鳶が獣を生み落とす   作:ヘビとマングース

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うずまきナルト 4

「尾獣を模倣した人造生物兵器“零尾(れいび)”。人間に憑依することで命を繋ぎ、人間のチャクラと負の感情を元とするエネルギーを喰らって生きるそうよ」

 

 大蛇丸が暗い一室を見下ろしながら呟く。

 実験と称して黒い不気味な液体を浴びせられた男が、広い部屋の中央で悲鳴を発していた。

 意思を持つらしい液体はゾゾゾと動き、男の体に纏わりつくと体内へ入り込み、全身を包み込んだ後にようやく自らの姿を象る。

 

 巨大で、てらてらと鈍く光るタールのような黒い胴体。蛇に似た外見だがその体は太く大きく、体の至る所が蠢いていて、そこかしこから触手が出せた。そして何よりも目立つのは“零”と書かれた白い仮面が頭部に装着されていること。

 非常に不気味で謎めいているが、内包するチャクラは実験に用いられた男のそれとは比べ物にならないほど強力であると感じた。

 どうやら元となった人間のチャクラのみで強さが決まるわけではないらしい。

 

「本物の尾獣には遠く及ばないけれど、誰に憑依させても一定以上の結果が得られる。そういう意味では使い勝手はそこまで悪くない。こちら側が制御できない点を除けば」

「複製したのか?」

「まさか。こんなものたくさん持っていても意味はないわ。まあ、誰かに憑依させて適当に放り込むだけでも十分混乱は起こせるけれど、私の趣味ではない」

「フン、嘘か本当か。だがこいつは使えそうだな」

 

 トビは声色を少しも変えずに呟き、頭の中ではフッと沸いて出てくるアイデアがあったようだ。

 

 

 

 

 

 人造生物兵器、零尾。

 強大なチャクラを持つ尾獣とは異なる、尾獣に対抗するために生み出されたというその生物は、他者に憑依することで初めて生を得て動き出す。

 憑依したのが人間ならば、宿主が持つチャクラと、宿主が抱く負の感情を自分のエネルギーとして活動し、想いが強ければ強いほど強くなるという性質を持つ。

 

 単体では尾獣に敵うはずもない欠陥品である一方、憑依した人間の感情が強ければ、或いは尾獣にすら勝つことができるのではないか、とさえ言われた兵器。

 それが突然、木ノ葉隠れの里の中央へ現れた。

 

 戦闘は即座に巻き起こり、里の内部は騒然となる。

 周囲からの敵意を感じ取り、零尾は巨大かつ長い体をくねらせて暴れ、全身至る所から触手を伸ばすと振り回し、敵意を持つ忍を殴って吹き飛ばす。

 少しの身じろぎがまるで災害。確かに尾獣を相手取る程度の脅威は十分にあった。

 

「市民の避難を急がせろ! 他所へ移動させるな! 上忍で囲んで撃破を急げ!」

 

 素早く状況を理解した綱手が迷わず指示を出す。

 これは、まず何が起きたかを理解するとか、情報を収集するとか、戦闘を避けて捕獲するなど、言っていられる相手ではない。放置しておけば木ノ葉隠れの里が一夜もかけずに滅ぼされる。そう思うほどの脅威を感じ取っていた。

 

 零尾は静かに、しかし確実に動いていた。

 何を目的としているかわからない沈黙。どうやら声を発する器官はなさそうだ。

 ただ攻撃してきた事実は変わらない。アレは確実に外敵だった。

 

「こいつ、一体どこから……」

「詳しい話は後回しだ。おそらく押さえつけて止まるもんじゃないぞ」

 

 拳を握ったガイの隣で、カカシは一本のクナイを手にした。

 

「かといって話し合いも無理そうだな」

「ああ、倒すしかない。あの仮面を狙うぞ」

 

 彼らが戦意を向けた矢先、多くの忍がそうであっただろうが、倒すために武器を構える。

 その時、誰よりも早く攻撃を始めたのが零尾だった。長く伸ばした触手で付近の忍をまとめて吹き飛ばし、風を切って振り回すと建物まで破壊する。鞭のようにしなる触手は、液体かの如く蠢く表面の質とは異なり、材質を問わずに触れた物を強引にへし折った。

 遠くに立ってその光景を見たカカシとガイは表情をしかめ、危機感を覚えて急ぎ駆ける。

 

 反応は素早く的確。自身に向けられる敵意は鮮明に感じ取っている様子だった。

 すかさすガイとカカシに向かって触手が伸び、走りながら避けることになる。

 当たらずとも気にせず、辺りの地面や建造物がほんの少し接触するだけで吹き飛ばされていた。

 

 伸縮自在、かつ破壊力は抜群。顔と思える部分は白い仮面のみであり、視線で攻撃の軌道を読むことはできない。当然、次の行動を読むことも不可能だった。

 幸いなのは狙い所がハッキリしていることだ。黒く流動している不気味な液体は、至る所から触手を伸ばすことができる軟体。一方で白い仮面は明らかな固体。要点であることは間違いない。

 

 カカシが素早く何枚もの手裏剣を投げて仮面を狙った。

 当然と言いたげに零尾は触手を伸ばし、盾代わりにしてその全てを受け止める。痛みを覚えた様子は皆無。それどころか、触手を振ると取り込んだ手裏剣を辺りへ投げた。

 

 まさかの攻撃であったが掻い潜りながらカカシとガイが一気に接近する。

 時を同じく、アスマと紅がサポートするためすぐ後ろについた。

 他の忍もまた大勢が零尾へ攻撃しようと動き出す最中、全身に敵意と殺意を浴びて、即座に反応した零尾はぐにゃぐにゃと形を変える。

 

 長大な体でとぐろを巻き、その場で激しく回転した。そうしながらも数百を越えるであろう触手が伸ばされていて、周辺にある物を無慈悲に殴り飛ばす。

 人と瓦礫が軽々と飛び、里の風景が一瞬にして変わってしまった。

 戦う者も目撃しただけの者も、大勢の人間がパニックに陥る。あまりに突然の事態に、順応できていたのはほんの一部だけのようだった。

 

「まずいぞカカシィ!」

「わかってる。援護するからお前が一撃叩き込め」

「よし!」

 

 カカシと紅が手裏剣やクナイを投擲し、牽制を行う最中、ガイとアスマが接近を試みた。

 その他の忍も各々が攻撃を行い、数多の忍具と術が殺到する。

 

 零尾は、感情や意思こそ感じさせないが闘争本能はこれ見よがしに表しており、防御と回避を的確に行いながらも攻撃の手を抜かない。

 敵は一体。しかし吹き飛ばされるせいで味方が入り交じり、非常に混乱した戦場だった。多を相手にすることに適した能力であるため、無数の触手が人数差など物ともせず、一方的に木ノ葉隠れの忍を蹂躙している。

 

 一瞬の隙をつき、攻撃を回避しながらようやく到達した。

 全力で地面を蹴って跳んだガイは、零尾の仮面を狙って飛び蹴りを行う。投げられた手裏剣よりも速く、真っすぐに標的へ向かっていった。

 

「ダイナミック・エントリー‼」

 

 スピードに乗っていたためか、反応を許さずに蹴りが直撃する。しかしその直前、狙った通りの位置にあった仮面がわずかに動いた。明らかに避けるための動作、ガイの足は黒い胴体にぐちゃりと直撃し、ダメージを与えた様子はなく、足先がわずかに埋まって囚われる。

 攻撃から一転、次は自分が攻められる番。

 伸びてきた触手が振り下ろされ、咄嗟に腕を交差させて防御を行い、直撃したガイは地面へ叩きつけられた。

 

「ぐはぁっ……⁉ んぬぬっ、なんの!」

「助けはいらねぇよな!」

 

 自らのチャクラで刀を作り、触手を切り捨てるアスマが声をかけた。

 飛び退り、すかさず体勢を立て直したガイが再び走る。

 

「無論だぁ! こんな程度では引き下がらんとも!」

「ああ、だろうな。お前に器用さは求めてねぇから、ぶっ飛ばせ!」

「任せろぉ! 木ノ葉剛力旋風ッ‼」

 

 再び飛び掛かり、全身を使った回し蹴りが零尾の体を打つ。流動体の体は蹴りの衝撃で一部を剥がすことには成功するも、やはりダメージを与えたという印象を覚えない。分離させた肉片ですらすぐ集まってきて、合体すると元の外見に戻ってしまう。

 よほどの衝撃を与えない限り回復し続けてしまうようだ。ガイの表情が曇った。

 

「チィ、体術では効果が薄いか……!」

「いや、そうとも言い切れない」

 

 代わるようにして前へ出たカカシが、雷を纏わせた右手を突き出した。伸びてくる触手を側面から千切って宙へ飛ばし、握ることで雷で焼く。

 黒焦げになった零尾の肉片は動かなくなって本体に戻ることはなさそうだ。

 

 ただ本体から引き剥がすだけでは効果はない。だが、死ぬことのない生物ではないのだ。

 元より体術しかできない忍ではないが、熱くなりやすい部分があるのは確かだった。しかしだからといって体術を基本として戦闘へ臨むガイが太刀打ちできない相手などではない。

 カカシの行動と分析により、周囲で確認した忍たちが顔つきを変える。

 

「カカシ! 部隊を指揮しろ! 俺は奴の肉体を剥がすぞ!」

「よし」

 

 市民の避難は徐々にだが進んでいる。零尾の攻撃範囲が広く、数メートル離れていても危険であるため時間はかかっている様子とはいえ、火影の綱手を筆頭となって急がせていた。

 指示を出せる人間が居ないわけではない。ガイやアスマ、紅がしてもおかしくないのだ。しかし周囲の忍が期待を込めてこちらを見ているのを感じ取っている。

 考えている暇はない。一瞬の迷いが勝負を分ける。

 カカシが頷き、素早く指示を出したことで、多くの忍が部隊としてまとめられていった。

 

 

 

 

 

 痛い……。

 

 なんで、こんな……。

 

「わからんか?」

 

「皆お前が嫌いなんだ」

 

「憎くて殺したくてたまらんのだ」

 

「お前は、里の人間を大勢殺した化け狐だからだ」

 

 ……オレは。

 

 オレは何もやってねぇ。何も知らねぇ。

 

 それは、お前がやったことだろうが。

 

「そう思うか?」

 

「里の奴らがそう思うと思うか?」

 

「こいつらはお前を化け狐だと思っている」

 

「本当は殺したくて堪らなかったんだ」

 

 そんなこと……わかってる。

 

 みんなオレが嫌いだってのは、もうずっと前から、わかってる。

 

 でも、オレは。

 

 イルカ先生が木ノ葉の忍だって認めてくれたから、そうなりたいって思って。

 

「まだわからんか」

 

「こいつらにとっては迷惑なんだ」

 

「たかだか一人や二人が認めたところで何になると言う」

 

「里の人間がお前を認めるはずがない」

 

「火影になどなれるはずがない」

 

 うるせぇ! そんなことお前が決めんな!

 

 オレはやるって決めたんだ!

 

 火影になって、里の奴らにオレのこと認めさせてやるって!

 

「そんなことされたら里の連中は迷惑なんだよ」

 

「だからこうして殺そうとしてる」

 

 ……だって。

 

 イルカ先生が、認めてくれたんだぞ……木ノ葉の忍だって。

 

 オレがもっと強くなって活躍したら、他の奴らも、いつか……。

 

「お前にはまだ見えんのか?」

 

「目を凝らしてよく見ろ」

 

「お前を殺そうとしている奴らの顔を」

 

 ……。

 

 ……カカシ先生、だ。

 

「お前がこんなにも痛いと言っているのになぜ奴は攻撃をやめない」

 

「叫んでいるのになぜ届かない」

 

「最初から聞く気などないからだ」

 

「お前を殺せと言われれば命令に背かずにそうする」

 

「それが木ノ葉の忍だ」

 

 ……なんで。

 

 なんで誰も、オレの言ってること聞いてくれねぇんだ。

 

 オレは、化け狐じゃねぇ。

 

 違うのに、なんで……。

 

「これが現実だ」

 

「こいつらにとってワシとお前は同じなんだ」

 

「木ノ葉を苦しめるだけの癌だ」

 

 ……違う。

 

 オレはっ、オレは木ノ葉の忍で……。

 

「ワシの手を取れ」

 

「このチャクラを使って、奴らに思い知らせてやれ」

 

「でなければお前は死ぬ」

 

「お前の言う本当の木ノ葉の忍に殺されてな」

 

 ……違う!

 

 お前は、そうやって暴れてぇだけだろ!

 

 オレは化け狐なんかじゃねぇ! お前とは違う!

 

 オレはいつか火影になる男だ!

 

「ナルト」

 

「ワシはお前の味方になろうって言ってんだ」

 

「お前もわかったはずだろう?」

 

「ワシと同じ痛みが」

 

「お前はもう、木ノ葉の一員ではない」

 

 

 

 

 

 ガイの蹴りがついに仮面へ直撃して、バキンと甲高い音と共に割れた。

 粉々に粉砕されて地に落ちると、運命を共にするかのように胴体がどろどろと力を失って地面に広がっていく。

 

 その時、対峙していた誰もが目にしたはずだ。

 どこに存在していたのだろう、零尾の体内から人間が現れた。

 膜を突き破って顔を出し、ようやく海面に出て息を吸うことができた、とでも言うかのように肺へ一気に空気を吸い込み、苦しそうに咳をする。その姿には見覚えがあった。

 

 失踪したはずのうずまきナルトがそこに居た。

 激しく咳き込み、苦しむ彼を見て、大勢の人間が反応できずに息を呑む。

 

「ハァ、ハァ……カカシ先生、なんで……」

 

 まずい、と思った。

 呼びかけられたカカシはナルトの様子を見て即座に異変に気付く。

 動揺、或いは錯乱と言ってもいい。冷静ではない彼を見て誤解していると悟ったのだ。おそらく零尾の存在を知覚せずに自分自身が傷つけられたと思っている。彼の認識は、里の人間が徒党を組んで自分を襲ってきた、といったところだろうか。

 

 ナルトは幻術に弱い。単純明快とも言える性格がそうさせるのであろう、経験が浅いことを除いても幻術に対する抵抗力が乏しく、自分で解くことができないどころか、幻術にかけられたことに気付くのが遅い。

 おそらく今、彼は非常にまずい誤解をしている。このまま放置してはならない。

 

「ナルト……落ち着いて聞いてくれ。お前が何を見たのかは俺にはわからない。だがお前は」

「九尾だ……」

 

 一歩も動かず、手で制して、敢えて離れた場所からカカシが声をかけた。動揺している今のナルトを無暗に刺激してはいけないと感じたからだ。

 その時、誰かが呟いた。

 声を出したのが誰かはわからない。きっと何を意図するつもりもなかった呟きだろう。だがその一言は確実に大きな影響を及ぼし、周囲へ波及していく。

 

「九尾の狐……」

「人柱力の子供」

「里から逃げたって噂だったんじゃ?」

「まさか、里を襲うために……」

「封印が解かれたのか?」

「だがさっきのは九尾じゃなかった」

「襲ってきたのは間違いないぞっ。見ろよ、この惨状を……!」

 

 一度口をついて出れば、もはや個人に止められる状況ではなかった。

 集った忍たちは口々に呟き、激しい戦闘を終えた直後であるという興奮と憤りを込めて、ナルトへ視線を向けたことで半ば反射的に声を発している。

 言うなればそれは非常に簡潔な悪意だった。何を意識するわけでもなく、彼を見た瞬間に感情をぶつける対象ができたのだと無意識的に判断して、怒りの念が噴出していた。

 

 当人がどんな状態であれ、零尾の登場と暴走により、里が甚大な被害を受けたのは事実。事情を説明する前から、そんな必要はないと言わんばかりにナルトへ厳しい視線が突き刺さっていた。

 雰囲気は最悪。その空気を感じ取らないほどナルトは鈍感ではない。

 

 カカシが見ている前で、ナルトはショックを受けていた。

 自分が殺されそうになっていたと思っていたところへ、改めて怒りをぶつけられて、この状況は何も間違えていないのだと認識してしまう。

 まずいと思ったカカシが一歩を踏み出した時、ナルトの体は大きく震えた。

 

「ナルト、俺を見ろ。俺はお前に何もしない。まずは、お前の話を聞かせてくれ」

 

 できるだけ普段と変わらない態度で。そう意識していたが、緊張は隠せない。それでも周囲の人間と違って敵意や怒りは感じなかったはずなのだ。

 動揺し、のそのそと動くナルトは周囲に目を向け、現状を確認する。

 破壊された家屋。怪我をした人々。一部とはいえ里の風景は一変していた。

 

 深刻な様子のカカシ。心配そうに遠くから見るガイ。感情を隠しているらしいアスマと紅。

 苦々しい表情の綱手と動揺を隠せないシズネは近付いてくることなく遠くに居る。

 そして辺りを囲んだ大勢の忍。怒りや憎しみ、或いは悲しみを肌で感じる。

 

「大丈夫だ。なんでもない。お前は何も悪くない」

 

 カカシが言った後、ナルトは逃げ出した。

 唐突に背を向け、応えることなく全力で走り、彼らから離れようとしたのだ。

 

「カカシィ‼」

 

 背後でガイの大声が聞こえた。

 何を意味するものだったのかはわからないが、その声ですらナルトには恐怖に感じられる。

 なぜそうしたのかは自分でもわからない。ただ今は誰の前にも居たくなくて、冷静に話せと言われても無理だった。気付いた時には体が勝手に動いて逃げていたのである。

 

 どこへ向かったのか、どこまで走ったのか、自分のことなのに何もわからない。

 息を切らして必死に走り、とにかく遠ざかろうとした。

 道中何度も転んで、体と服を汚して軽傷を負ったが、まるで気にならない。

 今はただ遠くへ。

 一向に止まろうとしないナルトは明らかにパニックに陥っていて、普段しているはずの呼吸ですら上手くできずに苦しそうで、息を吸うことすら必死であった。

 

 どれくらい離れたのか。わからないまま地面の些細な段差に躓き、再び転ぶ。

 疲れていたのもあるとはいえ、動かなくなったのは心労からだろう。

 ナルトは倒れたまま動かなくなり、苦しそうに胸元を押さえ、ひたすら息を吸った。

 

 視界が歪む。ひどく気分が悪い。

 こんなにも苦しいのは初めての経験だった。

 

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。気付けば目から大粒の涙が溢れていて、自分の気持ちを自分ですら理解することができなくなっている。

 どうすればいいのか。考えるのにわからない。だが、これまで頼りにしていたはずのカカシに会おうとはなぜか思えなくなっている。

 道端で小さく丸くなり、ナルトは嗚咽し、声を潜めて泣いていた。

 

「……ナルト」

 

 それからしばらくもしない内の出来事だっただろう。

 その場に現れたカカシは、小さくなって涙するナルトの姿を見下ろして、穏やかな声を発する。しかしナルトは、その声を聞きたくないと言いたげに反応しない。

 

「お前の身に何が起こったのか、俺にはわからない。だけどお前のことだ、後先なんて考えずに必死に頑張ったんだろう。いざという時に何もできなかったのは俺に非がある。すまなかった」

「うぅ、うぐっ……カカシ、せんせぇ」

 

 隠すかのように両腕で顔を覆っていたナルトだが、カカシの言葉を聞いて、混乱したままではあるものの不意に話を聞こうとした。

 腕を下ろして、ようやくカカシの姿を見る。

 途端、彼が右手にクナイを握っているのを見てしまって、溢れていたはずの涙が止まり、ぴたりと停止した思考とは裏腹に体は反射的な危機感を覚える。

 

「仕方ないんだ。お前は何も悪くない……こうなってしまったのは俺の責任だ」

「せん、せぇ……なんで、だってばよ」

「これが、火影の決定、そして里の意志だ。すまないナルト。恨むなら俺を恨んでくれ。お前を守れなかった俺を――」

 

 そう言い切るとカカシが駆け出した。

 地面に横たわっていたナルトに馬乗りになり、左手で頭を押さえつけ、右手に握ったクナイを振り上げる。その姿を間近に見てしまう。

 抵抗するナルトだったが力で敵わず、純然たる殺意に身が縮こまり、恐怖した。

 

 現状を受け入れられない。まさかという思いで必死に叫び、助けを求めるのだが、誰にも届かず誰もその場には現れない。

 信じた人に殺される。これが里の意志なのか。

 泣きじゃくり、声を枯らして叫んでも、答えてくれる人は居ない。今そこに居るカカシですら。

 右腕が振り下ろされた時、迷うことなくクナイの切っ先が左胸に突き立てられた。

 

 あぁ、そうなのか、と納得する。

 自分でも不思議に思うほどにその瞬間は冷静だった。

 ナルトは静かに目を閉じる。

 

 

 

 

 

「それでいいんだ」

 

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