鳶が獣を生み落とす   作:ヘビとマングース

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うずまきナルト 5

 里に住む一般市民と、避難を命じられた下忍の多くは忍者アカデミーに集まっていた。

 突然の襲撃と正体不明の脅威。戦闘は良しとされておらず、非戦闘員はもちろん、年が若い者の多くも立場を問わずに避難を優先されている。

 

 中忍として、アカデミーの教員として、避難する人々を守る立場にあるうみのイルカの姿もそこにあった。

 戦闘の音は今も聞こえている。一時は途絶えたがまだ終わっていないのだろう。

 このまま非戦闘員の被害が出ずに終わればいいのだが。

 そう考えている時、戦場に居たであろう中忍の一人がアカデミーへ駆けつけた。

 

「イルカ! 大変だ! まずいことになった!」

「どうした? 援護が必要なのか?」

 

 男はひどく慌てた素振りだった。動揺もしている。冷静さに欠けて、よほどの事態なのだろうと一目でわかる態度だった。

 彼は迷わずイルカに駆け寄り、声を小さくして伝える。

 

「例の怪物、中からナルトが出てきた。多分どこかで捕まって利用されたんだ」

 

 耳を疑う発言。聞いた直後にあまりの衝撃で足元がぐらついた気がした。

 目を見開き、信じられない、と態度で語るイルカは返事ができず、同期で心配しているであろう男の言葉を聞くことしかできなかった。

 

「状況が状況だ。あいつを良く思う奴ばかりじゃないし、現場はかなり緊迫してる。ナルトは多分身の危険を感じて逃げた。カカシさんが追おうとしたんだが、その前に邪魔が入って今は全員が足止めされちまってる」

「ナルトは……どこへ」

「わからねぇ。誰も追えなかったんだよ。土遁の術だと思うが、変な土くれ人形みてぇな連中が大勢現れて戦闘になってる。ナルトは今一人だ」

 

 徐々に事態を呑み込もうとしている。しかし徐々にでは遅い。イルカは焦っていた。

 

「お前、行った方がいいんじゃねぇか? ここが心配なら俺が残るから。ナルトの奴、かなり追い詰められてるみたいだった。幻術か何かで自分が責められてるって思ったのかも……」

「だ、だが、俺の勝手で持ち場を離れるわけには……」

「んなこと言ってる場合かよ! ナルトが心開いてる人間は数限られてるだろ! お前が行かねぇとあいつはまともに話を聞かねぇかも――!」

「おい! よせ!」

 

 イルカが慌てて男の口を押さえた。だがどうやら遅かったようだ。

 思わず声を大きくしてしまったことで、その名前はアカデミーに集っていた者たちに届く。

 良く思わない人間も居ただろう。今問題なのは彼らではない。ナルトを心配している、彼をよく知る者たちだった。

 

 ちょっとしたやり取りを聞いただけで何が起きたのかを察したのか、考えもせずにアカデミーを飛び出していく数人が居た。

 イルカの名を呼び、助けを求める冷静な子も居たが、止める暇は与えられない。

 

「先生っ! サクラとシカマルが!」

「くっ……! お前らはそこに居ろ! 俺が連れ戻すから、ここを離れるなよ!」

 

 イルカは同期の男を連れて駆け出した。

 果たしてこれは不測の事態か。予想できなかったとはいえ不幸中の幸いだったかもしれない。

 彼らがアカデミーを飛び出したことで、連れ戻すという任務のために自分も離れられた。不謹慎な考えだがそんなことをちらりと思う。

 

 いざその時が来て、ナルトに会うことができたのなら、自分はどうすべきか。そんなこと考えずともすでに決まっている。

 彼が辛い環境に居るのなら、助けてやらなければ。孤独ならば自分も知っている。彼がどれほど辛い時間に耐えてきたのか知っている。

 イルカはすでに決断していて、先に飛び出た二人を追いながらも迷わなかった。

 

 サクラとシカマルを連れ戻して、その上でナルトを助ける。

 そうすれば何の文句があるだろうか。

 幸い、協力してくれる仲間も居る。自分がやらなければならない。

 

 戦闘の音はアカデミーから遠く、しかし走っていればだんだん近くなってくる。

 下忍とはいえ訓練された忍の身体能力は高い。本気で走っていてもサクラとシカマルに追いつくのは容易ではなく、彼らは直に戦場へ到着してしまうだろう。

 イルカは二人を止めるべく、走る速度をさらに速めた。

 

 

 

 

 

 突如現れた土くれ人形の集団。

 個体はさほど強くもないが、あまりにも数が多い。まるで行く手を阻もうとしているかのように壁を作り、木ノ葉隠れの忍へ攻撃を仕掛けている。

 

 零尾との戦闘で疲弊し、ナルトが現れた事実に動揺して、いまだ興奮冷めやらぬ中での新手の登場と襲撃、そして戦闘。戦場が混乱しているのは否めなかった。

 焦りを覚えるカカシは先を急ごうとするのだが、彼がそうすることを知っているかの如く、土くれ人形たちが殺到して前へ進めない。

 同じく焦るガイが援護してくれるものの、一向にナルトを追うことができずにいる。

 

「ええいっ、なんなんだこいつらは! いい加減そこをどけっ!」

「これで確信を持てた。ナルトに罪はない。誰かが裏で手を引き、あいつを利用したんだ」

「そんなことを言っている場合か! たとえそうだとして、あの子の気持ちはどうなる! このまま遅れれば遅れるほどナルトが辛くなるだけだぞ!」

「わかってるから急いでるんでしょうが。だが、こいつら……」

 

 苦々しい顔をするカカシは敢えて後ろへ跳び、敵を一掃すべく術を使おうとする。両手で印を結ぼうとした途端、土くれ人形の動きが変わり、急速に接近して急所を狙ってきた。

 堪らず回避するカカシは、またしても術の発動に失敗した。

 ガイもまた同じく、敵をまとめて吹き飛ばせる攻撃を繰り出そうとした瞬間、敵の動きが明らかに速くなって阻止されてしまう。

 

「こいつら、俺たちの術を知ってるぞ」

「おのれ、こんなことをしている暇はないというのに!」

 

 徒手空拳でも倒せる相手。本来ならば術を使って撃破し、強引に道を作って先へ進むことができてもおかしくはない。だが土くれ人形たちは術のみを警戒することで、彼らを足止めすることにのみ執心している。

 変化しない状況にガイは苛立ち、ますます焦りが募るばかりであった。

 

 迫る土くれ人形の一体を蹴り倒した時、カカシは足元に転がる首が動いたことに気付いた。

 顔らしき装飾などなかったはずのそれに口がある。お粗末な外見とはいえ喋ることができればそれでいいようで、確かに声を発したのだ。

 

「カ カシ」

 

 聞き覚えのない声。ざらついていてたどたどしく、おそらく素性を隠したいのだろう。

 

「マタ 守レナカッタ ナ」

 

 悪寒が走った。

 全ては無理でもその一言だけで察する。

 この敵はカカシを知っている。トラウマを刺激するかのような発言だった。

 ナルトを利用して里を破壊すると同時に彼の信用を奪ったのだ。

 

 瓦礫を吹き飛ばして轟音を立て、土くれ人形が一体飛んできた。バラバラにされたそれは瓦礫と共に地面へ散らばり、注目を集める。

 直後に強大なチャクラを感じて誰しもが戦慄した。

 

 禍々しい気の波がかつての光景を思い出させる。

 尾獣の一体、九尾の妖狐。

 ナルトに封じられた存在が発するチャクラが、ナルトの体を包み込んでいた。赤いチャクラを右半身に纏い、左半身はそれよりもさらに濃い赤黒いチャクラで覆われている。力の証左であるかのようにチャクラで模られた二本の尾を揺らしていた。

 

 カカシは、先程の言葉の意味を理解しつつ驚愕した。

 九尾の力が暴走している。そう判断する一方、右半身はチャクラに覆われているとはいえナルトの表情が確認できて、それだけではないのだとも思った。

 

 ナルトは泣いていた。負けん気が強くひたむきな男が隠すことなく絶望を表している。

 暴走した九尾に操られているだけならどれほど楽だっただろう。

 見たところナルトは九尾の暴走を受け入れ、寄り添うようにして立っていた。前方に立つ木ノ葉隠れの忍たちに対して、途方もない怒りをぶつけているのだ。

 

「うぅ、ううぅ……!」

「ナルト……よかった。無事だったんだな」

 

 不安定な状態なのは一目でわかる。

 刺激を与えるのはまずいと思い、カカシは敢えて急がずに声をかけた。

 ナルトの目がカカシを捉えてキッと睨みつける。

 

「話を――」

「カッ‼」

 

 大声で叫んだ瞬間、空気が爆ぜるかのような衝撃が走った。

 壁の如く連なっていた土くれ人形を、身構えていた忍を、辺りに落ちていた建物の残骸を、物の重さなど無関係にまとめて吹き飛ばす。

 術などではなく、ただ叫んだだけ。それなのに巨大なチャクラが周囲の全てを飛ばした。

 

 異様な静寂に包まれる。

 誰も何も言えなくなった一瞬。ナルトは九尾のチャクラを纏い、現れた。

 まずいという事実は誰もが感じたはずだ。しかし彼の様子を見やり、嫌な予感を覚える。

 

 身に纏うチャクラの攻撃性が増していくのがわかった。

 肌にビリビリ感じる威圧感。果たして彼はナルトなのか九尾なのか。

 

「ナルト、落ち着け……! 俺たちは、お前の敵じゃない」

「ウソだ!」

 

 一声発する度に衝撃波が周囲を駆ける。

 今のナルトは非常に危うい精神状態であろう。聞く耳を持たず、放っておいても襲ってきそうな雰囲気がある。そうなると、今後彼の立場をさらに悪くしてしまうに違いない。

 戦闘は絶対に避けなければならない。カカシは誰よりも前に立ち、たとえ自分が傷つけられるとしても手を出すつもりはなかった。

 きれいごとだとしても話し合いで解決を。そう願っていた。

 

「誤解があるんだ。俺はお前を攻撃したりしない。幻術か何か見たのかもしれないが、今更お前に嘘をついたりしないよ」

「フーッ、フーッ……!」

「まず状況を整理しよう。さっきのは、俺たちはお前を攻撃していたわけじゃない。多分その時の視界はあったんだろう。お前は正体不明の生物の中に囚われていたんだ」

 

 隙を与えてはいけない。時間をかけてもいけない。

 カカシは早急な説得が必要だと考え、ナルトを落ち着かせるために返事を待たずに告げる。

 その時、ナルトの背後に影が飛び込み、咄嗟に怒りさえ抱きそうな心境で、阻止するためにカカシが反応したのだが、目撃した人物に再び驚愕した。

 

 ナルトの背後に現れて攻撃しようとしたのは、カカシだ。影分身の術を使える彼だが、自身の術ではない。カカシの外見をした誰かがナルトを襲っている。

 視界の端で確認し、尻尾を振って殴り飛ばした。

 なるほど、こういうことかと理解する。

 ギロリと睨みつけてくるナルトは、本気でカカシに狙われたと思い込んでいるようだ。

 

「後手に回ったか……」

「おいどうするっ。お前への不信感でいっぱいだっ」

「俺たち全員に、だよ。手荒な真似はしたくないが、このままじゃ止められそうにない。だが戦闘になればそれこそナルトの立場が……」

 

 どこかから声が聞こえてくる。足元に転がっていた土くれ人形の顔だ。

 

「マタ 殺セバ イイ」

 

 注意が逸れた。

 ナルトから目を離さなかったとはいえ、意識は足元の人形へ向いてしまう。

 

「リン ミタイ ニ」

 

 ガンッ、と大きな音を発していた。気付いた時には体が動き、転がっていた土くれ人形の頭を踏み潰していたのである。

 その音がきっかけだったのか、それとも、彼には別の何かに見えていたのだろうか。

 

「カカシ!」

 

 ガイに名を呼ばれて視線を上げると、すでにナルトが空中に居て、勢いよく飛び掛かってこようとするその姿を目の当たりにした。

 ボコボコと沸騰するかの如く動く赤いチャクラが、三本目の尾を作る。

 全身から殺気を発して、これまでとは別人に思える姿で、迷わず腕を振り下ろしてきた。

 

「オマエラは……キライだッ‼」

 

 咄嗟に反応した。とはいえ、ほんの一瞬ではあるが注意を逸らしたことと、チャクラがあまりにも強過ぎた代償は大きい。

 割って入ろうとしたガイは振り回す尻尾に打たれて吹き飛ばされた。

 その直後、鋭く伸びた爪で切り裂かれ、カカシの体から鮮血が舞った。

 

 

 

 

 

「なぜあいつらがお前と仲良くしてたかわかるか」

 

「ワシの力を使われると困るからだ」

 

「気に入らねぇ話だが、人柱力ってのは、ワシのチャクラを忍が利用するために生み出された」

 

「ワシからすればお前ら人間なんぞ脆弱な生物」

 

「要するに里の連中はワシのチャクラを使えるお前が恐ろしいんだ」

 

「自分より強く、誰にも止められねぇ存在を、本気で好きになる奴なんぞ居るはずがねぇだろ?」

 

「みんなお前が嫌いなんだ」

 

「本心じゃお前を人間だなんて思っちゃいねぇ」

 

「生まれついての化け物」

 

「死んでくれた方が有難いと思ってる」

 

「だがお前を殺すことはできねぇ」

 

「本来ならだ」

 

「お前を殺せば封印が解け、ワシが解放される」

 

「よしんばワシごと殺すことができたとしても、お前と違ってワシは転生する」

 

「だから普通なら殺さない」

 

「だが、お前を殺した後でワシを別の誰かに封印する術があるとしたら?」

 

「里の人間に嫌われてるお前を殺せばそいつは英雄だ」

 

「皆がお前の死を望んでいるからな」

 

「馬鹿な人間でも面と向かって嫌いと言うのがまずいことくらいわかるだろう」

 

「腹の中じゃ皆同じだ」

 

「違っているのはお前だけ」

 

「お前だけは、人間だと認められちゃいねぇんだ」

 

 

 

 

 

 到着する前から大きな戦闘の音が聞こえていた。

 緊張しながらもそこに辿り着いた時、信じられない光景を見た。

 

 赤いチャクラに包まれ、左半身は赤黒いチャクラで半ば獣と化しており、涙を流しながら暴れているのはうずまきナルトの姿だった。

 木ノ葉隠れの忍と戦っているようで、大勢を討ち破り、躊躇いもなく傷つけている。

 抵抗しているとはいえ、傷だらけになったカカシが一番近くで彼を止めようとしており、しかし以前の関係が何だったのかと思うほどに、何度も攻撃を受けて吹き飛ばされている。

 

 何が起きているのか理解できない。にわかには信じ難い光景だった。

 足を止めたサクラとシカマルは、目の前の光景を受け入れることができなかった。

 何もかもが予想外で、ナルトのために、と思って来たものの、どうすることもできずに立ち尽くすことしかできずにいる。

 

「なに……これ」

「あれナルトか? なんで木ノ葉の連中と戦ってんだよ……!」

 

 すぐに追いついたイルカがナルトを見つめ、顔を青くして固まってしまう。

 恐れていたことが起きた。事情が何であれ最悪の事態であることはイルカのみならずサクラやシカマルも察している。

 急いで止めなければ。

 そう思った矢先、イルカが制止するよりも早くサクラが駆け出した。

 

「待て……⁉ だめだサクラ! 戻ってこい!」

「ナルトォ! ごめん、ごめん私……!」

 

 ナルトの下へ走りながらサクラが叫ぶ。

 その声に気付いてナルトが緩慢な動作で振り返り、カカシが鋭い声で叫んだ。

 

「やめろサクラ! 来るな!」

「私、あんたに頼り過ぎてた……! 私も一緒に行かなきゃいけなかったのにっ。ごめん、ごめんなさいナルト! あんたは何も悪くない!」

「サクラ、ちゃん……」

 

 反応したナルトは頭を抱え始めた。

 苦しんでいるのか。辛そうだ、と思えばこそサクラはさらに近付こうとする。しかし彼の態度はそれを拒むかのように、甲高い声を発した。

 

「あア、アアあアあ……」

「ナルト、サスケ君のことは、私も一緒に――」

「アハハハハッ! アハハッ! そうだ、そうだった! サクラちゃんも言ってたんだ! オレのことが嫌いだって!」

 

 様子がおかしいのは外見と状況を見てわかった。それでも、全く予想しなかった発言に驚いてつい足が止まってしまう。

 硬直してしまったサクラは、後悔を抱く余裕すらなく、ただ凝視していた。

 泣きながら笑うナルトの姿は彼女が知るそれとはまるで違っていて、理解できぬとはいえ冷静で居られるはずもない。

 

「本当は全部知ってたんだろ! オレが化け狐で! 里の奴らをいっぱい殺して! みんなに嫌われてることも全部! 知ってて黙ってたんだ! どいつもこいつも! オレに死んでほしくてたまらなかったんだろ!」

 

 赤いチャクラはさらに大きく強くなり、見る見るうちに尾が増えていく。

 扇子のように、バッと広げられたのは八本。

 

「オマエらみんなウソつきだ! オレは、ずっと……! オレはァ‼」

「やめろ! ナルト!」

「全部っ……全部キライだッ‼」

 

 その場で跳び上がり、八本の尾が伸び、辺りを無差別に薙ぎ払う。

 常人に止められる威力ではない。

 地形を変え、防御のための術を簡単に食い破り、里の風景を一変させる。

 咄嗟にカカシがサクラを庇ったことで万が一は免れた。だが、助けに入らなければきっと生きてはいなかっただろう。彼女はきっと心からの殺意を浴びたはずだ。

 

 視界を覆う粉塵を舞い上げ、ナルトは獣のような叫び声を上げていた。

 煙が晴れた時、そこには赤黒いチャクラで全身を覆われた、九本の尾を持つ小さな獣。

 もはや涙は流れていなかった。

 

 

 

 

 

 巨大な牢屋の前でナルトは膝を抱えて座っていた。

 彼に声をかけようとする金髪の男が居るのだが、声が届かない。

 ふと現れたのはトビだった。

 

「備えておいてよかった」

 

 彼の出現に男が驚くものの、トビはあらかじめ予想していたようで、冷淡な声で呟く。

 

「先生……あなたはいつも遅い」

 

 ナルトの体が赤いチャクラに包まれて、守られる一方、金髪の男の姿が消えていく。術を施し、強引に消されていくのだ。

 悲痛な表情で、大声で叫んでいるのだろうが、やはりその声は届かない。

 ナルトは俯いたまま微動だにせず、今やトビの声すら聞いていない。

 いつの間にか、暗闇にはナルトと九尾の姿だけがあった。

 

 

 

 

 

 立つ者の居なくなった風景の中で、唯一、誰よりも早く立ち上がる人物が居た。

 悲しげな目をしながらも優しく微笑むイルカだった。

 

「ナルト……辛いことがあったんだろ。サスケのことは俺も聞いている。それだけじゃない、この里での出来事も、お前にとってはいいことばっかりじゃないよな」

 

 意思があるのか否か、それも定かではない。

 それでもイルカはいつものように語りかけた。

 

「今のお前に言っても素直に受け止められるかはわからない。だけどな、ナルト。お前を嫌いな人ばっかりなんかじゃないぞ。お前を認める人間だってたくさん居る」

 

 俺もそうだ、と彼は言った。

 九尾の小さな狐はちょこんと座ったまま、じっとイルカを見つめている。

 聞いて、受け止めて、冷静になって元に戻ってくれればいい。だがたとえそうならずとも、彼の気持ちは変わらないのだろう。

 

「お前は俺の自慢の生徒で、誰が何と言おうと木ノ葉隠れの忍だよ。ナルト……大好きだ」

 

 全て聞き終えた後、九尾の獣は、何も言わずにグパッと大口を開けた。

 

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