架け橋になりたい少女の支えになりたい   作:エックン

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水星の魔女を見て衝動的に書いた作品。
ニカがヒロインの作品を見たくて、自給自足。


地球での生活①

親の顔も知らなければ、出身地も、誕生日も、自分の名前さえ知らない。

しかしたった一つ、不思議な出来事だけ覚えていた。

 

 

 

真っ白な空間で、しゃがれた声に問われた。

 

――お前は次の生に何を望む? 

――たった一つだけ、何でも好きなものを与えよう

――どんな富も、どんな地位も、どんな力でも

 

その問いにこう答えた。

 

『フィジカルチート! やっぱ最強の肉体でしょ!』

 

 

 

それがいつの、どこでの、誰との出来事なのかはよく分からない。

もしかしたら夢なのかもしれないが、それにしては妙にはっきりと覚えていた。

そして、その出来事がまるで本当であったと裏付けるかのように、体は人知を超えた強さを身に秘めていた。

 

車くらいならば楽に追いつけるだけの素早さ、鉄塊を軽々と持ち上げる腕力、瓦礫に埋もれても潰れない頑丈さ、道具を手足のごとく扱える器用さと繊細さ、いつまでも動き続けられるスタミナ、一杯の水と一口の飯で三日間は働き続けることができる燃費の良さ。

 

この体のお陰で、今日まで生き抜いてきた。

この体のお陰で、今日も明るく生きていく。

 

 

「良い天気だ! 今日も頑張ろう!」

 

 

朽ちかけた建物の中から、その場に似つかわない明るい声が響いた。

地球のとある地域のとある孤児院で、今日も一日生きていく。

 

 

 

 

 

地球というのは、今やどこも過酷な環境となっている。

宇宙都市フロントに住まう宇宙居住者、スペーシアンに搾取され、大半の人達がただ生きていくことに精一杯。

絶えずどこかで紛争が起き、子供を亡くした親や、親を亡くした子供で溢れかえる。

親を亡くした子供達は孤児院に集められ、一定の労働と、その対価として簡単な教育と簡素な衣食住が与えられる。

労働がまだできないほど幼い子供には教育と食事の配給のみが行われる。

一聞すると慈善事業のようだが、これは将来の労働力への投資活動。孤児院で育った者は、そのほとんどがスペーシアンのために働くことになる。

こうして大人から子供まで、余すことなく労働力としてスペーシアンに捧げられる。

それが大半の地球居住者、アーシアンの実態だ。

 

まあ正直、俺はそんな小難しい事は考えず、ひたすらに採掘を行って、対価の食事やら衣服やら、偶に与えられる嗜好品を孤児たちで分け合って生きてきた。

今日も俺の所属する孤児院近くの採掘場で、一日中採掘に勤しんでいた。

そして採掘場から掘り起こした鉱石の山を運び終えたところで、本日の労働時間の終わりを現場監督のスペーシアンの大人に告げられた。

 

「今日の採掘は終わりだ。ほらよ。これが今日の分の報酬だ。……相変わらず規格外の鉱石を掘り起こしてくるな、お前は」

 

そう言って渡されるのは、三人前はある食料と飲料水。そして小さな可愛らしい小箱だった。

 

「ありがとうございます! この小箱、何ですか? 見たことないですけど」

 

「……お前が来てから、採掘が異常な速度で進む。俺達も助かってる。……だから、まあ、ご褒美だ。中に入ってるのはクッキーってお菓子だ。甘いから、食ってみろ」

 

スペーシアンの大人はぶっきらぼうにそう言いながら、雑に俺の頭を撫でた。

こういった好意は今までも何度かあった。俺が規格外だからか、それとも子供だからか、あるいはその両方か。

理由ははっきりとは分からないが、こんなことがあるから、俺はスペーシアンが嫌いではなかった。

 

「ありがとうございます! チビ達が喜びますよ!」

 

笑いながらそうお礼を言うと、スペーシアンの大人はフンッと素っ気ない返事だけして、他の労働者へ報酬を渡しに回り始めた。

俺は今日の分の報酬を担ぐと、少し駆け足で孤児院に向かう。

労働を終えた後、孤児院の仲間に会う時間が俺の一番好きな時間だ。

 

 

 

 

昔は学校だったという孤児院の門だったものをくぐると、庭ではしゃいでいたちびっ子たちが俺の帰りに気が付いたようだった。

 

「あ! ビッグが帰ってきた!」

 

「ほんとだ! ビッグお兄が帰ってきたよ!」

 

「みんなー! ビッグが帰ってきた!」

 

「ご飯の時間だー!」

 

名前のない俺は、子どものわりに大きな体と大きな荷物をいつも運んでいることから、ビッグと呼ばれるようになった。

孤児院に着くや否や、俺より小さい四人の子供達がわらわらと集まってくる。

飛びついてくるちびっ子達を抱き留めながら、今日の報酬の荷物を下ろし、笑いかける。

 

「ちゃんといい子にしてたか、ちびっ子どもよ!」

 

「いい子にしてた!」

 

「おれ、チビじゃねーし!」

 

「ビッグ、今日のほーしゅーは?」

 

「聞いて! あのね、今日の授業で褒められたの!」

 

口々に好きなことを言うちびっ子達に構いながら、一旦腕の中のちびっ子を下ろし、荷物を改めて持つとちびっ子達を連れて建物の中へ移動をする。

ちびっ子達の声で俺の帰りに気が付いた孤児院の他の面々も部屋から顔を出す。

その一人が、わざわざ小走りでこちらに駆け寄り笑顔で出迎えてくれた。

 

「おかえり。待ってたよ」

 

「おう! ただいま、ニカ!」

 

この孤児院で一番歳の近い少女、ニカに返事をする。

今日もこうして、俺の一番好きな時間が始まる。

 

 

 

 

 

孤児院にいる仲間たち全員が食堂に集まり、輪になって食事をする為の準備をする。

俺の孤児院には八人の孤児がいる。

まだ働けない四人のちびっ子達。

簡単なメカニックとしての労働にあてがわれる子どもが三人。

そして、普通子どもが働くような場所ではない採掘場で働く俺。

それぞれこの孤児院に来た事情はまちまちだ。

戦争で家族を失った、両親に捨てられた、他の孤児院が潰れてここに流れ着いた、物心がついたころ頃からここにいた、など様々。

俺がここに来たのは五年前。ちびっ子達を除けば一番の新参者だ。

ここに来るまで、どうやって生きてきたかはよく覚えていない。恐らく、この異常に頑丈な体のお陰で雨水や雑草だけでも生きてこれたのだろう。

この辺を目的もなくただぼんやりと歩いていたところをスペーシアンに保護というか確保というか、とにかく捕まってここに連れ込まれた。

それから教育やら労働やらを受けている内に、俺の体の異常な頑丈さに気が付いたスペーシアンによって試しにと採掘場に送り込まれてから、俺の今日までの日常が続いている。

 

「ねえ、ビッグ! もう食べていい?」

 

「うん? もう準備できたのか? よし、じゃあみんなで食べるか!」

 

お腹の空いたちびっ子の一人に催促されて、準備ができたことを確認する。

メカニックとして働く三人が労働の対価で得られた三人前の食事、ちびっ子達に配給された小さい配給が三つ、そして俺が持ってきた三人前の食事を並べ、それを囲むように円になって座る。

それから手を合わせ、食事の挨拶をする。

 

『いただきます!』

 

八人分の声が揃って、それからカチャカチャと食器のぶつかる音ともぐもぐと必死に食事を頬張る音が響く。

それから少しして、誰からともなく話を始める。

 

「あのね、今日ね、メカニックの授業で褒められたの。あと少しでライトが組み立てられるの!」

 

「わあ、すごいね、アン! もうそんなことまでできるようになったんだ!」

 

「私も! ねえ、私も褒められたの!」

 

「そうなの? リリは何ができたのかな?」

 

ちびっ子の二人がニカに話しかけ、ニカが笑いかけながら相槌を打つ。

 

「お、今日も甘辛ナッツ煮がある! 俺、これ好きなんだよなぁ」

 

「あー! ドリュー、だめ! 俺も欲しい!」

 

「うるせぇな、ライ。分けてやるから、ほら、皿を寄越せ」

 

「俺も! 俺も欲しい!」

 

「ニュートも、皿を寄越せ。分けてやるから」

 

もう一方で元気なちびっ子二人が、年長者に皿を突き出して食事をねだる。

 

「いつもありがとう、ビッグ。……正直、僕達に分けられる配給だけだと、皆がお腹一杯にはならないから。いつも食事を分けてくれて助かるよ」

 

「気にすんなよ、ロウ! 皆で食った方がおいしいんだ!」

 

隣で食事をしながら言われたお礼に、笑いながら返事をする。

この頑丈な体のお陰でほとんど食事を必要としない俺にとって、食事を分けるという行為は全く苦にならない。

もう五年の付き合いになる孤児院の連中は、それを分かりきっている。

ただ、それでも必ず俺にお礼を言ってくれる。それが嬉しくて、俺はいつも食事を分ける。

にぎやかな時間が続き、しばらくしてちびっ子達が満足いくまで食事をし、年長者達も食事をほとんど済ませたところで、俺は取っておいた綺麗な箱を取り出した。

狙い通り、目の前に出された綺麗な箱にちびっ子達は視線が釘付けになった。

 

「ビッグ、それなに?」

 

「特別なご褒美だ! なんと、中身はお菓子だぞ!」

 

「お菓子! ねえ、ちょうだい!」

 

目を光らせて群がるちびっ子達の為にも箱を開けてやる。

中には八枚のクッキーが入っていた。

一人一枚分けてやると、ちびっ子達はすぐに自分の分を頬張り始めた。

一枚のクッキーを大事に大事に食べて、なくなると残念そうな顔をした。

そして、まだ食べていない年長者のクッキーを羨ましそうに見ていた。

それがあまりに可愛くて、愛おしく、俺は笑いながら自分のクッキーを四つに割った。

 

「ほら、ちびっ子ども。俺のクッキーをやるから、もうこれで我慢しろ。他の奴のクッキーを奪うんじゃない」

 

そう言うと、途端にちびっ子達は顔を輝かせてクッキーを大事に大事に頬張り始めた。

それを眺め終わると、流石にお腹いっぱいになり眠くなってきたのか、ちびっ子の一人が欠伸を始めたので寝る支度をする。

食器を洗い、歯を磨き、体を拭いて、寝室へと移動をする。

無駄に広い建物のお陰で一人一部屋あるが、ちびっ子達はいつも一人で寝ようとしない。年長者の誰かにくっついて寝ようとする。

今日はロウの部屋で寝るようだった。

ロウの部屋にちびっ子四人を押し込み、寝かしつけると、途端に静寂に包まれる。

年長者達はちびっ子を起こさないように静かにそれぞれの自室に戻ると、今日の一日が終わる。

 

 

 

 

 

いつも楽しいが、今日の様にクッキーを貰ったりちびっ子が喜んだりすると、その日が終わるのがもったいなくて、少し外を歩く時がある。

この丈夫な体は、睡眠時間でさえほとんど必要としない。

そうして今日一日を噛みしめるために夜に外を歩いていると、決まって俺を訪ねてくる者がいる。

 

「やっぱり、今日も歩いてると思ったよ」

 

「おお、ニカ。すごいな。今のところ、百発百中だぞ!」

 

「君が分かりやすすぎるんだよ」

 

寝ているちびっ子達を間違っても起こさないように少し声を抑えながら、ニカに笑いかける。

ニカは少し呆れたように、でも嬉しそうにしながら俺の隣に並び始めた。

二人で庭にあるちょうどいい大きさの石に腰かけて、ゆっくりと話をする。

 

「……今日は、ハロの情報伝達機能の修復作業が多かった。これが結構な手間なんだ。回路が細かくて繊細だから」

 

「おぉ……。そりゃ、俺には無理だろうな。でけぇ岩を砕いてる方が性に合ってる」

 

「あはは。でもね、その手間はあんまり嫌いじゃないんだ。メカニックの仕事、やっぱり好きだから」

 

夜に合流したニカは他愛もない話をする。その日の仕事の話や、ちびっ子達の話や、気になったことや目に付いたこと。

そして最後に、ニカは必ず自分の夢の話をする。

 

「……私ね、地球と宇宙の架け橋になりたいの」

 

「知ってるよ。ニカの夢だもんな」

 

「……うん。アーシアンもスペーシアンも関係なく、手を取り合えたらって、いつも思うんだ」

 

ニカは遠くを見るような表情をしていたが、こちらを向いてにっこりと笑った。

 

「でね、今日も思ったの。私がなりたい架け橋って、きっと君みたいな人だ」

 

「そりゃ、光栄だ。……でもまた、どうしてそう思った?」

 

ニカが俺にかけた言葉は、ニカが持っている中でも最上級の称賛の言葉だという事が分かった。

素直に称賛を受け取りながらその訳を聞くと、ニカは笑いながら答えてくれた。

 

「クッキー、スペーシアンから貰ったんでしょ? それってすごい事だよ。……自分のクッキーを分けるんじゃない。誰かからクッキーを貰える人って、簡単にはなれないよ」

 

「うーん……。ニカだって、誰かからクッキー貰えると思うけどね」

 

「貰ったことないよ。きっと、これからも貰えるか分からない」

 

「俺がスペーシアンだったら、ニカにクッキーあげたくなるけどなぁ」

 

そう言うと、ニカはクスクスと笑った。

 

「そういうところも、君の凄いところ。自分がスペーシアンだったらって、考えることが出来るのも凄いよ」

 

「何を言っても褒めてくれるじゃん」

 

「君が凄い事を何でもしちゃうからだよ」

 

そうやってじゃれ合う時間を楽しんでいると、ニカはふと思いだしたかのようにポケットをあさり、俺が今日あげたクッキーを取り出した。

ニカはそれを半分に割ると、片方を俺に差し出した。

 

「君、結局クッキーを食べてなかったでしょ? 私のをあげる。半分こしよ」

 

「……いいのか? 甘いものなんてめったに食べれないのに」

 

「いいの。むしろ、貰って欲しい。少しでも君に近づきたいから。架け橋みたいな君に」

 

そこまで言われたら、受け取らないわけにはいかなかった。

ニカからクッキーを受け取り、二人で夜空を眺めながらクッキーを齧る。

半分のクッキーで、お腹より胸がいっぱいになる。

静寂の中を二人でいる時間が、今日一日をより満足させてくれる。

寝るのがもったいないが、流石にずっと起きているのは体に良くない。

特に、丈夫ではない体のニカには睡眠が必要だ。

 

「そろそろ寝るか」

 

「……うん、そうだね。明日もあるし」

 

ニカも名残惜しいのか、寂しそうな表情で頷くと寝るための身支度をする。

そんなにニカに声をかける。

 

「また明日、だな。明日も一緒に頑張ろうな」

 

そう声をかけると、ニカは少し驚いた顔をした後に、照れたように顔を赤らめながら微笑んだ。

 

「うん、また明日!」

 

そうして各々の部屋に帰り、今度こそ眠りにつく。

 

これが俺の日常。

素敵な日常。

 

 

 

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