ようこそ純愛過激派の教室へ 作:妄想癖のメアリー
Wikipediaより引用。
デート(英語:dating)は、交際中又は互いに恋愛的な展開を期待していて、日時や場所を決めて会うこと。
どちらか片方でも相手を完全な友達(親友)として認識している場合など、約束の段階で既に「恋愛的な展開を期待していたのは片方だけ」という場合、デートではないとされる。
入学して初めての休日。約束通り、俺は有栖と共に敷地内にあるショッピングモールへと足を運んでいた。
皆考えることは同じなのか、様々な店の顔が立ち並ぶ道には、かなりの人が楽し気に歩いている。そんな中俺と有栖は、磨かれた人工大理石の床をコツコツと踏んで歩く。
「そう言えば言い忘れてたけどさ、ここの生徒会長。あの堀北さんだったんだよね」
最近は各々の友人と夕食を取っている事が多い。そのためか話忘れていた話題が何個かあった。俺はここ一週間で最も衝撃的だった情報を有栖に共有する。
俺の言葉に、有栖は一瞬目を丸くするも、納得した様子で呟いた。
「それは驚きました。ですが彼なら納得でしょうね」
どうやら有栖も知らなかったらしい。まあ部活動勧誘に行って初めて知ったからしょうがないが。
「ここに進学するって言ったから会えるとは思ってたけど、まさかああいう形で再会するとは思わなかったよ」
堀北学。現生徒会長を務めている彼は、なんと話を聞く限り史上最も優秀な生徒会長を務めているらしい。部活動には所属しておらず、高校生とは思えない手腕で学校中の人気をかっさらってるとのことだ。
そして、堀北学は空手で俺が
「懐かしいですね。最後の親善試合は3年前ですか」
前方を歩いていた有栖が、歩みを止めこちらを振り向いてそう言った。ちなみに俺は荷物持ちだ。両手は服とかインテリアとかの袋で埋まっている。
「
────俺と堀北さんの関係性を言葉で表すのは難しい。もっとも近い言葉はライバルだが、そもそも年齢が異なるため公式戦で戦ったことは無い。
ではなぜ戦ったのかというと、ただ単にお互いの先生同士仲が良く、親善試合として年2回ほど模擬試合をさせられたってだけだ。初めて出会った時は確か小学4年生くらい。
戦績は0勝30敗1引き分け。ボコボコにされていた記憶しかない。
そんな記憶に苦笑いを浮かべていると、有栖は俺の横に並んで興味深そうに聞いてきた。
「今試合をしたら勝てますか?」
その質問に、俺は少し間を置いた後回答する。
「勝てるんじゃない? 多分」
俺と堀北さんの年齢差は2。これは当時中学生だった俺たちにとってはかなり大きなものだった。成長期前と後だったため20㎝くらいは身長差あったし、やっぱり体格差というのは試合においては致命的な決定打になるのだ。最後の試合で引き分けに持ち越せたのが奇跡なほどだ。
この前見かけた感じ身長差もないっぽいし、高育に空手部が無いということは昇段もしていないだろう。確かあの人は空手5段、合気道4段だったっけ。ブランクもあるだろうし、多分勝てるだろう。
「そうですか。もし試合をする機会があるのなら私も呼んでくださいね」
当時は天才同士の試合なんてもてはやされていたが、ぶっちゃけ堀北さんはともかく俺は天才なんかじゃない。
自分の道場に来てもらう分にはよかったが、あちらに行くとなると知らない人に見られながらボコられるのだ。試合が終わった後は皆健闘を讃えてくれたが、それはあの人たちが優しかっただけだろう。
「もしあったらね。空手部ないっぽいし、多分フロアマットもないからキツイと思うけど」
てか作ろうかな。ワンちゃん俺が教えればいい線行けそうだ。綾小路とかスポーツやってないって言ってたけど、結構才能ありそうだし。
年齢的に師範代にはなれないが、大会の手続きは学校にやって貰えば何とかなるだろう。よし、ちょっと考えとこ。
「そう言えば、入学してからトレーニングしてないですよね? サボりはいけませんよサボりは」
「えー。だって理由が無いじゃん。試合だって段位だってしばらく取れないんだしさ」
空手部があったら話は別だ。一応中学生までの子供用の段位から一般の段位に移行はしたが、それでもこの環境で努力できるモチベが見当たらない。
「ダメです。私努力してる旭君が好きなので、頑張ってください」
「よし。じゃあスポーツショップ寄ってくか」
我ながらチョロい男だ。今日帰ったら綾小路誘ってランニングにでも行こう。
とりあえず筋トレ用のマットと重さを変えられるダンベル、ランニング用のスポーツウェアを購入し、スポーツショップを後にする。
買った後に持ち帰るのがダルい事に気が付いたが、ポイントを支払えば自宅に配送してもらえるらしい。ちなみに有栖はこのサービスの存在を知っていたらしい。
「じゃあなんで持たせたん俺に?」
着々と増えてゆく両腕の重みを幸せに感じるが、実際ダルいものはダルいのだ。
ゆっくりと歩きながら、げんなりした顔で質問する俺に対し、前方を歩く有栖は楽しげに笑うばかりだ。
「良いじゃないですか。わざわざポイントが勿体無いですし、それに……」
「それに?」
思わせぶりな態度で振り返ると、有栖は俺の胸元に飛び込んできた。ふんわりとした香水の香りを感じ取れるほどの距離で、有栖は俺の耳元に顔を近づける。
「この方が、デートらしくて良いでしょう?」
そう蠱惑的に呟く有栖。杖を持っていない左手は俺の胸に添えられている。……普通に心臓に悪い。こんな往来の場でやらないでくれ。襲うぞ。
「……いや、デートって」
とまあそんな胆力が俺にあるわけが無く、唐突に出てきたデートと言う単語にたじろぐばかりだ。
「いけませんか? お付き合いしていない間柄でも、デートと言って良い。そう定義付けられているんですよ」
一本取ったというようにドヤ顔でこちらを見上げて来る有栖。普段あれだけ大人びているのに、気が抜けるとこういう些細な場面で子供らしさが垣間見えるのだ。
それがどうしようもなく魅力的で、俺は陳腐な皮肉を返すことしかできなかった。
「お前は言葉の定義より、常識をまず知ってくれ。……付き合ってもない男にするもんじゃねえって」
このままずっとくっつけたら幸せなんだろうが、周りの目が気になってきたため後ろ髪を引かれる思いで、有栖に軽くデコピンをお見舞いする。
「んっ……私がこんなことをするの、九条君だけですよ?」
額に走った衝撃に目を瞑った有栖は、お返しと言わんばかりに俺の顎に指を添えそう言った。
……どうやら、そんな子供らしさを見せてくれるのは俺だけらしい。それは、俺にとって堪らなく嬉しくて、胸が熱くなる現実だった。
「……さいですか」
恋の病が致死性の病気なら、俺は何回三途の川を渡っているのだろう。そう思ってしまうほど。俺はこの女に惚れ込んでいるらしい。
「ほら、次行きますよ九条君。それもトレーニングの一環だと思って、頑張ってください」
「分かったよ。次はどこに行くの?」
「そうですね……次は家電を見に行きましょうか。私、2人で映画を見る用の大きいテレビが欲しいです」
「……ポイント足りるかなぁ」
────だが、不思議と悪い気はしなかった。
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5月1日。いつもより少しだけ早起きをした俺は、毎日部屋にやってくるわがままなお客様のために、いつも通り料理を仕込んでいた。
沸騰させない程度に加熱したお湯にだしパックを入れ、大さじ2杯ほどの味噌を溶かして入れる。
「ん、丁度いい濃さ」
現在行っているのは朝食の準備だ。鍋で加熱しているみそ汁の味見をした俺は、いつも通りの味に安心感を覚え、1人部屋で呟く。
そのときピンポンと部屋のチャイムがが鳴る。来客の合図だ。集合時間の10分ほど前だが、お客様が早めにやってくることは予想通りだったため扉を開ける。
「おはようございます旭君」
「おっはー。いつもより早いんじゃない?」
まあ知っていたと思うが、そのお客様というのは有栖だ。食材の代金を支払う代わりに、俺は有栖に朝食を振る舞い、昼食用のお弁当を渡している。
入学して一か月もすれば、ある程度昼食を取る友達も固まってくる。俺はDクラスに行って綾小路と。有栖はちょっと前に仲良くなったらしい神室さんとご飯を食べている。葛城君や橋本君みたいに、食堂で皆で食べるなんてことはほとんど無い。
彼らとは放課後に友好を深めているのだ。決して立ち回りをミスったわけじゃ無い。決して。
そんな回想を挟みつつ。何時もより興奮した様子の有栖を急いで部屋の中に入れる。
こんな朝早くに出入りしていることがバレたら何を言われるか分かったもんじゃない。最近知り合った池なんか、有栖みたいな美少女と歩いているところを見られただけで発狂してきそうだ。
「そんな悠長なことを言ってる暇じゃありませんよ旭君。ポイント、どのくらい振り込まれましたか?」
有栖の質問に、俺は予め表示していた端末の画面を見せる形で答えた。
「
『毎月一日、ポイントが支払われる』そんな先生の言葉を思い出し、俺は自分の予想が間違っていなかったと同時に、その高すぎる『落差』に驚愕を隠せなかった。
「どうやらクラス単位で支払われているらしいね。この結果には驚いたわ流石に」
有栖から返された端末を操作し、表示したのはチャットアプリ。
有栖を含めたクラスの約半数である23人と綾小路、池を合わせて25人。更にAクラスのグループチャットとのトーク履歴が表示されている。
そしてその中から『綾小路』と名前を付けられたチャット履歴を表示させる。
『なあ、お前ポイント支払われてたか?』
『うん。98000ppt』
『マジか。オレ0なんだが』
『マジ? ちゃんと言った通りにしててそれ?』
『ああ。授業はちゃんと聞いてたぞ……なあ、オレにも弁当作って来てくれないか?』
『別にいいけど、材料費はちゃんと払えよ』
『……検討しておく』
「綾小路……? まあとにかく、ポイントの支給額……つまり
短いやり取りで結論を導き出した有栖は、
「早めに気が付いて良かった。皆もこれで納得してくれるっしょ。説明はあると思うけど、グループに情報流しとくね」
「ええ。共有は早いに越したことありませんから」
俺は有栖の同意を取り、Aクラスのグループチャットで『ポイントの支給額はクラス単位っぽいよ。他のクラスの子に確認取った』と入力する。
ここ数年で一番楽しそうな様子の有栖に、俺は椀によそったご飯をテーブルに置き、軽く咎めるように言った。
「色々話したいとは思うけど、飯冷めるから食ってからね」
「……そうですね。分かりました」
おい、残念そうにすんじゃねえ。
勉強面では坂柳、運動面では堀北会長を間近に見てきた男です。自己評価が低いのはそれが理由だったり。
須藤と山内とも面識はありますが、現時点で3バカの中で九条と相性が良いのは池だけだと思います。