ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
学校が始まって2日目の昼。俺は昨日の夜中に出会った友人である、綾小路清隆君と昼食を取っていた。
元々有栖と食べる予定だったんだが、綾小路からのお誘いを受けたので誘わないことにした。朝夜って一緒に飯食うんだから、昼くらいは他の人と食べようぜと言って説得した。有栖もクラスの女子に誘われてたからな。
クラスでは既にいくつかの生徒を中心にグループが出来ているようだ。
葛城君を中心とした男子だけのグループ。そして有栖を飯に誘った女子グループだ。
最後に男女数人、橋本君を中心としたグループ。昨日俺をカラオケに誘ってくれた子たちだ。断ってしまったが、今日は放課後一緒に行くと伝えてある。
「それにしても凄いな。初日から弁当を作ってるのか」
Dクラスの教室に突撃し、綾小路の前の椅子を借りてご飯を食べている。
綾小路はコンビニで買った菓子パンだけらしい。夜中のカップ麺といい、健康が心配だがまだ心配はいらないだろう。
「まあね。昔からの趣味なんだよ。料理できる男ってモテるってよく言うだろ?」
「随分と俗物的な理由ね。それと人の席を勝手に使うの、やめてもらえないかしら」
そう返したが、返事が前ではなく左上から帰ってきた。
声の聞こえた方を見ると、そこには黒髪ロングの女子生徒が俺を見下ろしていた。意志の強そうな鋭い瞳は、侮蔑の意を込めて俺を見つめているようにも感じる。
「えっと……どちら様?」
「貴方……いえ、話す必要は無いわ。私がそこの席の主で、これから昼食を取ろうとしてたこと以外はね」
わーお。随分と癖の強い子だな。ハリネズミみたいだ。
「マジか。ごめんね」
しかし、俺が彼女の椅子を勝手に拝借していたのは事実のため、ここは謝って別の椅子を借りよう。他に空いている机を借り、綾小路の右側に弁当を移動させた。
この手の人間は下手に逆らうと痛い目を見るのは、俺の短い15年の人生で学習済みだ。
女子生徒は俺の謝罪に返すことなく、俺が退いた椅子にひったくるように座った。……うーん気まずい。話しかけるなオーラ凄いし、後ろでぺちゃくちゃ喋ってたらキレられそうだ。
「驚いたわね。まさか綾小路君に昼食を共にする相手がいたなんて」
……いや、お前ら知り合いかい!
そんな衝撃が顔に出ていたのか、綾小路は絵にかいたようなドヤ顔をして、先ほど話しかけてきた女子生徒を紹介してくれた。
「まあな。散々ぼっちだの言ってくれたが、俺だって本気を出せば友達の一人くらいできるぞ。こいつは堀北。色々あって知り合った」
「そうなんだ。よろしくね堀北さん。俺はAクラスの九条旭。綾小路とは昨日友達になったんだ」
堀北……うーん似てるな。あの人妹とかいたっけ? ……まあいいや。
友達になったという発言を聞いて、目をキラキラと輝かせる綾小路……こいつ可愛いな。今まで友達いなかったのかな。
隣でウキウキの綾小路は置いておいて、とりあえずダメ元で挨拶したが、帰ってきたのはため息とギロリとした視線だけだった。
「勝手に名前を出すのやめてもらえるかしら。別に私はよろしくする気は無いわよ。それと綾小路君。あなた本気を出したと言ったけど、そこの九条君とはどうやって出会ったのかしら?」
あ、一応ちゃんと名字で呼んでくれるんだ。何というか、許容できるラインがよく分からないな、堀北さんは。
「激辛カップ麺を食べて悶絶しているところを助けてもらった」
「……予想していた以上にバカだったわ」
堀北さんの質問に真顔で答える綾小路。プライドとか一切ないんだろうか。いや、多分俺の前で嘘つくのが嫌だっただけか。
にしても言ってることと表情のギャップで笑いそうになってしまう。堀北さんも毒気抜かれた表情になってるし。
「劇的な出会いだったね。なにせ隣で死にかけてんだもん」
昨日の光景を思い出しながら笑うと、堀北さんは前を向いたまま返してきた。
「何故自分を苦しめようとするのか理解できないわ。……
「それだとオレは外で授業を受けることになるんだが。それとあれは事故だ。断じてオレが人に言いづらい趣味を持ってるわけじゃ無いからな」
「そう。そう言うことにしておいてあげるわ」
「こ、こいつ……」
……何と言うか。息ピッタリじゃね? 漫才でも見てる気分だわ。
案外堀北さんも楽しんでるのかもしれない。だって本当に嫌いだったらわざわざ突っかかったりしないし。
「お前が何を思ってるのか大体想像付くが、多分コイツはただ単に性格が悪いだけだ」
「出会って初日で、下の毛がどうたらとか言って来るあなたにだけは言われたくないわ」
「……マジ?」
絶対言わなそう……とは言い切れないわ。出会って間もないけど、こいつは結構調子乗るタイプっぽいし。
「いや、そうじゃないんだ九条……そうかもしれないが、やめてくれそんな目で見ないでくれ」
「そういうデリケートな部分はね、ネタでもツッコまない方が良いと思うよ?」
「正論で諭された……」
菓子パンを持ったまま項垂れる綾小路。面白い奴だ。
「そっちの彼はまだまともな感性を持っているみたいね。私の席を奪ったのは許さないけど」
「いやごめんて。もうやんないからさ」
認めてくれたのか怒っているのか分からない堀北さんに謝った瞬間。教室のスピーカーから音楽が流れてきた。
『本日、午後5時より、第一体育館の方にて、部活動の説明会を開催いたします。部活動に興味のある生徒は、第一体育館の方に集合してください。繰り返します、本日────』
何ともいいタイミングである。正直部活に入る気は無いが、話題を作るために行った方が良いのは間違いない。
「なあ2人とも「私は部活動に興味ないから」……まだ何も聞いてないだろ」
「じゃあ何?」
「2人とも部活には入らないのか?」
多分今後何回も聞かれる質問だと思う。部活に入らないのは有栖の面倒を見ないといけないからだが、仮にAクラスの人にこれを答えたら面倒なことになるのは目に見えている。
……まあ、この2人なら変に吹聴したりはしないだろう。正直に答えるか。
「ぶっちゃけると無いかなー。俺幼馴染とこの学校通ってるんだけどさ、そいつ体弱くてさ。この弁当だってその子の分も用意してるんだ。毎日美味しいって言ってもらえるの、結構嬉しいんだよね」
どうせ俺がやらなくても何とかなるんだろうが、正直このポジションを他の奴にとられたくない。もしそれが男だったら脳が破壊される。
「……自分の意志は無いのかしら。ここに来てまでその幼馴染の世話をするなんて、私には考えられないわ」
「あはは……ま、好きでやってるんだよ。そいつと一緒に居たいってだけ」
どこか思う所があったのか、堀北さんはかなり強い口調で否定してきた。
思わず乾いた笑いで返してしまったが、それでもなおジッとこちらを見つめる堀北さんに何て言おうか迷っていたその時、綾小路が口を開いた。
「その言い方はないだろ。少なくとも出会って短いオレたちが、どうこう言える立場じゃないと思うぞ」
強めに咎めてくれる綾小路。実際堀北さんの言ってることは間違いではないんだよね。ありがたいんだけどさ。
「大丈夫だよ綾小路。俺が一番分かってるから」
俺は小さい頃から有栖に振り向いてもらいたいという一心で努力し続けてきた人間だ。
確かに動機は不純だったかもしれないが、その努力自体を否定するつもりは無い。それは、今まで俺を支えてくれた人たちの恩を無下にすることになる。
それに、他人にとやかく言われたところで傷つくほど、軟な心を持ったつもりは無いからね。そうじゃなきゃ有栖の隣になんて立てやしない。
「……それもそうね。過ぎた発言だったわ。訂正する気はないけど」
そんな謝ってるのか謝ってないのか分からない堀北さんに、俺は苦笑いをしながら答えた。
「大丈夫だよ。好きでやってることだし。聞いてよ綾小路、俺の幼馴染って凄いんだぜ!」
そして俺は、気まずくなってしまった空気を取り払うかのように、惚れた女の凄さを上機嫌に語るのだった。
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「じゃあまた放課後連絡するね」
「ああ。ありがとな」
昼休みも残り10分ほど。次の授業の準備があると言って九条は早めにDクラスを後にした。
結局部活動説明会には一緒に行ってくれるらしい。やはり九条は聖人だと思う。
「……好きになれないわね」
九条が教室を出て行ってすぐ、堀北がそう呟いた。
「誰のことだ? まさか九条か?」
「ええ。そうよ」
そんなわけないだろうと聞き返したが、どうやら堀北は九条のことが嫌いらしい。話してる限りそんな様子は見られなかったけどな。自分で言うのも何だが、セクハラまがいの発言をしてシバかれたオレより100倍マシだろう。
「九条旭、といったわね彼」
「ああ、そうだな」
確認を取ってきた堀北にそう返すと、堀北は端末で何かを調べていたようで、画面を見せてきた。
「これ、九条か?」
画面に映っていたのはネットニュースの記事。白い道着を着て大きなトロフィーを抱えた、今より少し幼く見える九条の姿があった。
「九条旭。私も空手を習っていたけど、その界隈では有名人。テレビに出演したことだってあるわ」
「……そうなのか?」
確かに何かしらの運動をしているとは思ったが、まさかそこまで成績を残しているとは思わなかった。
驚くオレに対し、堀北は神妙な顔をしながら説明を続けた。
「数度の空手全日本大会での優勝に加え、柔道、合気道の有段者。私の先生が彼の先生と知り合いだったから、噂話はよく耳に入ってきたわ」
「凄いな。同年代で一番強いってことだろ?」
「凄いなんてものじゃないわ。普通、あの年で有段者になるためには中々の努力が必要よ。私も小さい頃からずっと習ってて去年有段者になったの。それをいくつも掛け持ちして段を取るなんて考えられないわ」
そして、端末を手元に戻した堀北は、憎々し気に呟いた。
「もちろん相当な努力はしたんでしょうけど、彼は紛うことなき『天才』よ。確か空手部は無かったと思うけど、柔道部はあったはず。……それを幼馴染の面倒を見るために蹴るなんて信じられないわ」
「さっきも言ったが、そんなのは九条の勝手だろ。お前はそこまで他人に関心を寄せるタイプとは思わなかったが、なにか思うところでもあるのか?」
基本他人に関してどうでもいいというスタンスの堀北が、ここまで執着するのは不思議だ。
「……いえ、そうね」
明らかに納得してない様子の堀北。しかし何かを言う前に授業開始のチャイムがなったためそれは叶わなかった。
九条の坂柳以外の他人に興味が無い性格がガッツリ裏目に出てますね。堀北と九条は初対面じゃないです。