強制異世界転生者、延命配信始めます?   作:異世界神(代理)

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ある沼の【配信】との遭遇

 画面には、三人の少女が映っている。

 一人は戦士。両刃の剣を腰に、防御力よりも動きを阻害しないことを優先して作られたのだろう鎧を着ている。

 一人は魔法使い。宝玉が先端に埋め込まれた木の杖を大事そうに両手で抱え、いかにも魔女ですと主張する古めかしくツバの広い三角帽子が目立つ。

 一人は弓兵。長い金髪を後ろで束ねているため見える耳は長く、また尖っている。一般的なファンタジー創作でエルフと呼ばれる種族の特徴だ。

 

「皆さん初めまして、私達は」

 

 せーの、と小さな声。皆で息を合わせるための合図。

 

「チーム『ワルキューレ』です!」

 

 綺麗に声が重なる。一発でうまくいったのが嬉しかったのか、よかったねと互いに言い合う。

 興奮からか少し高くなった声で名前と使えるスキルを軽く紹介し、自分たちが異世界神にかけあってこの【配信】を考えたのだとカメラを真っ直ぐ見て言い放った。

 なんでも街の中で精神が腐っていく同郷の人間たちを見捨てられず、このまま放っておいたらあの神が言っていた「異世界っぽいことをしていない」に該当してしまうのではと危惧。何か出来ることはないか、と考えた結果の【配信】だそうで。

 

 それでは記念すべき初配信はこちら、と手を横に出す。カメラが動く。映るのは大きな洞窟の入り口。奥は暗く、何があるのかを窺い知ることはできない。

 

「それでは、今からダンジョン攻略に行きたいと思います!」

 

 宣言した通り洞窟――ダンジョンの中へと足を進め、ダンジョンを攻略する姿を流す少女達。剣を振るってモンスターを倒し、進み、それを繰り返す。時たま宝箱を見つけて一喜一憂。

 

 

 

 …………うん。これは確かに異世界っぽい配信。なるほどなぁ。

 

 

 

 あのクソ神からの突然の言葉通り与えられたスキル【配信】。まずはこれ見てね! という無責任かつ投げやりな感じで彼女らのする配信へ強制接続された。ステータス画面と同様に現れた半透明の画面上に映像が流れていく。なお今この画面が出ているのは(自分)の中であるが、通信環境に変化は見られない。

 

『ん、そろそろいいかな』

 

 自分で発動した【配信】を視聴者から配信者へと変更。すると画面の横に丸い光の玉みたいな謎物体が出現し、半透明画面に映るものは一面の(自分)になった。

 

『え、えー……? これってどう……?』

 

 もぞもぞと()をよじりどうにかこの謎物体を外へ出せないかと格闘した結果、この謎物体はカメラの役割を果たすものであり物理ではなく思考で動かせることが発覚。上から(自分)を見下ろす形でカメラを固定。そして(自分)に接触しておらずとも、一定範囲内なら自由にカメラ位置を変更できる。なるほど。

 

 【配信】の半透明画面とカメラとを組み合わせ、外から(自分)がどう見えるのかを確認する。………………うん、自分、やっぱり全部沼! これを見て元人間だと思う者はいないだろう。

 

 落ち込む暇はない。半透明画面を思考で操作し、設定や操作方法を確認。どういう理屈で動いているのかはわからないが、まあスキルに理屈を求めても意味はないか――と流す。

 ざっくり必要な部分だけ掻い摘むと、これ一つで配信者にも視聴者にも、ライブ配信も面白い部分だけを動画編集した切り抜き動画も投稿が可能とのこと。なお動画編集とかBGMになる音楽セレクトとか字幕のフォントや位置は全部自分でしろ、だって。

 

 自分と同じようにスキルを試している人がちらほらいるのか、視聴者が来たとの通知が出たり、コメントに「テスト」などが書き込まれ……。

 

『【配信】、終了』

 

 反応するほどでもないか、と【配信】の使用を止める。画面が消える。

 

 

 考える。これからのするべき事を。

 【配信】――これは便利だ。普通の人間と接触できない状況にある自分が、ある程度事情を分かっている他人と関われる手段になる。

 【配信】内でこの異世界の一般常識などを教えてくれる人が欲しい。そのためにはある程度【配信】で人を動画に集め、継続して見てくれる環境を作る必要がある。

 そのために自分ができるのは何か? まず思いつくのはスキルを活用する事。

 

 

 その一、【貪欲】。欲望の別腹? のようなものを作っているらしく、満腹、満たされた――そんな精神状態にならない。【鑑定】で見ることができた種族説明にも関係していそう。……だとしても沼が満たされるって何だ?

 一番意味がわからないからこそ、これがあのクソ神を倒しうる手段になるのではと期待している。がんばーれ。

 

 

 その二、【侵食】。生物にしか使用できないスキル。自身が接触した相手の能力の上限値を減らす攻撃として使用が可能。能力を奪う、ではなく能力の数字を減らす。減った数字がどこへ消えているのかは謎。そして【侵食】の進行度合いによって対象の体は『(自分)と同じ黒色』になるという分かりやすい変化が現れる。完全に黒に飲まれた時、それは相手がお亡くなりになる時。

 なお【侵食】を受けた相手は、自分が奪われていくことを理解し恐怖を覚えるのか恐怖の声を上げる。今のところ【侵食】を使用したファンタジー動物からの悲鳴率は100%。…………誰がどう見ても危険なモンスターの所業!

 

 

 その三、【模倣】。【侵食】で倒した相手と同じ姿への変身を可能とする。

 スキルの試しとしてツノの生えたウサギっぽいファンタジー動物(水分補給か泥浴びのために(自分)に近寄ってきたのでそのまま【侵食】の練習台になってもらった。南無。)に成ってみたところ、広がっている(自分)がギュッと一点に集まり、そこから粘土細工のように頭や耳、胴体に四肢が伸びて形成され、最後に色が沼の黒からその生き物と同じものへ変化。

 さあいざ自由な森の旅へ! と繰り出そうとしたらすっ転んだ。……元人間だからか、人間以外の生き物の体を十全に動かすには訓練が必要のようだ。環境適応はこれに作用してくれなかった。おのれクソ神。

 

 

 結論。この三つのスキル、どれも【配信】中に使わない方が良いんじゃないか? 【模倣】で無害な生き物に変身、街の中に侵入し【侵食】で暴れる可能性がある危険なモンスターとして認識されたら倒されてしまう。それは嫌だ。

 じゃあ他に何をしろと?

 

 

 ………………知りたいことを別のものにしてみよう。

 この異世界の一般常識は今すぐじゃなくても大丈夫だろう。たぶん。人間に会った事ないし。これまで会ったのはファンタジー生物だけだし。

 外のことじゃなくて、もっと身近な。

 

 

 そういえば気にしてなかったけど。

 ここ、異世界のどこに位置する土地なんだろうね?




次回
沼、迷子(遭難)系配信者になるってよ。
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