復讐が終わったアクアマリン   作:ぬがー

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小さな称賛

 実写版『今日あま』は視聴者の多くが既にリタイアし、コアな原作ファンや役者のファンのみが追い続けていたコンテンツ。

 そもそも原作は完結済みで伸びが期待できない漫画のメディア化。メディア化の経験がある漫画家は口を揃えて「過度な期待は絶対するな」と言う、終わる頃には皆悲しい顔をしているような企画だ。原作者すら「動きがあるだけありがたい。出来に対して文句が言える立場じゃない」と諦めていた。

 

 しかし最終回更新日、その評価が動く。

 恐ろしいストーカーから逃げないヒーローの意地に、光り輝くヒロインの涙と恋。

 元々天才子役として一世を風靡した有馬かなの名は今でも覚えている者は多く、その得意技だった泣き演技は評価が高い。主演のメルトも下手だったが最終回だけ覚醒した、今まで酷かった分ギャップが刺さる、練習すれば役者もアリではないかと期待が募る。アクアが演じたストーカーもキモい、怖い、やたら顔が良くてムカつくなど意図した演出通りの感想があった。

 何より作品自体に泣けた、感動したと言った好意的な感想が多く集まった。

 原作者が最終回のみ感想をツイートしたことでリタイアした層、見る気がなかった層にも注目され、多少は話題に上がるようになる。最終的に実写版『今日あま』は最終話だけ傑作として、狭い界隈でこじんまりと熱烈な称賛を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドラマ『今日は甘口で』打ち上げパーティーにて、アクアはかなと雑談をしていた。

 内容はドラマ制作に関わる人たちについて。業界に関する知識や経験は年の割りに多いのだが、関係者が集まるこの場では関わる人数の多さを改めて実感していたためだ。

 そうしているとかなが原作者の吉祥寺(きちじょうじ)頼子(よりこ)に話しかけられた。他の役者がヒドイ物にしていた作品をまだ見れる物にしていたし、最終話では高評価をもらえていたのだから納得だ。かなも吉祥寺先生も努力して作ったモノが一部でも良いモノになって嬉しそうで、アクアの表情も誰も分からない程度に弛む。

 ただアクアはこの場でかな以外に話す相手がいないので孤立してしまった。コネで役を取り最終話の一部だけ出た役者じゃ関係者との交流もろくにない。まぁそうなるよなと言った状況だ。

 そんな中、わざわざアクアに話しかけてくる人もいた。

 

「やぁやぁ最終回評判だったよ」

 

「! 鏑木(プロデューサー)。今回は飛び入りさせていただいてありがとうございました」

 

「いいよいいよ。収益的には厳しかったけど、君みたいな若い才能を発掘して機会を与えるのが目的だから。それは達成できたみたいだしね」

 

 話しかけてきたのはPの鏑木だ。

 所属フリーのPであり、恩の貸し借りで築いた幅広い人脈と影響力を有する人物だと五反田監督からアクアも聞いている。顔面至上主義で、容姿の優れた芸能人には手広く恩を売っており『鏑木組』と呼べるようなグループまで出来ているとも。

 そんな鏑木がじろじろとアクアの顔を見る。

 

「君、苺プロの子だっけ?」

 

「はい」

 

「どことなくアイくんと似た顔つきをしてるよね」

 

「!?」

 

「おっと、今の子には通じないかな? 君の大先輩なんだけど」

 

「……いえ、よく知っています。そんなに似ているでしょうか?」

 

 返事がすぐないのを心当たりがないと勘違いしたのか、アクアの動揺は悟られずに話が進む。

 妹のルビーならいざ知らず、アクアがこの手の事を言われるのはかなり珍しい。ただでさえアイが活躍したのはもう10年以上前のことだし、アイは女でアクアは男なのだ。いくら今でもファンが結構残っている伝説扱いのアイドルとは言え、普通は言われることはない。

 わざわざこんなことを言うとしたら、アイに脳を焼かれて忘れられなくなっている者くらいだ。アクアから鏑木に多少の興味が湧く。

 

「彼女の顔は間近でよく見ていたからね。間違いないよ。そうそう忘れられるモノじゃない」

 

「間近で……ですか」

 

「ああ、ファッション雑誌のモデルの仲介で一緒に仕事をしてね。それ以来、仕事を振るだけじゃなく色々とお世話をしてあげたよ。良い営業先を教えてあげたり、事務所に内緒で男の子と会う時とかに良いお店を紹介したり」

 

「……」

 

 そこまで言われてアクアも思い当たる。アイとカミキヒカルが出会ったワークショップ、そこに紹介したのが鏑木なんだろう。目的を果たした後のアクアには既にそのことにあまり興味はない。

 だが鏑木はまだ話したそうだ。深掘りされて自慢の過去を聞き出されたいと思っているだろう。仕事を得るのに役立つ相手には気に入られるよう動くべきと考え、アクアは空気を読んで尋ねた。

 

「もっと詳しく教えてもらっていいですか? 事務所で聞いた以外の話はとても気になります」

 

「んー? 君はもしかしてアイくんのファン? 故人のゴシップとかにも興味がある?」

 

 食いついた。そう思ったかのようにアクアから離れて他所へ行こうとした鏑木が振り返る。

 

「……あります」

 

「そうだねぇ。教えてあげてもいいけど、ここは交換条件と行こう。

 君の顔はアイに似ていて美しい。上手く活用すれば人気が出来るかもしれない」

 

 自分の自慢話を才ある若者が乞う。そのことに気分を良くした鏑木は駆け出しの役者(アクア)にとって得が大きな対価を要求した。

 

「恋愛リアリティショーに興味はある?」




鏑木「若者の恋愛話は最高の娯楽。自分でお膳立てしたなら猶更ね」
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