を把握できているため問題ない。施設の見取り図だけでなく、リアルタイムの映像まで付いて来るのは嬉しい誤算だ。
警備の無力化が完了した段階で、次のホワイトルーム生の解放と扇動の段階に入る。とは言えそれは龍園たちに任せておけばいい。
父親が避難したであろう道を走って追いかけていると、インカムから九条の声が聞こえてきた。
『ここって何人くらい収容されてんの?』
「何期生かによって脱落者が大きく異なるからな。他の年のホワイトルーム生に関しては知らないが……そうだな、200人に行くか行かないか位じゃないか?」
一期で30人。20年間活動していて1年間だけ活動を停止していたということは、現在は1期生から19期生まで居るはずだ。生徒が脱落するペースを考えると半分は間違いなく行かないだろうし、おおよそそのくらいだろう。
『おい綾小路。17期生のガキ共の部屋を開けたが一切反応が無い。どういう教育したらこんな反応する子供ができるんだ』
「オレに聞かないでくれ。そのまま開けっ放しで構わない。別の生徒の解放を頼む」
『チッ、顎でコキ使いやがって』
17期生ってことは3歳か。特に代わり映えの無い教育を続けているらしい。だがそれも今日までだ。正直彼らのことはどうでもいいが、見捨てると九条と堀北がうるさいだろうからな。
龍園たちには引き続き部屋の開錠を頼みつつ、見慣れた廊下を走り抜ける。
作戦は極めて順調に進んでいる。しかし、どこか嫌な予感が頭から離れなかった。
「……さっさと終わらせないとな」
これがただの気のせいであることを祈りながら、オレは小さく呟くのだった。
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どうも。誘拐犯に攫われたと思ったら次は自分が爆破テロを起こしていた九条旭です。綾小路特製の爆薬らしいけど、一体どこでそんな技術を覚えたのだろうか……って、ここ以外あり得ないか。
そんな俺だが、今は堀北さんの指示に従って子供たちの個室に掛けられた鍵を解除して回っている。今俺が居るところは16期生……4歳位の小さな子供たちだ。
「よーし! お前ら自由の身だぞー! ほら、兄ちゃんについて来い!」
廊下の奥まで聞こえるように大声を出すと、隣の部屋にいた小さな女の子がこちらに声をかけてきた。
「それは命令ですか?」
「えぇ……」
余りにも感情の籠っていない問いかけに困惑の声を上げてしまう。なるほど。龍園が言ってたのはこういうことか。この年の子供なんてうるさすぎる位が丁度いいのにな。
質問してきた女の子に一歩近づきしゃがんで目線を合わせる。うわ肌の色しっっろ。……そりゃ一回も外に出てなかったならこうなるよな。ビタミンとか足りなくなりそうで心配になってくる。
「えーっと、違うって言ったらどうするの?」
「この場で待機します。命令なので」
「うーん。参ったなぁ」
安心させるように微笑み、頭を小さく撫でる。今までロクに愛情を注いでもらえなかったんだから、このくらいは良いだろう。
「……んん」
ほら。気持ちよさそうに目を細めてる。
「君、名前は?」
「……ゆい」
目線を右往左往させた後、小さく呟いた。その様子は先ほどまでの無機質な様子とは全く違う、引っ込み思案な女の子といった様子。
「良い名前だ。ゆいちゃん。お兄さんと一緒に付いて来てくれるかな? もし付いて来てくれるなら、ここから出してあげるよ」
無理やり連れだしても良いのかもしれないが、どうもそれをする気にはなれなかった。
今まで自分の意志を持ってこなかった子たちだ。せめてこういう場だけでも自分で考えて欲しいというのは我がままだろうか。
「……ここから、出る?」
「ああそうさ。もう厳しい試験や脱落におびえなくていいんだよ」
「……行く」
「よし! じゃあ皆で一緒に行こう!」
真っ白な服を着たゆいちゃんを肩車し、廊下を置くまで歩いて周りの子たちに声をかける。
一人、また一人とおっかなびっくり部屋から姿を現し、最終的には全員が俺の後ろについて歩くようになった。俺の半分くらいの子供たちが後ろにぞろぞろする様はまるでピク〇ンである。
「うわー何あれ! 見て拓也、凄いよ。なんかいっぱい居てかわいい!」
「……お久しぶりです九条さん。大人しく捕まってくれませんか?」
曲がり角から現れたのは、ほぼ同い年であろう2人の男女。そして、そのうちの一人には見覚えがある。先日空手の大会の決勝で戦った八神君だ。
「あ、やっぱりあの人がそうなんだ。じゃあ……やっちゃう?」
「そうだね。まあ、正直投降すると言っててもそのつもりでしたが。一夏は見ていてくれ。僕が相手をする」
面白そうにこちらに指をさす一夏と呼ばれた女子と、こちらを睨みつけてくる八神君。
「……ごめんゆいちゃん、ちょっと降りよっか。他の子も後ろに下がって」
どうやら厄介な相手に見つかったみたいだ。……さて、どう乗り切ろうかな。