誕生日。
それは少年少女にとって生まれた事自体を祝福してもらえる、生きている事自体を喜んでもらえる特別な日。
あるいは親や友人からプレゼントを貰えたり、パーティを開いてもらえる楽しい日。
恋愛リアリティショー『今ガチ』においても、序盤の終わりに行う大イベントとして設定されていた。
「それにしても祝われる側多くないか?」
「アクアさんにメムちゃん、ノブユキさんに私。確かに多いですね」
「ちょっと偏り過ぎだよねー。やり過ぎで笑っちゃう」
パーティ用のケーキを作る班に分けられたアクア、あかね、MEMちょが雑談しながら準備を進める。ノブユキ、ゆき、ケンゴはパーティ会場になる教室の飾りつけ中だ。
「一人いればパーティは出来るのにこの人数だもん。誰でも察しちゃうよね~」
「あははは……」
番組での誕生日パーティは一回にまとめて行われるのだが、祝われる側の方が多いと言うのは珍しいだろう。ネットでは祝われる要員をピックアップする過程で良い子が見つかりすぎてそのまま放り込んだと言われていた。
「美味い」
「あ、アクアさん。つまみ食いはちょっと―――」
「味見だから。これも調理班の仕事だ。ほら黒川さんも」
ケーキに使う苺をつまんだアクアが悪びれもせず答え、あかねにも苺を串にさして差し出した。
衛生面で文句を言われるのを防ぐためか、わざわざ串を用意して調理中に食べられるようにしてあるのだから番組的にも味見する前提で多めに用意されている。問題があるはずもなく、気付けば活用しろという番組側からのテコ入れだ。
あかねも言われて気付いたか、串を受け取って苺を食べた。
「ん、おいしい……あれ、でもこれ……」
「あー、あかねズルーい。アクたん私もちょうだい」
「はいはい。ほら」
「あーん」
アクアから差し出された苺にMEMちょが食いつく。アクアもMEMちょも固定カメラ視点での画面映えに気を使っていていたし、ここは番組で使われるだろう。
「ん? 美味しいけどなんかこれ……あかねわかる?」
「う、うん。ケーキ用の苺だよね。完成してからの方がおいしいと思う」
「だってアクたん。つまみ食いはここまでにしようね」
「味見だし食いすぎたりはしねぇよ」
「「「「「「誕生日おめでとー!!」」」」」」
飾り付けられた教室でクラッカーが鳴る。
机にはケーキやお菓子、ジュースが並び、参加者は皆とんがり帽子をかぶっている。カメラマンはおらず固定カメラのみの誕生日会だ。
会話の内容も全て使うわけじゃない。ただ友人として誕生日会を楽しむのがメインだ。それでも使えそうな話題を切り出す時は自然な形で合図を入れて、編集する時にそこだけ切り抜きやすいように会話が進む。
こういう時に上手いのはゆきとMEMちょ、そしてアクアだ。
ゆきとMEMちょは話題が多く、会話をドンドン回していける。目立とうと前に出るゆきと、自身のチャンネルに客の導線を引ければいいMEMちょの利害が反しなかったこともあり、良い感じに共生関係を築いていた。
アクアは話題こそ少ないものの視野が広くて、頭が良いし回転も速い。オカルト業界に関わったことで常識がズレたが、そこが微塵も問題にならない思考力がある。鋭いツッコミを入れたり無茶振りをしたり、適切に他の出演者に話す順を回して出番が出来るように調整した。また仏頂面で感情的な動きこそないが、アクアは単純に顔がいい。要所で視聴者が喜ぶシーンを作り番組に貢献していた。
また誰が活躍出来ていたかで言えばノブユキが挙げられる。ノブユキは上手い三人のように番組を意識して行動しているわけではないが、素の人格に味がある。演じるまでもなく明るく面白いノブユキはリアリティショー映えが十分で、アクアが目立とうとはしなかった事もあり、男性陣の中では一番目立っていた。
逆に上手く行っていないのがあかねとケンゴだ。台本のないリアリティショーで自然な雰囲気で面白い演出するというのが二人には出来ていない。アクアも話題を振ってはいるが、二人はそれを活用し切れていない事が多かった。
とは言え今は楽しい誕生会イベント中。撮影時間が長いこともあり、場が盛り上がれば不慣れな者も自然な会話も飛び出してくるようになる。
「こうして祝ってもらうのもいいけどさ、皆は自分の誕生日にお母さんとかにお礼もしてる? 一応私はするようにしてるんだけど」
編集点を挟んでMEMちょが全員に話題を振る。
視線の先にいたゆきから答えた。
「してるよ。一足先に自分で稼いでるしね。何より喜んでもらえるのは嬉しいから」
「私も一応やってる」
「まぁぼちぼち? 大人になったって感じで楽しいよな」
「皆すげぇな。俺は出来てないねぇや。母の日も近いしそっちでやってる」
ノブユキ以外の三人は誕生日には産んでもらった恩返しをしているらしい。無言だったため最後に順番が回ってきたアクアに全員の視線が向く。
「……やってないな。ミヤコさんの誕生日とかにお礼はするようにしてる」
対外的にアクアとルビーは斎藤ミヤコと斎藤壱護の子供と言うことになっている。なのでこういう話をする場合、アクアはアイではなくミヤコについて話さないといけない。
だから母親への礼と言う話題ではアイとミヤコ双方への申し訳なさですぐに応えることが出来なかったのだ。
「祝われる時と祝う時は分けるタイプかー。ってミヤコさん? 名前呼びなの?」
「ああ、事務所の社長だしな。昔からこうだ」
そう返すと他全員が顔を見合わせる。
その反応にアクアが疑問を感じていると、追加の質問がMEMちょから放たれた。
「家でも名前呼び?」
「そうだけど」
「いつから?」
「いつからだったかな? もう覚えてない」
アイが生きていた時、冗談で言ったことくらいはあるかもしれない。だがアクアは勿論、ルビーすらミヤコを母と呼んだ記憶は思い当たらなかった。
「お母さんって呼んだりしないの?」
「しないよ。これがウチでは普通だし」
にべもなくアクアが答える。下手に回答に詰まる方が面倒になると学んでいた。
普段なら話題を膨らませて話を振るアクアの反応に、今ガチメンバーも何かあるんじゃないかと思い踏み込むのをやめた。番組でやっている以上荒れるようなことは控えるべきだ。話題が一つ潰れる程度、地雷があるかもしれない所に踏み入るのに比べれば痛くもない。
この場ではそれで話は終わり、次の話題が提供されすぐに忘れられていった。