拙い文章を読んでいただきありがとうございます。
予想以上に感想をいただけて嬉しいです。
今回は繋ぎの話です。
気づいたら目標文字数の1.5倍くらいになってました。何でだろう。
少し暗めなので、嫌いな方はご注意ください。
警察署での事情聴取から自宅へ戻り、ソファーの上に体を投げ出す。持ってきたアルコール度数高めの酒を手に持ったグラスに注いで、苺プロ社長の肩書を持つ壱護はそのまま一気に中身をあおった。
アイから連絡を受けたのは丁度仕事が一区切りついて遅めの昼食を食べようとした時だった。
聞いたことのない悲痛な声で、「センセが死んじゃったかもしれない」そんなまるで冗談にならない言葉が聞こえた。アイはかなり混乱していたが、概要を聞くとインターホンにアイの代わりに出た後、男の叫び声と大きな音がしたので玄関を見ると大量の血があったらしい。
アイはそのままドアの外には出ず、まだ家の中にいるようだが、どうしたらいいかわからないと言う。直ぐにドアを閉め、鍵をかけて警察か自分が行くまで外に出ないように伝え、仕事を切り上げて大急ぎでアイのもとに向かった。
結果としてアイの言葉は間違っていなかった、残念なことに。今日アイのもとを訪ねていた医者、ゴローはナイフで刺され死んだ。その刺した犯人の男もゴローに抵抗され、マンション階下へ落ちた際に死んだそうだ。警察官の話によるとゴローは腹と背中二か所を深く刺されており、抵抗できたのが信じられない程だったそうだ。犯人の写真を見せられたが壱護に心当たりはなかった………がアイがその写真の男が自分のファンであるということを覚えていた。アイが他人をきちんと覚えていることには驚いたが、そこからは話が早く、警察も熱烈なファン、ストーカーの仕業だという推定のもと捜査は進めるだろう。
警察で事情を説明する中でゴローは壱護の友人ということで通した。久しぶりに東京で会う約束だったが自分が仕事のため、アイの方に土産を渡しに来てくれたのだと、そう説明した。本当はアイの子どもの様子を見に来たなどと言えるわけもなかった。
胃に熱いものがたまる感触がある、そのまま燃えてしまいそうな熱さだった。
「そんなに度数高いお酒一気に飲んでると体に悪いわよ。気持ちは分かるけど…」
妻のミヤコが注意してくるが、今はその忠告を聞く気にはならなかった。
「はあっ、今少しつまみになるもの持ってくるから胃に入れなさい」
そう言ってキッチンの方へ向かう。
友人か、なんとも薄情なことを言ったものだ。壱護が今回の事件で真っ先に思ってしまったことはアイでなくて良かった。そんな人でなしの考えだった。ゴローがいてくれたことでアイは助かった。そのことは分かっているがやはりそう考えてしまうのはどうしようもなかった。
ゴローはいい医者、先生だった。壱護は宮崎でアイが退院する直前の出来事を思い出していた。
どちらから切り出したか覚えていないがアイの退院祝いを先んじて大人だけでやろうという話になった。つまりは…酒を飲もうということである。
場所はゴローがよく通う美味い居酒屋があるというので夜になってその店で待ち合わせた。店はもう老年といっていい男が一人でやっており、店内は狭いが汚い印象は受けなかった。
「大将、電話で話した通り個室もらうよ」
「ああ、上使ってくれ」
人がそこまで多くは来ない場所だが酒も飲むし一応アイの話が洩れるとまずいと用心をして個室(店の二階で一部屋しかない場所)を取ってくれたらしい。酒と料理が直ぐに運ばれてきたため、それぞれ酒を掲げた。
「アイと双子の健やかな成長を祈って」
「「乾杯」」
そこからは正直酒が結構進んだので細かいことはあんまり覚えていない。魚介類を主とした料理はなかなかうまかったこと、あのくそアイドル余計な仕事を増やしやがってだの、毎日が綱渡りの気分だチクショウ、などアイや仕事先の愚痴ばっかり話した気がする。ゴローも面倒くさい同僚がどうこうなど鬱憤をぶちまけていたと思う。その中でずっと聞きたかったことを聞いてみたのだった。
「なあ先生、あんたはアイが本当にあの双子の子育てちゃんとできると思ってるか?」
十代であのアイドルしか取柄のない少女ができるわけないと思っていた。そこに対するゴローの答えは簡潔だった。
「いや思ってない」
聞いた手前そこまではっきりと宣言されるとは思っていなかった壱護は言葉を失った。だが
ゴローは直ぐに、
「だから俺たち大人が手伝ってあげなきゃいけない。なっ、社長」
もともと子育てを一人で十全にするのは難しい。だから手伝える大人が必要でそれは保護者である壱護の仕事でもあるとはっきり告げた。
いつまでもごねているなと釘を刺された気分だった。確かにもう愚痴を言う時期は終わったのだとその時実感した。もう後には引けないところまで来ているのだからあとはもう腹をくくるしかないな、と酔った頭で考えた。(だが流石にくくっても頭は痛い)
結構な時間が過ぎ店を出る時間になった。会計は壱護が持つつもりだったが、ゴローがいつの間にか払い終えていた。今回世話になった手前こっちが払うと言ったが、患者の親族からそういうのは受け取らないと断られた。代わりに、今度東京に行くときはどこかうまい店を紹介してほしい、社長ならいい店知っているだろう、とゴローは言った。当然ここよりうまい店を紹介してやると返して別れ、ふらつく足取りでホテルに戻ったのだった。
本当は今回仕事がなければアイたちの様子を見てもらった後、壱護は夜に店を案内するつもりだった。結局そんな約束を果たす機会は永遠に来なくなってしまった。そんな虚脱感と共にアイの今後のフォローも考えなくてはならず悩みは尽きない。
だが、今はただ何にも考えずアルコールの酔いに頭を浸していたかった。
◇◆◇◆◇
泣き声が聞こえる。
目を開けて体を起こし、声がしている方向へ向かう。いつものようにアクアマリンが声を上げて泣いていた。時間は深夜の2時ごろ。まだまだ日が昇るには遠い時間帯。いつものようにアイはアクアマリンを抱え寝室とは別の部屋へ向かう。ルビーを起こさないためだ。
別の部屋に移動しアクアマリンをあやしながらスマートフォンを操作して、寝ぼけた頭でいつものようにコールしようとした時……もうこの番号はいくら鳴らしても誰も出てくれないことを思い出す。
「ああ、そっか、センセもういないんだっけ……」
その事実に悲しみが心身を満たし、少し前の出来事を思い出し体が震える。ずっと夜泣きの時間、アイに付き合ってくれていた医者のゴローはもういない。
子どもと退院してしばらくしてから、アクアマリンの夜泣きの頻度が多くなった。代わりにルビーは全然夜泣きをしなかったけど。連日の寝不足にコンディションは全く良くなく、少しずつ疲弊してきていたと思う。そんな疲労で頭があまり回らなくなっている真夜中にふと、ゴローがなんかあれば電話しろといっていたことを思い出した。正直なところ、本当に頭が回っていなかったと思う。そんな時間に普通電話かけるなんていうのは嫌がらせと捉えられてもおかしくない。電話をかけて10コール程ゴローは出なかった。嘘つきー、と洩らしてスマホをしまうとしたところ手の中で振動した。画面にはセンセの文字。通話ボタンを押すと第一声が凄く緊迫した声で「どうした!?」だった。あまりの迫真ぶりになんだか笑ってしまって電話越しのゴローが困惑しているのが分かった。
状況を説明するとゴローは少し呆れたような口調だったが安心したようだった。アクアマリンの泣き声が電話越しでいきなり聞こえたから異常事態かと思ったみたいだった。そしてそういうことならいつでもかけてきていいとゴローは言った。
「こんな時間ばっかだけどいいの?」
「いいさ、今は担当もってないし。最悪病院でどうにかする」
「それってサボるってこと?医者の先生がいけないんだー」
「原因がどの口で言うんだか…」
だけど、とゴローは少しまじめな声で、
「夜泣きの対応で一番よくないのは一人でやって孤独感を持ってしまうことだ。ただでさえ寝不足になるのに更にストレスがかかる。俺がよく他の患者に聞いてみても夫婦二人でやっててもつらいらしいぞ」
「そうなんだ……」
「だから使えるものは何でも使えってね。自動雑談マシーンだと思ってくれ。でも逆にあれか、アイドルとの個人雑談なんて金払えって言われそうだ」
「じゃあお金の代わりに話に付き合ってもらうね!」
「理不尽な永久機関になってきた」
その日から夜中はゴローに夜泣きが収まるまでの暇つぶしに付き合ってもらった(いつも何故かこっちからかけても出ないのに直ぐに折り返してくる)。途中からルビーもアクアが夜泣きするタイミングでぐずり始めるようになったけれど、TV電話でセンセの顔見ると直ぐにおさまった。そうして数か月どうにか体調も崩さず子育てをすることができていた。
あの日、本来ならば刺されていたのはアイだった。犯人の狙いは明白でゴローは単にそこに居合わせただけの本来関係のないはずの被害者。
ゴローの死体をアイはきちんと見ていない。ドアの近くにある血だまりを見て何があったかは想像がついてしまい、動転して社長へ連絡した後はルビーとアクアを抱きしめてじっとしていた。どのくらいそうしていたか覚えていないが、しばらくしてやってきた警察官と話したときにやはりゴローが死んでしまったことを告げられて、頭の中が真っ白になった。
社長が帰ってきてくれた後、警察所に行って事情を話したときに犯人の顔写真を見せられた時は愕然とした。握手会に来たりプレゼントをくれたりした昔からのファンの一人で応援の熱量が凄かったことが印象的で名前も覚えていた。
結果としてアイのせいで人が死んだ。尊敬できるくらいとてもやさしい人だった。ゴローは重傷を負った状態でも犯人をアイや子ども達から遠ざけてくれたらしい。
アイには分からない。その行動は世間一般で言えば献身や愛といわれるものだった。だけどゴローは先生で自分はただの患者の一人だ。仲は良かったと思うがそこに命を懸けるほどの愛はあったのだろうか。センセは私たちを愛してくれていたのだろうか。
聞くべき人は既に亡く、愛というものの答えが余計遠くに行ってしまったようにアイには感じられた。
◇◆◇◆◇
なんで生きているのか分からなかった。小さいころからずっと病院の中にいた。おそらく10年も生きられない、そんな病気を言い渡されてずっとずっと一人で。世界は同じ部屋同じ通路だけで、忙しい中来てくれていたお父さんとお母さんも全然来てくれなくなって、人と話すことだってほとんどなかった。
そんな時テレビで一組のアイドルが紹介されていた。B小町というグループでその中でもセンターで踊る子、アイのパフォーマンスを見た瞬間まるで今まで見たことない綺麗な世界が広がったように思えた。そこからは一日中アイの姿を見たかったけど部屋のテレビじゃ録画機能とかも無くて毎日テレビ欄からアイの活動を追っかけていた。
そんな日々の中で一人の先生に出会った。
ゴローせんせといって研修医として病院に入ってきた先生で、よく重い病気の人の病室を回っているみたいだった。せんせは結構な頻度でさりなの病室に来てくれた。そこで最初は体調の話とかだけだったけど、そのうちにB小町の、アイの活動について話すのがいつしか日課みたいになった。
いつもアイの活動はテレビでやってないときはスマホで見ていた。でもやっぱりもっと大きな画面で見たらアイの最高の姿がもっと最高になるのになー、って愚痴をこぼしてたら、次の日にゴローせんせがどこからかレコーダーや接続機器とかを持ってきてくれた。
「視聴時に長時間無理しないっていう約束を守るならなら、こいつをくれてやろう、少女よ」
とかなんか大袈裟なポーズで言ってきたのが面白くて、ちょっとした気遣いが涙が出るくらい凄くうれしかった。
「無理しないって約束するし、なんならせんせと結婚だってするから、ちょうだい!」
「世間体が死ぬのでセッティングとかちゃんするんで勘弁してくれ」
おまけみたいにB小町が載ってる雑誌を渡してくれて、そのまま機械の接続とかをやってくれた。
ずっと、お母さんの前ではいい子でいなきゃいけなかった。だから病気にかかってからわがままみたいなこと言ったことはなかったけど、ちょっとした希望をただ一人いつも受け止めてくれる優しいせんせが好きになった。
アイみたいに輝いてるアイドルになりたいって言った時もそれなら一番の推しにするから頑張ろうな、って言ってくれて、その時から本当に本当にアイドルになりたくなった。
でも結局病気がよくなることはなくて、ベッドの上でもう動けないようにもなってしまった。
もう死んじゃうんだ、って思った時も少し前に考えていたほど絶望っていうものはなかったと思う。ずっとお母さんが来てくれなくて凄く悲しい思いだってあったけど、心の中には凄く暖かいものもあったから。
最後に覚えている光景は自分のために泣いているせんせの顔。最後に頭の中をめぐっていたのは一番好きなアイの歌声。それが【天童寺さりな】として最後の記憶。
ただ最後のはずだったのに記憶は終わりにはならなかった。暗い暗い場所から光のある場所に引き上げらて、そして近くから聞こえたのは聞き間違えるはずのない何百、何千、何万回と聞いた大好きな推しの声。
夢のような世界に天童寺さりなは転生したらしい。前世の最推し、B小町のセンター、最強無敵のアイドルであるアイの子どもとして!(父親?何のことだろう)
アイの子どもは双子で、姉として生まれてきたらしい。弟は今横のベッドに寝かされている。
はっきり言って生まれた直後の記憶は曖昧で聞くだけですごく幸せな声が聞こえたということだけ朧げに覚えていた。記憶がハッキリしたのは産まれた次の日、アイに抱き上げられている最中で、天国がアイの腕の中なのは当然、とかそんなことを考えてアイの顔をずっと見ていた。あまりに幸せ過ぎていつまでも醒めない夢だと思っていたけど、やっと現実なんだってわかってきた。
そして現実にアイの子どもということはもう美形は約束されている。ということはずっと思い描いていた夢を目指せる。アイドルになって有名になれば、どこかにいるであろうせんせの推しに───
そんな決意の中、部屋に誰かが入ってきた。アイが先生と社長と呼んでいるので多分病院の先生とアイドル事務所の社長だと思う(まだよく目が遠くまで見えないけど)。社長がアイに双子(【さりな】と弟)の名前を聞いているみたいだった。
「お姉ちゃんが瑠美衣(ルビィ)で、弟君は愛久愛海(アクアマリン)!」
最推しに名前を付けてもらえるなんて最高過ぎる。アイの決めた名前に文句を言っている社長はあり得なかった。
「センセはいい名前だと思うでしょ?」
今度は先生の方に聞いているらしいがもちろん答えははい、しか………
「――――――――――――」
耳を疑った。そんあ奇跡あるはずないって思った。でもアイの声と同じで聞き間違えるはずがない。
顔がよく見えない。もっとよく見せてほしいと手を伸ばす。
その意図を察してくれたのか人影が近づいてくる。
小さな体を優しく抱き上げてくれる。
顔を近づけられた。
ずっと大好きだった優しい眼差し。
──ああ、本当に変わってないねせんせ……
ダメだ、我慢できるはずがない。
星野ルビーは今は泣くことでしかその嬉しさを表現できなかった。
アイの娘としてルビーがこの世の極楽浄土を満喫して数か月たった。ただ唯一の不満はせんせが近くにいないことである。退院の時あらん限りの力でごねたがやはりどうにもならなかった。まだまだルビーは赤ん坊のためうまく言葉は話せていない。以前よりは声が出るようになっていたが会話するにはまだ遠かった。もし会話ができていれば愚弟がアイを夜泣きで困らせていた(赤ちゃんとして当たり前だけど)ときにせんせとの電話で会話できていただろう。
あれはルビーとしては痛恨の出来事だった。アイはいつもアクアの夜泣きに対処するため別の部屋に行っていた(ルビーに気を使ってくれるなんて優しい、天使か)。結構アクアの夜泣きの頻度が多くなっていたのは何となく気づいていて、アイの顔にもルビーで分かるくらい張りつめてどんどん疲れが溜まっている感じだった。同じく赤ん坊のルビーは何もできないのが歯がゆかった(歯は今まだ無いけど)。
アクアの夜泣きの回数は減らなかったけどある時期からアイの様子が変わった。なんていうか疲れ自体はある感じなのだが緊張感みたいなのが抜けた感じだった。アクアの夜泣きの時、ルビーは起きてもアイに手間をかけさせないため、アイがアクアを連れて別の部屋に行ってしまうと直ぐに寝ていたのだが、その日はドアが少し空きっぱなしだったので起きたまま耳を澄ませていた。するとアイがアクアに向けてではなく、誰かと会話しているような声が聞こえた。そして聞こえてくる男の声を聞き逃すはずがなかった。
──せんせだ!アイがせんせと話してる!
夜中にアイとせんせが楽しそうに話をしているのを聞くのは、なんかもの凄く複雑な気持ちだった。羨ましいとかずるいとかいろいろな感情が混ざっていた。アイはアクアの夜泣きの時にせんせと話をして気を紛らわしていることが分かった。では、どうするか。
ルビーは次の機会から非常に申し訳なさをかんじつつもアクアの夜泣きに合わせ、声を上げてアピールすることにしたのだった。
そんなこともあり適度にせんせの声や姿を確認できる機会はあった。しかしなんと、今日はせんせが自分たち双子の検診に直接来てくれるらしい。朝から待ち遠しくて鏡で何回身だしなみをチェックしたか覚えていない。
久しぶりに見たせんせは私服だった。白衣を羽織った以外の服を着てオシャレしたせんせを見るのは初めてだったのでドキドキした。せんせはアクアから診察し始めたけど、結構暴れたりしたので時間がかかっていた。ようやく終えてルビーの番になり大人しくしていたら診療は直ぐ終わった。ならばあとは好きなだけせんせに構ってもらう。今日のせんせの腕はルビーのものなのだ。そんな気分でせんせの腕の中、極楽浄土その2を堪能していたら、せんせがスマホを取り出して、そのまま落としてしまっていた。そしてアイがそれを拾って、
「せんせの待ち受けって女の子なんだ。親戚の子とか?」
聞き捨てならないことを言った。待ち受けが女の子?せんせが?何浮気?心の奥から何かが洩れてきそうだった。
「あー、いや、昔の患者の子。覚えてるかわからないけど、初めて病院に君が来た日にB小町のファンの知り合いがいるって言ったろ?……その子なんだ」
昔の患者でアイのファンの女の子。
その言葉に心臓の鼓動が大きくなった。
考えないようにしてた。せんせはもう、天童寺さりなのことなんて、忘れてしまってるのではないかって。
あれからもう四年以上経ったことは知ってる。せんせは、さりなにとってはたった一人の好きな男の人だったけど、せんせにとってさりなは、一患者でしかなかったんじゃないかって。
せんせがスマホを受け取る。
見たいけど見たくない。
画面が見える。
そこに映っていたのは、
………昔嫌というほど見た病室で笑う自分の顔だった。
──ずっと、ずっと忘れないでいてくれたんだ…せんせ
あの日見たせんせの涙は直ぐに消えてしまうような嘘じゃなくて。
さりなの死を今でも覚えてくれる人がいて。
本当に悲しんでくれた人がいて胸が一杯になった。
嬉しくて、涙が止まらない。
──ねえ、せんせ、私夢だったアイドルになるから…
──だから応援してね。そしたら私はアイにだって負けないアイドルになれると思うから!
しばらく涙が止まらなかったけどせんせが全力で構ってくれたのでおさまってきた。しかし、せんせの腕の中という極楽浄土タイムはインターホンという無粋な音で中断されてしまった。
アイはアクアをあやしているため、せんせが代わりに出るみたいだ。
「ちょっと待っててくれ」
そう言ってせんせは玄関に向かって行ってしまった。早く帰ってきてほしい。
今日はせんせを帰さないくらい思いっきり離さないで「――――――――――」
知らない男の人の声と、大きな音が聞こえた。
──何?
アイがアクアを一旦置いて玄関へ向かう。
──大丈夫だよね、せんせ?
アイが青い顔で戻ってきてどこかに電話をかける。
──ねえ、なんでせんせは戻ってこないの?
アイが口を開いた。
「セン、セが、……死んじゃった、かも、しれない…」
─────────────────────嘘だよね、せんせ?
壱護 ・ゴローを夜の街に連れ出してルビーにキレられる。そんな未来もあったかもしれない
アイ ・愛について悩みが深くなった。あと部屋のインターホンの音を変えた
ルビー ・ごめんね、それしか言う言葉がない。
アクア ・特にインターホンの音はトラウマになってない。
テストでアンケートも置いときます。
ルビーちゃんに希望は
-
ある。に決まってるだろ。
-
ない。現実は非情である。