「呼ばれた時は色々と覚悟してたけど、よくやったわアクア。誇らしいわよ」
警察署にて。
自殺未遂を行ったあかねとそれを止めたアクアは事情聴取のために先に来ており、保護者のあかね母とミヤコが呼び出されていた。
あかねの母は番組を見ないようあかねに止められており、SNSなどもやらないため状況を把握できていなかったらしい。学校も授業は受けていないが保健室に通学はして、そのことを親には黙っていたそうで本当に驚き動揺していた。相変わらず優れた演技力が良くない方にばかり働いてしまっていたらしい。
ミヤコの方はと言うとこちらもアクアが夜中に勝手に外出しているのに気付けず、家にいるはずの息子が警察の厄介になっていると唐突に聞かされたのだ。あかねの事情は知っていたこともあり、警察からの連絡を受けた時はまたアクアが死に目に立ち会ってしまったのではないかと言う考えがよぎった。
幸いにしてあかねの自殺は未遂で止められ、アクアも悲しい事を見ずに済んで一番マシな結果に収まったと言えるだろう。
「他人に興味なさそうにして、ちゃんと見てたのね。……いや去年ぐらいから変わってきてたかしら?」
「……別にそんなんじゃない。人は簡単に死ぬ。誰かが悲鳴を上げたらすぐに動かなきゃ手遅れになるって知ってるだけだ」
「……まぁそうよね。止められて良かったわ」
芸能界は少年少女を使い潰して回している業界だ。今回のあかねのように死ぬ思いをする子やアイのように本当に死んでしまう子もいる。そういう業界に好き好んで居続けているのだからアクアもミヤコも番組を批判出来る人間とは言いづらい。
それでも悲劇は防げるに越した事は無い。安堵で二人ともかなり気を緩めた状態であかねの事情聴取が終わるのを部屋の外で待ち続けた。
事情聴取も終わり、あかねが出てくる。
この頃には今ガチメンバーも警察署に集まっており、真っ先にゆきが駆け寄った。
「ばかぁっ!」
「っ?!」
涙があふれ出したゆきがあかねをひっぱたく。
「なんでこ……ん! しんぱい、させてぇ……! なんでもぉ! そうだんしてよぉ!」
「……ごめん」
涙が決壊して止まらなくなったゆきがあかねに抱き着く。
一足先に大泣きしたあかねもまた釣られて涙が滲みだす。それをMEMちょたちは落ち着くまで待とうとしていた。
アクアは待たずに話を切り出す。
「あかね。お前、これからどうしたい?」
「……? どうって……?」
「このまま番組を降りる選択肢だってあるってことだ。今は番組側が未成年者を扱う上での監督責任を問われる状況だ。こういう状況になった以上辞めるって言ってもとやかく言われないだろう」
「いやアっくん。今それ言う?」
「今こそ言うべきだろう。タイミングを逃せば選ぶのも出来なくなる。それにあかねの場合は本名も晒して活動してるんだ。引き際はちゃんと自分で見極めることだって必要だ」
「………………」
少しあかねが考え込む。
本当に少しだけで、決意を固めて話し始めた。
「私、もっと有名な女優になってこれからも演技を続けていくために頑張ってきた……。
皆にもいっぱい助けてもらって……でもこんなことになっちゃって……。
怖いけど……、すごく怖いけど、続ける。
このまま辞めたくない」
「……わかった。
問題ないよな?」
「当たり前だろ」
「最初からそう言ってるじゃん」
今ガチメンバーからも賛同が得られる。まぁ当然だ。
アクアが下がるのと交代で四人があかねを囲んで励ます。アクアはそのまま何処かへ行こうとしていた。
「仲のいい職場ね。珍しいわ。それとどこ行く気?」
「記者クラブ」
警察署の一室には各報道機関が24時間待機していて、今か今かと新ネタを待ち望んでいる。
リアリティショーで自殺未遂が発生したと伝えればすぐにネットニュースくらいには乗るだろう。今ガチ視聴者にもそれはすぐに伝わるはずだ。
「っ!? ちょっと、このこと話す気!? 考え無しの行動は辞めなさい。あの子たちにさらに面倒を押し付けるつもり?」
アクアをミヤコは慌てて止める。自殺未遂で同情は引けても注目度がまた上がってしまいプラマイゼロなら良い方。逆に売名だと叩く奴が出てくると言う可能性もある。炎上対策としては良い手とは言えない。
「着地点は見えてる。上手く行くかは賭けだけど、分が悪いとも思ってないよ。元々準備はしてたし」
「……本当? 信じるわよ?」
「ありがと」
時は今ガチ撮影の日まで巻き戻る。
「えぇ~……皆が映ってる写真や映像っていきなり言われても……そんなたくさん撮ってないよ? 100枚あるかないか……」
「めちゃくちゃあるじゃねーか」
復帰の目途が立たないあかねの為、MEMちょとアクアは出来ることの相談をしていた。
アクアの目当ての物を持っていそうなのがMEMちょだったが、想像以上に持っていた。この後ゆきにも確認を取るつもりだが、合わせれば良いのを選んで使うだけの余裕が出来そうだ。
「ドロップボックスのリンク送っとくけど、何に使うの?」
「……俺達視点の『今ガチ』を作る」
「?」
「今放送されてる『今ガチ』は「あかねを悪役にしたら面白い」って意図があって編集されたコンテンツだ。どんな聖人でも一面だけを切り抜いて都合よくつなぎ合わせれば悪人に出来る。それが演出って言うモノ。
俺は映像編集も学んでるし、素材があれば「あかねとの仲の良さを周知させる」って意図の動画が作れる」
「ふ~む、それ契約的に大丈夫?」
「内容は確認したが問題ない。公式SNSになら動画をアップできる」
出演者は番組との契約で、番組で使っていない所の内容は喋れない。だが番組の宣伝のために公式SNSにオフショットをアップしていいと契約にある。この方法なら後で文句を付けられても言い返せるだろう。
MEMちょはアクアの提案を吟味する。
現状あかねへの叩きがネットで加熱しているが、それは実態を知らないからだ。別の情報を流せば叩くのをやめるか掌返しをするのは出てくるだろう。勿論やらせだと叩き続けるヤツもいるだろうが、あかねの状況はかなり改善されるはずだ。
「でもリスク大きくない? ルール的にはありでも業界の掟破るわけだし」
「まぁ今実行しても注目も足りないし効果は薄い。やりすぎれば番組側も騒ぎ過ぎだって強気に出れる。何よりあかねが望んでるかわからない。内容は十分吟味しないとダメだし、今は作る準備をやっておくって感じだな。無駄になっても番宣用に流用すればいいから困りはしない」
この後、既に音楽で食ってるプロのバンドマン、ケンゴの協力もあり動画製作は開始される。
番組と揉めない範囲であかねとの仲の良さを示し、炎上が終息する方向へ誘導できる動画の製作は準備が整ってきていた。
この数日後、あかねの自殺未遂が起き、状況は一変する。
「不幸中の幸いってヤツだね。今なら答えを求めるユーザーが多い! 注目度が上がって視聴者も悩んでる状況なら世の中の意見まるっと上書き出来るかも!」
「ちょっと楽曲変えるわ。内容ももうちょい攻めた感じに変えるんだろ?」
ネット上ではあかねへのたたきが目立つが、それは騒いでいる数%の行動。自殺未遂というセンシティブな話題に引き寄せられたほとんどの客層は叩くべきか、擁護すべきか決めかねている。
番組側の監督責任問題もあり、出演者側が多少派手に動いても言い返せる状況にもなった。ここは一気に動くべき場面だ。
「ならさ、あのシーンは欲しくない?」
「あのシーン?」
「ほら、あかねが私叩いちゃって、それを私が優しく抱きしめるシーン。その後で落ち着くまで話してたシーンでもいいけど、使えるならこっちの方が良いでしょ?」
ゆきに言われて全員が納得する。あかねとゆきの和解がすぐに出来ていたと伝えられればあかねが叩かれている理由の殆どは否定できる。是非使いたいシーンではある。
「でもあの時カメラ止まってて……」
「ふふっ甘いなぁ。プロモデルの私が定点カメラの位置を気にしてないと思う? 一応カメラに気持ちよく映るポジでやってたんだよ?」
「色々台無しなんだけど……」
「あかねはそういう図太さ好きだろうから問題ないだろ。実際役立ってるし誰かに迷惑かける訳でもない」
ゆきがいい性格してる所を知らしめつつ、データの在り処を示す。定点カメラのデータなら番組側で保管してるはずだ。
「こういうデータって普通持ち出し厳禁だよな? どうする?」
「とりあえず僕が交渉に行く。後はまぁ流れで」
「データの使用許可が出た」
「「「「よっしゃー!」」」」
アクアがディレクターとの交渉に向かい、見事データを手にして帰ってきた。番組からの公認を得たも同然であり、この功績は大きい。
しかしアクアの感情は皆とは少しズレていた。
「別に面倒な交渉しなくても大人が
「……あーそりゃなんだ。大人は大人でやっぱり柵もあるよなぁ……」
もっと厄介な舌戦になると予測して挑んだ交渉。しかし感情的な訴えだけで要望を通せてしまった。
『今ガチ』収録から放送までの期間はかなり短い。大人は大人で追い詰められて自由が利かないのだろう。上には現場に気を使ってくれない相手がいて、ソイツに従わないといけないのは同じだった。
制作側の心情を考えるとギスギスと警戒し続けていたのも申し訳なく感じてくる。全員の合意の上で、多少番組側にも配慮した内容に手直しを加える事になった。
そうして製作が始まった動画は最もRTが稼げる曜日時間に間に合わせるため貫徹での作業となり、監督星野アクアを酷使しながら皆でわいわい意見を出し合い、ついに完成。
この動画は24時間後には8万RTを達成。黒川あかねのイメージを変革すると共に『今ガチ』の人気を決定づけるものとなった。