ようこそ純愛過激派の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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 これから投稿時間は朝七時にしたいと思います!

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子供

 

 

 

「お前らもホワイトルーム生なんだろ? どうして大人たちの命令に従うんだ」

 

 目の前の敵と相対する九条。彼の目的を考えればこのまま逃げるのが正解だったが、子供を置いて後ろに下がるという選択は無かった。

 

「理由なんてありませんよ。強いて言うなら、僕がここに生まれたことじゃないですか? 僕はあなたを倒して、綾小路先輩の元へ向かいます」

 

 感情の揺らぎを一切見せず、さもそれが当たり前かのように答える八神。

 その様子を見て交渉の余地はないと判断した九条は、肩を数回回し八神の元へと近づいた。

 

「あの時と同じだと思わない方が良いですよ。ここではあなたを守ってくれるルールはありませんから」

 

 暗に手段を選ばないと宣戦してくる八神。

 

「それはお互い様じゃねえのか?」

 

 両者睨み合いながらじりじりと距離を詰め、その間が5メートル程に縮まった瞬間だった。

 

「……ッ!」

 

 最初に行動を起こしたのは八神。低い体勢から一気に加速し距離を詰め、そのまま腹部に蹴りを入れた。

 速さも鋭さも以前手合わせをしたときとは比べ物にならない一撃だったが、九条は半身を逸らし、片手で弾くことによって蹴りを躱す。

 パンッと子気味いい音が鳴り、弾いた手のひらに鈍い痺れが走る。

 

(単純な身体能力で言ったら学さん以上。怪我させずに無力化するのは厳しそうだな)

 

「うわっ、あれ避けるんだ。凄いね」

 

 後方から見ていた天沢が感心した様子で呟く。ホワイトルームで一定以上の成績を残した彼女からしても、ほぼ不意打ちの蹴りを躱した九条のキレは称賛に値するものだった。

 しかし八神も避けられることは想定していたようで、瞬時に体勢を立て直した後牽制目的の左ジャブを打つ。

 

「外の世界には僕より才能を持った人たちが大勢いるというのは、小さい頃から教わってきました。勿論それは重々承知していましたが、僕は5期生の中では格闘の成績はピカイチだったんですよ」

 

 一度ステップを踏んで距離を取る九条に、どこか楽しそうに語る八神。

 

「だから驚きました。初めて試合をしたとき、僕は間違いなく本気で戦っていましたから。その上で負けたんです」

 

 まるで穢れを知らない、純粋無垢な子供の様にはしゃぐ八神。自身の知らぬ外の世界の強者を、綾小路に復讐をする前座にしようと目論んでいたのだ。

 

「そりゃあ1年も差があるからな。体格だってまだまだ成長途中じゃねえか」

 

 八神と九条の身長差は10センチ程。体重差だって無視できない数字がある。

 堀北学との対格差に苦汁を飲まされてきた九条は、その影響を誰よりも理解しているつもりだった。

 

「それは単なる言い訳にしかなりませんよ。綾小路先輩は齢9歳にして格闘のプロを無傷で制圧したそうですし」

 

 教官から聞かされていた綾小路の逸話を語る八神。

 

「ほー……流石だな。で、だから何だってんだよ。綾小路も空手じゃ俺に勝てねえぞ」

 

「なるほど。ではあなたを倒しさえすれば綾小路先輩を越えることが可能ということだ」

 

 フォローのつもりで話したが、それは八神にとって逆効果だ。

 

「あーあ。拓也の火つけちゃった。知らないよー? 先輩」

 

 天沢のからかう様な言葉と共に、八神が先ほどよりギアを上げて攻撃をしてくる。

 眼球、喉、金的など、急所を的確に狙い、相手を破壊せんとする猛攻を退けながら、九条は相手の感情の起伏を目ざとく察していた。

 

(綾小路って話題を出した瞬間これか。羨望、嫉妬、劣等感……色々ごちゃ混ぜになってんな)

 

「おいおい。綾小路の何がそんなに羨ましいんだ?」

 

 九条はわざと挑発的な態度を取ることで、相手のペースを乱そうと試みた。

 

「……あなたのような人には分からないでしょうね。どれだけ努力して結果を出しても否定され続ける人の気持ちは。最高傑作と呼ばれた綾小路清隆は、僕の努力をことごとく踏みにじる存在なんですよ!」

 

(拗らせてんなぁ……憎しみを糧に努力してきたタイプか)

 

 言葉にこそ出さなかったが、九条はその発言から、彼が普段どのような教育を受けてきたのかを想像してしまった。

 

「(やっぱクソだわこの施設)……これが最後の通告だぞ八神君。お前らもう自由になれよ。散々大人の命令に従って生きてきたんだろ? 自由にやりたいことやっても誰も文句言わねえって」

 

 八神に対する同情と、彼が年下な事による面倒見の良さが出た発言だったが、それは目の前の相手を敵だと認定している八神にとっては逆効果もいい所だ。

 

「……おちょくっているのならはっきりとそう言ってください。まあ。どちらにせよ、僕のやることは変わりませんからね……!」

 

 九条を倒すことで自身の努力を証明しようとした八神にとって、先ほどの発言は彼をを敵にすら見ていないという挑発そのもの。

 逆上した八神は懐から棒状の物体を取り出すと、両端を持って引き抜いた。

 

「本当にそれでいいんだな?」

 

 八神の右手に握られていたのは、刃渡り10センチほどのサバイバルナイフ。引き抜いた鞘を地面に投げ捨て、逆手に持って刃先を向ける。

 武器の扱いはホワイトルームで格闘術と並行して習っている。実物を人に振るうのは初めてだが、それを躊躇できるほどの常識を、八神がここで教えられることは無かった。

 

「綾小路先輩と違って、あなたはどうなっても構わないとのことなので」

 

「ああ。そうかい────」

 

 意気揚々と答えた八神に、九条は先ほどまでの受け身の姿勢から一転、自ら距離を詰める。

 

 

 

 

 

「────人の命を奪うことの意味、ちゃんと分かってそれ握ってんだよな? 

 

 

 

 

 

「っぐ!?」

 

 一瞬にして3m程の距離を縮めて懐に入る九条。その首筋目掛けてナイフを振り下ろす八神だが、右手の手首を掴まれ抑え込まれる。あまりの力に自然とナイフを落としそうになるが寸での所で握り直した。

 距離を取ろうと鳩尾に膝蹴りを行うが。それよりも速く九条が八神の襟首を掴み鼻頭に頭突きを入れる。単純な顔面への衝撃と、同時に起こった脳震盪によってふらつく八神をそのまま後ろに投げ飛ばした。

 壁にぶつかった弾みでナイフが転がり、辺りに金属音が響きわたった。

 

「があっ! ……クソッ!」

 

 しかし八神もホワイトルーム生。すぐさま仰向けの体制に移行し近づいてきた九条の足を払う。

 バク転の要領で体勢を立て直す九条だが、八神はその隙にふらつく頭を押さえながら距離を取ることに成功した。

 

「良いな泥臭くて。さっきの薄ら笑い比べたら100倍マシだぜ?」

 

「黙れ!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべる九条に、八神は地面に膝をつきながら廊下に転がっていたナイフを投げつける。

 

「っぶね」

 

 顔を傾けて飛来するナイフを躱すと、そのまま蛍光灯を破壊し天井に突き刺さった。

 

「綾小路を越えるだのあーだのこーだの言ってるけど、お前あいつと会った事すらねえんだろ?」

 

「だからなんですか……それの何が悪いんですか!」

 

 先ほどまでの洗練された動きは何処へやら、胸ぐらを掴み込んで無理やり拳を振るう八神。

 

「一回も負けずに勝ち続けるなんて相当難しいんだぜ? こっちが下剋上する側なら余計にな」

 

 堀北学や綾小路との試合を思い出しながら、九条は拳が当たる直前に当て身をし、腕を掴み返して関節技を決める。

 

「ぐっ……! あなたに何が分かるんですか! 毎日脱落に怯えながら、結果を残さないと生きる事すら許されなかった、それを軽々と越えられる僕達の気持ちが! 外で悠々自適に暮らしてきたお前が否定するな!」

 

「でも俺の方が強えじゃねえか」

 

 組敷かれながらも激情のまま暴れる八神に、九条は淡々と現実を突きつける。

 

「それは……!」

 

「どんだけ血反吐吐いて努力しても、どんだけ自分の努力に自信があっても、それを楽々と越えていく天才ってのは居るんだよ世の中には」

 

 脳裏によぎるのは幼馴染である坂柳と、何度戦っても勝てなかった堀北学の姿。

 

(そういうもんなんだよ八神君。だから、俺たちみたいな人間は努力するしかないんだ)

 

 そんな九条には、少しだけ八神が昔の自分と重なって見えていた。努力では越えられない壁に悩み、腐りかけていた昔の自分と。

 

「ふざけるな! 僕は……僕はっ!」

 

「一旦寝て冷静に考え直せ。綾小路だって、手合わせ位ならやってくれると思うぞ?」

 

 そう語りかけ、頸動脈を絞め落とそうと力を籠める九条。

 

「ぐっ……! ああああああああ!」

 

 視界がどんどんと暗くなっていく八神だったが、完璧に形を決められているため声を上げる事しかできない。

 

「いい話だね~先輩。でも締め落としちゃうのは勘弁してほしいかも」

 

「っ!」

 

 そんな声が聞こえてきたと同時に、視界の端から足先が飛んでくる。右腕で辛うじて防いだ九条だったが、体制が崩され八神の拘束が外れてしまった。

 

「うわっ、思いっきり蹴り飛ばしたのにぴんぴんしてる。あの人ホントに人間?」

 

「はあ……はあ。くそっ。助かった一夏。ありがとう」

 

「格好つけて一人で行くからそうなるんだよ」

 

「……分かってる。もう妥協はしないよ」

 

 憎まれ口をたたき合いながら、横一列に構える天沢と八神。

 

(急に主人公っぽくなるのやめてくんねえかな……)

 

 そんな締まらないことを考えながら、九条は痺れる右腕を小さく振る。

 

「……腹立たしいことだけど、恐らく九条先輩は僕達を無傷で制圧するつもりだ。打撃より投げ技や絞め技に警戒した方が良い」

 

 準備体操をするように腕や肩を伸ばす天沢に対し、八神は構えを解かずにこちらを警戒している。

 

「りょうかーい。……でもさー先輩────」

 

 最後に二度軽くジャンプをした天沢。それを見て隣に立つ八神との気迫の違いに怪訝な顔をする九条。

 

(やる気あんのかこいつ)

 

 しかしその瞬間、天沢は停止した状態から一気に加速し詰め寄った。

 

「────それって超傲慢じゃない?」

 

 1人で来てくれるなら各個撃破できると考える九条だが、ほぼ同じタイミングで八神も距離を詰めてくる。

 

「ほらほら! さっきよりキレ無くなってるよ先輩? 流石に2対1はキツイかな?」

 

 天沢が蹴りや大振りの攻撃を主体としたスタイルで、その隙をコンパクトな攻めに回った八神が埋める。八神に至っては先ほどと全く逆の攻め方をしているが動きに何ら遜色はない

 

(面倒だな。綾小路と同様に広い格闘術を達人レベルまで習得している。流石に個人の実力はは比べ物にならないが、やり辛いったらありゃしねえ……入学したときの俺なら1分も持たなかっただろうな)

 

 それから九条は30秒程攻撃を捌き続ける。

 疲労の色が濃いのか、ダメージが蓄積しているのかは定かではないが、八神は額に汗を垂らしながら息を荒くしている。しかし天沢はそんな様子を一切見せず、余裕の表情を見せていた。

 

「ははっ。いいね……面白れぇよお前ら」

 

「どうしたのー先輩? 絶望でおかしくなっちゃった?」

 

 高揚感を隠さずに笑う九条に、天沢は悪戯な笑みを浮かべながら問いかける。

 

「いいや。逆だよ」

 

(確かに傲慢だったよ。この実力者2人を手加減して制圧するなんてな)

 

 九条は右耳に付けたインカムを外して、そのまま反対方向へ投げ捨てる。その隙にも、天沢は九条の顔面目掛けて蹴りを飛ばしてきた。

 一瞬の隙も見逃さない見事な攻撃だったが、九条はそれを躱すことなく正面から受け止める。

 

「あっ、やば」

 

 突き出した足を引っ込めようとするが叶わない。九条が足首を握り込んで離さなかったからだ。

 

「嘘でしょ!? ぐっ! ……ったぁ……」

 

 そのまま掴んだ足首を振り回し壁に叩きつける。

 

「こんなに劣勢になったのは久しぶりでさ。ちょっと楽しくなって来た」

 

(綾小路には悪いが、今は少しだけ楽しませてもらおう)

 

 2、3回軽くステップを踏んだ後、制圧することを目的とした柔道の構えから、彼が最も得意とする超攻撃型の空手の構えで向かい合った。

 

「あははっ。やっぱりこの人頭おかしいよ! どうしよう拓也! もしかしたら負けちゃうかもね」

 

「……その威勢がどこまで続くか見ものですね」

 

「ほら。かかって来いよガキ共。綾小路はもっと強かったぞ?」

 

 天沢たちに伸ばした方の指先を挑発するように二度閉じ、九条は小さく笑った。

 

「かっちーん。良いんだ先輩? そう言うこと言って。2対1だからって容赦しないから」

 

 先ほどと同じように2人掛かりで猛烈に攻める天沢たち。前方に八神、後方に天沢と狭い廊下で完全に挟み込まれる体制となる。しかし、先ほどと違うところを上げれば、攻撃を躱すか受け止める事しかしなかった九条が攻めの姿勢を見せていることだろう。

 九条は2人の実力差から脳のリソースを八神に6、天沢に4と振り分け的確に対応し続ける。

 

「おら。もっとギア上げるぞ」

 

 

 

 ────天沢たちは知る由もないが。格闘において最も九条が才能を発揮する点は、比類のない学習能力の高さにある。

 

 

 

 師範である如月芳。幼少からの好敵手である堀北学。ホワイトルームで極み挙げられた暴力を持つ綾小路清隆。その三者誰もが、九条旭よりも優れた実力を有していた。

 如月ならば経験からなる基礎力と技術力の高い相手との戦い方。堀北学からは体格差を埋めるための立ち回り。そして綾小路からは多種多様な格闘技を複合的に修める達人の対応を学んできた。

 

 自身より実力の高い相手との数十数百に及ぶ戦いは、結果として天才と呼ばれるほどの技術の他に、意外な恩恵を九条に与えた。それは、『培った技術と経験からなる非人間じみた適応力』である。

 

 八神と天沢は間違いなくホワイトルームのカリキュラムを乗り切るほどの実力を有していた。現に5期生の中でも突出した成績を収めているのだから。

 そして九条の『入学時なら1分も持たない』という見立ては間違いではないだろう。それほどまでに2人の息の合った連携は、実力で優る九条を追い詰めるほどだった。

 

 

 

 ────しかし、彼らは1つだけ大きな間違いを犯した

 

 

 

「あはははは! 凄いよ先輩! あたしたち2人にこれだけ戦える人なんて教官でも居なかったのに!」

 

 それは、目の前の相手との戦いを楽しんでしまったこと。

 未発達な精神から生まれる好奇心。自身の実力がどこまで通用するのか、外の世界で天才と呼ばれる九条との対決でそれを証明しようとしてしまったのだ。

 それが結果的に九条に()()()()()()()()()()()()()。彼らの敗因を挙げるとするならばこれに尽きるだろう。

 

 天沢が笑い声を上げながら九条の後頭部に拳を放つ。鍛え上げられた体と達人の域に達した技術からなる暴力は、人の命を容易に刈り取る得るほどの重みが乗せられていた。

 八神の対処で正面を見ざるを得ない中の一撃。無事で済む可能性は万に一つもない。勝ちを確信した八神がほくそ笑むが、その拳が九条の頭をとらえることは無かった。

 

「あれ?」

 

 全体重を乗せた渾身の一撃。躱されることを想定していなかった天沢は呆けた声を上げながらバランスを崩す。

 前のめりになった天沢。後ろを振り返ることなく九条は左肘を鳩尾に叩きこんだ。

 

「っ────!!」

 

 天沢は声にならない叫びを上げ床へと倒れ込んだ。

 

「こっ……はっ……げほっ、げほっ!」

 

 鋭い肘は弛緩した筋肉を押しのけ、肺を動かす横隔膜へとダイレクトに衝撃を伝えた。その結果として天沢の体は呼吸の仕方を一時的に忘れることとなる。

 

「一夏! 「ほら。気抜くなよ」しまっ────」

 

 九条は動揺した八神の顔面を鷲掴みにし、そのまま床に叩きつけた。

 

「がっ!?」

 

 あまりの衝撃に声を荒げ、そのまま意識を落とす八神。

 

「……ふー。いい勝負だったな」

 

 ────『崇拝』と『憎悪』。2人のホワイトルーム生の毒牙は、綾小路にかけられる前に凡人によって止められるのであった。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

 楽しい時間は一瞬で過ぎ去って行くもので、あれ程騒がしかった廊下は不気味なほどの静寂に包まれている。視界一面が真っ白で埋め尽くされている中、この静けさは精神に悪い。

 そんな中、俺は廊下から目を逸らすように足元に倒れる八神君を見た。……そうだよな。こいつら、こんな場所で今まで暮らしてきたんだもんな。

 

「……とりあえず優しく縛っとくか。で……えーっと。こっちは……生きてる?」

 

「げほっ、んんっ! ……苦しっ」

 

 目尻に涙を貯めながらせき込む天沢さん。さっきまでの狂気的な笑みはすっかり鳴りを潜めている。格闘技やってるなら誰しもが通る道だと思うが、流石に強く打ちすぎたか。興奮しすぎると加減すらままならなくなるらしい。

 ……うん。よくよく考えたら俺後輩イジメただけじゃねえか。一度落ち着きを取り戻すと、後悔の念が浮かんでくる辺りやっぱり中途半端な人間だ。

 

「ほら。落ち着いて深呼吸深呼吸」

 

 そんな後悔と自責を交えつつ、天沢さんの背中を優しくさする。

 暫くすると呼吸が落ち着いたのか、天沢さんは起き上がって壁に寄りかかった。

 

「んっ……はー……はぁ」

 

「俺が言うのもなんだけど……大丈夫?」

 

「えっ。あ、はい」

 

 俺の問いかけに困惑したように答える天沢さん。そりゃそうだ。お互いさっきまでとキャラが違いすぎて困惑している。

 

「……どうして、避けれたんですか?」

 

 女の子の鳩尾をガチでぶん殴ったんだ。罵声やビンタの一つくらい覚悟していたが、天沢さんは意外にもしおらしい態度で問いかけてきた。

 

「八神君の視線とか、踏み込んだ時の足音とか呼吸音とか色々あるけど、ぶっちゃけほとんど勘だよ」

 

 何を考えていたとか聞かれてもうまく説明できる自信は無い。

 

「ははは……すごいなぁ。勘で避けちゃうんだ。拓也もワンパンされちゃったし、先輩強すぎー」

 

「腕っぷしだけには自信あるから」

 

 むしろそれ以外がからっきしなんだけど。

 

「綾小路先輩と手合わせしたことあるんですよね?」

 

「うん。200回近くほぼ毎日やってたよ」

 

「……どっちが強いんですか?」

 

 何処か迷う様に遠慮がちに聞いて来る天沢さん。その行動にどんな意図があるかは分からないが、綾小路の後輩の質問だ。答えてあげるべきだろう。

 

()()()()()()()()()。これは間違いない」

 

「えー。うそー? 先輩より強いとか信じられないですよ? 空手だったら先輩の方が強いって言ってたじゃないですか」

 

「そりゃ空手に限定すればの話だよ。ガチガチにルールで縛ってようやっと勝てるようになってきた位だし」

 

 懐かしいな全く。正直同年代には負ける気がしてなかったから悔しかったのをよく覚えている。

 

「……あーあ。じゃあ私勝ち目無いじゃん。最悪ー」

 

 口調こそ軽いものだったが、じんわりと滲む瞳を見ればその感情を想像することは難しくない。

 

「……そっか。まぁそうだよね。……できれば、直接会って色々お話ししてみたかったな」

 

「何言ってんだよ。別に会えばいいじゃん」

 

「え?」

 

 何を勘違いしているか分からないが、そんな今から殺されるかのような雰囲気を出すのは辞めて欲しい。普通に心が痛いから。

 

「今すぐってのは厳しいかもしれないけど、あいつが卒業した後とかに会えるっしょ」

 

「……あたしたちはもう駄目だよ。命令に背いて失敗しちゃったんだもん。全てが元に戻ったら脱落して一生そのまま」

 

「駄目って何だよ。これからいくらでもやり直せるだろ。その為にここをぶっ壊そうとしてんだから」

 

「で、でも「でもも何もねえよ」」

 

 ここの教育が骨の髄まで染み込んでいるのだろう。……気高く振る舞ってはいるが、この子も綾小路と同じ被害者で子供だ。

 聞き分けの悪い子供に言い聞かせるようにしゃがんで目を合わせ、その白い頬に付いた汚れをハンカチで拭う。

 

「お前らの未来、そんなに悪いもんじゃねえと思うぞ? 保護観察とかにはなると思うけど、それでもここよりかは100倍マシな所だ。友達もできるし、脱落に怯える必要だってない。だから俺たちの邪魔すんなって話。OK?」

 

「……」

 

「あ。てか来年高育来ればいいじゃん。お前らの頭なら余裕で入れるだろうし、成守さんもそこら辺融通利かせてくれるし、そしたら綾小路とも毎日会えるぞ」

 

 そしたら空手部に入ればいい。俺と一緒に世界を目指そうじゃないか。

 

「……何で、敵の私たちにそんな優しく出来るの? 信じられない」

 

「何が敵だよ。お前らただ命令されてただけじゃねえか。俺からしたら守るべき子供で、親友の後輩だよ」

 

 年齢1個しか変わらないけど。

 そんな突っ込みを心の中でしていたらすすり泣く声が小さく聞こえてきた。

 

「でも……そんなの習ってこなかったよ」

 

 しゃくり上げながら必死に目からこぼれる雫を払う天沢さんは、親から叱られた後の小さな子供と同じに見えた。間違いを犯し叱られた後、優しく諭されて罪悪感と安心感がこみあげて堪えられなくなった、そんな子供に。

 

 

 

 

 

 ────そんな誰もが知るべき優しさを、この子は知らずに今まで生きてきたんだろう。

 

 

 

 

 

 ならば今から学んでいけばいい。世の中というのは案外悪いものじゃないということを。

 よし。手始めに愛情を知ってもらおう。血の繋がった親ではなく、むさ苦しい赤の他人の男という点が申し訳ないが許してくれ。

 

「だめっ……泣いちゃだめ……! ひっ、うう……」

 

 自分に言い聞かせるように呟く天沢さん。今まで苦しくなってもこうやって我慢してきたのだろうか。……良かったよ。この子が壊れる前に助けに来れて。

 泣きじゃくる天沢さんを正面から抱き寄せ、頭を右手でゆっくりと撫でる。

 

「ふぇっ……?」

 

「大丈夫。泣いても怒る人はここには居ないから。こんな場所、今すぐ俺たちがぶっ壊してやるよ」

 

 辛かっただろう。苦しかっただろう。でももう大丈夫だ。

 

「だからゆっくり休んでね。……お疲れ様。今までよく頑張った」

 

「────っ……! うぁ……!」

 

 胸の中で俯いた後、堰を切ったように大きく泣き叫ぶ天沢さん。

 大粒の涙を流す彼女をもう一度抱きしめて、その声が聞こえなくなるまでひたすら頭を撫で続けるのであった。

 

 

 

 

 

……っておいちょっと待て。これ浮気になんねえよな? 大丈夫だよな!? 

 

 

 

 

 

 





九条「あ、インカム付けてねえからバレねえじゃん。良かったぁ…」

 書いててクッソヒロインになりそうな雰囲気出てきてビビりました。でもヒロインは坂柳1人です。まあ父性に大分寄ってるってことで何とか。九条は告られてもキッパリ振る凄みがあるので安心ですね。

 でも天沢と八神のキャラの理解度マジで低いんですよね。ホワイトルーム出身ってことでバックボーンが想像しにくいのが痛いです。違和感あったら修正します。

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