鳶が獣を生み落とす   作:ヘビとマングース

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うずまきナルト 2

 外へ出て、木ノ葉隠れの里から少し離れているが火の国に居ることを聞かされた。

 すでに夕刻。太陽が海へ沈もうとしている。

 その光景を崖の上から眺めるナルトはいつになく真剣に考えていた。

 

「オレが嫌われてるのは知ってるけど……でもさ、やっぱ帰らねぇと」

 

 ぽつりと呟かれた言葉を、少し離れて後方に立つトビは静かに聞いていた。

 しばらく海と夕日を眺めていた。その間に彼なりに考えていたのだろう。出された答えは、やはり里に帰るという選択。危険だと伝えられたのだが意見を変えるつもりはないらしい。

 振り返ったナルトはいつもの如くにししと笑い、すでに吹っ切れた様子を見せた。

 

「オレってば、サクラちゃんと約束したからな。サスケを絶対連れ戻すって。今回は失敗したけどまだ諦めてねぇってばよ。あんにゃろー、絶対大蛇丸のところから引きずり出して、今度こそぶん殴って連れ帰ってやるんだ」

「そうか……そうだろうな。お前がそう決めたのなら、止めはしない」

 

 引き留めようともせずトビはそう言う。神妙そうな声を出していたものの、考える素振りさえ見せなかったところを見ると、そうなるだろうと予想していたのかもしれない。

 彼には死にかけたところを拾ってもらっただけでなく怪我の治療をしてもらった。警戒など微塵もしていないナルトは素直に笑顔を向けていた。

 頷き、彼の意見を聞いて、少し思案した様子のトビはナルトを見て言う。

 

「わかった。一緒に来てほしかったが、お前は木ノ葉隠れの里の忍。お前自身がそれを望むなら多くは言うまい」

「ありがとう。トビには助けてもらったから、なんかあったらすぐ言ってくれよ。恩返しになんでも手伝うからよ!」

「ああ。だが、せめて傷を癒してからにしたらどうだ。九尾のチャクラの影響で傷の治りが早いとはいえ一時は死にかけたんだ。無理をすると万が一があり得るかもしれない」

「でも、誰にもなんも言ってねぇし……サクラちゃんとかが心配してるかも」

「それなら俺が一報入れておこう。部外者とはいえ、木ノ葉の忍を保護したことを伝えれば問題行動とは思われないはずだ。事情が事情だしな」

「本当か? うーん……」

 

 ナルトの態度からは、本当にいいのか? という迷いが見て取れた。

 仮にトビを怪しんでいれば迷うことなく逃げ出していただろう。しかしそうしなかった。

 彼への認識はすでに固められている。博識で、事情の理解があり、頼れる大人。なぜ知っているんだろうと思いはしたが、彼には大きな目的があって、そのために世界中の情報を集めていると聞かされれば、ああそうかと納得していた。

 

「オレが帰ったら、トビはどうすんだ?」

「今まで通りだ。俺の計画のために動くとも」

「……また一人になんのか?」

「そういうことになるだろう。まあ、慣れているさ。孤独も、己一人で生き抜くことも」

 

 そう聞かされてナルトが逡巡する様子を見せる。

 目覚めてからこれまで、様々な話を聞いた。何らかの目的のためにトビが一人で努力していることはわかっている。このまま置き去りにして、自分だけ仲間の下へ帰るという状況に罪悪感を覚えずにはいられなかった。

 

 彼には彼の事情があって、ずいぶん忙しいようで、木ノ葉隠れの里へ行くつもりはないらしい。しかし送ってくれるとは言っていた。

 頭を使うのは得意ではない。しかしナルトは考えた末、包帯が巻かれた自分の手を見た。

 

「オレってば、九尾が居るせいで他人より怪我の治りが早ぇし……」

 

 決断した。迷いなどない。

 トビへにかっと笑ってみせて、ナルトはほんのわずかにだけ考えを変えた。

 

「じゃあさ、ちょっとだけ。怪我が治るまではここに居ていいかなぁ?」

「ああ、もちろん。そうしてくれると俺も助かる」

「へへっ。トビはさぁ、初めて会ったけどオレのこと助けてくれたし、オレの中に九尾が居るって知ってて怖がらない珍しい奴だ。だからさ、だからさ、これからも仲良くしてーんだ」

 

 トビはすぐに頷いて同意した。

 その仕草だけでナルトは嬉しくなり、彼とは上手く付き合っていけそうだと思った。

 

 

 

 

 

 呻き声が響く暗い一室に忽然と人が現れた。

 看病をしていた薬師カブトは驚き、咄嗟に警戒する一方、大蛇丸は平然と受け入れる。

 

「無遠慮な男ね……寝所に入れるほど気を許したつもりはないのだけれど」

「警告代わりだ。お前を野放しにしておくほど愚かではない」

「ふふ、そのようね。要件を聞きましょうか」

「腕を治させてやる」

 

 トビの発言に大蛇丸が眉を動かした。汗をかいて呼吸は乱れ、余裕がない状態であったがその発言は聞き逃せなかったようだ。

 特殊な術を施した包帯を何重にも巻いた両腕は、今や自分の意思で動かすことができない。それどころか絶えず激痛が走り続ける。まるでそこだけ自分の肉体ではないかのように。大蛇丸はその苦しみに耐え、薬物や忍術を用いて緩和させようとしていたがそれさえ効果は薄く、なりふり構わぬほどに追い詰められていた。

 

 治させてやる。

 今の大蛇丸にとってこれほど救いとなる言葉はない。

 当然、無償でというわけもない。対価を払う必要があることは言われずとも察していた。

 

「何か見つけたようね。それとも元から知っていたのかしら?」

「うずまき一族については?」

「もちろん知っているわ。末裔が一人だけ手元にある。人並外れたチャクラを持ち、強固な封印術に長けた閉鎖的な一族よ。情報は少ない」

「木ノ葉隠れの外れにうずまき一族を祀る場所がある。結界が施されていて正しい手順を知らなければ入ることはできない。が、そこならばヒントはあるはずだ」

「そうかしら。そこなら私も知っている。“屍鬼封尽”は特殊な封印術で、文献は残されておらず解術の方法も伝えられていない」

 

 すでに知っているという物言いで大蛇丸が鼻を鳴らす。世界中へ諜報員を放ち、絶えず情報収集を行っているため情報戦に長けており、非常に知識が多い。大蛇丸が危険視されるのは自らの部下を大勢持ち、数多の術の研究を行い、世界中の情報を保有しているからである。

 それほど簡単な話ではない、と突っぱねられたが、声色を変えずにトビは淡々と語る。

 

「“屍鬼封尽”はうずまき一族が編み出した術。四代目火影は妻から教わっていたようだ」

「うずまきクシナ……跳ねっ返りのうるさい女ね。チャクラを練るのは下手な癖に強大なチャクラを持っていた」

「元来、うずまき一族は平穏と一族の規律を重んじ、外交や外敵を嫌い、渦潮隠れの里は閉鎖的な環境にあった。土地に根付くことを好んでいたという」

 

 ぴくりと眉が動き、反応があった。

 何かを察したことは間違いない。

 

「規律の一つとして、封印術には対となる封印術の解が作られる」

「文献には残さないはずよ。全ての術が人から人へ受け継がれてきた」

「確かにそうだ。だがうずまき一族は千手柱間の仲間として木ノ葉創設に関わっている。渦潮隠れを基盤とした一方、唯一拠点を構えたのが木ノ葉だった。そして“屍鬼封尽”は最も古い時代に生まれた術」

「あそこも散々調べたわ……」

「地下の隠し部屋もか?」

 

 大蛇丸が沈黙する。

 自らが調べたわけではない。自らの右腕であるカブトを派遣したわけでもない。

 おそらくは二重構造。一つ目の結界を掻い潜って中へ入っても、二つ目の結界が最重要の情報を隠しているのであろう。

 ふうとため息をついて、態度を軟化させた大蛇丸は肩をすくめた。

 

「礼を言わなきゃいけないわね。それで、あなたが求めるものは?」

「ナルトを木ノ葉に戻すのを避けたい。無駄を省略し、俺が教育するつもりだ」

「あらそう。簡単よ。不信感を煽ればいい」

「戦力はあるか?」

「それよりもっと面白いものがある。要は木ノ葉と仲違いさせればいいわけでしょう? どうせなら私も利用させてもらうわ」

 

 トビは頷き、敢えて否定しなかった。

 はっきりとした目的がある。想像するのは難しくない。ならばそれを利用するのみ。

 

 

 

 

 

 重苦しい雰囲気の中にあって、突き刺さるような緊張感が肌をざらつかせる。

 火影の補佐役としてその場に居合わせたシズネは口を開くこともできずに身を小さくしていた。

 

「捜索は難航。やはり奪われたと見て間違いないだろう」

 

 突き刺すように放たれた言葉に、五代目火影の綱手(つなで)は緊迫した表情を崩さなかった。

 木ノ葉隠れの里の上役が集まった一室。里のトップは火影であることは間違いないが、だからといって火影の意思一つで里が動くわけではない。里を守るため、存続させるため、多くは古くから生き残る人材が火影と共に里の在り方を決める。

 

 綱手は心底気分が悪かった。

 議題は、当然の如く木ノ葉の人柱力が居なくなったこと。許可なくどこかへ失踪してしまった事実についてだった。

 里を守るため、常に監視しておかなければならない存在が消えたのは大きな損失であり、同時に危機でもある。

 原因の究明、責任の所在、今後の展望。話すことは多く、数多の思惑が絡んでいた。

 

「九尾の小僧に自由を与えたのが間違いだった。訓練を施し、里内に留めるべきだったのだ」

 

 長らく口を閉ざしていた志村(しむら)ダンゾウが口を開く。

 室内は一気に静まり返り、誰しもが賛同も反論もせずに口を閉ざす。

 真っ先に反応したのは、反抗的な目をする綱手だった。

 

「うずまきナルトは一介の木ノ葉の忍だ。人柱力であろうがなかろうが、里の中に閉じ込めておくのは成長の妨げになるのみ。任務へ出すのは木ノ葉の未来のためだ」

「成長などと生ぬるい。人柱力の用途は戦争の抑止力。里になければ他里に奪われる恐れがあり、不在というだけで騒乱の危機となり、仮に奪われでもすれば里の崩壊へ繋がる」

「用途とは、聞き捨てならない。人柱力は兵器ではなく人間だ。自由意志を尊重して何が悪い」

「人間である前に忍であり、中に尾獣を封じている。ただの人間として扱うことが小僧のためだとでも思っているのか?」

 

 空気はますます張り詰めている。いつしか綱手とダンゾウの睨み合いとなっていた。

 

「何が悪いと言ったな。そう……悪いとも。九尾を腹の中に押し込まれた小僧が里の人間からどう見られているかを理解していないわけではあるまい」

 

 一言だけでその場に居た全員が察する。

 うずまきナルトは里において、体内に封じられた九尾の狐と同一視され、迫害されていた。

 かつて九尾を封印する直前、木ノ葉隠れの里は九尾の攻撃によって甚大な被害を被り、大勢の死者を出した。怒りを抑えられない人々は憎む対象を求め、幼いうずまきナルトがそれと知り、三代目火影の言いつけがあればこそ命を奪おうとはしなかったものの、腹の内に湧き上がる感情を隠そうとはしなかったのである。

 

 綱手は木ノ葉隠れの里で忍として活動した後、心に傷を負い、自ら隊を脱退すると数年放浪の旅を続けた。里の状況を知らない数年があった。

 火影就任のため帰った後、すぐに状況に気付いたのは確かだ。

 

「三代目の甘さが招いた事態だ。半端に感情を与えるから傷つける。幼き頃から事情を伝え、感情を殺すべく教育すべきだった。であればアレは苦しむこともなく己の本領を全うできた」

「あんたはっ、森を見て木を見ていないっ。戦争を回避して軍縮が進む世の中の状況で、今もなお殺し合いを求めてるのか?」

 

 声を荒らげかけたが必死に自分を律して、綱手は大きく息を吐き、落ち着いて話そうとする。

 

「里とは人であり、里の存続に必要なのは代々受け継がれる“火の意志”を継ぐことだ。それがおじい様たちが最も望んだことだろう。あんたは外敵を討ち滅ぼすことには長けているが人を育てる力はない。忍はただ人殺してりゃいいってもんじゃねぇんだぞ!」

「では聞こう、五代目火影。木を見ていたあなたはうずまきナルトへの迫害を認めていたと、そういうお話でよいか?」

 

 ビキリ、と明らかに額へ青筋が入った。

 怒りを露わにする綱手に対し、ダンゾウはあくまでも冷静で、淡々とした口調を続ける。

 

「誰がっ、そんなことを……」

「九尾を封じられていたガキが、里の者に嫌われ、こいつのせいでと憎悪をぶつけられる。そうすれば里を動かす者たちには不満が向けられない。スケープゴートとしてとても優秀だ」

「誰がそんなことを言ったァ‼」

「ではなぜ改善しなかった。状況を知りながら静観して、手出しせぬなど愚の骨頂。なぜ怒る? それで五代目火影として信用を得たのだろう。心の内を暴かれて恥じらいでも覚えたか?」

 

 綱手が拳を握ったのが誰の目にも確認された。

 

「うずまきナルトを追い詰めたのはお前と猿飛ヒルゼンだ。貴様らはうずまきナルトを苦しめたから火影として認められたのだ」

 

 最後の最後まで我慢をした。しかしもう限界だった。

 綱手は猛然と立ち上がり、考えもせずに腕を振り上げる。だがダンゾウには届かず、そうなるであろうと構えていたシズネが背後から取り押さえた。

 

 ガタンと椅子が倒れる音。

 室内は嫌に静かで、誰も口を挟まず、身じろぎさえせずに状況を見ていた。

 

「綱手様っ! いけません、それは……!」

「お前は、いけしゃあしゃあと、よくもそんな……!」

「わしもお前も忍。今から殺し合いでもするか?」

 

 人並外れた力で殴られていたかもしれない。そうした状況下でダンゾウは平然としていた。シズネの行動を期待していたわけでもないだろうが椅子に座ったまま微動だにしていない。

 眼光鋭く、怒りを放出する綱手に一歩も引かずに睨み返している。

 

「森を見て木を見ていないと言ったな。ああそうとも、そうなると決めたのだ。わしは里を守るためならなんでもする。木を見ているようで何も見ていない、何も成し遂げられん貴様らのような者が居るからだ。人情で忍の世を動かせるなどと思うな」

「お前の行動の何が正解だァ! 忍の世を乱すのはお前らみたいな策謀家だろ! 世を変えるために人を信じる、その可能性にすら気付かないのがお前だろうがっ!」

「もうそろそろいいだろう。二人ともやめよ」

 

 白熱する二人の間に割って入ったのはご意見番のうたたねコハルだった。

 同じくご意見番である水戸門(みとかど)ホムラもまた口を開く。

 

「互いに言い分はあるだろうが今は言い争いをしている場合ではない。里の運営についてはまた別の機会でいい。それよりもまず優先すべきは人柱力の確保だ」

「物みてぇな言い方すんな! ナルトは人間だ!」

「静まれ綱手。ダンゾウが人命を軽視し、時に危うい場面があるのは確かだが、人情だけで世は動かんのも然りだ。これまでうずまきナルトが傷つけられることもなく過ごしてこれたのはヒルゼンとダンゾウの庇護があってのもの。一時の感情で拳を出すな」

「お前は昔から人の話を聞かず、カッとなる。些細な一振りが里を滅ぼすことを知れ」

 

 老人たちの物言いに怒りは治まらず、しかしこのままでは話が進まないとも理解する。

 深く息を吐き出して自分を抑え、綱手は姿勢を正した。

 淡々としたダンゾウ、老獪で利益重視の上役が心底気に入らない。自分が感情的であることは理解しているが、だからこそ彼らのようになりたくないとも思う。

 

「まずは人柱力の所在を調べ、連れ戻さねばならない。不在が知られればそれだけで何かしでかす輩がいるやもしれん。平和だと言いはするが、つい先日に大蛇丸による襲撃があったばかり。この機を狙っている者が居てもおかしくはない」

「砂隠れは同盟しているとはいえ、風影は不在で状況は落ち着いていない。霧隠れの五代目水影はおいそれと戦争を求める性格ではないが他里の隙は見逃さん。最も警戒すべきは岩と雲だ。連中は自里の強化と戦争を求めている」

「同盟を結ぶ滝は戦力の低下が著しく、若い忍が育っておらずに七尾の人柱力を抑えられていないと聞く。もしもの場合は当てにならん」

「今回のことでもし何かがあれば、うずまきナルトの立場がさらに悪くなるぞ。人の口に戸は立てられんのは我々はすでに知っているはず。そして彼がはけ口にされているのもまた確かだ」

 

 どこまでも独善的な考えだ。反論したい気持ちはあったが、前に進めるために綱手は言った。

 

「どんな状況であれナルトは逃げ出すような男じゃない。何者かの干渉があったのは間違いないと私は見ている。自来也が調べている抜け忍集団……“暁”の存在もある」

「さて、里に嫌気が差したのでなければよいのだが」

「ない! 私が認めた男だぞ。今頃逃げ出すなら、もっと早くに逃げているはずだ」

 

 ダンゾウの呟きに一喝して返し、綱手は自信を見せた。

 彼らが知らないことを知っている。ナルトに対する信頼がある。故に迷わない。

 

「どこへ行って何をしていようと、ナルトは必ず帰ってくる。問題なのは何者かがそれを阻止しようとしている場合のみだ。捜索隊を増やして何としても行方を発見する。それまで里の者にはこのことを知らせるな」

 

 綱手の発言に反対意見が出なかったのは、問題を先延ばしにしたからなのだろう。

 本当に言う通りになるのか見てやろう、とでも言うような、気持ち悪い空気が流れていた。

 

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