復讐が終わったアクアマリン   作:ぬがー

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第一話 手続き

「だいぶ久しぶりだな。もう用事はいいのか?」

 

「とりあえず一段落ついた。これからは時々呼ばれるくらいになる」

 

 対霊組織で基礎訓練が完了し、日々の個人鍛錬で技術を磨けるようになった頃。

 アクアは久々に幼少期から世話になっている映画監督、五反田泰志の実家(スタジオ)にやってきていた。

 

 アクアは未だ中学生。当然ながらバイトも出来ない歳であり、芸能界の現場で経験を積むことも出来ない。だから五反田監督の元で映画製作の手伝いをさせてもらっていた。形としては監督の弟子だ。

 長年続けていたことだったが、オカルトの世界に関わるようになってからは時間が取れずスタジオからは遠ざかっていた。

 事が事なので事情は説明できていなかったため、五反田監督は放任主義の父親のようにアクアの事を叱る。

 

「まったく、理由も言わずに勝手しやがって。俺じゃなきゃここまで我儘通らねぇぞ」

 

「本当に悪かったと思ってる。でも口外は禁止されてるから」

 

「……危ない事はやるんじゃないぞ? 言えないのは信じるけどそっちは許さんからな?」

 

「わかってるよ」

 

 もう済ませた。

 

「今日は言いたい事っていうか頼みたいことがあって来た」

 

「ん? なんだ珍しい」

 

「役者をまたやろうと思う。もう一度指導をしてほしい」

 

 ぽけっとした顔をしていた五反田監督はやがてニマニマと笑い始めアクアの肩をバシバシ叩いた。

 

「なんだなんだ、どういう心境の変化だ!? ようやく素直になれたか早熟!」

 

「……素直にってなんだ。気が変わっただけ」

 

「そういうことにしといてやる! ちゃんと社長には話したか?」

 

「そりゃな。最初に話した」

 

 アクアが所属する苺プロの社長こと斎藤ミヤコはアクアの母親的な人だ。実母アイの死後に元社長の斎藤壱護も失踪し、会社を立て直しながらアクアとルビーを育ててくれた大恩ある相手。心情的にも職務的にも真っ先に話していた。

 

「応援してくれたよ。あとルビーもアイドル部門で苺プロに所属することになった。活動開始はメンバーを揃えてからだけど」

 

「過保護やってたお兄ちゃんがこれだもんな! そりゃ話も進むか」

 

「うるさい」

 

 アクアは反抗するが、事実なので吠えるしか出来ない。

 ルビーにアイの轍を踏ませたくなくて、アイドルになる事に反対し続けていたが、その当人が役者になって芸能界に入ると言うのだ。その上誰より信頼できる大人であるミヤコがアイドル部門を復活させてまで安全確保しようとしているのだから、もう静止はかけられない。

 アクアとしてもオカルト技術という盤外戦法でルビーを守れるようになったので多少は好きにやらせてやりたいとも思っている。ミヤコが応じてくれなければこれまでとは逆に頼み込まないといけなかったので有難い事だった。

 

「とりあえずここしばらくで何が変わったかだな。指導はそれからだ」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高校受験当日。

 学力差の大きいアクアとルビーは、しかし同じ高校の面接を受けに来ていた。

 

「ふんふふーん♪」

 

「ご機嫌だな」

 

「4月からこの高校に通うんだもん。今から楽しみ!」

 

 ここは陽東高校。中高一貫で日本でも数少ない『芸能科』のある高校。

 普通の高校と大きく違うわけではないが、授業日程の融通がきく、日本一見られる側の人間が集まる学校だ。アクアたちと同じ受験生にもプロが複数見かけられた。今活躍する芸能人のオタクもやっているルビーが興奮するのも納得の学校である。

 

「まだ受かったと決まったわけじゃないだろ。面接はどうだった?」

 

「多分平気……そっちは?」

 

「問題ない。芸名の方がマシな名前以外は」

 

「あはは! 確かに本名アクアマリンだもんね。皆めんどくさがって芸名の方のアクアって呼んでるし」

 

 名付けた親すらそうだった。私生活でフルネームが呼ばれることなどほぼない。鉄板の自虐ネタだ。

 使い続けたネタだけに兄妹の会話ではいつもの流れだが、今日はわざわざ聞き耳を立てて新入生を見に来た先輩が横から猛烈に食いついた。

 

「……アクア……星野アクア!? アクア、アクア! 貴方星野アクア!?」

 

「え、誰? こわ」

 

 名前を連呼し知らない人がグイグイ押してくる。訳が分からないし普通に怖い。

 見た所、陽東学園の制服を着ているから在校生と考えるのが普通だろう。だが今日は受験生が面接を受ける日であり、在校生は普通その近辺に近寄る用事はないはず。本格的に不審者かもしれない。

 教師に助けを求めることも考えたが、ルビーには心当たりがあったようだ。

 

「あっ、あれじゃない? 重曹を舐める天才子役」

 

「十秒で泣ける天才子役! アクアと映画で共演した有馬かな!」

 

「あー……久しぶり」

 

 アクアも言われて思い当たった。有馬かなと言えば一世を風靡した天才子役だ。アクアより年上だが幼い容姿をしていて当時の面影がかなり残っている。言われてみれば間違いなくそうだと納得できた。

 

「良かった……ずっとやめちゃったのかと……やっと会えた……」

 

「お兄ちゃん、この人距離感ヤバくない? 先生呼ぶ?」

 

 アクアの肩を掴んで感極まるかなは明らかに変な人だ。ルビーは助けを呼ぶか悩んだが、いきなり問題を起こしたと思われたくないアクアが手で制する。

 その間も喜びのゲージが振り切れたかなの暴走は続く。

 

「入るの!? うちの芸能科!? 入るの!?」

 

「まぁ……そのつもり」

 

「やったーー!!!」

 

 喜んでいる理由が全くわからない。星野兄妹は理解を諦めた。

 

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