鳶が獣を生み落とす   作:ヘビとマングース

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フウ 2

「あっしがこの辺りを案内してあげるよ!」

 

 元気に弾む声でフウが言い切った。

 トビが単独で滝隠れの里へ向かった直後、明らかにうずうずしている様子を隠せていない彼女は遊びたくて仕方ないという顔をしている。

 

 気分が落ち込んでいるナルトは気が進まないが、彼女に腕を引っ張られて強引に連れ出された。

 滝隠れの里周辺にあるフウの遊び場に案内されたのである。

 

「滝ィ~!」

「まあ……滝隠れの里だもんな」

 

 巨大な滝の前へ来た。

 滝つぼに大量の水が落下し、叩きつけられて轟音が鳴り響いている。少し離れた位置からでも迫力を感じずにはいられない光景だった。

 

「川ァ~!」

「そりゃまあ……滝があるんだし」

 

 森の中にある穏やかな流れの小川へ来た。

 巨大な滝とは一転して、不思議と落ち着く場所だった。

 水音は静かで、遠くにはこちらをほんの少しだけ警戒しているだろう野生動物が見える。

 

「秘密基地ィ~!」

「えぇ……」

 

 今にも倒れそうなボロボロの小屋があった。

 おそらく別の誰かが建て、いつからか使わなくなった物を勝手に利用しているのだろう。中を覗いてもほとんど物は置かれておらず、拾った石やどんぐりなどがある。

 

「あとね、あとね! あっしの友達を紹介するよ! 里の中ではまだこれから作ろうと思ってるんだけど、森の中ならたっくさん友達が居るんすよ!」

 

 そう言ってフウはナルトを連れて森の中を歩き回った。

 森に住む動物たちに次々声をかけ、親しげな態度で接する。

 逃げこそしないがリスに尻尾で手をはたかれたり、川辺で亀がのそのそ歩いたり、やれやれと言わんばかりの態度で大きな熊が座ったまま動かなかったりした。

 友達か否かは微妙なところだが、心底嫌われているというわけでもなさそうだ。

 

 最初は呆れていたナルトであったが、一緒に歩いている内に色々と思い出すものがある。

 幼い頃から孤独に苛まれていたナルトもまた、多くの時間を一人で過ごしていた。一人で遊ぶことには慣れていて、フウの喜びようを見て、日常を紹介されると、自分と重なる部分が多い。

 

 ナルトは本来、他者との繋がりや関わりを強く欲している人間だった。

 心から好意的に接してくるフウを前にして、少しずつ足取りが軽くなってくるようだった。

 

「オレも……もっとガキの頃からよく一人で遊んでた」

 

 ぽつりと呟いた声はひどく小さかったが、その言葉に反応してフウが勢いよく振り向いた。

 これまで気落ちした様子だったナルトの変化に、ただでさえ嬉しそうだった彼女が、満面の笑みでさらに嬉しそうにする。

 

「あっしと一緒だね!」

「うん。それって人柱力だからか?」

 

 ふと気になってナルトが尋ねると、フウはきょとんとした顔で小首をかしげた。

 

「うーん、どうなんだろ? あっしはあんまり考えたことないかな。確かに、あっしに七尾が封印されてること気にする人は居るっすけど」

「まあ……そりゃな」

「でもでも、あっしは七尾が封印されてるの、嫌いじゃないっすよ! 生まれて初めてできた友達だからね!」

 

 一切迷う素振りを見せず、考えもせずにフウは強く言い切った。

 明らかな違いだった。似ているようで大きな違いがある。ナルトは言葉を呑んで、真っすぐ見つめてくる彼女の目を正面から見つめ返す。

 

「七尾が友達?」

「そう!」

「お前、自分に七尾が封印されてること、なんとも思ってねぇのか?」

 

 そう言われて初めてフウが考える。

 腕を組んで小首を傾げ、彼女なりに真剣に向き合ったようだ。

 

「うーん。なんとも思わない、ってことはないけど。どーせあっしの中に居るんだし、仲いい方がいいでしょ! だから七尾に友達になってって言ったんすよ」

「ポジティブすぎだろ……里の奴らと友達になれねぇのは、七尾のせいなのに」

「そう? そりゃ~七尾のことは色々言われたりするけどさ、あっしが友達になりたいって気持ちを伝えられたら、人柱力でも友達ができると思うんだ」

 

 フウがそう言った途端、ナルトはハッとした顔を見せた。しかし彼女は気にせずに言う。

 

「シブキが色々言ってくるんすけどー、あっしはあっしのやり方で友達作ろうとしてるんす。でも中々上手くいかなくて……それこそさっきみたいな! あっしの楽しいコースを紹介してあげようとしたんすよ! なのにみんなに断られちゃって」

「いや……そりゃそうなんじゃねぇかなーって」

「え~っ⁉ 楽しくなかった⁉ でもでもっ、これからもっともっと楽しいのが――!」

「まだ終わってねぇのか⁉ 結構長かったぞ!」

 

 まさか、と驚愕するフウはそんなことを言われるとは微塵も思っていなかったようだ。

 彼女の遊び場は滝隠れの里周辺だが広範囲に及び、鍛えられた忍であれば疲弊するほどではないとはいえ、常人を連れ回すには過酷な道のりである。

 初めて指摘されたフウは動揺し、自身と周囲の考え方の違いを知って目を白黒させていた。

 

「あんなコース聞かされたら誰でも断るってばよ!」

「そんなぁっ⁉ あっしの楽しいとこいっぱい詰め込んだのに! だってだって、仲良くなるためには一緒に楽しいことした方がいいと思って……!」

「クマに会うとか普通にあぶねーってば! オレは最悪ぶっ飛ばせるから行ったけど! 普通の奴が行くはずねーだろ!」

「あの子は優しい子なんすよ! そりゃ、はじめましての時はあっしを食べようとしてたけど! 仲良くなったから今は全然……!」

「ちゃんと危険なクマじゃねーか! 誘うなってばよ!」

「かわいいのにぃ~!」

 

 まさか危険だと思われるとは考えていなかったようで、頭を抱えたり、腕をバタバタ振ったり、フウは自らの失態を知ってわーわー騒ぎ始めた。

 ナルトはそんな姿に呆れ、しかし、違和感に気付いた後にふと気付く。

 身勝手に突っ走って失敗して大騒ぎして。まるで自分を見ているかのようだ。

 

「そういえばシブキに危ないとか言われてたよーな……うわ~そういう意味だったのか! 滝隠れの近くは大体安全だから変だとは思ってたんすよ」

「そりゃそうだろ……崖とか山登ったり下りたり、クマとかクモとか、普通避けるぞ」

「うぅ~……あっ! じゃあ、安全だと思ってもらえばいいんだ!」

「お前そんな……ハァ」

 

 ナルトはため息をついた。だが、呆れてはいても見放そうとは思っておらず、思わず苦笑する。

 その顔を見てフウがにぱっと笑い、急に声色が明るくなった。

 

「ナルトも一緒に考えてよ! あっしの友達作りコース!」

「えぇ? なんでオレが……」

「あっしの友達だから! もっとたくさん友達作るために協力して!」

 

 辺りに響くほど大きな声で告げられた。本当にころころ表情が変わって落ち着きがない。

 昔から何度となく恩師から言われていたことを自分自身が思っている。

 変だな、などと思ってナルトは笑ってしまった。

 

 

 

 紹介したいところはまだまだたくさんある。

 そう言われて、ナルトは言われるがままにフウに連れられて歩いていた。

 振り回されていると感じているものの、だんだん彼女に慣れてきたところだ。ナルト本人は気付いていなかっただろうが、気質が似ているせいか最初からさほどストレスは感じておらず、戸惑いが徐々に消えていくと心地よささえ覚えている。

 

「滝隠れとその周りは何と言ってもこの大自然が名物で~、特に水がきれい! 名水って言われてる名所もたくさんあるんすよ。中には普通の人が中々行けないような場所も」

「ふーん。名水ってなんかいいのか?」

「そりゃいいっすよ! きれいでおいしい! あとは……なんか、成分とか、色々」

「お前多分わかってないだろ」

「失礼なぁ⁉ ちゃんとわかってるっすよ! 少なくともナルトよりぃ!」

「だってもごもごしてたぞ、今」

 

 先を歩くフウのペースに合わせて、歩いたり走ったり、時には木々を飛び移って進んだ。

 フウは天真爛漫な少女だった。

 よく笑い、よく喋り、考え方や生き方が似ている。不思議と彼女とは気が合った。

 

「あっ! ほらあそこ! あれが名水!」

「無視してんじゃん。やっぱり雰囲気で言ってるな」

「ほ~らっ! ちゃんと見る! あれが名水っすよナルト!」

「いでででっ⁉ やめろバカっ! 首折れんだろうが!」

 

 フウがナルトの首を掴んで強引に向きを変えさせようとしていた時、ふと吹いてきた風を体で感じてフウの表情が変わった。

 これまでにあまり経験のない感覚。だがはっきりわかることもある。

 

「誰か来るっす! また旅人かなぁ」

「え? なんでそんなことわかるんだってば」

「ふふーん、あっしはそういうのがわかるタイプの忍なんすよ。感応タイプ? かん、かんさ……感なんとかってやつだから!」

「あぁ、それってあれだ。感……なんとかタイプのやつな」

 

 風は空気の動き。ある一定の距離であればフウは気配を感じ取ることができる。チャクラを持つ相手ならば尚更。

 誰かが高速で自分たちの下へ向かってきているのを感じ取っていた。

 相手もフウ同様に感知タイプである、という考えには至らず、彼女は呑気に「もう一人友達が増えるかも」としか思っていなかった。

 

「どんどんこっち来てるよ! 速いはや~い!」

「知ってる奴か?」

「ううん、知らない!」

「ってことは……」

 

 あっけらかんとしているフウとは異なり、ナルトの全身に緊張が走る。

 警戒したのは木ノ葉隠れの里の忍。自分を殺しに、追ってきたのかもしれない。もしそうなったら戦う他ないのだろうが、そもそも出会いたくないというのが本音だった。

 

 傍にはフウが居る。殺し合いを見せたくない。

 彼女を連れて逃げるべきか、と逡巡していると、ナルトも何者かの接近を感じた。

 

 ガサガサと吹き飛ばすかのように草にぶつかりながら走ってくる。

 それはただの直感だった。だが確信に近いと感じている。

 向かってくるのは間違いなく敵だ。

 ナルトはのしかかってくるフウを押して後ろへ下がらせて、警戒してチャクラを練り始める。

 

「どしたのナルト? 顔怖いっす」

「バカっ、なんかヤバそうだろ……!」

「イィヤッホォオオオオオオオオオオウッ‼」

 

 草むらを突き破って、勢いよく人影が飛び出してきた。

 大鎌を振りかぶった飛段が、空中で二人の姿を視認した。

 その姿を見た途端、ナルトは驚きながらも敵だと強く認識し、フウは驚愕して混乱した。

 

「若くて活きが良いのが二体! ジャシン様に捧げたァい‼」

「なんだってばよお前! 変な奴!」

「おもしろそー! あっしの友達になってよ!」

「言ってる場合かァ⁉」

 

 危険を感じ、咄嗟にフウの首根っこを掴んだナルトが後ろへ跳んだ。

 急接近してきた飛段は一切躊躇わずに大鎌を振り抜き、二人が一瞬前まで居た場所を薙ぐ。脅しなどではなく本気で切り裂こうとしていた。

 着地した直後、ナルトはフウを抱えて背を向け、迷わず駆け出す。

 

「うひゃ~っ⁉ なんっすか一体!」

「敵だろ! どう考えても!」

「おいおォい……どこ行くんだよ。あ? ジャシン様に捧げさせろよォオオオオッ‼」

「逃げるぞ!」

 

 戦うことを迷ったというより、関わること自体がまずい相手だ。ナルトは深く考える前に突発的にそう判断して走り、全力で飛段から離れようとする。状況を理解できていなくて混乱しているらしいフウは、今はまだ手放せそうになく、抱えたまま逃げる決断をする。

 それを見た飛段は激高しながら跳び、迷わず全力で追い始めた。

 

「新しい遊びじゃないよね⁉ あっしら、ひょっとして殺されそうになってる⁉」

「そうだろ! 誰だってばよ、あいつ!」

「知らなーい! あっし会ったことないよ! 恨まれてないし!」

「ってことはじゃあ……」

 

 嫌な予感がしてナルトの表情が曇る。

 顔見知りではなく、恨みを買った覚えもないなら、自分たちが狙われる理由は一つしかない。

 

「オレたちが人柱力だからか……!」

「えーっ⁉ それで殺されそうになるんすか⁉ ほんとに⁉」

「わっかんねぇけど! それぐらいしかないんだからしょうがねーだろ!」

「あっし命狙われるのなんか初めてっす~!」

 

 木々と草を避けてナルトが森の中を疾走する。脇目も振らずに直進し、ひたすら遠ざかることだけを考えていた。

 初動の差で少なからず距離ができているはず。このスピードを保てば逃げられる。

 そう思うナルトがぞくっと悪寒を感じるのと同時、後方を見たフウが鋭く叫んでいた。

 

「ナルトォ! 後ろぉ!」

「んぇ……⁉」

 

 後ろから来た飛段が地を蹴り、大鎌を振りかぶりながら追いついてくる。

 まずい、と感じるよりも早く体が勝手に動いていた。

 抱えていたフウを全力で上へ放り投げ、悲鳴は聞こえるが攻撃を受けないよう逃がして、ナルトは咄嗟に屈みながら両手で印を組む。

 

 頭上を鋭利な刃が通り過ぎると同時に術を発動。

 ほんの一瞬遅れるだけで死ぬ。

 練り上げていたチャクラを惜しまず使い、初手から全力を繰り出した。

 

「多重影分身の術!」

「おおっ!」

「あぁ⁉」

 

 ボボンッ、と白煙を伴って、実体を持つナルトの分身が数十体現れた。

 ナルトが最も得意とする忍術であり、発動まで数秒もかからない。さらに近接戦闘はお手の物。数の利を得たことで、ナルトは逃げるのをやめて飛段との戦闘へ挑む。

 

「お前っ……いきなりなんだってばよ!」

「すごいっすナルト! こんなに居たら絶対――!」

「ウザってェ! 分身に興味はねぇんだよォ!」

 

 ナルトの影分身によって取り囲まれ、常人であれば絶体絶命の状況だと思うだろう。しかし飛段はまるで怯まず、危機感など覚えていなかった。

 彼はあまりに戦闘に慣れていた。軽く跳んでぐるりと回転し、器用に大鎌を振り回して、すかさず飛び掛かってくるナルトたちを軽々と両断する。

 着地すると再びナルトを狙って駆け出して、残った影分身は気にせず大鎌を振りかぶった。

 

 ぎょっとするナルトが拳を握って迎え撃とうとする中、フウの行動がそれを許さない。

 友達を傷つけようとする飛段の姿にむっとして、ようやく意識が切り替わったのだ。

 フウはナルトを守るため、空中に居ながら何にも触れずに動いて彼へ向かう。

 

「そらそらァ! 血をよこせェ!」

「あぶなーいっ!」

 

 影分身が飛段を遅らせたことで辛うじて間に合った。

 抱きつくようにしてナルトの体を掴み、今度は逆にフウが彼を運んで助ける。大鎌は空を切ってナルトを切り裂くことができず、手応えの無さに飛段が苛立ちを見せた。

 

「チィ、またァ……!」

「きゃっほー! 初めて役に立ったっす~! やったね七尾!」

「おまっ、それっ……なんだってばよ⁉」

 

 助けてもらったナルトだが、お礼を言う前に彼女の変化に驚きを隠せなかった。

 フウの腰の裏から虫のような一対の(はね)が生えている。ブーン、と目立つ羽音をさせて、素早く動かすことで宙を飛んでいる。間違いなく人間の肉体にはないものだ。

 何らかの術であるのは間違いなく、嬉しそうなフウの発言も気になった。

 

「七尾の翅っすよ! あっしと七尾は友達だから借りてるんだ!」

「はぁ? 友達って……本気かよ」

「とにかく一旦逃げよー! 退却~!」

「なにぃ⁉ おいっ、逃げんな! お前らは生贄に捧げるって言ってんだろコラ!」

 

 翅を動かして飛行し、フウはナルトを抱えて巧みに木々を避けながら飛段から離れていく。

 当然の如く飛段が追おうとするものの、咄嗟にナルトがさらに影分身を生み出し、彼に殺到して足止めしようとした。

 

「くっそ~、また何がなんだか……! とにかく敵だな! ぶっ倒せばいいんだな!」

「協力っすね! コンビネーションっすよナルト! あっしら二人なら大丈夫!」

「お前ずっと能天気だなぁ! 変だとか思わねぇのか!」

「思ってるっすよ! 命狙われるなんて初めてだし! でもくよくよしてられないっす!」

「あ~もうっ! やるぞフウ! こんなとこで死んでたまるか!」

「了解っす!」

 

 一旦退却する最中、ナルトが投げやりに戦闘する決意を固めると、フウは一切迷わずに同意して笑顔を見せた。

 飛段の目的をわかっていない状態だが、戦わなければ殺されてしまう。

 せっかく生き残ったのだ。危機に瀕したことで反射的に死んでたまるかという強い気持ちが湧き上がってくると、ナルトは目の中に以前のような強い光を灯していた。

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