ゴロー先生ちょっと寿命延長ルート   作:望先或

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取りあえずの初投稿です。

ちょこちょこと原作と設定変えてます。



第0話

 

 青天の霹靂とはこういう時のことを言うのだろうか。そんなことを思いながら、【ゴロー】は目の前の患者と向かい合っていた。

 ゴローの職場である宮崎県の病院。その一室。産婦人科医であるゴローはいつも通り患者から状況を聞き始めたところで、顔を隠すように深くかぶられた帽子を外した目の前の患者に視線が釘付けになった。

 年のころは十代、長くよく手入れされた髪。まるで満点の星空のように人の視線を離さない瞳。その整った顔は芸能人やモデルと比してもトップクラスであろう。ただそれらを差し置いて主張する、生命が宿っていることがよくわかる膨らんだ腹部。産婦人科では当たり前の姿ではであるが、それが少女と呼べる年齢の、それもよくテレビで見ている人物が目の前にあるということに対し、動揺を腹の中にしまい込む。

アイドル、それが彼女の職業であるということをゴローはよく知っている。アイドルユニットグループB小町のセンター、【アイ】。そんな彼女が体調不良により活動を休止するというニュースは先ほど見たが……まさかこんな場所にいるとはファンの誰一人として思わないだろう。

そしてもう一人、保護者として付き添っている男は身元請負人である人物。状況を鑑みれば間違いなく芸能関係者であろうことはゴローにも推測できた。

 

「先生どうなんでしょう、もの凄い便秘という可能性は……?」

 

 もう観念しているであろうに往生際が悪いことを聞く。そんな保護者の質問にゴローは答える。

 

「だとしたらすでに死んでる可能性が高いですねぇ…」

「そっちは順調、今日も問題なかったよ」

 

 反射的にお通じの状況を知らせる彼女の発言だけでもアイドルファンは何人か致命傷を負うのではないか、とゴローの頭にそんなことがよぎったが、今はひとまず仕事を進めることとした。

 

「取りあえず検査してみましょう、準備するのでお待ちください」

 

 いきなり超大型爆弾が飛び込んできたようなものなのだから、正直ゴローとしては心を落ち着ける時間も欲しかった。

 部屋から出る途中で後ろの二人の会話が耳に入る。保護者の男は社長とアイに呼ばれていることから事務所の社長でもあるのだろう。アイに対しお腹の子の父親について尋ねている(正直それは病院来るより前にやってくれ)ようだがアイは内緒、と言って教えない。社長業も大変だな、などと凄くどうでもいいことを思考の片隅に浮かべながらゴローは精神を安定させるためのもエコー等の機器の準備に集中し始めた。

 

 

 

 検査結果は妊娠20週目、しかも双子であることが判明した。

 妊娠を知られたら事務所もアイも終わりだと厳しい口調で言う社長に対し、アイは顔をゴローの方に顔を向けて尋ねる。

 

「……、先生はどう思う?」

 

 医者として職分は弁えなければならない。

 患者の意思は患者の意思であり本来そこに医者としての意見などはさむべきではない。

 そんな当たり前を分かりながらもゴローの口から出る言葉は医者としての定型文にはならなかった。

 

「出産、だけでなくその先の子育て、君が進もうと思っている先に待ち受けるのは間違いなく困難だと思う」

「…………」

 

 アイの顔がその言葉で少し翳る。患者を不安にさせるとはダメ医者だと自重しつつ、ゴローの頭に浮かぶのは昔の患者、今は亡き【さりな】という少女のこと。

 

 さりなは当時、この病院でゴローが研修医をしていた時代に会った難病の患者だった。生存率が著しく低い病気に彼女は蝕まれていた。幼くも懸命に病気と闘う彼女であったが、そんな彼女に対して彼女の両親はだんだんと面会する回数を減らし、末期にも会いに来ることはなかった…。そんな病床生活の中さりなという少女の心を支えたのはアイドルグループ B小町、現在ゴローの前にいるアイだ。最後の最後まで、さりなはアイを心の支えに生きていた。(余談だがゴローがアイの活動を見続けているのも、さりなと一緒にテレビやライブ映像を見ていた名残である)

さりなの推しの子が今ここで重大な決断をしようとしている。だからこそ、さりなのようなの苦しみを、愛情を受けられなかった子どもの苦しみを知るゴローとしては自己中心的な思いだと理解しながらも、今母親になるかもしれない少女に対し聞いておかなくてはいけないと思った。

 

「君のような年齢の子が双子を生んで、育てる。並みの苦労ではないことは職業柄想像がついてしまう。それでも君は……その子たちを産みたいと本気で思っているのか?」

 

 ゴローは視線をアイの目に合わせ問う。アイはゴローの不躾ともとれる言葉を聞いても一切その目をゴローの目から逸らさない。そして数秒の後、彼女の顔に僅かながら見えていた葛藤をすべて押しつぶすような決意が乗った声でアイは宣言した。

 

「絶対に、産む!」

 

 双子のいるお腹に触れながらアイが放つ言葉がゴローの耳を打つ。それならばと、医者としてのゴローはやることが決まった。

 

「なら、俺は全力で、君たち家族が会えるよう、元気な子供を産ませてみせるよ」

 

 肩入れしすぎということも分かっていながら、頭を抱える保護者を横目にゴローはその決意に応えるよう己の意思を目の前の患者へと伝えた。

 

 

 

 まるで爆弾解体のように落ち着かない時間だった今日の検診を終えてゴローは病院の屋上へと昇ってきていた。ほとんど雲のない輝く星空のもと今日の患者、アイのこれからについて携帯の待ち受け画像となっている少女、さりなに報告するためだ。

さりながこんな話を実際に聞いたら卒倒してたかもしれない、などと想像に笑いながらも今はもう画面の中にしかいない、さりなへ向けて言葉を暫く放っていた。

 

 

 報告したいこともある程度言い終えたころ、屋上の扉が開く音がゴローの耳に入った。目を向けるとそこには本日の大型爆弾…もといアイが扉を開け屋上へと入ってきていた。

  

 「あっ、センセ」

 

 妊娠中の人間が風の強い屋外に来るのはあまり進められたことではないためゴローとしては一先ず注意する。

 

「星野さん、夜風は体に障るから中にいた方がいいよ」

「厚着してるから大丈夫!」

 

 少し興奮したように綺麗に晴れた夜空を眺めながら、アイはこんな夜空は東京では見られない、と呟いた。その姿を眺めながらゴローは疑問だったことを口にする。

 

「わざわざこんなとこまで来たのは東京だと人目につくから?」

 

 アイは少しキョトンとしたような仕草をみせた。今の情報社会でも田舎ならばれないと思っていたらしいアイに少しゴローは呆れる。

 

「あれ、私仕事のこと、せんせに言ったっけ?」

「…昔の知り合いが君のグループのファンで、特に君のことが大好きでね。よくライブ映像とか一緒に見てたから……実は君の顔は飽きるほど見てる」

「飽きるって酷くない!? でもそっか、私も有名になったものだねー。こう、隠しきれないオーラとかも溢れ出てると思うんだよね」

 

 そういってアイは顎に手を当てながらポーズを決める。夜空の下、様になっているのはやはり人気アイドルとしての経験というよりはアイ自身の魅力からくるものだろう。そんな少女の姿が微笑ましく、ゴローとしてはつい笑みが浮かんでしまう。

少しの雑談をした後、ゴローはアイのこれからのことについて尋ねた。

 

「君は子どもを産んだら、アイドルをやめるのか?」

「なんで、やめないよ?」

 

 アイはその問いに対して一切の迷いなく答えた。家族に憧れがあること、双子であれば賑やかで楽しくなるだろうということを嬉し気にゴローへと語る。その様子を見ながらゴローはアイがこれから進もうとする道に想像がついた。

 

「子どもについては世間に言わない、ってことか」

「そっ、公表しない!アイドルは嘘という魔法で輝く生き物だから。それに……」

 

 大きく手を広げ、まるでそこがステージであるかのようにアイは宣言する。

 

「嘘は、とびきりの愛なんだよ?」

 

 アイドルとして周囲を、母として家族を求めるアイの生き方がその言葉には籠っている気がした。アイが施設出身ということはゴローも知っていた。だからこそ彼女は今の決断の先に得たいものがあるのではないか、そんな勝手な想像をしてしまう。

母親としての幸せもアイドルとしての幸せも手に入れたいとアイは言う。そんな星のように更なる輝きを求めようとするアイに対して、ゴローは医者として、大人として出来ることを全力で手助けしてあげたいと、改めて決意を固めた。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 月日が流れるのは早いもの。流石に有名人のため病院は偽名で登録。出産方法に対する各種説明と要望を聞き。適度な運動に付き合いながら健康面を観察。より安全に子どもを産めるようにするためのフォローを一日たりともゴローは欠かさなかった。  

アイについては出産の不安はどこ吹く風といった様子で適度に踊ったり歌ったり、子どもの名前を考えたりと、すくすく育つお腹の中の双子の様子にどこか興奮しながら日々を過ごす。

 

 

 そして40週目。

 アイの出産予定週を迎えた。

 

 

 その日の仕事の時間が終わりアイの病室へとゴローは顔を出し、この後一度家に戻ることをアイに伝えた。

 

「センセ、お疲れさま。呼んだらすぐに来てくれるんだよね?」

「おう、家もすぐ近くだし直ぐに走ってくるよ」

 

 アイの顔色もそこまで悪くなく、これならきっと大丈夫だとゴローは言い聞かせて病院を出る。この落ち着かないようでいて充実していた日々もそろそろ終わりということにどこか寂しさと感慨を抱きながらゴローは帰路を歩き始めた。

 

 数分程歩いたのち、薄暗い街灯の光の中から人影が近づいてくるのが視界の端に映った。

黒いパーカーに背格好や体格からして男。

その男はゴローに少し速足で近いてくる。男が何か不吉なものを運んできているのではないか、何とも言えない嫌な予感をゴローは何故か感じた。

 

 距離にしてあと数歩という位置でパーカーの男は足を止めゴローに向かって口を開いた───瞬間にゴローの後側から耳元を何かが通過した。

白い何かが視界を掠め、鳥の羽ばたきの音と一緒にけたたましい鳴き声がゴローの鼓膜を揺らした。目の前の男の声が口を動かしているがうまく聞き取れない。

 

「―――――――――」

「うおっ、なんだ!?」

 

 ゴローは驚いた拍子に大きな声を反射的に上げてしまう。

 パーカーの男はゴローの上げた大声に一瞬驚いたように身を竦め、次の瞬間には身を翻しゴローから逃げるように走り始めた。

 

「なんだ、あいつ?怪しすぎる」

 

 パーカーの男の背を追おうとゴローは足に力を込め──ようとして足元にあった何かで思い切り足を滑らせた。

 

 「ぐっ!!」

 

 ぎりぎりで転ぶことは堪えたがパーカーの男の背中はすでに遠く光源の少ない方向へ走っていったため、ゴローは追跡をあきらめるしかなかった。

そのまま足元を見てゴローは自分が足を滑らせた原因を拾い上げる。

 

「白い…鳥の羽?」

 

 恐らく先ほど耳元を通過していった鳥のものであろう白い羽。この辺りで今まで見たことがないそれを手元で弄りながら、逆の手でスマートフォンを取り出し、息を軽く吐き出して道を歩き始める。警察への電話番号を押し込み、簡単にだが先ほどの不審者の一報を入れておくことにした。

 

 

 スマートフォンが鳴ったのはゴローが家に到着し、扉を開けて中へ入った直後だった。画面に出ている表示を見た瞬間、通話ボタンを押すと同時に家の外へ飛び出す。スマホを耳に当てると予想通り病院の看護師の声が聞こえる「星野アイさんが産気づきました」、その言葉に対しすぐ向かうと一言だけ伝えて、ゴローは逸る気持ちを抑えながら病院までの道を今度は全力で駆け始めた

 

 

 

 数時間後、アイの子どもは無事に二人とも生まれた。母子ともに今のところ異常なし。ゴローの体にもどっと安心感が押し寄せる。親と生まれてきた子どもが初めて顔を合わせる。その光景に立ちあえることが産婦人科の医者として最も報われる瞬間だとゴローは常々思っていた。

ベッドの上で全身を汗で濡らし、涙を流しながら双子を抱きしめるアイは、出産で焦燥した顔にも関わらずとても美しく、母親になった少女の顔は今までより大人びてゴローの目には映った。

 

「おめでとう、星野さん。よく頑張った」

「ありがとぉ、センセ。おかげで二人に会えた。家族が……できたよ」

「名前はもう決まってるって言ってたっけ」

「うん、もう、漢字で格好いいのとかわいいの決めたんだ」

「なら後々教えてもらうが、今はゆっくり休むといい」

 

 出産で著しく消耗したアイの体力はすぐには回復しない。出産後すぐには寝付けない人も多いのだが、アイは今起きているのが限界のようだった。徐々に視線が振れて、瞼が下りてきている。

 

「……ん、そうする。センセ……赤ちゃんよろしくね」

 

 そう言ってゴローへ双子が渡すと同時にアイは横になって寝息を立て始めた。

 

「本当に、お疲れ様」

 

 この後もまだ医者であるゴローの仕事生まれてきた双子の診察・検査とやらなくてはいけないことはまだまだある。ゴローは母子ともに無事であることをアイの事務所の社長【壱護】へと伝え、己の本分を果たすために改めて気合を入れた。

 

 

 

 

「お姉ちゃんが瑠美衣(ルビィ)で、弟君は愛久愛海(アクアマリン)!」

 

 体調が回復してきたアイに子どもの名前を聞いたゴローだったが、紙に書かれたその文字と今の発言が頭の中で一瞬繋がらなかった。完全無欠のキラキラネーム。ゴローは横に立つ壱護に視線を向けるが自分は無関係だというように首を振る。

 

「お前マジで言ってんのか?」

 

 壱護がどこか信じられないといった様子で問う。

 

「ぶー、当たり前じゃん佐藤さん。いい名前でしょ」

「人の名前間違えてるような頭だから聞いてんだよ!俺の名前は斎藤だ!」

 

 ゴローとしては取り合えず名前も聞いたのでこの家族会議?がヒートアップする前に退出しようかという考えが過っている。

 

「センセはいい名前だと思うでしょ?」

 

 飛び火した。

 

「……率直に言うとだが、アクアマリンは長いし、同じ男としては中々辛いものがある」

「えー、かっこいいし可愛さもあるんだよ」

「せめてアクアにしてやってくれ」

 

 未来にキラキラネームで子どもがぐれる展開が恐ろしいと思いながら、アイに対しもっと普通の名前にするように説得し始めた壱護から視線を切ってベッドに横たわっている双子にゴローは目を向けた。

 弟【アクアマリン(仮)】の方を見るとすやすやと眠っている。

 起きている姉の【ルビー】の方を見ると目があった。目を限界まで見開いておりゴローの顔の方をガン見していた。新生児はこの距離だとろくに見えてないはずなんだが、と思っているとルビーがゴローへ向かってその小さな手を伸ばしてくる。どこか必死にゴローへ向かってアピールしている気がするため近寄って抱え上げた。

ずっと顔の方から視線を外さなかったので眼鏡が気になるのか、という考えのもと軽く顔を寄せる。ルビーは伸ばした手で眼鏡ではなくゴローの顔を触り始めた。どこか何かを確認するかのような仕草にゴローはそのままにさせていると、顔をクシャクシャにして、

 

「あっ、あっ、ああーぁあああああああ!!」

 

 全力で泣き始めた。赤ん坊が泣くのは元気の証ではあるが流石にゴローも慌てて宥め始める。

 

「あー、ごめんな。ルビーちゃん。お母さんの所、いこうか」

 

 そう言いながらまだ話し合っているアイに一度ルビーを預けようとするが、ルビーは小さな手でゴローの白衣を弱弱しい力ではあるが全力で掴み離れようとしない。

 

「ルビーはセンセから離れたくないみたいだよ」

「いや、全力で泣かれてるんだが…」

 

 どこか楽し気にルビーを抱えるゴローを見ているアイは手助けをするつもりはないらしく、頑張ってセンセ、の言葉とともに壱護との話し合いに戻ってしまった。

 その後、ルビーが泣き疲れて寝つくまでの数十分間ゴローは人間ベッドの役を全うした。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 アイの退院から数か月後。

 ゴローは休暇を取り宮崎を離れていた。目的は墓参り。天童寺さりなの命日である。

 人気の無い小さな墓所。都会の喧騒を感じることのできない静かな場所でゴローは墓地周囲の清掃を行い、花を捧げ、線香をあげる。天童寺と刻まれた小さな墓石の前にかがみ手を合わせながら、半年以上前の出来事から小声で話していく。

 驚きから始まったアイの出産。まったく泣き止まないルビーを1時間以上あやし続けたアイと双子の退院日。そしてそこから数か月もゴローは中々に激務であった。通常の病院での業務に加え、これに関しては自業自得だが退院したアイへ子育てのアドバイスやサポート。特に【アクアマリン】(壱護の説得は無駄だった)の夜泣きが酷い時など深夜の話し相手になったりしていた。アイは夜泣きの次の日で寝不足であろうコンディションでもテレビで見るとパフォーマンスは落としていなかったので、謎の対抗心からゴローも仕事を疎かにするわけにはいかなかった。

そんな今まで通りのようでそうではない、アイの話を交えての近況報告を言葉にした。

 

「まあ彼女が病院に来てからは退屈とは無縁の生活だったよ。さりなちゃんが聞いたら、アイと夜中でもいつでも話せるなら最高!って言ったかもしれないけど」

 

「実はこの後、双子の顔を見ていかないかと誘われてて。簡単な経過観察もしたいから少し会っていくつもりなんだ」

 

「君の大好きだったアイドルは今も輝いてる。君の代わりにというのは変かもしれないけど彼女の進む道をこれからも追っていこうと思うよ」

 

「それじゃあ、また会いに来る」

 

 墓参りの後、ゴローは直接星野一家を訪ねるつもりである。連絡先に加え住所も教えてもらっており、墓所からも大して時間がかからず、約束している時間通り到着するだろう。

立ち上がり駅に向かおうと歩き出す。その途中で、静かだった墓所に鳥の鳴き声が響いた。何処かで聞いたことのある鳴き声、ただゴローは何処で聞いたか思い出せず、さして気にすることでもないため少し急ぎ足で最寄りの駅へと向かった。

 

 

 

 都内マンションの一室でゴローは久しぶりに会った三人の顔を見ていた。今回の訪問はアイの誘いに乗っかる形だが、さすがに社長の許可がいるだろうと思い、ゴローは事前に壱護に話を通している。その際、斎藤夫妻(妻の方とはまだゴローは会ったことが無い)は本日仕事で少し遠出すると話していたため、ここにいるのはアイ、ルビー、アクアマリンの三人だけである。

 

「久しぶりだな、ルビーちゃん、アクア君。元気にしてたか」

「せんせ、一人抜けてる気がするんだけど?」

「君とは電話越しによく話してるし、顔見れば何となく元気かどうかわかる」

 

 ゴローの言葉に不満げなアイを軽くスルーながらお土産を手渡して、ゴローはさっそく双子を一人ずつ抱えていく。顔色は悪くない、目もきちんと動体を追っている、体重も問題なく増加傾向と。アクア、ルビーの順で簡単にメディカルチェックを行っていく。アクアはゴローが抱えたときに少しぐずりそうだったので軽くあやしてどうにか機嫌を取りながら確認した。次のルビーは大人しくしていたためチェック自体は直ぐに終わたったため、降ろそうとするが……腕を抱えこんで降りようとしない。そのため仕方なくゴローはそのまま抱えていることにした。以前は結構な頻度で泣いた気がするが今回は満面の笑みで引っ付いている。

 

「うーん、ルビーは本当にせんせのこと好きだねー。妬いちゃいそう」

 

アクアを抱き上げながらアイは揶揄うようにゴローへと言葉を投げてくる。

 

「寝やすいベッド替わりと思っているのかもな。でも嫌がられるよりはずっといいさ」

「それとも、もしかしてせんせのことお父さんと思ってるのかな?」

「冗談でも言うのは止めてくれ。君のファンに刺される」

 

 実際にアイの人気はグループの中でもダントツだ。その分ファンの質、入れ込んでる人間が多くなっているだろう。そんなファンに聞かれて勘違いされたらゴローの命はきっと無い。

 

「あはは、ごめん。でもルビーって佐藤社長たちに抱かれるの嫌がるから、私が抱いてないと結構機嫌悪いんだよね。でも病院の時からセンセだけは例外みたいだからそう思ってるのかなって」

「最初の方は思いっきり泣かれたけどな。それと斎藤社長な。まあこの年だとまだそういったことはわからないよ。でも君みたいにかわいい子に特別扱いされるのは悪い気分じゃないぞー、ルビーちゃん」

「センセ、人の娘を目の前で口説くなんて女ったらしだー。まあルビーは私の娘だし、絶対かわいく育つからね」

 

 そう自信満々言いながらアイは屈託なく笑っている。ゴローが抱えているルビーは喋れる子だったなら何か言いたそうというようなどこか面白い表情で口元を動かしており、そのままゴローの服に顔を埋めた。

アイに双子の体調含めて特に問題ないことを伝えている途中でゴローのスマホが震えた。

病院からの簡単な連絡だろうと思い、利き手にルビーを抱えているため逆の手で確認をしようとしたところでゴローはスマホを滑らせて落とした。そのままアイの近くまで転がっていったスマホの待ち受け画面をアイに見られる。

 

「せんせの待ち受けって女の子なんだ。親戚の子とか?」

「あー、いや、昔の患者の子。覚えてるかわからないけど、初めて病院に君が来た日にB小町のファンの知り合いがいるって言ったろ?……その子なんだ」

「そっか…」

 

 ゴローの表情が曇ったことに気づいたのであろうアイは深く追及はしなかった。そのままスマホを拾い上げてゴローに渡してくる。写真の中の少女は笑っている。その笑顔を見るたびに、もう数年前のことをまだ引きずっている。ゴローは当時の自身の不甲斐なさをまだまだ忘れられないでいた。

アイからスマホを受け取り、何気なく抱えているルビーを見る。すると先ほどまでの機嫌がよかった顔が嘘のように泣きそうな表情となっている。

 

「うっ、あ、うあっ……んせっ」

 

ゴローは慌ててルビーの機嫌を取るように体を揺らしたり声をかけるがその甲斐はなく。大声で泣き始めてしまった。そしてその声につられたのかアクアまでアイの腕の中で泣き始めてしまった。しばらくしてルビーは一先ず泣き止んだ。しかし、アクアはまだ元気に泣き続けている。そんな中、アクアの泣き声を遮るようにインターホンの音が部屋に響いた。

 

「あれ、宅配便かな。センセ、ごめんアクアマリンまだ泣き止みそうにないし、出てもらってもいい?」

「まあ、俺でいいなら出るが。ルビーちゃんはそこに寝かせるぞ」

「じゃあ、お願い!ハンコはそこに置いてあるから」

「不用心だからちゃんとしまっとけよ…。」

 

 泣き止んでいるがまだぐずっているルビーにちょっと待っててくれ、とゴローは声をかけてベッドに寝かせ、棚の上に無造作に置かれていた星野の文字が刻まれた判子を持って玄関へ向かう。チェーンロックは無いためそのままカギを開けドアを開け、久しぶりの邂逅に舞い上がって危機感が低下していた──その代償を支払うことになった──

 

 

 

 

 

白い花と黒いパーカーの男。(昔見たことがある)

 

男がアイについて何か喚く。(腹に熱さが広がる)

 

ナイフの刃が腹の中にある。(この男はアイが狙い?)

 

そのまま男は中に入ろうとする。(彼女たちに近づくことは許さない)

 

男の腰に体当たりして扉の外へ押し出す。(火事場の馬鹿力かもしれない)

 

男が焦ったような声を出す。(背中に熱さが増える)

 

全力で外の柵へぶつける。(衝撃と浮遊感)

 

 

目の前を何かが通り過ぎる。(白い鳥)

 

 

 

体に衝撃が伝わる。(動けない)

 

 

 

 

 

 自身の終わりをゴローは漠然と感じた。

 助からない。死が近づいてきている。

 既にはっきりしない意識の中でただただ思ったのは、あの一家が無事であること。

 それだけだった。

 そんな願いを目の前に落ちてきたまるで天使の羽のような白い羽に祈り、ゴローの意識は闇へと消えていった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

運命の分岐は変わった。

変わらず消える光はある。

ただ光が消えるまでの時間が伸びたことで世界は別の景色を映しだした。

運命は変わる簡単に。

一番星の輝きは消えず、この先も多くを照らしだすだろう。

双子星の輝きは変わり、この先は違う色で輝くだろう。

分岐の変わった運命はどこまでも違う景色を映しだす。

 




ゴロー先生   ・原作程ドルオタに落ちれなかった。でも原作より寿命が延びたよ、やったね!

アイ      ・原作刺殺犯がゴローと相討ちしたので多分寿命伸びた。
 
ルビー(さりな) ・アイの娘に転生。ゴローに再開かーらーの。

アクア     ・結構生意気に育つんじゃないかな。

壱護      ・とっとと帰ってこないとまずいよ社長。



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