ようこそ純愛過激派の教室へ   作:妄想癖のメアリー

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結託

 

 

 

 バスは高速を降りて、ある程度舗装された山道を緩やかに上っていく。到着まで残り数分だが、俺たちAクラスは方針や責任者についての話し合いを終え、各々が確認を取るための時間を過ごしていた。

 

「っ……」

 

 そんな中、俺は気分が悪そうにこちらにもたれかかる有栖の背中を撫でていた。

 

「だから言ったじゃん。後ろの席は酔うからやめろって」

 

「……うるさいです。黙ってさすってください」

 

「はいはい」

 

 懸念していたことが現実となってしまっていた。高速を降りた瞬間こんなに酔うとは思わなかったが、どうやら渡された資料を覚えるために目を凝らしていたらしい。

 

「一言一句覚える必要なんてなかったのに。ほら、落ち着いて遠くの方見て」

 

「……ふぅ」

 

 深呼吸をし、遠くの景色をボーっと見つめる有栖。

 言葉にこそしないが、初めての共同で進める特別試験ということでやる気に満ち溢れているのだろう。無人島試験や船上試験はもちろんのこと、体育祭やペーパーシャッフルもロクに試験に参加できなかったからな。

 運動面においては活躍できない分、こういう頭を使う所で活躍したいのだろう。

 

「何で頭を撫でるんですか」

 

「ん? 何となく」

 

 不満げにこちらを睨む有栖だが、こちらにもたれながらやられても全然怖くない。

 

「間もなく目的地に到着する。その後はすぐに屋内でグループ作りを始めてもらう。その後部屋の割り振りが終わり次第昼食、午後は各自自由行動を認めている」

 

 お、初日は自由行動か。移動や話し合いで少し疲れていたからありがたい。

 そしてバスが目的地に着くと、徐行して駐車場へと移動し停車した。

 

「呼び上げた生徒から順番に携帯を提出し、バスを降りてもらう。秋元、石田」

 

 真嶋先生は男子の名前を50音順に呼んでいく。外を見る限り俺たちが一番乗りらしい。

 

「葛城、鬼頭、九条────」

 

「じゃ、あとはよろしく」

 

「ええ。そちらも、頑張ってください」

 

 名前が呼ばれたため有栖に女子を託して席を立つ。

 バスから降りると、予想通り乗車したときとは比べ物にならない程の寒さが体を襲った。山岳地帯ということだが、標高もそこそこ高そうだ。

 

「降りた子たちは順番に携帯の電源切って置いていってねー」

 

 すると、ウィンドブレーカーを身に着けた、見知った人が仮設テントで手を振っていた。鬼頭君の後ろに並ぶ形でテントへと向かう。

 

「芳さん。来てたんですね」

 

「うん。体育教師は総出での出動だよ。置いたらあっちの方に先生立ってるから、出席番号順に並んでね」

 

 芳さんが指差した先にはグラウンドらしき広い場所、その奥には古めかしい校舎が2つあった。全学年を収容するだけあって、その大きさは中々のもの。

 

「無人島のときもそうだったが、手入れはしっかりされているみたいだな」

 

「うん。少なくとも寒くて風邪をひくことはなさそうだ」

 

 グラウンドに並びながら、葛城君と小声で話す。通りがけに見えた教室にもストーブが置いてあり、明日からそこで授業を行うのだろう。

 

「これより移動を開始する。玄関では速やかに上履きに履き替えること。整列をする必要は無い」

 

 そのまま男女で別れ、体育館らしき建物へと向かう。どうやら2、3年生も同様に集合するらしく、全学年の男子生徒が体育館の中に集められた。

 

 ここで小グループの結成が行われるらしく、男子生徒は各学年ごとに分かれてまとまることとなった。

 

「さて、どうやって動こうか……ん?」

 

 他クラスの動きを見てから動いても良いと思ったが、印象付けの為に速攻動いても良さそうだ。近くにいる葛城君に視線で合図を送ると、葛城君はそれを読み取ってか近くにいた生徒を集めた。

 皆の注目が集まった段階で声を上げようとしたそのとき視界の端で平田君、神崎君、金田君といった、それぞれクラスの代表格の生徒が話しているのが見えた。

 

「Aクラスの代表者は誰かな」

 

 不審に思っていると、平田君がこちらにそう質問してきた。クラスメイトの視線は自ずと俺の方へと集中する。

 

「俺だよ。平田君」

 

 黙っているわけにもいかないため、集団から一歩前に出て声をかける。平田君は納得したように一度頷くと、予想外の言葉を言い放った。

 

 

 

「────僕たちD,C,Bクラスは同盟を結ぶことにしたんだ。これから、その内容について説明させてもらうね」

 

 

 

 ……なるほど。そう来たか。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

「……へぇ。同盟ね」

 

 少し離れた所で九条が呟いた。その声は小さなものだったが、事の成り行きを皆が静かに見つめていたため聞き取ることができた。

 

「始まったな」

 

 ここから先は油断せずに話を聞く必要がある。オレが交渉するのが最も効果的だろうが、生憎とそこまで注目を浴びるつもりはない。そもそもオレには作戦を主導した際に他の生徒にそれを納得させられるだけの影響力は無い。

 

「共通の友人として聞くが、九条はどう動くと思う」

 

 気を引き締めるオレに声を掛けてきたのはBクラスの代表である神崎。先ほど平田と金田と話し合っていた位置から考えるに、わざわざオレの意見を聞きに来たということだろう。

 

「さあな。だが、このまま何もせずに指を咥えて待つよりかはマシなのは間違いないだろう。あのまま放置しておけば、九条は間違いなく何かしらの動きを見せていたはずだ」

 

 仮に交渉が上手く行かなかったとしても、先手を取ったという事実は有利に働く。

 

「やはりお前もそう思うか。……平田から提案を聞いたときは驚いたが、あの反応を見るに提案を受けて正解だったな」

 

「九条自身もそうだが、あっちには坂柳も居るからな。こういう選択肢が多い試験で、彼女が何も考えないというのはありえない」

 

 士官、参謀としてそれぞれ高い実力を持つ葛城と坂柳。その上に両派閥の長からリーダーを任せられ、他クラスにも影響力を持つ九条が立っているんだ。異なる考えを持っている故分断の危機に直面したAクラスだが、それが統合されたとなればかえって危険。異なるスタンスを持つ分視野が広くなるためだ。

 

「Dクラスが素直に協力するとは思わなかったが……」

 

「DクラスはCBとも差があるからな。なりふり構ってはいられないんだろう」

 

 表面上は金田が統制しているようだが、実際の所は龍園が何かしら噛んでいるのは間違いないだろう。他の生徒は龍園は試験に積極的に参加しないと思っているだろうが、例の一件の前後で龍園は変わった。

 表立って動こうとしない分余計不気味だ。……まあ、襲撃の前にオレが説得したせいでやる気にさせてしまったのだが。

 

「よし。俺は行くぞ。健闘を祈る」

 

 平田の所へ向かう神崎。そんな彼に小さく手を振ると、ほぼ同タイミングで平田が生徒たちに目配りをした。

 すると、それを待っていたかのようにほとんどの生徒が動き出し、3つのグループにまとまった。オレも目立たないようにグループの後ろの方にたつ。

 

「見ての通り、僕たちは3クラス合同で小グループを作る。そこで君たちにお願いしたいのは、このグループにAクラスの生徒を1人ずつ入れること」

 

「それで報酬の倍率を上げる算段かな?」

 

 グループを見れば、それぞれが同じクラスで固められた中に別クラスの生徒が交じっている。

 他クラスとの交流も深い九条は一目見て気が付いただろう。

 

「うん。例えばここにはCクラスの生徒が12人。D,Bクラスの生徒が1人ずつの合計14人が居る。この人たちでグループを作って、そこにAクラスの生徒も合流してもらう」

 

 そうすれば最大人数による1.5倍と4クラス合同グループによる3倍の報酬が貰える計算になる。あとは責任者をCクラスの中の誰かが務めればいい。

 

「それに応じなかったらどうなるのかな?」

 

 もちろん、九条もタダで相手の有利になるような条件を飲むわけがない。どのグループに所属するかの決定権は最終的にその本人に委ねられるのだから。

 

「その場合、俺たちは人数を調整して3クラスで4つの小グループを結成する。残り2グループは自ずとAクラスの生徒だけで組むことになるだろう」

 

 九条の質問に答えたのは、Bクラスの生徒で固められたグループの一番前に立っていた神崎。

 一見すると何も問題ないように思えるが、小グループを結成するにあたって『最低でも2クラス以上の生徒が所属しなければならない』という条件が達成できなくなる。そうなればグループからあぶれたAクラスの生徒は全員退学になるだろう。

 

「そんな条件認められるか! そもそも、他クラスの生徒を追い出すとかルール違反だろうが!?」

 

 その意味を理解したのか、Aクラスの生徒から怒号が飛んでくる。しかし、神崎は毅然とした態度を崩さない。

 

「あぶれる生徒がいた場合、人数が少ないグループは受け入れなければならないというルールは存在しない。仮にそうだとしても、Aクラスの生徒全員がそこに入ることも不可能だ」

 

 仮にAクラスがこの提案を飲まなかった場合、各クラス13人+他グループに入る2人で残りは5人。その5人でもう一つグループを作ってしまえば、Aクラスだけを締め出して小グループを作ることも可能だろう。

 

「ふざけんな! 先生に抗議してくやる! 「待って、戸塚君」……九条!」

 

 先ほど声を荒げた生徒が先生の元へ駆け出そうとしたが、それを止めたのは九条。その顔には好戦的な笑みが張り付いている。

 

「仮にその提案を飲んだ場合、こっちには誰が来てくれるのかな?」

 

 九条は自身の後ろに並ぶ生徒を一瞥して問いかける。暗にAクラスの生徒で小グループを固めることを伝えている。互いに取引をした上で行くならともかく、こんな脅しで無理やり決めた後に、自分以外全員がAクラスのグループに参加したい生徒などいないだろう。責任者が退学になる際、道連れにされる可能性も極めて高くなる。

 そう思っての質問だったのだろうが、生憎自己を犠牲にできるという点では、学年の誰よりも優れている生徒がCクラスにいる。

 

「僕が行くよ」

 

 手を挙げたのは平田。その表情に迷いはない。自クラスの勝利の為なら7日間爪弾きにされても問題ないということだろう。

 オレが言うのも何だが、よく受け入れてくれたと思う。

 

「ずるいなぁ。君たちは4クラスで3倍の報酬が貰えるのに、俺たちには平田君1人だけかい?」

 

「それが受け入れられないのなら、この取引は無しということになるね」

 

「ふふっ。取引というより脅しだね。……これは一本取られたな」

 

 参ったというように両手を挙げて笑う九条。しかし他の生徒はその反応に語気が強くなる。

 

「だから、こんな提案なんて飲む必要ねえだろ! 卑怯にも程があるだろうが!」

 

「そうだそうだ! ふざけんな!」

 

「Aクラス全員で抗議してやる!」

 

 戸塚の言葉を皮切りに、大きなヤジが飛んでくる。しかし、それを止めたのはまたもや九条だった。

 

「いいや、これは卑怯でも何でもないよ。立派な作戦だ」

 

 九条は一歩前に出て、誰かを探すようにCクラスの集団に目を向ける。一瞬だけ目が合った後すぐ平田の方へ視線を向ける。

 

「仮にこれが問答無用でAクラスを締め出して退学にする作戦なら、流石に学校側もルールの欠陥を認めて仲裁に入るだろうね。それはこの試験の目的からは大きく外れている」

 

「……でも、こんなやり方!」

 

「残念だけど、この取引には救済措置が与えられている。俺たちがそれを飲めば、不利な条件だけど試験には参加できるからね。先生は仲裁を含め一切グループ決めに関与しないって言っちゃってるし、彼らが引く様子も見えない。ここは大人しく飲むしかないんじゃないかな」

 

 だけど、一本指を立てる九条。

 

「取引を飲むにあたって聞いてほしいお願いがあるんだ。たった1つ、小さなお願いをね」

 

「……一応聞こうか」

 

 平田が怪訝そうに聞くと、九条はニヤリと笑って言い放った。

 

 

 

「────綾小路をCクラスの小グループから外すこと。それを飲んでくれるなら、喜んで取引を受け入れよう」

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

「綾小路君を? 一体どうしてか教えて貰っても良いかな」

 

 俺の口から出た思わぬ人物の名に、CクラスだけでなくAクラスからも困惑の声が上がる。

 

「それを平田君が知る必要はないよ。もちろん、空いた穴は自由に補填してもらっても大丈夫」

 

 こんな性格の悪い作戦平田君が考えるとは到底思えない。十中八九綾小路が悪知恵を流したのだろう。平田君が体育館に入ったときからちょくちょく綾小路の方を見ていたことからも伺える。そこから平田君のコネクションを使って各クラスのリーダー格に協力を取り付けたのだろう。D、Bクラスから見てもメリットしかない取引だ。龍園君みたいな奴から持ち掛けられない限り喜んで受け入れるだろう。

 

「……なるほどね」

 

 平田君がこちらに来る以上、表立ってかは分からないがCクラスグループの統制は綾小路がとることになる。他グループに入った場合ロクに指示も出せなくなるだろうし、平田君としてはなるべく受け入れたくないはずだ。……だが、何よりもこの状況を最も嫌う人物に心当たりがあった。

 

「……何で九条の奴綾小路を指名したんだ?」

「さあ……ってか誰だっけ」

「あれだよ。体育祭のリレーで一位になった、空手部の」

「あー……いや、何で? 仲良いからか?」

 

 そんなざわざわした声が聞こえてくる。ククク……ほら、釣れろ……! お前の大嫌いな状況がどんどん広がるぞ。

 

「大丈夫だ平田。オレが居なくなったところでそんなに変わらないだろうからな」

 

 悩まし気な顔をこちらに向ける平田君の肩に手を置いたのは綾小路。

 

「……分かった。お願いしても良いかな、綾小路君」

 

 よーし。狙っていた得物を釣り上げることに成功した。

 

「じゃ、そう言うことで残りはぱっぱと決めちゃいますか。こっちで話し合うからちょっと待っててね」

 

 多少のハプニングはあったが、精々町でアンケートを取られたくらいのものだ。懸念点だった綾小路も引きはがせたし、個人的には悪くない結果といえる。

 Aクラスの生徒を少し離れた所に集めて話し合いを行う。

 

「とりあえず、元々決めといた所にプラスで2人入れよう。他クラスの分が減っちゃったからね」

 

「おい……大丈夫なのかよ」

 

 そんな声がちらほら聞こえて来るが、実のところそこまで重い状況では無かったりする。

 

「あれだけ連携された時点で仕方ないよ。これからは各クラス間の連携にも気を配ってかないといけないね」

 

「ああ。だがそこまで悪い状況ではないと俺は思う。何なら平田がこっちに所属するからな、1位を狙いやすい状況かもしれん」

 

 葛城君の助け舟に感謝しながら、編成を話し合って決める。

 

「……よし。じゃあこれで行こう。葛城君、そっちは頼んだよ」

 

 葛城君がAグループの責任者になってくれるとのことなので、俺が残りのグループに行くことにした。

 俺がそっちに居た方がいいんじゃないかという意見もあったが、適当な理由を付けてはぐらかしておいた。だって綾小路を野放しにする方が100倍怖いもん。

 

 Aクラスグループ(Aクラス14人+平田君)

 Bクラスグループ(Bクラス12人+各クラス1人)

 Cクラスグループ(Cクラス12人+各クラス1人)

 Dクラスグループ(Dクラス12人+各クラス1人)

 残りグループ

 ときて、最終的には俺たちは以下のグループとなった。

 

 Aクラス:九条、橋本

 Bクラス:墨田、森山

 Cクラス:綾小路、高円寺、幸村

 Dクラス:龍園、アルベルト、石崎

 

 龍園君に関しては俺が責任者をやるという理由で引き取ることにした。どうせ何かしら企んでいるんだろうが、そう上手く行くとは思わないでほしい。

 

「いやー! あぶれちまったよー綾小路! 悲しいなぁ!」

 

 ジト目でこちらを見つめる綾小路に近づき、肩を組みながらしくしくと泣く演技をする。

 

「……お前、覚えとけよ」

 

「ははっ、残念だったな?」

 

 とりあえず懸念点だった猛獣2人は檻の中に閉じ込めた。高円寺君、龍園君、石崎君といった、明らかに荒れそうな生徒を集めたせいかこのグループは爆弾処理班と呼ばれている。誰が上手いことを言えと言ったんだか。そんでもって俺が責任者だ。辛い。

 

「ククク…同じグループに入れただけで満足してるようじゃ、先が思いやられると思うぜ? なあ、綾小路」

 

「勘弁してくれ。オレは何も企んじゃいない。退学にならず、平穏にこの試験を終わらせたい」

 

「はっ、どうだかな? しっかり見張っとかないと危ねえぞ? 責任者様よ」

 

ここぞとばかりに煽りを入れて来るのは龍園君だ。あの一件から随分元気になったように思える。綾小路が話をしたらしいが、なんというマッチポンプだろうか。

あとは俺が頑張って手なずけるだけだが……正直超不安だ。普通に無理な気がしてきたが頑張るしかない。

 

「相変わらず損な役回りだな。同情するぜ」

 

 そんな橋本君の慰めが、乾いた俺の心に響くのだった。

 

 

 





Aクラスを封じ込めることに成功したD,C,Bクラスですが、結果的に原作とほぼ変わらない組み合わせになってしまいました。…おかしいな。

どうして原作の葛城君は12人+各クラス1人のグループではなく、Aクラス14人+1人のグループにしたんでしょう。報酬の倍増よりも安定を選ぶメリットがそこまであるようには思えないのですが。
まあ結果的には葛城グループが一位を取っているので、結果的には成功したのでしょうが。

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