ゴロー先生ちょっと寿命延長ルート   作:望先或

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誤字脱字の報告、感想、アンケートありがとうございます。

アンケートですが1番が2倍以上の差をつけてました。
ということでアクア君が芸能界の闇に翻弄されるルートは仕舞っておきます。

今回からタグ増やしました。
好き嫌いあると思うけどゴメンね。



第1話

『マンションで男性一人が刺殺。犯人はマンション廊下から被害者と共に転落して死亡』

『凶行に及んだのは学生。自宅捜査から現場マンションに住むアイドルのストーカー』

『被害男性は東京に旅行に来ていた医者。芸能事務所社長の友人』

『凶器はナイフで男性を恋人と勘違いして刺殺か!?』

『本当に殺害したのはアイドル。もう一人はアイドルのため罪を背負った』

 

 

 スマートフォンの画面には多くの文字が躍っている。正しいものからそうでないものまで、本当の情報などどうでよくただ大衆の目を引くことを目的とした文章から端的に状況をまとめた文書まで目につくものを片端から読んでいく。生まれてから一年間このように現代機器を扱うどころか自身の好きな場所へ自由に動くことさえ叶わなかった。ここにきてようやく詳しく知りたかったことを確認する機会を得た。

 その有象無象の文章に書かれた被害者。前世でゴローと呼ばれた赤ん坊は今、彼の扶養者が機嫌を取るために動画を流して置いていったスマートフォンを使用し過去の情報を漁っていた。当時ゴローが殺された時分の情報、どのような報道がなされ、狙われた彼女たちがどうなったか。その答えを得るために扶養者が戻るまでの僅かな時間で検索していた。

 結果としていくつかのニュースサイトを読んで共通している事実はある。

 

・犯人は男。学生でアイのストーカーだったこと。

・犯人はゴローと共に転落し死んだこと。

・殺されたのは医者で壱護社長の友人。東京には旅行に来ていて事件にあったこと。

・ゴローはナイフで刺され殺されたこと。

・アイの子どもについては世間にばれていないこと。

 

 犯人がゴローと共に死んだということはアイ達が無事なこと、そしてアイの子どもの件が公になっていないこと、それらの結果を確認してゴローは大きく安堵の息を吐いた。ゴローがかろうじて覚えているのは腹を刺された後に犯人に体当たりをした所までで、その先は全く記憶にない。死んだはずのゴローの意識がハッキリとしたのは病院のベッドの上であった。

 

 転生

 

 正直に言って医者であったゴローからするとオカルトもいいところである。皮肉のようにも思える。殺された結果、再びこの世に生まれ落ちたらしいのが今のゴロー(赤ん坊)である。

 

 

 ゴローは意識がハッキリした直後、全く体に自由が利かないことはナイフで刺された出血のせいだと考えていた。しかし全く痛みなどない。なので声を出そうとすると意味のない高い声で呻き声が上がるだけであった。そこから少し落ち着いてで周囲の音が拾えるようになると自身の現状が分かり始めた。 

 どうにもゴローは赤ん坊の体であること。そして産まれた直後に捨てられていたところを発見者(実は今の扶養者なのだが)が慌てて病院に運んだらしい。病院に運び込まれた際には若干の衰弱はあったが命には別条なかったようだ。

 そのため今世も再びゴローには血の繋がった両親というものがいないらしい。もはや前世からの呪いのようだなと思いながら少し憂鬱になったゴローは寝かされているベッドの上を転がった。そこから数週間病院で過ごし、今の扶養者に引き取られたのだ。

 

 この一年は一応慎重を期して赤ん坊として(実際はかなり早熟な挙動だったと思うが)生活をしてきたので、ようやくいろいろな情報のすり合わせができる機会を得た形である。今の扶養者は少し前にゴローが言葉を話した時もあまり動揺した様子はなかったので慎重になりすぎたかもしれない。

 どうも今いる住居にテレビはないらしく、たまにラジオの音は聞こえてくるが集められる情報は少なかった。やっとある程度声も出るようになってきたので扶養者がスマホを操作しているタイミングを狙って暇つぶし用道具としてスマホをねだり、短時間だが自由に使える機会を得たのだった。

 

 

 ゴロー自身は刺されたことに関しては半分自業自得だと考えていた。いくら久しぶりにアイや双子に直接会えて浮かれていたからといって、気を抜いてマンションの扉を宮崎の実家感覚で危険を確認せずに開けたのは全く持って警戒心がない行為だった。結果として被害はゴローだけで済んだがそうでなかったら死んでも死にきれないところだった(実際死に切れていないのだが)。

 ゴローとしては自身の行動の結果がある意味自身に返ってきただけではあるので、犯人は許せないが、もう死んでいるのでこれ以上事件に対して思うことはないはずで………。

 

 唐突に過去の出来事が頭の中で反響する。

 

──黒いパーカーにあの背格好。そうだ、あいつは宮崎でアイの出産日に見た男だ。

 

──そもそもなんであいつはあの日に病院の近くにいた?

 

──アイを尾行してきていた?

 

──マスコミは一人だって気づいていない。それに、病院に来て時間だって経ってた。

 

 思考するごとに嫌な感覚がせり上がってくる。気持ち悪さが小さな胃を刺激する。

 

──なんであいつは宮崎で俺に近づいてきた?

 

──アイが妊娠していることを知っていた?

 

──病院の産婦人科医は他にもいた。たまたま俺が歩いていたから?

 

 この先の推測はろくでもない予感がする。

 

──もし、俺がアイの担当医だと知っていたとしたら何故だ?

 

──壱護社長はそんな洩れたら破滅する情報の扱いを間違えるとは考えられない。

 

──アイは確かに少し抜けている所はあるがファンに情報なんて洩らす分けがない。

 

──でも、もしあの状況で外部に連絡を取るとしたら…………………双子の父親。

 

 いかれた考えで証拠もない上に、突拍子もない。だが、一度考えてしまうと疑念が途切れない。

 

──アイが……双子の父親と連絡を取り合って近況を話していた可能性はあるかもしれない。

 

──アイは双子の父親について嫌悪感を持っていた様子はなかった。

 

──なら定期的に連絡を取っていた可能性はある。

 

──そう考えると今回斎藤夫妻が居ない時に男が来たのも偶然か?

 

 ただのこじ付けかもしれないというのは分かっている。

 

──ルビーとアクアの父親が情報を渡した?

 

──そもそもなんで父親がそんな事を…アイや子どもの命を脅かすことをする?

 

 

 思考がまとまらない。ただ嫌な可能性だけが頭を回っていく。この情報を繋げられるのは今のところ宮崎とアイのマンションで男と遭遇したゴローしかいない。まだアイ一家は危機を逃れていない可能性なんて考えるべきではなかった。

 しかも双子の父親が怪しく思えてくるなんて最悪だ。今のゴローは生後一年程度の赤ん坊で何の力もない。だけど、何もしないなどという選択肢はとれそうにない。全てが可能性の域を出ないならば、彼女たちの命を思うなら可能性を探るしかない。

 

 そのための最短距離は…

 

──これからすぐに芸能界に入る。

 

──そこでアイにでも接触できれば一番いいが……そうでなくても情報を。

 

 そこまで思考してから少し息を吐く。

 そして冷静になってみるともっと単純な方法がある。わざわざ遠回りする必要はないことに気づく。

 

──いや、よく考えればわざわざそんなことしなくても直接苺プロの事務所にでも行ったりして直接■■■■■■■■■

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 ゴローの頭に酷い頭痛が襲った。体験したことのないような、まるで頭の中を握りしめられているような酷い痛み。一瞬意識が薄れる。

 

 

 

 

 

──────今、俺は、何を、考えてた?

 

 ゴローは直前の考えを思い出そうとするがうまくいかない。

 

──なんだ?芸能界に入ってみて……そうか、あの双子の父親や情報を探らないと。

 

 鏡で見た今の自分の顔を思い浮かべる。前世と違う赤みがかった茶髪に薄い緑の瞳。容姿は前世とは全く違うが顔の輪郭は多分悪くない。(まだ赤ん坊なので前世の経験則だが)。将来仕事を顔で取れるようならそれでもいいが、そうならない可能性の方がはるかに高いため演技やトークなど勉強しなくてはならないことも多いが。

 

──子どもの今からでも情報を集めるならあの世界程都合のいい場所はないはず。

 

 もちろん自分の考えは穴もあるだろうし妄想かもしれない。ただ転生などという理不尽を知ってしまったからには低い可能性であろうとも蓋をすることができなくなってしまった。杞憂で済んで自分の馬鹿な考えを笑えるならそれでいい。

今はまだ事件からそんなに経っておらず、防犯だってしっかりしているだろう。ならば真犯人、ゴローを殺した男をけしかけた奴が、まだあの一家を狙うとしても実行に移すまで時間はまだあるとゴローは信じたかった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 目の前にいる厳めしい顔で椅子に座る年のころ40代後半から50第前半くらいの男。白髪の混じる髪は短く切りそろえられており、口は基本的に横に真一文字に結ばれている。

 【月石弓弦】。今世の扶養者である。

 

「なんだ【エイジ】、何か言いたいような顔だな」

 

 低く落ち着きはらった声が建物内に響く。【月石エイジ】、それが今のゴローの名である。ゴロー=エイジはまだ少し拙い足取りで弓弦のもとまで歩いていく。

 

「ねえ、しんぷ。おれ、やくしゃになりたい」

 

 まだ若干舌足らずな口調だが率直に目的を告げる。普通ここまで赤ん坊がしっかり喋れば驚きそうなものだが弓弦の表情に困惑や驚愕の表情はなかった。初めてエイジが言葉を話した時からもずっと岩のような表情筋が大きく動いているのを見たことがない。

 

 弓弦はどこかの教会の神父であるようだった。

 エイジがそれを認識したのはたまに家に来る客の一部が弓弦のことを神父様、と呼んでいたからだ。だからエイジも神父と呼び始めた(父親呼びは覚悟が足りなかった)。それに対し特に弓弦も訂正はしなかった。しかし、エイジは弓弦が祈りを捧げているところを見たことがない。洗礼もする気はないみたいだった(これは宗派とかで違うのかもしれないが)。

 何かしら児童養護施設の手伝いをしているかとも思ったが、そんな様子もない。何故捨てられていた赤ん坊のエイジを引き取ったのか、この一年育ててくれている恩人をまだエイジはまだ分かりかねている。しかし、善意で育ててくれているということをエイジは疑ったことはなかった。

 

 弓弦はエイジの言葉に少し目を閉じ考え事をするような素振りをして口を開いた。

 

「お前はその年代では並外れて頭がいいことは理解している。だから問うておこう。何故役者なのだ?」

 

「やりたいことができた」

 

「それはお前が本当にやりたいことなのか?」

 

 赤ん坊のエイジに対し茶化すような言葉ではなく真剣に問う。今だ赤ん坊が結構無茶なお願いをしているのは理解しながらもはっきりと決意を返す。

 

「うん、おれしかできないことをやりたい」

 

 もしこの胸の中にある疑念を無視して、アイ達一家が凶行の犠牲になるようなことがあれば今生ずっと後悔し続けると分かっている。だからまずは進んでみるしかない。弓弦に迷惑をかけることになるかもしれない。そんな恩知らずなことかもしれないと分かっている。もし完璧に拒否されれば今のエイジでは違う手段を模索しても時間がかかり過ぎてしまうだろう。だが、

 

「そうか、ならばいい。好きにするといい」

 

 弓弦の視線はどこか遠くを見ている。遠い日を思い出すようなそんな穏やかだが沈んだ目だった。

 

「っ、ありがとう!じゃあ、これをおねがいします」

 

許可はもらった、ということで持っていたスマホの画面を笑顔で差し出す。

 

「これは?」

 

 弓弦に見せた画面には子役プロダクションの募集要項や募集方法の記載が並んでいる。

 

「おうぼ、てつだってください」

 

 ずうずうしいのは百も承知だが手伝ってもらわなくては写真撮影はおろか書類も用意できない約一才児であるのだ。

 弓弦は深く息を吐くとスマホをエイジの手から取り、用意すべきものの準備を始めてくれるのだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 数か月ほどたってエイジはとある芸能プロダクションの事務所前にやってきていた。書類選考の一次審査が通ったため二次審査として面接を受けるためだ。今回面接を受けるのは子役の事務所としてはかなり実績のある事務所で、最近話題の『十秒で泣ける子役』が所属するプロダクションである。

 ここ数か月ほどいくつか選考用の書類を弓弦に作ってもらったり、書類に載せる写真を撮影してもらった(弓弦の昔の趣味が写真だったらしくいいカメラを持っていた)りした。応募動機等は普通親とかが書くものだが、アピールも兼ねて、難しい漢字は流石に省きながら自分で書いたので結構印象は強く残せる書類になったのではないかと思う。

 そうした努力の甲斐あってか今回は面接審査まで進んだのである。清潔感のある服で簡単に髪を整えて、この場に立っている、流石にこの年齢で一人での面接というわけにはいかないので隣にはビジネススーツを着込んだ弓弦も当然いる。今回の面接では少し堅苦しい服装にも思えるが流石にそこまでエイジも口を出す気は無い。

 

「入るぞ」

「はい」

 

 弓弦が短く簡潔に中に入るように促してきたので、ともにプロダクションビルの扉をエイジはくぐった。

 

 

 待合室にはすでに数名の親子が座っていた。子どもの年齢は大体一才から三才くらいで、付き添っているのは母親が多い。この後の面接に備えて本番前最後の練習を子どもと重ねている。その中に入り、二人そろって空いている椅子に座った。

 弓弦が取り出した本を読み始めたのでエイジも自分で作った面接の要点を抑えたメモを軽く見返しておく。

最終的に子どもは十名前後となり、そこからも少し無言で時間を潰していると係りと思われる人が「面接が始まりますので、名前を呼ばれた方はこちらにいらして下さい。案内いたします」と部屋に入ってきて告げた。

 今回はグループ面接でなく、個別面接のため面接が始まってからも順番が来ないとしばらく待っていることになる。無論エイジは全く問題ないが、年齢の低い子には長い時間待つ行為がつらいものであるので、泣いてしまう子や騒ぎ始めてしまう子などで待合室は煩くなってしまう。

 ようやくエイジの番が回ってきた頃には、面接でうまくいかなくて泣いている子も加わり中々阿鼻叫喚ともいえるのではないかという惨状だったので、ようやく抜け出すことができて少し安堵した。(子どもの泣き声は前世で聞きなれているが重奏されると流石につらい)。

待合室を抜け、弓弦と面接部屋に入るとそこには三人ほど面接官の人達がいるので一先ず挨拶をしてから椅子に座ったところで面接が開始された。

 

 

 

 

 結論から言うと面接は特に問題なく終わり。数日後には所属を認める合格通知が来た。ハッキリ言って前世知識まであって不合格だったらどうしようか、と非常にエイジは不安だったのだが杞憂で済んでなによりだった。

 合格通知と共に同封された資料には今後の契約やレッスン、ワークショップなどの説明があるようなので熟読しておかなくてはならない。弓弦にそこまで細かいところまで負担をかけようとは思っていないし、もしそこそこ稼げるようになったらお返ししないといけない。(後々このことを話したら烈火のごとく怒られた)。

 合格できたことでようやくスタートラインに立てた気がエイジはした。しかしまだ目隠し状態でスタートラインに立っただけということを忘れてはならない。顔が売れたりすればこの先エイジがB小町やアイ、そのほかにも当時のアイを知る人物に会うことができるかもしれない。そうやって少しずつでも情報を集め、真実を探していく必要があるだろうが、今はこの先自分が芸能界で生き残るための努力を一歩ずつ重ねていくしかないのである。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 プロダクションに所属してしばらく、ドラマのエキストラということで何人かの同世代の子どもと共に公園で遊ぶ役の仕事を得たのだが…。

 無邪気に公園で遊ぶということ、これが前世から30年以上生きている精神には途轍もなく困難なお題だった。適当でもいいのかもしれないが、役割を振られている以上はその役をきちんと考えなくてはならないと無駄な勤労精神を発揮してしまった。結果として周囲の子どもから浮かないよう抑えた動きとなったが、子どもなのに幼い子ども役が苦手というある意味転生の弱点が発揮された形だった。

 場面が終わり、特に重要な役でもないのに疲弊した精神で休んでいると声をかけられた。

 

「おい、そこの赤ん坊」

 

 声をかけられたため振り返るとそこには、年齢は30代くらい、ぼさぼさの長髪に無精ひげを生やした今回のドラマの監督が立っていた。名前は【五反田泰志】。

 

「なんかお前動きが少しおかしかったが体調でも悪いのか?」

 

 心配してくれたらしい。心使いには感謝するが赤ん坊に対する言葉とすると随分雑である。

 

「いえ、そうでなくて、何というか同年代の子どもの動きがうまく表現できなくて…」

 

 素直に理由を話すと五反田が驚いた顔でしげしげとエイジの顔を見る。

 

「お前その年で自分の年代の役作り考えてるのか?はあー、早熟な子役は何人か見たことあるが、お前の年齢でそんな考えしてるのは初めて見たな」

 

 五反田がエイジの脇に手を差し込み持ち上げる。せっかくなので動きに関して聞いてみる。

 

「俺たちの年齢の動きってやっぱり無軌道のようでいて、興味のあることに対しては一直線っていうのがいいんですかね?」

 

「カメラワークと監督の意図によるな。今回お前はエキストラだから大きな動きは必要ないって言うのは分かってて、それを自然な動きとして表現できてなかったのか。だから動きがおかしく感じたんだな…」

 

「ぐむ」

 

 やはり演技に関しては勉強はしているがまだまだ未熟もいいところであることをエイジは実感する。だが、五反田は面白いものを見つけたように笑った。

 

「とはいえお前ほど早熟な赤ん坊らしくない赤ん坊は画として面白い。どっかで使ってみてえな。」

 

 五反田は手帳を取り出してから、お前どこのプロダクションだっけ、とエイジに確認してきたため今のプロダクション名を答える。

 

「おっ、あの有馬かなと同じとこか。なら都合もいいか」

 

 そういって五反田はエイジに名刺を渡してくる。

 

「お前の早熟さが使えそうなシーンが思いつきそうだから、そのうち名指しで依頼を出す。ちゃんと受けろよ」

 

「はい、それまでに精進します……」

 

 うなだれながらの返答にも満足したのか、五反田は休憩時間も終わったため撮影に戻っていった。

少しの出番も終わったのでエイジはその後要所で邪魔にならないようにカメラマン、音響、共演者に分からないことを聞いていく。まだ業界には不慣れであるし、多少の無知は年齢を理由に多めに見てもらえる部分もある。

 それに出来るだけ顔を売ったりして今後の仕事の布石になればいいと思う。地道な努力が実を結ぶと信じてエイジはその年齢にそぐわない行動を続けるのだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「新人なの?全然見たことない」

 

「どうせ演技だってまともにできないんでしょ」

 

「あなたは、かなの邪魔にだけはならないようにしててよね!」

 

 ドラマのエキストラから暫く経って、五反田監督より映画の出演のオファーが来た。どうも事務所の先輩にあたる【有馬かな】と同時に起用になるようだ。メインキャストではないがセリフもあり、経験を積むにはエイジにとっていい機会である。

 そのため一度、有馬かなへと挨拶にきたのだったが冒頭のコメントを言って去ってしまった。プロダクションの看板子役はどうにも気性がかなり激しいらしい。

後々マネージャー(エイジの専属ではなく複数人見てる)に話を聞くと、かなには基本的に母親がついてマネジメントしているようだが、特に注意とかもしていないため大体現場でもこんな感じらしく、扱いは結構気をつかわれているとの情報を得た。

 

 

 

 今回出演する映画は『それがはじまり』という名で、自分の容姿にとことん自信のない女が、何故か山奥の怪しい病院で整形を受けるそんなあらすじだ。

 

 本読み、リハーサルと少しづつ本番に向かって進む中、有馬かなの演技を見る。天才と言われるだけあって体の表現、声の強弱など同年代の子役としては抜きんでていることがわかる。あれだけの自信を持つ強い言葉も実力からすれば仕方ないのかもしれない。現場でもエイジとは会話する気は無いらしく、大体台本かスマホに視線を落としている。

 確かに今回エイジがこの仕事に呼ばれたのは五反田監督とのある意味コネである。実力を評価されたわけではない。だがこれはチャンスである。監督がわざわざエイジを呼んだ理由、前回話した時の取りたいといった画。脚本の意図。それらを繋ぎ合わせて自分が行う演技をエイジは静かに考えていた。

 

 

 

「よう、早熟ベイビー準備は出来てるか」

 

「準備なんてしてない方が監督としてはいいでしょ?」 

 

 エイジがそう答えると満足したように笑った。

 

「分かってるならいい、じゃあしっかりやれよ」

 

 

「じゃあ、撮るぞー」

 

 出演者に声がかかる。

 

 

 シーンは女が村の入り口で気味の悪い子供に会う場面。

 前方からキャリーバックを持つ女が歩いてくる。その女が目の前すれ違う距離まで来たとき、かなが演技を始める。

 

「ようこそ、おきゃくさん。かんげいします…」

 

「どうぞゆっくりしていってください…」

 

 言葉のテンポ、視線の上げ方。不気味な子どもの演技。やはりうまいとエイジは感じる。同じことはやっても意味がない。本来それを求めるならエイジはいらない。ならばどうするか。

 

「この村に民宿は一つしかありません。一度チェックインしてから村を散策するといいでしょう」

 

 赤ん坊と呼ばれるような年のこどもがすらすらと、普段使い慣れないような言葉をスムーズに淀みなく紡いでいく。リハーサルよりもずっと滑らかに、全くつかえることもなく言葉が響いていく。

不気味な子どもという演技をすればどうやっても勝てない。ならばエイジの中にある経験のギャップを不気味な何かとして感じてもらえばいい。つまりは演技ではなく、監督が使いたいと思った部分、それをそのまま見せればいい。それが十分に他者、特に大人からすれば気味が悪く見える。

 

(そうだ、お前は演じなくても十分に気味が悪い)

 

 エイジの視線はただ目の前の女優に注がれている。ただ世間話をするように微笑みながら。女優の身体がまだ赤ん坊ともいえる子どもから吐き出されるあまりに成熟した言葉と目の前の小さな体躯の違和感に息をのむ。

 

「カット、OKだ!」

 

 そこでシーンの撮影が止まる。目の前の女優がエイジの演技を褒めてくれる。ただなんとも演技と呼べるものではないとエイジは思っているので若干愛想笑いになってしまう。

その間にかなは監督の所に向かっていき、何かを話していたが、

 

「問題大ありよ!」

 

 かなの一際大きな声が響く。

 

「今のかな……、あの子より全然だめだった…」

 

そう言って泣きながら監督にもう一度と訴えている。演技への情熱、プライドがその叫び声からは感じ取れた。

 

 

 

「早熟、役者に一番重要な要素は何だと思う?」

 

 五反田からそう聞かれて、この世界に入って感じていることを素直に声に出す。

 

「センスと努力と人間関係?」

 

「半分くらい正解だ。まあ、結局はコミュ力だ」

 

 他の役者やスタッフに嫌われれば仕事は回ってこなくなると五反田は言う。確かに当然のことではある。ただそれを一桁才に求めるのは中々に厳しい話だ。だが今回はそれをかなに教えたかったのかもしれない、とエイジは思った。

 そして今回のエイジの演技は五反田の想像にぴったりはまった演技だとも言う。演出家の頭の中にある画を読み取ってくれる役者は貴重だと、それもまたコミュ力なのだと。

 

「お前は凄い演技よりぴったりの演技ができる役者になれ」

 

そんなアドバイスと共に五反田はエイジの頭をなでる。その言葉を心に刻み付けるとともに芸能界に入ったんだなとエイジは改めて実感するのだった。

 

 

 

 

 気まずい。

 現在帰りの車の中で、かなと二人で車の後部座席に座っているエイジの心中である。

 小さい子とはいえ事務所先輩にある意味恥をかかせる形になったので非常に声もかけづらい。

 

「名前…」

 

「はい?」

 

「あなたの名前」

 

 沈黙が続いていた社内でかなが口を開き、顔を上げ視線をエイジに向けて聞いてくる。同じ事務所で挨拶にも行ったのだが記憶にあまり残ってないらしいので改めて名乗る。

 

「月石エイジです。有馬さん」

 

「月石エイジ…、私のことは、かなでいい。敬語も使わないでいいわ!」

 

 どこか燃えるような目で有馬かなは宣言する。

 

「今日は負けたかもしれない。でも次は絶対に負けないから!」

 

 案外素直で根っこはいい性格をしているのかもしれない、そんなことを思いエイジは思わず微笑んでしまう。

 

「今日も演技で勝ったとは俺も思ってないけど、そういうことなら遠慮なく」

 

「ぐっ、むかつく顔!」

 

 子どもに敬語を使い続けるよりは楽でいい。それにやっと同じ所属としての認められたようなので、手を差し出す。

 

「今更だけどこれからもよろしく、かな」

 

 かなはその手を見て一瞬戸惑うがすぐに全力で握り返してくる。

 

「絶対に次は泣かせてみせるんだから」

 

 ふん、といって手を放して今日の脚本を睨み始めた。そんな負けず嫌いな様子にやはり役者として才能ある人間はそうじて負けず嫌いなのかもしれない。そう思いながらスマホを取り出し、B小町の最新MVを移動中に眺めるのだった。

 まだまだ道のりは遠い、エイジが知りたい情報はこの世界のもっと奥にあるかもしれない。

 





ということでゴロー先生は裸一貫ルートで頑張ってもらいます。
そして重曹ちゃんの後輩ルートです。

何がとは言いませんが色々禁則事項があります。


エイジ(ゴロー) ・現状真犯人情報持ってるの一人だからね。仕方ないね。

五反田監督   ・ある意味原作ヒロインといっても過言ではないでしょう。

かな      ・なんというか固定イベントでわからされた。





頭の中で組んでた希望なしのアクアルートの各章
1章 元天才子役は一般科
2章 恋愛リアリティーショーは血で花を咲かせるか
3章 土台が歪んだ2.5次元世界
4章 欠けた宝石
5章 星の光と命のヒカリ

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