「~~~って事があったの! ミヤえもーーーん! 早く私をアイドルにしてよーーーー!」
「せかさないで……。
アイドルグループ作ります。はいオーディションってわけにはいかないの。ちゃんとしたグループを作るにはちゃんとしたスカウトを雇ったり手続きがいるのよ」
陽東高校入学日。帰宅後にルビーがミヤコに泣き付いていた。
と言うのも学校生活のスタートでいきなり躓いたからだ。
兄妹揃って芸能科に入学したものの、別のクラスに分けられた。
アクアの方は話し相手は出来たがいきなり友達認定するわけもなく、似非関西弁のグラドル寿みなみと言う友達を作ったルビーに弄られることになる。そこまでは良かった。
今、ルビーの最推しであるマルチタレント不知火フリル。彼女がルビーのクラスメイトだったのだが、ルビーはファンなので声をかけられずにいた。そこでアクアが話しかけたことでルビーとみなみはフリルと友達になったのだが、ドラマ『今日あま』で活躍したアクアとミドジャンの表紙になっていたみなみはフリルに実績を知られていたのだ。それなのにルビーは何の実績もない事に気を使わせてしまった。
簡潔に言って焦っているのだ。
「このままじゃ……! このままじゃいじめられる! 一般人とか厄介なミーハーとか言われる!」
「入学式を見た感じ、見た事ある人は殆どいなかった。ルビーと変わらない奴だって多いだろう。気にするほどじゃない」
「でもさぁ! アクアはドラマ盛り上げたし、フリルに認知されてたじゃん! 私もそんなお仕事したいー!」
「そうそう可愛い子なんて見つからないのよ? 意欲のある子は大手のオーディションを受けるからそっちに行くし」
「可愛い子……そうだ! 芸能科に寿みなみちゃんっていう胸がバカデカくて可愛い子がいるんだけど……」
「他所の事務所の子でしょ。フリーの子ならまだしも事務所間の揉め事は御免よ」
ルビーは必死に食い下がるも現実は動かない。どれだけ意欲があろうが出来ないモノは出来ないのだ。
そこでふとアクアに候補者が思い浮かぶ。
「一人いるじゃん。フリーランスで、名前が売れてる割りに仕事がなくて、顔が可愛い子」
「え、誰かいた?」
「居ただろ。この間共演した有馬かな」
ルビーの顔がうげっと言った感じに歪む。逆にミヤコは多少納得したような表情で真面目に検討し始めた。
「元天才子役。確かに知名度は高いし、ろくな仕事振られてなかったわね。いいかもしれない」
「え~複雑。ほら、私とロリ先輩ってただならぬ因縁あったじゃない?」
「あったか?」
「ないけど。でもあの人私に対して感じ悪くない? あの人をスカウトするってアイドル級に可愛いよって言うようなものだし凄く癪」
「なんのプライドだよ。
……有馬が口が悪いのは誰にでもだ。話してたらボロがどんどん出てくる」
「……それはちょっとスカウトするの躊躇うわね」
有馬かなの舌禍は本人も認める欠点だ。ヒートアップすると強い言葉が出るし、そうでなくても人を煽ったり悪口を自然に言ったりする所がある。五反田監督の家に行った際など夕食をごちそうになりながら「親元で寄生虫してる」と言って、子役時代から変わらない大人への敬意の無さで怒鳴られてたくらいだ。アクアが言うのは長年の付き合いからくる気安さゆえに問題ないが、何の積み重ねもないかなが言うのはかなり問題がある。
今ミヤコもスカウトに難色を示したように、こうして良い仕事をもらえるチャンスを失っていたんだろうなと想像がついた。
「ルビーが仲良くできないって言うなら無しでいい。そんな相手じゃスカウトする意味がない。
だけど一刻も早くアイドルとして活動始めたいんだろ? 意地張ってる場合か?」
「……」
つい最近までアクアはルビーのアイドルデビューを徹底して妨害し続けていた。単純に危険だからだ。
だがアイドルをやると決まった以上、背中を押すべき場面では全力で押してやる気だった。
アイを刺したストーカーも売れていない初期からのファンだったのだ。日和って小さく活動して悔いを残すのも、全力で取り組んで達成感を得ても、危険なのは変わらないなら夢を叶えてほしい。
「そうだよね。確かにそうだ。
じゃあロリ先輩ってどんな人か教えて? 私顔と口が悪いのしか知らないし」
「ああ。まずアイドルをやれる能力はある。少なくともそこらのアイドルよりは可愛いし、歌も上手い。ルビーと並んでも問題ないはずだ」
「―――今調べたらかなり曲出してるわね。売れなかったみたいだけど」
「技術があっても売り方を間違えれば売れない。失敗談も反面教師にはなるだろ。この辺も推薦する理由」
ミヤコが調べてアクアの言葉を補足する。
有馬かなは天才子役として一世を風靡したが、一番売れたのはピーマン体操という歌だ。それからは演技の仕事も減り、二匹目のドジョウを狙って歌の仕事の比率が増えていった。いかに天才子役と言えど本領発揮できない土俵に連れていかれてはなすすべがない。そのまま表舞台から自然と消えていった。
長い芸歴ゆえの注意事項の知識、成功体験とそれに伴う失敗、不遇続きだった時期の心構え。それらを全て語れるかなはほぼ素人なルビーの指導役として有用と言えた。
「金にも困ってないらしい。子役時代の稼ぎが手元にあるし、資産運用もしっかりやってるみたい」
「親に盗られていないなら家族からの金銭トラブルの心配はなさそうね。一時的な成功を消費し切らず、生活を安定させる金銭感覚もいいわ」
子供があまりに金を稼ぎ過ぎると、親が使い込んだりしてトラブルになる事がある。もしくは生活水準を落とせず稼いだ以上に消費してしまうか。それらの問題がかなには全く見られなかった。
つまり今後ルビー達が成功を収めてもタカリに来る可能性が低いと言うことだ。
本人の金稼ぎの才能もあって金銭トラブルが起きづらいのは明確な長所と言えるだろう。
「後は安くて質の低い仕事ばかり回されて、中間管理をしてたみたいだ。ほぼ素人のルビーの指導をするのに活きてくるはず」
「お兄ちゃん? それどういう意味?」
「ルビー、『今日あま』も素人ばかりだったでしょう。最初は誰だっては何に気を付けていいかすらわからないものよ。知識が身に付いた後の人に教えるのとは種類が違う。あなたに今必要なのはこういう指導なの」
メルトたちモデル組の取りまとめをした経験もアイドルユニットを立ち上げた後に活きてくるだろう。これもまた経験したことがある人は確保しづらいものだ。
「最後にこういう経験をしても芸能界にしがみつき続けた。そう簡単には投げ出さないと思う。ある程度信頼してもいいんじゃないか」
「……そうね。私もそれでいいと思う。ルビーはどうしたい?」
少し考えてミヤコも承認する。
元々ミヤコのアクアへの信頼度は高い。アクアが言うなら大丈夫だろうで認めるつもりだった。だがきちんと説明してくれたことに息子の成長を感じ、喜びと寂しさも感じていた。
それを受けてルビーは一度目をつむり、真剣に考えて答えを出す。
「今度会って話をしてみる。足踏みなんてしてられない。私もママみたいになるんだ!」
初期から妹を預けられるほど評価が高かった有馬かな。その理由の独自解釈回でした。
この二次創作のアクアくんは
・自分でアイの言葉を思い出して役者に戻った。
・独自性のある演技を身に付けて自己肯定感が多少向上した。
という経緯があるため、有馬かなの好感度上昇イベントが潰れてしまっています。
なのでかなの評価が原作に比べて低く、ミヤコ達に納得してもらうにはプレゼンが必要と考え、本編の展開になりました。