「まさかル-ムメイトが貴女だとは思いませんでしたが……そのトカゲ達は何ですの?」
セシリアが先輩代表候補生のサラ・ウェルキンと共に
「あぁ、コイツか?南米原産のテグーって奴でな。柄や産地で細かく分類されるが、コイツはミナミテグーの中でもアルゼンチン
「そうしたことではなくて!なぜこうも部屋がトカゲやヘビに占領されてるんですの!」
何故か義豊は抱えていた
「うちから連れてきたペットだよ。言っとくが、これでも全体の1割にも満たないからな?もっとデカい奴や運搬の手続きが面倒な奴、環境の変化にデリケートな奴もワンサカいるから、事前に内装を確認して、
「……学園にペットの持ち込みは禁止のはずですが?」
「事前に校則は確認したが、爬虫類は載ってなかったぞ?犬猫や小動物に関してはしっかり記載されていたがな。ちなみにこのやり取りは入学前に織斑教諭ともやって、事前に許可は取得しているぞ?まぁ食い物に関してはいい顔しなかったが、今思い出してもあの顔は傑作だったな」
「色々言いたいことはまだありますが、許可を得ているならこれ以上はとやかく言いませんわ……。それより共に暮らすに当たって取り決めたいことが――何事でしょうか?」
「すまんが、ちょっと確認してきてくれ。わたしはコイツ等の飯を準備しなきゃならん」
屁理屈に疲れたセシリアが口論を諦めて早々、何やら廊下側が騒がしいことに気づくが、興味なさげな義豊は抱えていたテグーを
「あまり
「なんだ騒々しい。代表候補なら虫けらの10何匹くらいで動じるな」
「堂々と
あろうことか義豊がベッド下から引っ張り出した衣装ケースには大量のゴキブリが入っており、しかもそこに今さっき出たばかりであろう野菜の根や皮を投下してから何の躊躇もなく手を入れ、ヒョイヒョイと適当に捕まえてはプラケースに放り込んでいき、それぞれ要約すれば『カルシウム剤』『マルチビタミン剤』と書かれたケースから白い粉を乱雑に
「言っとくがコイツ等はその辺歩き回ってる奴と違ってちゃんと栄養も衛生も管理してるんだ。その気になればカラッと揚げて食えるぞ……そういやこのゴキブリデュビアっても呼ばれてるんだが、フランスのデュノア社と「バカァ!!」」
もはや部屋に居たくないとばかりに乱暴な足取りで部屋を後にしたセシリアは、明日早々千冬に部屋替えを懇願することを食堂に向かう道中で決めたのだった。
翌朝のIS学園で話題になったのは、当然
とりわけ熱心に取りざたされたのは犯人や動機の推測だが、多くは現場にいなかったはずの
「空席から察したり、すでに知っていた者もいるようだが、昨日篠ノ之が襲われた。未だ意識は取り戻していないが、ひとまず命の危機は脱したそうだ。入学早々同級生が襲われたとあって、自分も狙われまいかと気が気じゃない者も多いだろうが、警備が厳戒化されるため、ひとまず安心は無理でも、可能な限り落ち着いてほしい」
当然箒が姿を見せないことで信憑性を高めるその件で湧き立つ教室に入って早々、千冬の連絡で確定となるが、事前に予測されていたためか、ざわめきだっても悲鳴などは上がらない。
「それと心配する気持ちも分かるが、上の方はあまりことを大きくしたくないらしくてな。見舞いなども控えてほしい。代わりと言っては何だが、アイツは
箒にとっては災難以外の何でもないだろうが、千冬としては同時にチャンスだとも思った。いくら
おかげで天性の記憶、習得力を活かして身に着け、すでに離れて久しい現在でも、
だからこそ今からでも、束の存在を抜きに『篠ノ之箒』を見てくれる人間が必要だと考え、剣を握れないうちにそうした存在が周囲にいてくれることを知ってもらおうと考えたのだ。
ついでに言ってしまえば、幸か不幸か箒はル-ムメイトがいなかったため、早々に義豊の勝手に音を上げ部屋割りの変更を求めたセシリアを、サポートの名目で体よく割り当てることができたのも暁鐘だろう。前日の振る舞いを見る限り、彼女はそうした個人を見る目は備えており、義豊に対してもあくまで『ル-ムメイトとして』は抜け穴をついて断りなく実質占拠された部屋で共に過ごすのは無理でも、『企業のテストパイロットとして』の腕前はしっかり評価している。少なくとも彼女が先導すれば、最悪でも箒が敵意を向ける振る舞いは周囲の生徒にさせないだろう。
むしろ問題は、ただでは終わらんとばかりに襲撃を口実に、日本政府から『グレート・ホワイト』の代わりとつい先日までペーパープランだったはずの機体――それも武装は近接ブレード1振りのみと明らかに性能が劣るにも関わらず、
事前に開発を強要されたかつての級友、篝火ヒカルノから束への
すでに機密情報のつもりのやり取りはボイスレコーダーに録音されており、提出されたIS委員会を通して各国にも周知の事実だが、説明のため機体情報を提出した『グレート・ホワイト』との
しかしおめでたいことにそうとは知らぬまま、執拗に国産の
一般生徒にも開放され、各所にベンチやテーブル、花壇などが設置されているIS学園屋上。その最上部とも言える出入口上に、『彼女』はいた。
中折れ帽から薄いジャケットとパーカーにチノパン、スニーカーと衣装を枯葉色で統一したその女性は、右手に火の付いた葉巻を携えながら、紫煙の香りを楽しむ様に虚空を眺め続ける。
「どこの誰だか知らないけど、学園内は全面禁煙よ」
そこに突如声をかけられ、反射的に振り返らぬままスプリングフィールドXDを握った上下逆の左手を突き付けたが、やがて相手が誰か気付き、尚且つ「脅威とはなり得ない」と判断したのか、ゆっくりと左手を降ろす。
「誰かと思えば、仕事を忘れてまでおふざけに夢中で、大失態をやらかした
「……余計なお世話よ。それよりもう1度聞くわ、貴女は何者?」
いつの間にか空いた左手で中折れ帽を深く被り直す女性の発言に、『要警戒対象』と書かれた扇子で下半分を隠した顔を苦々しくしかめるのは、学園生徒会長にして特例でロシア代表を務める更識
裏工作を実行する暗部に対する対暗部用暗部『更識家』の次期当主でもある彼女だが、身分を艤装しており、素性を知るものは少ないはず。にも関わらず相手は碌に顔も見ず言い当てたばかりか、まさに昨日箒が襲われた時、弾達を
「そちらにはとうに総大将から、『監視を兼ねた護衛が付く』連絡が入っていたはずですが?それとも、傑作への負け惜しみに、妹さんの機体を投げ捨ててまで用意した代わりのゴミを押し付けるのに夢中で、聞いてなかったでしょうかね?」
「!?」
『総大将』――話からするとガルガロスのことだろうが、彼は白式製作の人員を確保するために、自分の妹、
「しいて名乗るなら、『毒霧』とでも呼んでくださいな。それでは!」
直後勢いよく投げつけた右手の葉巻は、刀奈が対処する前に彼女の眼前で炸裂する。咄嗟に顔を伏せて再び視線を向けるが、すでに毒霧の姿は屋上になかった。